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23話 天狗の幼馴染

《実はファンクラブが存在する》雅視点

 父さんから泣きながら頼まれた北の地方への出張。

 最初は憂鬱だったけど、今では悪くないイベントだなと思う。


 きっと出張に行っていなければビデオ通話で小春様と話すなんて経験は出来なかった。


「そのビデオ通話というものがとても便利なのよ。小春様の顔がスマホの画面いっぱいに映るの」

「へぇ〜」

「今朝も小春様を起こすのに使ってみたわ。でもあの顔はきっと少し前に起きていた気がする。小春様って寝起きはポワポワしているのよ」

「ふーん」

「ねぇちゃんと聞いているの?」

「聞いてるって」


 現在私は妖怪が暴れる被害が起こってしまった場所へと向かっている。

 幼馴染で職場の同期である天狗の一族、宵楽(よいら)と共に。


 無言で現場に向かうのもあれだから私から話しているのに返事は面倒臭そうだ。


「本当に興味のないものはとことん関心を示さないわね」

「誰だってそうだろ。我の恋愛の話なんて雅は興味を持つか?」

「あら?持つに決まってるじゃない。イケメン女子天狗と呼ばれている貴方の恋愛事情は気になるわ」

「物好きだな。美女鬼様は」

「その呼び方やめて」

「ならイケメン女子天狗もやめろや」


 宵楽は苦虫を噛み潰したような顔で私を見てくる。

 私はそれを微笑んで返せば大きくため息をつかれてしまった。


「つーかお前の嫁さん、妖怪無理だったんじゃねぇのかよ」

「今も無理よ」

「よくビデオ通話?ってやつ出来るな。我は嫌いな物は視界に入れたくもない」

「優しいのよ。小春様は」

「惚気か?」

「ええ。私を悲しませたくないからって頑張って近づこうとしてくれているの。とても健気で可愛いと思わない?」

「ハッ、可愛いよりも可哀想だな。結局は周りのためだろ。あんなことがあったからお前達は結婚するんだし」

「でも小春様は心から変わろうと思っているのよ」

「絆されてるな。洗脳か?」

「宵楽」

「悪い、言い過ぎた。こう見えてもちゃんと雅の応援はしているつもりさ」


 宵楽は謝罪を意味するように両手を上げる。私は久しぶりに外で出した自分のツノを撫でた。


「なんとなくわかるのよ。いつか小春様はこのツノや長い爪、鋭いキバを受け入れてくれるって」

「ベタ惚れじゃねぇか」

「そうかもね」


 それでも私は小春様を愛していると確信して言うことは出来ない。


 好きの感情はある。でもそれは特別なものと断言するのにはまだ早かった。


「ねぇ宵楽」

「んー?」

「愛したいと思う瞬間って突然なのかしら。それとも徐々に積もって思うのかしら」

「お見合い全部ぶった斬る我に聞くかそれ?」

「間違った質問だったわ」


 私達はそんな話をしながら現場である山奥へ進んでいく。

 仕事が始まれば切り替えなければならない。


 すると宵楽はしまっていた黒い翼を羽ばたかせる。


「臭い。血の匂いが残ってんな」

「神楽雑貨店から消臭薬貰っているけど使う?」

「いや要らない。一旦上に飛んで空気吸ってくる」

「行ってらっしゃい」


 嗅覚が過敏な天狗族だから多少の臭いでも辛いのだろう。

 宵楽は耐えられなくなったように上へ飛ぶとそのままどこかへ行ってしまった。


「そういえば彼女、少し鼻が縮んだかしら?」


 天狗族はどちらかというと妖怪に近い見た目をしている。

 しかし宵楽は生まれつき人間に近い外見だ。


 でもそれが日に日に人間へ変わっているような気もする。


「まさか整形…?」


 私はふとそう思ってしまうが彼女にそれは無いなとすぐに冷静になった。


 山奥はとても静かでここで妖怪が暴れていたなんて想像がつかない。


 小春様は山と海、どっち派だろうか。これも後で質疑応答ノートに書いておこう。


「…ふふっ。ダメね」


 仕事前だと言うのに小春様のことを考えてしまう。


 今の時間はきっと授業中。

 桜花ちゃんはよく居眠りをしているらしいけど、小春様にその心配は無い。


「よし」


 私は切り替えるように自分の腕を叩く。願わくば今日中に終わって欲しい。

 もう生の小春様に会いたくて仕方なかった。

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