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第8話 告白

 月曜日。朝から私は机に突っ伏していた。家を出た時はかりんから「なんかご機嫌だね」と言われるくらいにはウキウキだったんだ。教室に着いて先に来ていた冬香に挨拶を…しようとした途端、耳まで紅くなったのが自分でわかるくらい、照れてしまった。一度照れちゃうともうダメで、カタコトな発音でオハヨウは言えたもののその後は隣の席の冬香を直視できずにいるというこの体たらくである。こんなんじゃダメだ!昨日自分の気持ちと向き合っただろう!意を決して顔を上げる。隣を見ると冬香と目があった。彼女はニッコリと微笑むとそのまま小さく手を振ってくる。そんな仕草も様になっててかわいいなぁ…ってまた顔が紅くなってきたよ!?慌ててまた机に突っ伏してしまった。隣で冬香がクスクス笑っている声が聞こえる。クラスメイトが冬香に「どうしたのー?」なんて声をかければ楽しそうに「さあねー?」なんて言ってるのが聞こえる。畜生、なんでこの子はこんなに余裕があるんだよぅ…。


 その後また顔を上げては照れて突っ伏すを何度か繰り返し、その様子を見て色々と察したクラスメイト達は生暖かい目でこちらを伺っているのだけれど。そして『気配察知』している私は見られているのも分かっちゃってるんだけど。結局ホームルームが始まるまで私は奇行を繰り返し奇異の目にさらされていたのであった。


 授業さえ始まってしまえば前だけ向いてればいいからね、なんとでもなるってもんですよ。無難に午前中の授業をこなして、さあお昼だ!


「ねぇ、かのん。…一緒にお昼ごはん…食べてもいいかな…?」


 あざとい上目遣いで聞いてくる冬香に、コクコクと頷く私。クラスメイト達が遠巻きに注目してるのわかるんですが。


「よかったー、朝から避けられてるから断られたらどうしようかと思っちゃった!」


 ニコニコしながら前の席のイスを回してこっちに向き合い座る冬香。


「べ、べつに避けてたわけじゃないんだよ。」


「うん、知ってる。照れてるだけだよね?」


「うぐっ…。」


「ほらまた耳まで真っ赤。」


 そういってクスクス笑う冬香。


「誰のせいよ。っていうか冬香がいつも通り過ぎるんだよ!」


「えー、私だって朝イチはそれなりに緊張してたんだよ?でもかのんが百面相してるの見たら楽しくなってきちゃって…。からかってごめんね?」


「もう大丈夫。私もやっと慣れてきた。」


 手で顔をパタパタと仰ぐ。これは火照りを冷ますというより、照れ隠しの動作だ。

 

「ならよかった。…でも、緊張してたのは本当よ?金曜日の別れ際にあんなことしちゃったから…。」


「ストーップ!それは今話さないで!思い出すとまた、恥ずかしいし、それにね、」


 ここで小声に切り替える?


「クラス中みんな、こっち気にしてる…。」


「え?かのんさっきから全然周り気にして無いから気付いてないのかと思った。」


「冬香は気付いてたんかーい。」


 そりゃあね、と笑ってお弁当を食べ始める冬香。私もようやく鞄からお弁当を取り出して食べ始めた。


「それで、周りを確認したのも呪術?」


 おかずを食べつつ冬香が聞いてくる。


「こっちは魔術だね。周囲にうすーく魔力を拡散して周辺の様子を把握してるの。」


「へぇー、そんなのもあるんだ。」


「あ、それで前に話してた冬香呪術をかけるの…今日の放課後でいい?」


「お!待ってました!もちろんいいよー。」


 放課後の約束を取り付けたあとは他愛もない話に花を咲かせる。


「…そういえば冬香、噂話って聞いてる?」


「ん?何の?」


 あ、こりゃ知らない時の反応だ。ヤブヘビだったか。でも冬香に関係ない噂でもないので伝えて問題ないかな。


「私もかりんから聞いたんだけどね、なんか金曜日の事が噂になってるっぽい…。」


「あら。」


「私が彼氏を振って、冬香に乗り換えたって。」


「あらあら。」


「どうも色んな人に見られてたっぽくて。」


「あらあらまあまあ。」


「まあほとんど事実だから噂されちゃっても仕方ないかとは思うんだけど。私は陰でされるくらいなら全然構わないんだけど、面白がって揶揄ってくる人が居たら困るかなって。」

