50話 ???
《北の地方にて》
蝉がうるさく鳴く北の地方の森の中。古びた一軒家の中から荒い息遣いが聞こえてくる。
「はぁ、はぁ……ふぅ」
赤い浴衣姿で9本の尻尾を靡かせる女児、玉藻前。
身体が火照っているせいか額は汗ばんでいた。
よろよろと布団から起き上がると玉藻前は水道へと向かう。
「面倒な身体になっちゃった」
生ぬるい水を出すと優雅な手つきで飲み始める。
「脱獄に使ったせいで妖力が不完全のまま小春の所に行ったからね。時間は短かったし、挙げ句の果てには天狗に掻き消される始末だよ」
誰に話しかけているかはわからない。それでも玉藻前は話を止めなかった。
「でも無駄じゃなかった。小春に会えて確認できたからね。あれは体内から変異している。嗚呼……鬼姫…」
女児とは思えない蕩け顔に生ぬるい水滴がつく。
そして濡れたままの手で自分を抱え込むと、その場にしゃがみ込んだ。
「私ならもっと愛してあげるのに。小春がお嫁に来てくれるならこんなボロ屋を幻で豪邸にしてあげるのに。泣いちゃうくらいに愛して、愛されてそして……」
不気味な笑い声と荒い息遣いが一軒家を埋め尽くす。
暑い夏のはずなのに玉藻前が纏う空気は冷えていた。
玉藻前は全身の筋肉を確かめるように立ち上がると、水道から離れて別室に移動する。
傷んだ襖をゆっくり開ければ、そこには沢山の妖具が散らばっていた。
「変異した鬼でも効く妖具の開発を進めなきゃ」
ハイライトが消えた玉藻前の瞳に神楽雑貨店で買った筒型の妖具が映る。
「もうあの場所には行けないな。でも最後の最後に妹と話せて良かった」
やんわりと微笑む玉藻前の表情はこれ以上にないくらい歪んでいる。
そんな玉藻前は転がっている筒型妖具を手に取って胸に近づけた。
「小春はもう少しで鬼になる。あの森に充満していた妖力に充てられないのが十分な証拠だよ。今度会う時は鬼の姿かな?」
そして妖具を力いっぱい抱きしめると筒は無様に破壊された。
「後は妹……桜花ちゃんにも影響は与えられたからね。あの子はきっと化けるよ。だって私に似ているし」
玉藻前は破壊した妖具を床へ投げ捨てるとそのまま奥へ進む。
途中散乱している妖具に足をぶつけるが気にすることなく踏みつける。
「あんな鬼女と幸せになんてさせない。少なからずとも私は小春を愛しているし」
赤い浴衣と9本の尻尾がやがて部屋の影に隠れていく。
玉藻前は不気味な笑いを抑えないまま部屋の奥へ篭って行った。
ここまでお読み頂き本当にありがとうございました!
本日投稿した50話で一旦の完結となります!
結構怪しい終わり方と言いますか、全てがわかってない終わり方になってしまい申し訳ありません。
ただ目標としていた“8万文字以上でコンテストの参加”をクリア出来たため、ここで一区切りとさせて頂きます。
(雪村は公募勢なので次の作品に手をつけたいという気持ちもありまして…!)
もしもこの作品にご縁があったらその際に続きを書こうかなと思っています!
本作品は雪村が小説家になろうに投稿した作品の中で1番評価を貰っていてありがたい限りです。
評価などがまだの方は是非評価して頂けると嬉しいです!
それでは【鬼が嫁入り 〜妖怪嫌いが鬼族の許嫁と幸せになる話〜】一旦完結を宣言させて頂きます!
読んでくださった皆様ありがとうございました!




