異世界でメンタル壊れた魔女でしたけど、帰還後はかわいい女の子たちと幸せになりました!
あっという間に10年が経った。
冬香と世界を回る…と言っても数ヶ月から半年に一度は日本に帰って来た。そこで家族との時間を過ごしつつ日本での仕事をこなし2週間ほどで次の国へ。
何もかも計画通りに渡航できたわけでは無いが、4年ちょっとで当初予定していた国を概ね回ることが出来た。最初のアメリカ編から始まって、想像して居た以上に波乱の日々ではあったけれど、幸い致命的な事態に巻き込まれるような事はなかった。
色んな人に出会った。中には別れる時に抱き合って泣いた人もいるし、今でも連絡を取り合う友人も出来た。譲れないものを賭けて戦った結果、なんだかんだ腐れ縁が出来たなんて相手もいる。
そんな全ての出会いが私と冬香の絆を強くしてくれたし、私達を成長させてくれた。
本格的に帰国した後、半年ほどの受験勉強期間を経て私達は高校時代に合格した大学を再び受験した。今度は私が冬香の夢に付き合う番だと言う事で2人で経営について学び4年後に無事卒業。そのタイミングでお義父様が冬香に家督を譲り、冬香は粉雪家の当主となった。
粉雪家の当主とその嫁として慌ただしく過ごしてあっという間に1年が経ち今に至る。
「かのんおかあさん、冬香おかあさんが呼んでるよー!」
「ほえ?分かった、すぐ行くよ。」
私は呼びに来た娘と共に冬香の元に向かう。私の前をトテトテと歩くこの子は旅先で出会い、成り行きで育てる事になった私と冬香の娘だ。名前はマリンと言う。正式に養女として手続きも済んでいるので粉雪マリン、7歳です。今小学校1年生になります。
この子との出会いや私達の娘になった経緯もそれはそれは血と汗と涙なしには語れないんだけど、今は私と冬香を本当の母親のように慕ってくれている。それだけで幸せを感じることが出来る。
「冬香おかあさーん!かのんおかあさん連れてきたよ!」
「マリン、ありがとう。」
「連れてこられたよ。どしたの?」
「かのん、今週末の切符買った?」
「京都行きの?ヤッベ、まだ買ってないや。」
「ですよね。じゃあ今予約しちゃうけど、前日の移動でいいわよね?」
「そうだね。前日に移動してホテルに泊まって翌日朝から美容室で髪をセットしてもらって、結婚式に出席しよう。ホテルと美容室は予約してあるんだよ。新幹線の切符だけあとで冬香の予定を聞こうと思って忘れてた…ごめんね。」
「結婚式?おかあさん達結婚式するの?」
「違うわよ、マリン。おかあさん達のお友達の結婚式。」
「マリンもお呼ばれしてるから、一緒に行くよ。」
「そうなの?やったぁ!」
無邪気にはしゃぐ娘。かわいいなあ。
「えっと、じゃあ誰と誰が結婚するの?」
「それはね…。」
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京都に向かう新幹線。「富士山みえるかな?」と窓に張り付くマリンの隣に冬香、その隣に私と並んで座る。手元には新幹線に乗るたびにすっかりお馴染みとなったスゴクカタイアイスが並んでいる。
「それにしても渚が結婚とは…。」
「私もまさかあの二人がくっつくとは思いもしなかったよ。」
今回結婚式を挙げるのは渚さん。30過ぎてやっと身を固めてくれたと当主様が呟いて居たようだが、意外だったのはその相手である。
「かのんも10年前に命を救った甲斐があったわね。」
「そう考えると彼を生かした私には先見の明があったという事か。」
なんと相手は元七英雄最強の男、品川ユウキであった。10年前に駆除される予定だった彼を雪守の配下に加えることを進言、その際交換条件として私は彼と定期的に戦う事を約束した。
その後数回戦いを挑まれたが年を重ねるごとにその頻度は減っていき、また最初は頃それこそ命懸けの戦いをして居たが少しずつ早め早めにあちらがギブアップするようになり、最後の頃には軽い手合わせといった形になっていた。半年前、最後に戦った時にはついに「もう満足した。今まで付き合ってくれて感謝する。」と言われ、この人このまま死ぬのではと心配して居たらその足で渚さんにプロポーズしたと言うのだから驚きだし、二つ返事でOKした渚さんにもビックリである。
