処刑と選択
父とのやり取りは夢なのだと思おうとした。
あの女のことも全部夢。
だけどそれは難しかった。
なら、いっそ死ぬべきなのだと思った。
あの王子の言った通り、私が魔女だとなってしまえば負けたような気がする。
魔女になんかなるかと思う。
それに自分が公爵令嬢という立場を捨てて生きていけるとも思えなかった。
だから処刑が告げられるその時まで、私はあの女を呼ぶことは無かった。
* * *
けれど処刑場に引きずられてきて王族が、貴族たちが見世物として見物していてその気持ちは揺らいだ。
皆蔑んだ目で私を見ていた。
縄で縛られ足元には火刑にするための木が積まれている。
見物に来た平民が私に向かって腐った食べ物や石を投げつけられる。
平民は本当に皆私が魔女だと思っている様だった。
罵声が聞こえる。
両親の姿は見えない。弟の姿も。
王子の姿は有った。
すぐ隣に一人の女性がいた。
パーティ等で何度も見たことのある貴族の令嬢だった。
二人は顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
それを陛下がほほえましい物を見る顔で見ていた。
何もかもが許せなかった。
なるべくたくさんの人に見てもらうためだろう。刑場はとても広く、私が普通にしゃべっても誰にも聞こえないようだった。
私を思う存分見世物にしたのち、火をつける算段らしい。
あの女、魔女を呼ぶための合図があった気がするけれど怒りで忘れてしまった。
「ねえ、魔女。どうせ見てるんでしょ?」
私は小さな声であの女に向かって話した。
聞こえていなければこれで死ぬだけだ。
「私、魔女になるのでいいわ。
こんな醜悪な者と同じ生き物じゃなくていい」
嫌だった。こんな人が死のうとしているのにそれを面白がって、元婚約者を踏みつけにして幸せになるという事にひとかけらの罪悪感もなさそうな者たちに、悪だと聞けば思う存分なぶって良いと思っている者たちと同じでなくていいと思った。
『そう。あなたならそう言うと思った』
頭の中であの女の声が響いた。
「ねえ、助けてくれるんでしょ」
『そうねえ。魔法を教えてあげる、呪文はね――』
そうこうしているうちに火をつけられた。
熱い、痛い、息ができないのに酷い叫び声ばかりが出る。
呪文など唱えられそうにない。
『なら、ただ強く願うだけでいいわ』
何を、何を願えばいい。呪えではないのか。
『戻りたいと』
女はそう言った。私はもう何も考えることが出来ずただ戻りたいとそう強く思った。