神様と魔女の違い2(※ルイ視点)
それは満月の日だった。
呼びだされた俺の前にいる月明かりに照らされたお嬢様はいつもより美しく見えた。
「人払いはしてあるわ」
お嬢様はそう言った。
ああ、ずっとお嬢様が言いたくて言えなかった話をするのだと思った。
その話が何かはわからないけれど、きっと大事な話だろうと思ってお嬢様をじっと見た。
お嬢様は困ったように笑った。
それから、少し瞼を伏せるようにしながら言った。
「私、魔女なのよ」
俺は言葉の意味よりも俺の視線を避けるように伏せられたお嬢様のまつ毛が美しい影を作っていることの方が気になった。
「はい、わかりました」
魔女というのが嫌われていることは知っている。
ただ、それは俺にとってはどうでもよかった。お嬢様は俺を試しているという風でも無かった。
「え? それだけ……」
「それだけ……とは?」
「だって、魔女なのよ!?!?」
お嬢様が何を言いたいのかが分からなかった。
「お嬢様は俺にとって、かみさまみたいなものですので、そこに魔女が追加されても正直……」
だから? という感じだった。
「神様って……」
「だって、お嬢様は俺を救ってくださった。
だれも見向きもしなかった俺を」
俺がそう言うとお嬢様は「それは、あなたが私の使い魔だったからよ」と言った。
それから
「今まで獣人を助けたことは無いし、興味も持っていなかったわ」
別にやさしさなんてないという様だった。
でもそんなことは俺にとってはどうでもよかった。
「でも、実際に俺を助けてくれたのはお嬢様だけですから」
だからお嬢様は俺の特別の唯一なのだ。
「それが事実です」
俺がそう言うとお嬢様は目を見開いた。
それから「あなた私の使い魔になるというのね」と聞いた。
使い魔になるということがどういう意味かは分からなかったけれどすぐに「はい」と答えた。
「魔女はひとより長生きになるわ。
あなたも私と共に長い時を生きなければならない」
「それは嬉しいです」
共に、という言葉が嬉しかった。
使い魔というのが何かは分からないけれど、捨てられたりする心配は今のところいらないらしい。
「ところで、お嬢様。
使い魔というのは何をしないといけないのですか?」
俺が聞くとお嬢様はきょとんとした後、「魔女の辞書で調べてみるわ」と言った。
調べながら「いくつかの魔法の手伝いをしてもらうことがあるかもしれないという事はわかってるのよ」と言った。
それ以外の使い魔がしなくてはいけない事を調べているらしい。
俺には読めないその辞書にはそもそも文字が書いていないように見えた。
お嬢様は「特に義務らしい義務はないみたい」と言った。
それから俺に「ルイは? ルイはやりたいことはある?」と聞いた。
「お嬢様のやりたいことは?」
俺の一番やりたいことはお嬢様のやりたいことを叶えることだと思った。
お嬢様は少し悲しい顔をした。
それから「復讐よ……」と言った。
俺は別に驚かなかった。
嘘を言っていないことも分かる。
「誰に――」
彼女が復讐がしたいというなら共に。
そう思った。
人より鋭い牙が役に立つのならそれを、人より良く聞こえる耳が役に立つのならそれを、彼女のために役に立てたいと思った。
「私を知るもの全てに」
そう言ってからお嬢様は俺を拾うまでの話をしてくれた。
何故彼女が魔女になったのか。
魔女にならなければならなかったのかを。
* * *
ああ、それはみんな壊してしまっていいのではないかと思った。
俺の勉強のため、なんてことはいらない。
全部全部こわしてめちゃめちゃにしてやればいいのではないかと思った。
お嬢様は首を振った。
「後悔して欲しいのかもしれないわ」
お嬢様は悲しそうに言った。
お嬢様が素晴らしい人なのに、裏切ったこと、蔑んだこと、ずっとずっと後悔して生きなければならない。
それもいいと思った。
「でもそれが終わったら」
「終わったら?」
俺が聞き返す。
「……そうね。今度はルイの願いを叶えたいわね」
そうお嬢様は言った。
ねえ、教えてと言われて正直何も浮かばなかった。
何か希望を持つ様な生活を今までしてこなかったから。
お嬢様と一緒にいたい、彼女の願いを叶えたい以外に……。
「獣人たちを助けたいです」
そう俺は言った。今まで考えてもいない事だった。
お嬢様は言った。
「獣人を解放する。
そうね……獣人たちの国を作るのも面白いかもしれないわね」
別に国を作りたかったわけじゃないけれど、お嬢様はそう考えたらしい。
貴族の方の考えることはたまによくわからない。
けれど、その辺は正直なんでもよかったので「はい」と答えた。
アリスは広大な領地をもつ公爵令嬢で且つ王子妃教育も受けてきているためこういう思考になっています。(建国)