86話
「それって桜のこと?」
「桜のことだけじゃないけどね。」
福井さんの返答に春先輩も一緒に頷く。
「春先輩、やっぱり桜と付き合っている僕は気に食わないですか?」
翼の突然すぎる質問に、体をビクッとさせた春先輩は恐る恐る口を開いた。
「そんなことないよ。東山くん。でも、でもね、桜ちゃんや京子ちゃん。そして、君から聞いても納得できないのよ。」
今にも泣き出しそうな声で答えた春先輩だった。しかし、その回答に翼はどうにも納得できなかった。
「そんなにあの人はいい人だったんですか?」
「いい人だったわよ。怖いくらいに。」
「なら何で!」
思わず声を荒らげてしまった翼に、カウンター越しに福井さんの父親が咳払いをした。
「そんなに春くんを責めないでやってくれ。」
福井さんの父親が翼をなだめるように一言言った。
「あの子は間違いなくいい子だったよ。大人の私から見てもね。だから当時は誰も桜くんの話なんて信じなかった。子供である京子たちだけじゃなく我々大人もね。」
「でもね。東山くん。そんな彼の異常性に彼の父親が気付いてしまったんだよ。桜くんの事があった後でね。だから彼は今、ここにいない。」
福井さんの父親はコーヒーを入れながら話した。




