神様と魔女の違い1(※ルイ視点)
※ルイ視点です
俺を救ってくれる人なんて、世の中にいる訳がないと思っていた。
それにすくわれるというのは多分、おとぎ話に出てくるお姫様とかだけにおこることなんだ。
だから自分には関係のない事。
獣人は汚いのだから仕方が無いのだとただ息をひそめて生きてきた。
あの時までは。
お嬢様は、痛い目にあっている俺を助けてくれた。
そして暖かい家にむかえ入れてくれて、暖かい服と食事をくれた。
そして酷いことはしないと言った。
それに嘘が無いことを俺はよく知っている。
人間はよくわかっていないけれど、俺たちは耳の良いものが多い。
人間の唾を飲み込む音、心臓の音、全部、全部ちゃんと聞こえている。
だからあの時、お嬢様の言ったことに嘘は無いと知っている。
実際そんなことができるのかは分からないけれど、それに何のために俺を助けたのかは分からないけれど、あの人が少なくとも嘘をついていないことを知っている。
ただ分からないのは何故俺を助けたのか。
彼女が指示をする使用人たちは皆蔑んだ目で俺を見るし、その中の数人が部屋を飛び出して誰かえらそうに話す男性に告げ口をしたのも分かった。
その男は屋敷の奥へ同じように急いで走っていった。
きっとあの男も誰かに告げ口をするのだ。
そんな俺のことを嫌っているところに連れてきてこの人は大丈夫なのだろうか。
とてもきれいな人なのに酷い目にあわされたりしないだろうか。
それが心配だった。
* * *
実際お嬢様は誰かに呼び出されて部屋を後にした。
その間に追い出されるかと思ったけれど大丈夫だった。
用意されたソファーで少しうつらうつらとしてしまったくらいだ。
戻ってきたお嬢様に「大丈夫ですか?」と聞いた。
俺は出ていくようにと言われるのだと思った。
「大丈夫よ、邪魔な人たちは皆出ていくことになったから」
ルイはゆっくりとここにいて。
ニコニコと笑顔を浮かべながらお嬢様は言った。
そして俺にあたたかで清潔な寝床を用意してくれた。
俺を救ってくれたお嬢様は神様みたいな人なのだと思った。
毎日綺麗に身繕いをされて、たっぷりの食事、それから家庭教師が来て勉強を教えてくれた。
勉強ができると少しだけマシな仕事につけることをよく知っている。
だから勉強をさせてもらえるのは嬉しい。
その中でお嬢様のことは「お嬢様」と呼ぶと教わった。
お嬢様も「今はそれでいいわ」と言っていた。
でも、お嬢様はいつも俺に何かを言おうとしてはやめていた。
何か言いづらいことがあるのかもしれない。
別に捨てるって言われたって、お嬢様に恩があるのは変わらないのだから気にせずに言ってくれればいいのにと思う。
だけど、お嬢様は何も言わない。
言えないのなら待てばいい。
何を言われても俺は平気なので、待った。
しばらくしてその日は来た。