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29話 まるで婦婦のよう

「きゃー!雅お姉ちゃんかっこいい!」

「ありがとうございます。桜花ちゃんもやってみますか?」

「あたしがやったら血塗れになるからやめとく!」


 まるでアイドルを見ているかのようにはしゃぐ桜花。

 その隣には巨大なサーモンを捌く雅さんが居た。


 少し前に家に届いたサーモン。普通はお目にかかれない大きさで動揺したのが新しい記憶。


 雅さんは、八尾比丘尼の一族は漁業を営むことが多いと教えてくれた。

 人間と違って海を知り尽くす感覚を持っているから確実に大物を狙えるという。


「美味しそう〜!ねぇ雅お姉ちゃん?味見とかって…」

「はい、どうぞ」

「あーん」

「美味しいですか?」

「うま〜」


 側から見ればカップルのような2人。そんな2人にモヤモヤしてしまう。


 台所から離れ、リビングで待機していた私は視界に入らないようにスマホをいじっていた。


 すると満足した桜花が頬に手を当てながら私に近づいてくる。


「昨日からバタバタしていて大変だったけど雅お姉ちゃんとサーモン食べれるなら結果オーライだねぇ」

「桜花も事情聴取受けたの?」

「雅お姉ちゃんのお母さんとお話しした!」

「どんな感じだった?事情聴取って」

「普通にお話ししただけだよ。よくドラマで見るようなものじゃなかった。世間話とか、お姉ちゃんの話とか!」


 一応まだ高校1年生の桜花だから敢えてそのようにしたのだろうか。


 でも仮に桜花が妖怪達の集団暴行事件に関わっているか?と聞かれたらその可能性は低いはずだ。


 しかしそれは他の家族も同じ。私は家族を信じている。


「そういえば雅お姉ちゃんってお母さん似?お父さん似?」

「どうでしょうか…?性格は母に似ていると言われますが、外見はあまり似てないかと」

「あー確かに外見は真逆かも。お母さんの方はおっとりって見た目で雅お姉ちゃんはキリッとした感じ!」

「そうなると外見は父似かもしれませんね」


 雅さんは桜花が隣に居なくなった瞬間、素早い手つきでサーモンを捌き切ったようだ。

 あっという間にお刺身を盛り付けてテーブルへと運ぶ。


「美味しそう!食べよ食べよ!」

「桜花は席に着いていて。雅さん、ご飯と味噌汁私がやります」

「ありがとうございます」


 私はソファから立ち上がって雅さんの所に行く。雅さんは一瞬目を開いたがすぐに元に戻って微笑んでいた。


「お姉ちゃんがご飯よそってる…」


 後ろでは桜花の怪しむような声が聞こえる。私が実家に居た17年間、一度もやらなかったからだろう。


 そんな桜花の呟きを無視して私はお椀を手に持った。


「小春様。席に座ってて良いのですよ?」

「これくらいはやらせてください。雅さんが居なかった1週間、家事の大変さを知ったので…」


 私と雅さんは桜花に聞こえないように小声でやり取りをする。


 この出張期間、私は雅さんのありがたみを実感した。それと同時に任せっきりではダメだとも自覚したのだ。


 難しい家事は出来ないからこそ、こういった小さなことから始めよう。

 そう決意したのが昨日の夜。


「ふふっ」

「どうしました?もしかして間違ってました?」

「いいえ合ってますよ。ただ、なんて言いますか」

「ん?」


 すると雅さんが私の耳に口を寄せる。桜花の前では言いづらいことなのかな。


「一緒に台所に立つとより婦婦(ふうふ)感が増しますね」

「なっ…!」


 私は危うくよそっていた味噌汁を手に溢しそうになる。

 それくらい謎の破壊力がある囁きだった。


「み、雅さん!?」

「その様子だと不快には思っておられませんね」

「いや不快とかその前に…」


 顔から耳まで真っ赤なのがわかる。雅さんってこんなに良い声だったの?囁きだから?


 色っぽくて余裕のある声はずっと私の中で響き渡っている。


「あの、もしかして小春様って耳が…」

「ねぇねぇ!これがお掃除ロボットのルンさん?」


 雅さんが何か言いかけた時。リビングの方で桜花が何かを見つけたようだ。


 私と雅さんは即座に離れて何事も無かったかのように準備を進める。


「ルンさんって誰が名付けたの?」

「私ですよ」

「え〜可愛い。王道すぎて可愛い」

「それは褒めているのですか?」

「勿論だよ!」


 雅さんが桜花の対応をしている間に私は3人分のご飯もよそう。

 早く顔の熱が冷めてくれと願いながら。


「うぅぅ…」


 私の許嫁ってスペックが高すぎるのかもしれない。見た目も性格も、そして声も。

 本当に勿体無いレベルの妖怪なのだろうと私は改めて思った。

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