私は家族ではなかったのか
父の執務室に入る。
父は私の姿を見た後、一瞬驚いた顔をした。
けれど、それはほんの一瞬で、次の瞬間には嫌悪感をありありと浮かべた表情になった。
それから「なぜお前ごときがここにいる!!」と私を怒鳴りつけた。
女が書状を見せて、一言二言なにか説明していた。
父はふんと文句たらしそうに息を吐いて、それから「そのような慈悲、こいつには不要でしょうに」と言った。
父は私の名前である、アリスという言葉さえ口にしなかった。
それでも、その時の私は必死だった。
「お父様、私は決して、誓って魔女などではないのです」
「そんなことどうでもいい!」
父は私の言葉など聞きたくないという風にそう返した。
それからこう言った。
「事実などどうでもいいのだ。
お前が殿下に疑われて牢に入れられた。
それだけでもうお前には償えない位の瑕疵がある。それだけで、もう公爵家では不要の存在なのだ」
もう親でも子でも無ければ公爵家の者でもない。
籍はとっくに外した。
そう父は言った。それから私を汚らわしい物を見るような目で見た。
「ただの娘として処刑でもなんでも勝手にされればいい」
いいか? と父は言った。
「お前の母だったものと弟だったものに会おうなどと考えるな。
その時は私が八つ裂きにしてやる」
はっきりと嫌悪に満ちた目で言った。
その横、父の視線からは見えない位置で女がにんまりと笑った気がした。
* * *
執務室をふらふらとした足取りで出る。
瞬きをしたら牢にいた。
まるで今までの出来事が幻だったかのようだ。
この女が見せた嫌な夢。そうであるともないとも私にははっきりとした答えが無かった。
「ね。私の言った通りだったでしょう?」
女は言った。
「このままじゃ処刑されるばかりでしょう?
あなたには選ばせてあげようと思うの」
「何を……」
「このまま処刑されるか、魔女として生きるか」
女は言った。
「殿下の言った通り、私が魔女だというのは正しかったの……?」
冤罪をかぶせられたのではなく、王子が私が魔女だという兆候をつかんだという事だろうか。
「まさか。そんなわけないでしょう?」
「魔女は血でなる訳じゃない。適性があるものがなる訳でもない。覚醒していない魔女を探すなんて不可能だわ」
女は笑顔を浮かべてそう言った。
「魔女を判断できるのは、完全に魔女になりきったものの血の色だけよ。
私たちの様に黒き血の者だけが魔女の証明になる」
血の色!
そうだった。何かの文献で読んだことがあった。
魔女が御伽噺ではない証に血の色が違うのだと。
「ならそれを証明すれば!!」
「『事実などどうでもいい』今しがた言われたばかりじゃない」
あなた以外の全てが事実なんてどうでもいいと思ってるわよ。
女は言った。
それから「返事は今じゃなくてもいいわ」と言った。
「でも、選んで、魔女として生きていくか、人として死ぬかを」
女は静かにつづけた。
「決まったら、教えて。
そうね、かかとを連続で三回床を蹴って、そうしたら私はどこにでもまた現れるわ」