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【完結】鬼が嫁入り 〜妖怪嫌いが鬼族の許嫁と幸せになる話〜  作者: 雪村
2章 見送り握手チャレンジと貴方のこと
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8話 鬼嫁さんの照れ顔

 “ハイタッチ”その単語が頭の中に浮かぶ。雅さんは多分、ダメ元で言っているはずだ。

 だから断っても「まぁそうか」で終わってくれるだろう。


 私はコクリと唾を飲み込む。別に無理する必要はない。


「………」


 しかしそんな自分の甘やかしに反するように私の手は雅さんへと向かっていった。


「いっ、異常なくらい、震えてますけど、見なかったことにしてください」

「かしこまりました」


 指先は見送り握手チャレンジよりも震えている。震えを通り越してもはや暴れだった。


 収まれと心の中で唱えても言うことは聞いてくれない。それでも指先は徐々に雅さんの手のひらへ向かっていった。


「ふふっ」

「……うぅ」


 3秒、いや1.5秒だったか。私は雅さんの手のひらに4本指の第一関節を重ねて離す。


「ありがとうございます。小春様」


 雅さんは満足してくれたようで自分の手を見つめていた。

 

「……雅さんの手って冷たいですよね」

「桜花ちゃんにも言われたことがあります。私の家系はほとんどが低体温なんです。もし嫌でしたら次から手袋を」

「ちっ違います!そういう意味ではなく単なる感想で…!」

「なるほど。そういうことでしたか」

「逆に私は体温が高いから……雅さんこそ嫌じゃないですか?」

「嫌なわけないです。やっと感じられた小春様の体温はとても安心します」


 雅さんも私の体温が残っているのか触れてない方の手で片手を撫でる。

 私も同じように自分の指先を握ってみた。


「雅さん。私、明日も頑張ります」

「無理に進む必要はありませんよ。私達には沢山の時間がありますから」

「でも…」

「私達は昨日と今日でだいぶ進みました。勢いよく進んでいればいつか転んでしまいます。そのせいでまた小春様が離れていってしまうのが私は怖いです」


 もう雅さんは泣いていない。しかし声のトーンは不安に包まれているようだ。

 私の中でモヤモヤとした感情が喉奥で絡み合う。


「もしかして小春様は昨日の決心が薄れてしまうかもと心配しているのでしょうか?」

「わ、わかるんですか?」

「はい。でも心配する必要はないと思いますよ。きっと小春様が昨日自分に誓ったことは当分薄れることはないはずです」

「……あんなこと言っておいて自信が無いです。おかしいですよね」

「誰でも不安になることはあります。私は妖怪ですが心を覗く力はありません。でもわかるんです。小春様は自分を裏切らないって」


 不思議なくらい説得力のある言葉は私の肩の力を抜かせる。

 それと同時にモヤモヤも晴れていくようだった。


「雅さんって凄い、ですね」

「ふふっ。小春様の倍は生きていますから。なのに今日は少し恥ずかしいところを見せてしまいましたけど」


 そうだ。雅さんは年齢はわからないけど私が赤ちゃんの時から、私や桜花を守ってくれている。


 だから何でもお見通しなのだろう。例え私が妖怪嫌いで一緒に暮らす前までほとんど顔を合わせなかったとしても。


「み、雅さん」

「何でしょうか」

「今日はもうキャパオーバーなので無理ですが……その…」

「はい」

「今度雅さんの話を聞かせてください」

「私の話ですか?」

「好きな食べ物とか、趣味とか…」


 私の決心は当分薄れることはない。だから焦らなくてもいいのだけど、立ち止まりたくはなかった。


 まずは桜花でも知っている雅さんの情報を知ろう。本当に私は雅さんのことを知らなすぎると実感してしまった。


「勿論です、小春様。その代わり小春様のことも教えてくださいね」

「はっはい」

「そろそろ食事に戻りましょうか。中断して申し訳ありませんでした」

「あの!最後にもう1つだけ!」


 私は食事を再開しようとする雅さんを止める。これだけは今言わなければと瞬時に思った。


 また同じような状況が訪れることはしばらく無いだろう。雅さんはキョトンとしながら首を傾げる。


「なっ、泣き顔とかいつでも見せてください。雅さんの弱い部分も知りたいので…。許嫁だし……」


 最後の方は声が小さくなって聞き取ってくれたか怪しい。

 すると雅さんは勢いよく腕を上げたと思えば自分のおでこに両手を付けた。


「申し訳ありません小春様。少しだけ部屋にこもります」

「えっ!?どうしたんですか!?」

「小春様は何も悪くないです。ただ気の緩みでツノが出そうなので冷静になるためにこもります」


 雅さんは早口でそう言うと私に背中を向ける。その時、真っ黒な髪から覗く耳が赤く染まっているのに気付いた。


「夕食は食べ終わったらそのままにしておいてください。後で片付けます」

「わ、わかりました」

「それではこもってきます」


 そのまま雅さんはツノを隠しながら部屋へとこもっていく。

 気を遣わせてしまったと落ち込む私と、照れてくれたのかなとドキドキする私がいた。


「……うぅぅ」


 私はダイニングテーブルに置いてある食事を見つめながら今日を振り返る。

 初めて見る許嫁の姿に私まで耳が熱くなってきた。

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