優秀な王子だった筈の人1※婚約者の王子視点
※一部回帰前の描写もあります
アリスを魔女だとして婚約破棄をしても許される。
そういう勝算は初めからあった。
まず自分が立太子をして王になるのはまず間違いなかったこと、それから公爵家の力が弱まっていたこと。
けれど一番大きな理由は、俺の能力がとても高かったからだ。
俺の言う事であれば信じる。
俺の計画であれば賛同する。
全てがそうだった。
今までやってきたことの実績で周りの者は皆ついてきてくれた。
能力が高い者にそれ以外のものが従う。
それは当たり前のことだ。
だから、地味で陰気臭い女を捨てるのは当たり前のことだった。
* * *
「ここ最近政務が増えたのでは?」
文官に聞くと彼は不思議そうな顔をした。
「失礼ながら、以前の半分の量もございません」
そう文官は答えた。
そうだ、ならいつも通りあれにやらせればいい。
そう思ったところで、“あれ”がなんだか思い出せなかった。
イライラとしながら仕事をする。
補佐官を増やすべきだ。
俺は本来こんなことをすべき人間ではない。
今はもっとたくさんのことを見て学ぶことに時間を割きたいのに……。
今度陛下にお願いしようと思った。
ようやく今日の分の仕事が終わると補佐官の一人が「婚約者殿とのお茶会の日取りはどういたしましょう」と聞いてきた。
「あれとの茶会等どうでもいい!!」
叫んでようやくあれが自分の婚約者だと気が付いた。
陰気な女だったが、そういえば最近見てない気がする。
雑用すらできないという事か。イライラが更につのった。
「あれは城にはきていないのか?」
「あれ、とは?」
「陰気な婚約者だ」
その時、あの女の名が呼べなくなっているという事には気がつきもしなかった。
「ああ、そういえば最近見ないような……」
「サボっているということか!」
それこそ、陛下に相談せねばならない。
父親だって、陰気な上、役目すら果たせない王子妃候補等いらないだろう。
今日は王族そろっての晩餐の筈だった。
その時にでも、話をしてみようと思った。
上手くいけば他のもっとかわいらしい伴侶を手に入れられるかもしれない。
そう思うとイライラしていた気持ちが少しだけ晴れた。