「10年間ずっと一緒に雪守の仕事をしてきたわけだから、そこでお互いに信頼を築いてきたのかしらね。お似合いカップルだと思うわよ。」
「そうだねえ、彼も最近はすっかり大人になって。」
「長年のライバルと自分なりに決着をつけたって事ね。」
「もう挑まれることが無くなるなら私も楽になるよ。」
地味にユウキとの手合わせはしんどかった。格好つけた手前、負けるのも嫌だし戦いの日が決まるとそこに向けてガチガチにトレーニングをする年1回の大イベントだったのだ。
ホテルに着くと懐かしい顔と鉢合わせる。
「ミア先輩、お久しぶりです。」
「かののん!久しぶり!」
「ミア先輩はユウキの友人枠ですか?」
「そう。彼が異世界仲間のうち独身最後の1人だったからね。これまでは誰かの結婚式が同窓会になっていたけど、これから個別に開かないといけないねって話してたの。
それにしても品川君がまさか雪守さんと結婚するとは思わなかったよ。」
「ミア先輩は渚さんとはよく会うんですか?」
「10年前に話したあとは、就職の時に相談したくらいかな。その際は白雪グループにお世話になりまして、おかげさまで楽しくお仕事させて頂いております。」
ペコリと頭を下げるミア先輩。私はそこには関与してないのでと慌てて顔を上げてもらった。
ちなみにミア先輩はその後無事に上野レイジとゴールインした。残りの七英雄はと言えば、大久保コウメイと恵比寿ハツネはコウメイの必死のアプローチにハツネが絆されて大学在学中に学生結婚。五反田アキトは私の妹のかりんと…は、結局上手くいかなくなって破局、その後別の女性と結婚した。
「かのん、久しぶりだな。」
ミア先輩と別れると、続け様に声をかけられる。
「航。元気だった?」
「おかげさまでな。」
「今日は1人?」
「いや、彼女は先に部屋に行ってる。」
「予定日は来月だっけ?無理させちゃダメだよ。」
「ああ、分かってる。」
異世界時代の仲間である航。彼は結局池袋カナコと結婚した。来月にはパパになる予定だ。カナコも今回結婚式に呼ばれて居たが、航は身重のカナコのサポートのために仕事をキャンセルして時間を作ったらしい。
航と別れてから予約して居たレストランに向かう。約束の相手は既に到着して居た。
「あ!マリンちゃん!こんばんは!」
「リセちゃん!こんばんは!」
先に子供同士が挨拶しあう。仲良きことは素晴らしきかな。
「こら、梨瀬。走らないの。」
有里奈がリセちゃんを叱るが、子供達はキャイキャイはしゃいでいて聞いちゃいねぇ。こら!と有里奈が少し強めに叱ると子供達はシュンとする。
「うちの子のせいでマリンちゃんまで叱られちゃってスミマセン。」
「春彦さん、気にしないで下さい。この子も調子に乗ってたので。ほらマリン、リセちゃん。ごめんなさいは?」
「ごめんなさい…。」
「宜しい。」
きちんと反省した子供達を許して、レストランに入る。娘達は2人とも小学校1年生なのでお子様セットがお気に入りである。楽しく晩御飯を食べて部屋にチェックイン。マリンがリセちゃんと寝たいと言ったら春彦さんが快く了承してくれた。
2人が仲良く並んで眠ったのを確認すると、春彦さんは自分が子供達を見ているから女子会でもしておいでと言ってくれた。ありがたくお言葉に甘える事にする。
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ホテルのバーに、有里奈と冬香との3人で入る。相変わらず私はお酒に弱いけれど、さすがに10年付き合ってるだけあって冬香は私が悪酔いせずに、かつ気持ちよく酔える絶妙なラインにアルコールを残して『解毒』するという神業を会得していた。
乾杯して雰囲気を楽しむ。
「本当、あっという間だったわね…。」
有里奈がしみじみと語る。
「それ、死ぬ間際にも言ってそう。」
冬香が笑った。
「でも本当、異世界から帰ってきてから10年?11年?これって私達が向こうで魔王国と戦争して居た期間と大体同じなんだよね。」
「そう考えると密度が違いすぎるわよね。あっちは、戦って、戦って…で気付いたら10年経ってたけど。」
