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2話 どうにも出来ない許嫁への恐怖

「雅お姉ちゃんお邪魔します!」

「桜花ちゃんどうぞ。小春様もおかえりなさいませ」

「ただいまです…」


 放課後、私は桜花を連れて高級マンションへと帰る。


 実家暮らしの桜花はマンション住みの私が羨ましいようで思い立った日に来るのは頻繁にあった。


「雅お姉ちゃ〜ん。あたし昨日ね?追試合格したんだ〜」

「おめでとうございます。桜花ちゃんの努力のお陰ですね」


 いやそもそも追試になったんかい。しかし雅さんはそこをツッコまずに桜花を褒めている。

 当の本人はデレデレになって雅さんに抱きついていた。


「うちのお姉ちゃんの代わりにあたしをいっぱい抱きしめて良いよ?」

「ありがとうございます。桜花ちゃんは相変わらず人懐っこいですね」

「人懐っこいのは嫌い?」

「いいえ。誰とでも仲良くなれるのは素晴らしいことです。しかし世の中には悪い人も妖怪も居ますので気をつけてくださいね」

「悪い妖怪が現れたら雅お姉ちゃんに退治してもらう〜」

「その時はいつでも助けを呼んでください」


 家に上がり込んだと思ったら私とは全然違う声で甘える妹に若干引く。

 

 別に姉に冷たい妹というわけではない。けれど雅さんの前ではまた違うのだ。

 見ているのが恥ずかしいくらいにデレデレになっている。


「桜花。雅さん困るよ」

「んー?雅お姉ちゃん困ってる?」

「私は平気ですよ。小春様、お気遣いありがとうございます」

「だってさお姉ちゃん」

「あっそ」


 私は雅さんに抱きつきながらリビングに向かう桜花に声をかけるがあまり効果は無いらしい。


 雅さんも少し桜花を甘やかしすぎではないか?


 するとリビングのソファに座った桜花は突っ立っている私を見上げてニヤつく。


「お姉ちゃんも一緒にやる?あたしと一緒なら出来るかもよ?」

「やらない」

「雅お姉ちゃんは良い香りするよ〜?それに柔らかいし〜」


 桜花は見せつけるように雅さんの胸へ頭を乗せる。雅さんは眉を下げながら私と桜花を交互に見ていた。


「桜花」

「はぁ……これでもダメなの?っていうかその顔やめなよ」

「えっ?」

「いつも雅お姉ちゃんと居る時そんな顔してんの?それ、無意識のうちに雅お姉ちゃん傷つけてるよ」

「桜花ちゃん。私は別に」

「雅お姉ちゃんは黙ってて。お姉ちゃんと雅お姉ちゃんが同棲してから私色々と見てきたけどさ。お姉ちゃん、傷つけることしかしてなくない?」


 桜花は雅さんから離れて立ち上がると私の前に来て睨む。

 その顔は共に過ごした16年間、一度も見たことが無かった。桜花は本気でキレているのだとわかる。


「雅お姉ちゃんは妖怪が嫌いなお姉ちゃんに優しく寄り添おうとしているんだよ?なのに何でそれを受け取れないの?」

「それは…」

「確かに雅お姉ちゃんは鬼族の妖怪。でも人間も妖怪も変わりないじゃん。鬼族は比較的人間に近い身体してるんだし」

「………」


 私は強く拳を握りしめる。桜花が伝えたいことは理解出来た。

 でも無理なものは無理なんだ。


 いつ何のキッカケで私は妖怪を怖いと思うようになったか覚えてない。

 だから本能的に怖がってしまう。それは人間に近い鬼族でも同じ。


「桜花には私の怖いって思う感情わからないでしょ」

「わからないよ。でももう少し頑張りなよ。許嫁なんだから」

「頑張ってるって!!」


 リビングに私の大声が響く。桜花も雅さんも驚いたように私を見ていた。

 その途端、私は恥ずかしくなって学校の鞄を持ちリビングから立ち去る。


「小春様!」

「お姉ちゃんどこ行くの!?」

「ちょっと外出てくる。すぐに帰るから」


 私は2人の声も聞かずに玄関を閉める。どこに行こうか考えてない。でも1人になりたかった。


 嫌なくらいに桜花の言葉が心に染み込む。勝手に決まった関係なのに、何であんなことを言われなければならないんだ。


 やっぱり雅さんは私じゃなくて桜花の許嫁になれば良かった。


 長女という立場だけで進んでしまった計画に私は歯をギリッと鳴らす。

 そのまま私は感情に任せてマンションから出て行った。

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