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使い魔との出会い

しばらくは静かに魔女としての勉強をしたかったので公爵令嬢として過ごした。

最初から周りの全てが私のことをどうでもいいと思っているか嫌いだと思っていると思うと、最初の人生よりも生きやすい気がした。


少なくとも誰かの顔色をうかがったり、嫌われないようにと考える必要はない。

どうせ何かがあれば皆私を裏切るし切り捨てる人たちだ。

すぐに私を嘲笑して使い捨ての駒か何かだと思っている人しかいない。



それが分かっているから気が楽だ。


私は前の人生でこのころ、とても頑張って淑女教育を受けていた。

公爵家の誇りを汚すことが無いように、公爵家の屋敷で働く人たちが私たちの家門でよかったと思えるように。


けれど、それをする必要はない。

私は私のために生きるしかないのだ。


どうせ捨てるし捨てられる関係だ。

逆に面倒になりそうなことはこなすけれど、それ以外は自分のために使うことにした。



それでもこなさなければならないことの一つに、このころはまだ婚約者だった王子との交流があった。

最初は恐怖に震えてしまうかと思ったけれどそれほど心が動かなかったのは良かった。

その代わり彼のことがよく観察できた。

最初から私のこと等、どうでもいいものとして扱っていたのだなということに今更ながらに気が付く。


おざなりな対応にそういう会話、私のことを碌に見ない目。

覚えたての魔女の呪い(おまじない)で嫌がらせをしてやろうかと思ったけどやめた。

こんなところで魔女だと疑われてもめんどくさいだけだ。


どうせやるならスマートにまとめて終わらせたい。


それに――

私はまだ魔女の(わざ)をそれほど覚えてはいない。


* * *


そんな憂鬱な交流の帰り道馬車で王都の大通りを通過している最中あるものが目に入った。

これだと思った。

心臓がドキドキする。侍女に言うのももどかしく御者に「馬車を止めて!」と叫ぶように言う。

急停車した馬車から飛び降りる。

王子に会うために誂えられたドレスが重くて邪魔に思える。


そこにいたのは身を小さくして殴られているやせぎすの少年、いや、正しくは獣人の少年だった。

心臓がドキドキと胸を打つ。


このこだと思った。


「やめなさい」


前の人生で人の上に立つものとしての教育を受けていてよかった。

声は凛と響いた。

ならず者といったことばがぴったりな男たちがこちらを見た。


「何だい、お嬢さん。自分の物をどうしようが自由だろ?」


男は小ばかにするように私を見た。

このこを私のものにしなければならない。

だって彼は私の使い魔になるべき存在なのだから。


「じゃあ、私が買い取りますわ」


だから、何を差し出してもおしくはない。


「は?」

「いくら? 早く欲しい金額をいいなさいな」


私がそう言うと「本当か?こんな出来損ないだが、そうだな高いぞ!!」男は少し思案すると金額を言った。

それが平民なら5年以上遊んで暮らせる金額だと知っている。

でも別にそれはどうでもよかった。

私の私財で賄える金額なのであれば交渉する時間も惜しい。


彼は怪我をしているようだし早く助けてあげたかった。


私は侍女を呼び小切手を用意させる。

「金貨の方がいいならそちらを用意させるわ」


公爵家の経営する銀行の小切手を見てゴクリと唾を飲み込んだ後、男は「いや、これで十分だ。ただ返品はできないからな」と言った。

そんなことをするつもりは無かった。


獣人の少年はただ静かに固まったままうつろな目でこちらを見ていた。

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