風旅の記録
やけに鮮明にシーンが思いついたので、どこにも出さないのももったいないので上げにきました。
作者が短編と長編の意味をわかっておらず短編にしてしまった為、続きません。
風に撫でられる淡い水色の髪。
同じ色の瞳がいつも通りの緩い視線で前を見る。
青年は穏やかな笑みを浮かべた。
あらゆる面でこの色が意味を持つ頃はとても都合が良かった。
意味なく目立つ色になってしまったのは、同種である仲間たちの命が消えて数十年が経過した頃だった。
王都『スカイゲート』 王城の東側
かつて『空の王』と呼ばれた人物が眠っているとされる墓石がある。
まだ日も明けきらない時刻に彼は訪問した。
墓参りなら、かなりおかしな時間である。
現に門兵には怪訝な顔をされてしまったが、特に危険なものを持ち合わせていないとわかると入場を許可してくれた。
こんな時間を選んだのは、髪色が少しでも目立たない時間に来たかったからに過ぎない。
『空の王』なんて壮大な二つ名がついているというのに、生前からの願いのため墓石は平民と同じ大きさで作られている。
現在その名の本当の意味を知る者は自分以外に生存しておらず、歴史書に記されているのみとなる。
魔物こそいるものの世界は平和で、魔王や魔主の存在は子供たちへ聞かせる物語になりつつある。
彼だけを残して、時は容赦なく流れた。
また穏やかな風が彼の髪を撫でる。
彼は背中のフードを被った。
170センチ程の細身の体躯を覆う深い紺色のローブは魔法使いが好んで使用するものである。
なのに、彼は慣れた所作で左ひざを付いた。目の前にはその姿勢になってようやく同じくらいの高さになる墓石がある。
見上げる事は、もう二度とないのだといつも思い知らされる。
「ちょっと散歩にいってくるよ」
いつもの言葉をかける。
帰ってくるはずのない返事の時間分、墓石を見つめた後、彼はその場を後にした。
ご一読、ありがとうございました。