 

「高校生にもなってそんな事で揶揄う人は居ないでしょ。居たとしてもこいつ精神年齢ガキかよって思ってほっとけばいいよ。

 …それよりもかのん、一個確認していい?」


「何?私もかりんから聞いただけだから具体的にどんな風に噂されてるかまでは知らないけど。」


「噂の事はどうでもいいよ。かのん、いま『ほとんど事実だ』って言ったじゃん?それって元カレから私に、の、乗り換えたって部分はどうなのかなって…。」


 そういいながら徐々に声が小さくなり真っ赤になって固まる冬香。私もつられて赤くなりつつも、昨日から考えていた事を伝える。


「そ、それについてはだね。…えっと、放課後きちんと話したいと思ってる、思ってます。呪術かける前にね、冬香に伝えたいコトあるんだ。」


「あ、うん、わかった。…放課後だね。了解っス。」


 また2人して赤くなって周りがザワザワしているけれどそんな感じで昼休みは過ぎていった。


------------------------------


 放課後。先週の段階で退部届が保留になってたので冬香には教室で待っててもらい職員室へ向かう。改めて退部の意向を伝えると、残念そうにされてしまった。そのまま立ち去ろうとしたところ呼び止められて、辞める理由が本当に成績だけかと改めて確認される。


「本当です。期末テストでこのままじゃ志望の大学に受かるのが難しいと感じたので。」


「廿日市さんは1年生の指導係もしてくれたし、最近は実力もついてきたし、部を引っ張っていって欲しかったんだけど…でも勉学を優先させると言うのなら仕方ないですね。分かりました、退部届は受け取ります。

 それと念のため、悪い気持ちにさせたら申し訳ないのだけど…部内の人間関係が原因でやめるとかそういう事ではない?例えばイジメとか、そこまでいかなくても居心地が悪くなったとか…。」


 本来はそういうのに気付いてあげるのも顧問の役目なんだけどね、と先生は苦笑した。


「ありがとうございます。イジメなんてないですよ、みんな仲良くしてくれてます。」


 まぁ男子部側の元カレをこっぴどく振ったのでそういう意味では居心地最悪だけど、それは退部の理由では無いし言う必要もないだろう。ちなみに女子部員の同級生達には週末のうちにメッセージでやめる意志を伝えてある。


 その後、夏休みは塾に通うのかと聞かれたり、進路の事で悩んだらいつでも相談に来なさいと言ってもらったりとそんなやりとりをして職員室を後にする。


 冬香を待たせてる教室へ向かう途中、同じ部活の同級生と鉢合わせた。


「あ、かのん!ねぇ、ホントに部活やめちゃうの?」


「うん…ごめんね、指導係も途中で放り出す事になっちゃって。」


「指導係はもともと夏休み前で終わりだから別にいいんだけど、急に辞めるなんて言うからみんな心配してるんだよ。」


「みんなにも迷惑かけてごめんね。先生にも話したんだけど今回の期末テストでだいぶ成績落としちゃってさ。今のまま部活続けていくのは厳しいなって…。」


「かのんさ、辞めるのってもしかして桜井が原因だったりしない?」


「それは関係ないよ。」


「前まで1年指導とかでもかのんと桜井って仲良くしてたじゃん?それで最近2人が付き合う事になって、でも先週別れたって聞いてさ。あいつに何かされたんじゃないかって心配してたんだけど。」


「ありがと。えっと、別れたのは本当なんだけど特に何かされたってわけじゃないんだ。」


「ホントに?何かされたなら遠慮しないでいいなよ?何もないならそれでいいんだけど。…なんか桜井さ、入院したらしいよ?」


「えっ?」


「昨日の夜、道路で倒れてるところを通行人が見つけて119したらしくてちょっと熱はあるけど念のための検査入院だから心配はいらないらしいけどね。一応男子部側に本人から連絡は来てるみたい。」