「有里奈はそれでも大学院を卒業した後は平和な人生だったんじゃない?」
「うーん、そうかも?でも割とすぐ梨瀬が産まれて、その後は子育てしつつ下雪の嫁としてのなんやかんやで忙しくて…ここ数年はあっという間に感じたわ。」
「子育てって、ヤバい。気付くと年単位で時間過ぎてる。」
「だよね。私達なんてマリンを育てながら大学行ってたし。今思うとなんでそんな事出来たんだろうって思う。」
「でもどんなに忙しくても、子供を見るだけで癒されるわよね。元気が湧いてくるっていうか。」
「「わかるー!」」
最近は忙しくって中々集まれないし、こんな風に3人でゆっくり話せるのは数年振りかもしれない。こんな時間を提供してくれた春彦さんに感謝しつつ、女子トークに花を咲かせる。
「でも毎日忙しいけど、キレイな奥さんと可愛い娘と一緒だし、やっぱり幸せだなあって思うよね。」
私が何気なく言うと、冬香とはっとした顔でこちらを見た。
「冬香ちゃん、どうしたの?」
「ほえ?なんか変な事いった?」
「ううん、別に。…ただ、かのんが幸せだなって思っててくれた事が嬉しくて。」
冬香は少し、涙を滲ませつつ答える。
「え!?かのん、あなたいつもは不幸な感じを出してるの!?」
「出してないよ!私はいつだって幸せだよ!?」
慌てて弁明する。
「うん、わかってる…。でもそうやって幸せだって言葉にしてくれたのは、初めて。ねえ、覚えてる?結婚した日の夜の約束…。」
勿論、忘れるわけは無い。
「2人で幸せになろうねって約束したよね。」
「そう、あの時かのんは私の事を幸せにするよって答えて、私はそれじゃイヤって返したの。かのんが私を幸せにしてくれるだけじゃなくて「2人で」幸せになりたいって言ったんだよ。そうしたらあなた、微妙な顔をしたのよね。」
「…あの頃は、自分に幸せになる資格があるのかなって思ってたから。」
「うん、分かってた。だから、私はかのんが少しでも幸せになってくれたら嬉しいなってずっと思ってたんだ。」
「冬香…。」
「それでね、今かのんの口からとても自然に「幸せだな」って言葉が出たことがすごく、すごく嬉しかったの。」
「うん。私はいますごく幸せ。」
思わず見つめ合う私達。
「ちょっとー、イチャつくなら部屋に戻ってからにしてくれますかー?」
「うるせえな、いま良いところだろうが!」
安定の野次とツッコミも忘れない。思わず3人、アハハと大きな声で笑ってしまった。
その後しばらく仕事の愚痴やら子育ての大変さやら、PTA役員への文句やらを肴にお酒を楽しんだ。
日付が変わる前には切り上げ、有里奈と別れて部屋に戻る。その後シャワーを浴びて寝室に入ると、間接照明のみ付けた状態で冬香が待って居た。隣に座り、自然に向かい合う。唇を重ね、そのまま肌を重ねてお互いを求めた。
「ねえ、かのん。起きてる?」
「…起きてるよ。」
暗い部屋の中で余韻に浸りつつ、冬香に応える。
「さっきの話だけど。かのんが幸せだなって言ってくれた。」
「うん。」
「あのね、言いそびれちゃったんだけど…。私もいま、とっても幸せよ。ううん、今だけじゃ無い。私はかのんと結婚してから今までずっと幸せ。それにきっとこれからも。」
「…ありがとう。」
「うん。だからかのんも、これからもずっと幸せで居ようね。」
「もちろん。ずっと一緒だし、これからもずっと幸せだよ!」
改めて宣言して冬香を抱きしめた。冬香は嬉しそうに、世界一可愛い笑顔でうん!と頷いてくれた。
というわけで、異世界でメンタル壊れたポンコツ魔女が日本で幸せになる物語はこれにて完結となります!
可愛い女の子達がイチャイチャする話を書きたいという欲を満たすためだけに始めた物語ですが、多くのイイネやブクマ、さらには感想まで書いて頂けて、とても励みになりました!当初の想定よりだいぶ長い物語となり、また展開も想定から大きく変わりましたが、それでも楽しく書き切る事ができたのは応援して下さった読者の皆様のおかげです!この場を借りて感謝申し上げます!
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