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魔女になってしまったので仕方がないですよね

忙しさは、激情を忘れるためには有効なのだと以前から私は知っていた。


嫌なことから逃れるように地味な政務ばかり頑張っていた時期もあった。

けれど今獣人たちの国を作ろうとしている忙しさはそういう嫌な物ではなかった。



少しずつ傷をいやす様な生活をしている。

魔法を勉強して、魔女のしきたりの通り薬を作ったりする。

そういう一つ一つが魔女になる前の傷をいやしていっている気がした。


勿論許せないし、時々悪夢にうなされる。

憎悪はずっと持っている。


けれど、それよりも今の毎日の方がいいと思い始めたのはいつ頃だろうか。

思い出せない。


「お嬢様?」


柔らかな低い声でルイが私を呼ぶ。

この使い魔がいてくれたからこうやって穏やかな時を過ごせるのかもしれない。


「何をおつくりになったのですか?」

「魔法薬よ」


回帰前、あの時あの場所にいなかった二人の顔を思い浮かべる。

挨拶さえさせてもらえなかった第二王子とそれにひっそりと寄り添うように過ごす二人のことは覚えている。

私のことを嫌うほどあの二人と付き合いはない。


二人は離宮とされる王都よりずっと北にある小さな屋敷で過ごしている筈だ。

社交にも出ることが出来ず、婚約者である王子が馬鹿にしているのを何度も聞いた。


王子は私が処刑されるより前に亡くなっていた。

婚約者が社交に復帰したとは聞いていないし、一連の騒動で顔もあわせてはいない。


嫌悪感は持たれていたのだろう。

そうでなければ私は魔女になっていない。


けれど、亡くなった王子の葬儀で世界の全てを呪う様な顔をしていた彼女を思い出す。

それが自分に少しだけ重なった。


それだけの事。

そんな感傷的な理由で魔女の秘薬を元婚約者の弟王子に送った。


元気になっていると人づてに聞いたので薬は無事届いたのだろう。


「お嬢様はお優しいですね」


ルイはそう言った。


「私は優しくなんかない。

あなたを拾ったのだって使い魔だったからだと言ったでしょ」


「そういう見かたもあるのかもしれません」


いつもはそれは違うと、あの出会いは特別だったと言っていたルイがそう言った。

不思議に思いルイをじっと見る。


「それでも、私はあなたのことが好きです。

あなたに幸せになって欲しい」


ルイはそう言って少しだけ目を細めた。

私の見たことのない表情だった。


好き。


「愛しております、お嬢様」


ルイはそう言った。

私は世界中の私を知るすべての人に嫌われている。

誰にも愛されないで一度死んだ人間だ。


だから、誰かに愛されようと思ったことは無かった。

愛されるとも思っていなかった。


だから、最初はとても驚いた。

何故とかよりもとにかくとても驚いてしまった。


誰にも愛されず、魔女として人よりも長い時間を生きていくのだと思っていたから。


何も答えられなかった。


「大丈夫です、お嬢様。

俺はただ、自分の気持ちをお伝えしたかっただけなので。

俺が一番に思うのはお嬢様の幸せです。だから無理に受け入れなくて大丈夫です」


その声はいつも以上に優しく響いた。


「ねえ、お願いがあるの」


彼の気持ちにどう答えたらいいのかは分からない。

どのみち私は魔女として使い魔である彼のことを手放すことはできないのだから。


「はい。お嬢様」


何も言う前にルイはそう言った。


「ねえ、名前で、お嬢様じゃなくて、名前でもう一度言ってくださるかしら」


私の願いは傲慢だっただろうか。

彼の告白に応えていないのにこんなことを言うなんて。


でも、お嬢様じゃなくて、私がという事を知りたかった。


「アリス様、愛しております」


何も返すことができないかもしれない私に、ルイはそう言った。

ポロリと涙が零れ落ちた。


目が熱い。

ボロボロと涙が零れ落ちる。


ルイが私の近くでオロオロとしているのは分かるのにどうして上げることもできない。

涙も止まらない。


でもそれだけ嬉しかった。


「嬉しいの」


ただそれだけ言う。

多分彼は私がまだ、彼と同じ感情を抱いていないのを知っている。


なのにそっとハンカチを差し出してそれから「そう言っていただけるなら何度でもいいます。アリス様愛しています」と言った。


それを聞いてきっと、彼と同じ気持ちになる日も近いのかもしれないと、少しだけ思ったけれど、期待させても仕方がないので言わないでおく。


それを考えてから、その日が少しだけ面映ゆくてルイから視線をそらした。


「私ってずるいかしら」


思わず出た本音にルイは。


「いいじゃないですか。

魔女だから仕方がないってことにしておけば」


そうルイは言った。

それが少し面白く感じで私が少しだけ笑うと、ルイは本当に幸せそうな笑みを浮かべた。

一旦これで完結です。

ここまでお読みいただいてありがとうございました!!

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