没落1※父親視点
* * *
ふと、何故自分が領地に引きこもっているのだろうと気が付く。
あれと話した後――。
あれ、としか言えなくなっていることに気が付いた。
私の娘だ。
政略結婚した妻に産ませたが、女で跡取りにできなかった、あの立ち回りが下手くそな。
執事に聞いてみたが、喉が詰まったようにひくつかせるだけでその名前が口にできなかった。
全く、使えない男だ。
まあいい。あれの名前が思い出せないところでどうとでもなる。
私の娘のことだが、とでも言っておけばいいのだ。
簡単な話だ。
私は妻を呼びだしすぐ王都に帰ることにした。
領地は元々家令衆に任せきりだったのだ。
わざわざ公爵本人がこんなところにいる意味はない。
出発の準備をして急ぎ王都に戻った。
戻った屋敷には最低限のハウスメイドたちしかいなかった。
他はどうした?と聞いても首をかしげるばかり。
仕方がなく新しい者たちを手配するように指示をする。
そしてしばらく経ってから、この屋敷にいる筈の娘がいなくなっていることに気が付いた。
「さて、これはどういう事でしょうか?」
宰相に言われ吹き出た汗をぬぐう。
「さあ、てっきり我が娘は王城にて王子妃教育に勤しんでいるものだと思っておりましたので……」
「娘……、娘さんねえ」
宰相は目を細めた。
「いえね。勿論公爵家の家門より王子妃を迎える契約にはなっていて、家庭教師も手配していました。
それは勿論記録に残っています。
それに一部公務の手伝いを行っていた、痕跡はあるのです。
それに、王子とその婚約者のためのお茶会の予算は降りていましたし、確かに準備をして、お茶会は実際に開かれていた」
勿論です。私もそのような認識です。
そう私は言った。
そうだ。私の娘は王子の婚約者としてしっかりとした働きを見せていた筈だ。
それしか能のない娘なのだから当然だ。
そうしっかりと“言いつけ”もしたし、それができる様なるべく“厳しい”家庭教師を呼んだ。
見目がふさわしいように食事もちゃんとするように執事に徹底して指示していた。
そのため一緒に食事などしたことすらなかった。
「それがですね――」
宰相は私に向かってそれから息をひそめるような小さな声で言った。
「あなたの家門から女児の出生届が出ていないんですよ」
それから何度調べてもあなたの家で貴族籍に登録されている令嬢の公式記録が無いんですよ。
宰相に言われ、私の喉はひゅっと音を立てた。
時代とかが分かるタグも入れてなかったと思いますが、個人の戸籍がある世界観という事でよろしくお願いします。