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18話 まるで大型犬の鬼嫁さん

 そう思ってプリンを買ってきたのに、家に帰ったら許嫁が床に正座していた。


「な、なぜ正座を…?」

「小春様。大事なお話があります」

「お話ですか?」

「はい。私達の今後に関わるお話です」


 姿勢正しく座る雅さんの姿。そしてリビング内に漂う見えない不穏感。


 私は持っていた紙袋と鞄を置く。ご丁寧に座布団も用意されて私はその上に正座した。


「お仕事の都合で地方に行くことになりました」

「地方?」

「北の地方です」

「北の地方……仕事の都合……ま、まさか!」

「はい。2日間の出張です」

「あっ、そっちですか」


 真剣な顔で言われたからてっきり引っ越しかと思ってしまった。


 でもそれを言われたら私はどうすれば良いのだろう。

 わざわざ転校してまで雅さんに着いて行くだろうか。


「2日間ということは2泊3日ですか?」

「順調に行けばその予定です。最低でも2日。最長で未知です」

「そ、そんな大変なお仕事が…」

「詳しい話は出来ませんが調査をしに行くのです。目的を達成出来れば帰れるという感じですね」

「なるほど…」


 ということは2日以上掛かる可能性もあるのか。雅さんの仕事は妖怪の警察である自警団。


 どんな仕組みで動いているかはわからないけど、調査となればよっぽどのことなのだろう。


「ちなみにいつからですか?」

「明後日です。他の者たちは明日からなのですが上に抗議して私は1日ずらしてもらいました」


 雅さんが上司に抗議する姿を思い浮かべる。きっとその光景を目の前で見た私は泣くはずだ。


 自警団は鬼族が多いと質疑応答会で聞いたので、鬼と鬼が言い合う姿は恐怖そのもの。

 下手したら幼児退行する。


「小春様、大丈夫ですか?」

「高校生にもなってギャン泣きはちょっと…」

「ギャン泣き?私はそれで気が済むのであれば受け入れますよ」

「ごめんなさいこっちの話です」

「そうでしたか」


 私は背筋を伸ばして余計な想像を振り払う。


 それにしても目の前に座る雅さんはとても綺麗だ。

 床がフローリングではなく畳だったら風流そのものなのだろうな。


「えっと、私は問題ありませんよ。お仕事なら仕方ないですし」

「ええ……そうですよね」

「家の方は私に任せてください。出来る限りのことはやりますし、無理だったらお母さんか桜花に助けを求めますので」

「はい…」

「その、大変ですね。自警団って」

「はい…」


 段々と雅さんの様子がおかしくなっている。まるで見えない犬耳が垂れていくような…。


「雅さん。もしかして最近疲れているように見えたのって」

「出張の匂わせがあったからかもしれません。しかし完全に無意識でした」

「なるほど…」


 流石に突然出張に行けとは言わないか。でも疲れではなく悩みだったことを見抜けなかったのが何だか悔しい。

 まぁ私関連での悩みではなくて安心はしているけど。


「…小春様」

「どうしましたか?」

「小春様も一緒に行きますか?北の地方」

「え?」

「勿論、仕事現場に連れていくことはありません。ただ何日掛かるかはわからないのでせめて夜は一緒に……」

「待ってください!そこまで私を1人にさせるのが心配ですか!?確かに家事は破滅的ですが家を破壊することは無いので」

「小春様をそんな風には思ってませんよ。別に家が破壊されても次の家を探せば良いだけですし」


 本当に雅さんは全肯定過ぎる。この先私を怒ることなんてあるのだろうか。


 段々と方向が怪しくなっていくが、私は出張には着いていけない。だって学校があるし。それになんか怖いし。


「雅さんごめんなさい。私は」

「例え2日でも離れたくないんです」

「…ん?」

「小春様と離れたくないです」


 自分の手を強く握って視線を床へと向ける雅さん。鬼族というより大型犬に見えてしまった。

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