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40話 ???

《????》 

 横開きの扉が開かれ暑い空気が神楽雑貨店に舞い込む。

 店番をしていた桜花は明るい挨拶を客に向けた。


「いらっしゃいませ〜!」

「こんにちは」

「あっ!九尾ちゃんだ!お使いかな?」

「うん。でもお菓子も買って良いって言われたの」

「そっかそっか偉いねぇ。ゆっくり涼んでって!」

「ありがとう桜花ちゃん」


 雑貨店に来たのは赤い着物を羽織る九尾族の子供。桜花と違い大人しい様子で小春を連想させられる。


 九尾の子供は店内を見渡して目的の物の場所へと駆け寄った。


「最近暑いね〜。あたし溶けちゃいそうだよ」

「本当だね」

「でも夏って色んなイベントがあるから良いよね!九尾ちゃんはこの夏何するの?」


 子供は桜花の話を聞きながら筒型の妖具を手に持つ。小さな手で何度も確認しながら。


「今年の夏は特別なの」

「へぇ!何で何で?」

「……内緒にしてくれる?」

「勿論!あたしと内緒の同盟組もうよ!」

「……店内には誰も居ない?」

「誰も居ないよ〜。この前一緒に居た無愛想天狗もコンビニ行ったし」

「なら教えてあげる」


 桜花は子供の内緒話にキラキラした視線を放つ。どちらが年上かわからない落ち着きのなさだ。


 子供は妖具を胸に持ってくると優しく抱きしめる。


「今年こそ好きな人に会うの」

「すっ、好きな人!?九尾ちゃん好きな人居るの!?」

「うん。可愛くてオドオドしているけど、きっと私の前では優しく微笑んでくれるの。私のことをずっと想ってくれるんだよ?」

「はわぁ…!」


 ピュアな恋愛話に桜花は嬉しそうな声を出す。


 姉には許嫁が居るのに甘い恋愛話が全く無いから正直彼女は飢えていた。

 学校の友達もロクな恋愛話を持っていない。


 桜花はどちらかと言うと少女漫画のような純愛が好きだった。


「良いなぁ〜!いつその人と会うの?」

「内緒」

「えぇ!教えてよ!同盟でしょ?」

「話したら桜花ちゃん来ちゃうかもしれないから」

「よくおわかりで」


 子供は桜花の反応に目を細めながらお菓子売り場へ移動する。


 珍しい物は何も無いが駄菓子だったりジュースだったりが置かれていた。


「桜花ちゃんはこの夏何するの?」

「あたしは期末テストの追試だよ!この前無事に全滅したんだ!」

「そうなんだ。人間の高校生って大変だね」


 小春なら大声のツッコミを入れるのだろうけど、子供は全く動揺を見せない。


「大変だよ〜。でも追試終わったら沢山遊びたいなぁ。あたしには2人のお姉ちゃんが居るからね!」

「人間のお姉ちゃんと鬼のお姉ちゃんだよね?知ってる」

「もしかして九尾の間では有名なの?」

「有名ってほどじゃないけど……知ってる」

「そっかそっか!」

「それで桜花ちゃんは鬼のお姉ちゃんが好きなのも知ってる」

「……え?」


 突然桜花の声が低くなる。彼女は別に雅を想う気持ちを隠していたわけではない。


 ただ桜花の想いを誰よりも共感するかのような子供の表情に固まったのだ。


「…ば、バレてたか〜。やっぱりあたしって表に出しちゃうからなぁ」


 しかし桜花は幼い子供ではない。高校生なりの意地で冷静を装う。


 九尾の子供はそんな桜花を見ながら1つのお菓子を手に取った。


「桜花ちゃん。お会計お願い」

「はーい」


 レジに居る桜花の前に煙幕用の妖具と小さなスナック菓子が置かれる。


「あっこのお菓子、頻繁に買ってくれるよね?」

「覚えててくれたんだ。これは好きな人がよく食べていたお菓子なの」

「へぇ!美味しいんだ!あたしはあまり食べなかったけど、お姉ちゃんは結構食べてた記憶があるな〜。あっ人間の方ね」

「うん」


 慣れた手つきで桜花は九尾の子供の会計を終える。


 すると子供はレジのカウンターへ身を乗り出すかのように手を着いた。


「桜花ちゃん」

「どーした?」

「好きなら告白すれば良いのに」

「しないよ〜。だって2人は結婚するんだもん」

「まだしてないよ」

「確かにね。でもしない。あたし2人のことが大好きだから」

「私なら奪っちゃう」

「九尾ちゃんって意外と肉食系?」

「そうかも。でもそれが普通じゃない?私はずっと好きだから」

「うーん…」


 桜花は腕を組んで考え込む。

 世の中には略奪愛というものはあるがあまり良いようには受け取られてない。


 それを雅へ……と想像してみるが現実味がなくすぐに終わった。


「桜花ちゃんは優しいんだね」

「そんなことないよ。九尾ちゃんだって優しい子でしょ?」

「ありがとう。でも苦しそうだよ」

「わ、私が?」

「うん。欲しいものがあるのに手を伸ばすことすら許されなくて苦しそうな顔」

「………」

「告白するくらいならタダじゃない?」


 なぜこんな幼い妖怪にアドバイスされているのだろうと桜花は思う。


 でも妙な説得力の強さと自身に当てはまる現実が桜花を黙らせた。


「私ね。今年こそ好きな人に会うの」


 先ほども告げた言葉を九尾の子供は言いながら妖具とお菓子を持つ。

 そして桜花に背を向けた。


「今年こそ告白するんだ。ずっと貴方を想ってたって」

「……そっか。頑張ってね」

「ありがとう桜花ちゃん。バイバイ」

「またのご来店を」


 桜花の声に元気さが失われつつある。しかし子供はそれを気に留めることなく雑貨店から出て行った。


 外は血のように赤い空が広がっている。夕焼けは九尾の子供の影を作った。


 それは子供とは思えないほどの大きな影を。

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