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45話 1人分の間を越えて

《気付けば小春にゾッコン》雅視点

 小春様に掛けられていた玉藻前の魅了が解けた日から数日が経った。


 あの騒動は瞬く間に妖怪達の間で広がり、現在は玉藻前の注意喚起が行われている。


 結局奴は幻を見せる妖術を使って小春様に近づいたらしい。

 なので手掛かりは改造され(すす)化した煙幕用の妖具と、小春様の服に付着した煙だけだった。


「触ると痛いですか?」

「もう痛くないですよ」

「それは良かった。でも治りかけなのでもう少しガーゼはしていましょうね」

「はい」


 そして私は今、リビングのソファでピッタリとくっ付きながら小春様の手当てをしている。


 あれから数日経ったとはいえ小春様が玉藻前に傷つけられた跡は残っていた。


「にしても女性の顔を叩くなんてどんな神経をしているのでしょうか。あの女狐は」

「あはは…」

「腕も傷が残るくらいに爪を食い込ませて」

「み、雅さん。鋭いツノが出てきてます」

「失礼致しました」


 私は小春様を傷つけた玉藻前への怒りで額からツノを覗かせてしまう。

 それをそっと額へしまうと救急箱を片付けた。


「あっ、別にツノ出したままで良いんですよ?私はもう妖怪を極端に怖いって思いませんし」

「私がツノを隠したいだけなのです。それに隠す癖がつけば、小春様と色んな場所へ行くことが出来ます」

「今までは2人でどこかに遊びに行くことは無かったですもんね」

「ええ。ですからどうでしょう?小春様が夏休みの間、2人でデートに行きませんか?」

「良いですね。デート………はい。デート…」

「ふふっ」


 一応魅了は解けたのだが、小春様はまだ色々と恥ずかしいようで初心な反応は変わらない。

 本当に可愛い人だ。


 それに加えてソファに隙間なく2人で座れるのはこれ以上に無いレベルの幸福だった。


「残念ながら神楽雑貨店近くの神社の祭りは終わってしまいましたからね。夏祭りに行くとすれば他の場所でしょうか」

「そうですね。ここ数日は色々と忙しかったし」

「小春様には沢山迷惑をかけました。特に昨日は余計な1日で…」

「そ、そんな!迷惑だなんてとんでもないです!何気に初めてちゃんと雅さんのご両親とお話し出来たので!」


 小春様は手当てしたばかりの手を横に振る。

 それでも私は昨日行われた両家の食事会を思い出してため息をついた。


「小春様は良くても私が申し訳なくて…」

「そんな項垂れなくても」


 玉藻前の魅了が解けたことで小春様は私以外の妖怪にも拒否反応を起こすことは無くなった。


 それを知った私の両親が食事会を提案して、無事昨日料亭で行われたのだが…。


「母はずっと小春様に話しかけて父は途中で泣き出しますし、娘として恥ずかしい限りです」

「でも楽しかったですよ。前に雅さんが私のお母さんに言ってくれたように」

「うぅ…」

「雅さんにも小春唸りが移りましたね」


 小春様は面白おかしそうに笑う。申し訳ない気持ちは消えないけど、それを1番近くで見れていることに私は幸せに思った。


「小春様」

「どうしました?」

「手を繋いでもよろしいですか?」

「…勿論です」


 私は隣にある小春様の手をゆっくり握ってみる。そうすれば小春様も優しく握り返してくれた。


「震えてませんね」

「はい。しっかり繋げます」

「玉藻前の魅了が解けかけていたのもありますが、きっと妖力も全盛期の頃と比べてかなり弱まっているのでしょう」

「だから雅さんのフェロモンで上書き出来たんですね」

「奴と比べれば私のフェロモンなんて気休め程度ですが、それ以上のものを得られましたね」


 でもきっとそれだけでは無いと思う。


 小春様には誤魔化したけど、小春様の体内で起こっているものが大きな要因だ。


 鬼族以外のフェロモンを受け付けないほどの抵抗力。全てが明かされる日は近いということだろう。


「それにしても小春様は本当に強いですね」

「私が?そんなことないです。ビビりは変わりませんもん」

「確かに初めてのことや緊張する場面ではプルプルしていますが小春様は強いですよ。だって玉藻前にあんなことをされたのにも関わらず、妖怪である私や両親と普通に接することが出来るのですから」

「そんな凄いことなんですか?」


 小春様は自覚が無いのか首を傾げる。

 桜花ちゃんの時もそうだけど、この姉妹は恐ろしく精神力が強いのかもしれない。


「はい。誰でも他人に何か嫌なことをされたらトラウマになります。でも小春様はそのようにはなっていませんよね?」

「そうですね。……まぁ玉藻前の存在は怖いですけど、雅さんが絶対守ってくれるって楽観的に考えちゃってます」

「ならば小春様はそのままで居てください。何が何でも私が守りますので」


 私は少しだけ握る手に力を入れる。


 “守る”と言っても私はこの前、守ることが出来なかった。

 だからいくらカッコつけたところで説得力は無いだろう。


 それでも小春様は私を信じてくれている。

 まだ壁は取り除けていない。むしろ大きくなるばかりだ。もっと強くならなければ。


「あの雅さん」

「小春さ……ひゃい!」

「へへっ、隙ありです。難しい顔してますよ」


 すると私の脇腹に小春様の片手が侵入する。


 そうだ、小春様はもう自分から触ることが出来るのだ。完全に油断していた。


「ちょっとやめてください…くふっ」

「私だけが知っている弱点ですね。ここも弱いですか?」

「ふはっ……ふふっ……ほ、本当に仕返ししますよ」

「覚悟の上です。だって全部抱え込むんですもん」


 小春様は脇腹を撫でながら拗ねるような顔になる。


 その気になれば今すぐ形勢逆転して耳をいじめられるが私はそれをしなかった。


 小春様はイタズラでやっているわけではない。表情と労わるような手つきが物語っていた。

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