118話
その後、桜は自宅へと戻り、晩御飯の支度を始めた。自分の中の感情を楓に吐き出したことで今日はとても気分がいい。それを証明するかのごとく、鼻歌交じりに料理をしている。
『今から帰るね。』
翼からのなんの変哲もない連絡にすら心が躍る。
こんなにもいい気分になったのはいつぶりだろうか。そんなことを考えながら、手際よく晩御飯の準備を続ける。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
いつも通り翼を出迎えた桜だったが、迎えられた側の翼は驚いた顔をしている。
「どうしたの?私の顔になにかついてる?」
「いや、そういう訳じゃないけど。今日の桜、目の周りが赤いけど元気だなって思って。」
「あら、泣けるくらいにいいことがあっただけよ。」
桜は翼に優しい声で答える。翼の頭の中は疑問でいっぱいだったが、特に深掘りすることもなく家へと入った。
いつものように二人で晩御飯を食べていると、桜が今日のことを少しだけ話してくれた。
「今日、楓に私とあなたの関係のことを話したわ。」
桜の唐突な告白に思わず箸が止まる翼。
「別に構わないけれど、どうして急に?」
「昨日、京子のことを話してくれたでしょ?それで私も色々と思うところがあったのよ。」
「うん。」
翼は桜に相槌だけを打っている。
「私もあなたと京子の重りになっていると感じると、どうしても耐えられなくてね。大切な二人が私のせいでどうにかなる姿なんて見たくないから・・・。」
桜が珍しく言葉を詰まらせる。それを聞いていた翼は、桜自身、自分に負い目を感じていたことに初めて気がついた。
自分と桜の歪な関係のせいで、色々な人を巻き込んでしまったことに対する負い目だ。たかだか15歳の少女に背負い切れるはずもないと、誰もが分かっていたはずなのに。
「大丈夫だよ、桜。僕も福井さんも桜のことを重りになんて感じてないよ。むしろ福井さんは、桜の事が大切だから行動してくれていたと思うし。」
翼は桜の優しい口調で言う。
「だからもっと周りを頼ってもいいんじゃないかな。その方が福井さんも冴木さんも喜ぶと思うよ。」
「あなたはどうなの?」
桜が今にも泣き出しそうな声で翼に聞いた。
「もちろん僕も嬉しいよ。変な関係だけど、後ろめたい気持ちはないからさ。」
その言葉に桜は今日2回目の涙を流した。




