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牙の王※ルイ視点

* * *

 

仲間が話を聞いて村に流れ着いてきた。


仲間はそれぞれの場所で働かされていて、色々な技術や技能を持っていた。

それに力持ちのやつもいたし、一番危険なところで働かされるやつ、一番酷いところで戦わされる傭兵そんなものも多かった。


だから、みんなに確認をして違う仕事に就きたいというものがいるか聞いた。

そういうものは少なかった。


皆役立たずと言われながら暮らしてきたものが多い。

だから全然知らない仕事に就いて同じことを仲間から言われるのを恐れていた。


色々な職を持つ獣人が集まって、村は街に、それからもう少し大きくなって、それ以外に小さな村がいくつかできた。

魔女も何人も移住してきた。


魔法薬を作ったり、魔法の実験をしたりするのに、人里離れたここはとてもいいらしい。

医者がいないこの場所にとってとても嬉しい事ですねとお嬢様に言ったらお嬢様は嬉しそうに「そうね」と答えた。



一番最初にここに来たお嬢様と俺が必然的にリーダーという形になっていた。

お嬢様は領地経営についてとても詳しかったし、王子妃教育で国の(まつりごと)にも詳しかった。

だからお嬢様はそういったことをしてそれをサポートする俺は、必然的に実際に街を見回り仲間に声をかけて、そこで聞いた話をお嬢様にするという流れになっていた。


本当にすごいのはお嬢様で、なんでもできるのはお嬢様なのに、町のみんなはだんだんと俺を『牙の王』と呼ぶようになった。

やめるようにと言ったのに、他でもないお嬢様が「あら、いいじゃない」と言った。

俺は王なんかじゃないし、本当にお嬢様が言ったみたいに国を作るならお嬢様が女王様になるべきなのに。

そう伝えたら、「人を信頼できなくなってしまった私が人の上に立つことはできないわ」と毅然とした態度で言った。

お嬢様が人を信頼できなくなった理由を作った人たちが許せなかった。


お嬢様は何もしなくてもいい。

と言ったけれど、どうしてもそれはできなくて、他の魔女に相談をして、それから何人かの仲間とお嬢様の邪魔にしかならないものへの排除を行うことにした。


実際かみ殺してしまうのが楽だけれど、きっとお嬢様に気が付かれてしまう。

だからいくつか遠回りなことをした。


獣人たちの作る工芸品や、獣人ではないといけない崖のような場所に生える薬草、そういったものをちらつかせて、お嬢様の生家である公爵家の事業をいくつか立ち行かなくさせた。

面白がって魔女たちもあの国に関わる商品の流通を一斉に止めたらしい。

魔法を使わなくては難しい宝石の加工など、魔女にしかできないけれど人々はそうは思っていない品物は多いらしい。

そういったものの流通を全てやめた。

それから、獣人たちを俺たちの森へ、そうでなくともあの国の外へと逃がした。


どこにいたってあの国よりまともな生活がおくれる。

生活が回るようになり、余裕分を他に売ることができるようになって集まった金で、それを少しずつ行った。


そして、最後に噂を流した。

獣人たちは人間よりもずっと耳のいい種族も多い。

人間に聞こえない位の音でも遠くの仲間に声は伝わる。


あの国がいかにまずいか、お嬢様の元婚約者がいかに酷い人間なのか。

俺がすでに知っている今の王子の醜態を伝えるだけで充分だった。


本当にこれでいいのか悩んだ。

もっと皆苦しめばいいのではないかと思った。


「もしも、君が個人的にあの国に恨みがあるならそうすればいい。

ずいぶんと酷い目にあったというからね。

ただ、それは君の復讐だよ」


自分の私怨に人をまきこんじゃあいけない。

年寄りに見える魔女がそう言った。


それから、頭がすっきりするよと薬草茶を出してくれた。

それは思っていたより三倍は苦くて、その苦みだけで少し色々を振り返ることができた。


お嬢様に、特製のスイーツを並べて休んでいただく。

貴族らしい教育も施してもらったけれど、執事としての勉強もしていたので完璧だ。


「お嬢様、復讐は本当にこれだけでいいのですか?」


お嬢様はじっと俺を見た。

それから――


「一生、許しはしないし、忘れることもできないわ」


静かにお嬢様は言った。


「許さない、だから慈悲を請われたり、謝られたりするのも嫌なのよ」


私の復讐は一生許さない事よ。


そう言ってお嬢様は静かに俺の入れたお茶を飲んだ。

そのお嬢様はいつも以上に美しく見えた。

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