「へー、そうなんだ…外で倒れるなんて心配だね。熱中症とかは大丈夫だったのかな。」


「まあ本人が無事って言ってるなら平気なんじゃない?…お見舞い行くならどこの病院か聞くけど?」


「行かない行かない。もう関係ないしね、行っても迷惑なだけだよ。」


 その後やはり退部に対して引き止められたが、私の決意が固いと分かると残念そうに去っていった。


 教室に戻る。今日は他のクラスメイトはおらず冬香1人であった。


「お待たせー、なんか色んな人に引き止められて遅くなっちゃった。ごめんね。」


「うん、大丈夫。かのんもお疲れさま。」


「ありがと。」


 そう言って冬香と向かい合いに座り『気配察知』を発動する。半径20mだとこの教室と隣の教室、廊下あたりは十分カバーできる。隣のクラスには何人か人が居るけど、この教室を覗かれたり話し声を聞かれたりする事はなさそうだ。


「さて、じゃあお話しましょうか!」


「はい!お願いします!」


 私の宣言にピッと姿勢を正す冬香。


「まず、冬香に話してなかったことがあって。実は私には娘が1人いました。」


「ええ!?」


「異世界で旦那さんとの子供を産んでました。」


「うわぁ、かのんがお母さんだったのは想像もしてなかった。でも向こうに居た期間って30年ぐらいだったんだっけ、そりゃ子供がいてもおかしくないか…。ちなみに娘さんの名前や年齢も聞いていい?」


「名前はエレイシア、向こうの言葉で希望って意味で愛称はエリー。年は20歳で1年前に幼馴染の男の子と結婚してまだ子供は居なかったね。」


「エリーちゃん、私より年上だからエリーさんか。」


「ふふ、どっちでもいいよ。前にした召喚された4人が順番に死んじゃったって話。2人目の聖騎士…旦那さんね、その人が亡くなったときエリーはまだ3歳でさ。彼が居なくなった悲しさもあったけどこの子を孤児にしちゃいけない!って想いが強くてね。幸いお金には困らなかったのと、聖女がもう1人のお母さんみたいな感じで大分助けてくれたのもあって無事にお嫁に出す事ができたんだ。」


「すごいね、育児って想像もつかないけど…。」


「まあこっちと勝手は違う部分もあるとは思うけど、小さい頃はよく熱出すし危なっかしい事ばっかりするから目は離せないし。大きくなってきたら勉強させるのに苦労するなんてのは世界を跨いでも共通だと思うよ。」


「ふふ、かのんが子育てについて語ってるのってなんか面白いね。」


「エリーの旦那さんはいい人だから2人で支え合っていってくれるだろうし、残してきたのは申し訳ないけどこの先は心配してないかな。」


「うん、良かったね。」


「最初に娘がいたことを冬香に言わなかった理由は2つあって。ひとつはまだエリーの事が思い出になってなくて感情の整理ができてなかったって感じかな?向こうで自分が死んだ日の昼にエリーに会ってたから、ほんと感覚的には昨日娘と話してて今日は冬香と話してるって事に違和感すごくって。

 もうひとつは冬香にどう思われるか怖かったのもある。異世界に召喚されましたも大概だけどそこに娘までいましたなんて言ったら、引かれるかなって。」


「いや引かないけど!さすがにびっくりはしてるけど…。」


 正直エリーの事については今も整理しきれてないんだけど、こればっかりは時間が解決してくれるのを待つしかないかな。大切な人がいなくなった辛さや悲しさの大部分は時間が埋めてくれることを私は経験で知っている。


「それでなんで今こんなカミングアウトをしたかと言うと、これからする話の前に冬香に聞いておいて欲しかったからなんだけど…。」


「もう十分びっくりしたんだけど、ここからが本題なのね?」


「あ、はい。ここからが本題です。」


 お互い姿勢を正す。


「私、冬香が好き。」


 冬香の目を見て、はっきりと伝える。


「異世界から帰ってきたなんて話、一度も疑う事なく信じてくれて。すごく混乱してた時に話を聞いてくれたのが冬香だったから、私は自分の中で状況を受け止める事ができたんだと思う。だから冬香には本当に感謝してる。

 でもそれだけじゃなくて。金曜日に、抱きしめてくれた事も、手を繋いでくれた事も…キスしてくれた事も、嬉しかった。帰ってからずっと意味を考えてたの、なんで冬香はこんなに優しくしてくれるのかなって。でも一人で考えてても分からなくて。かりんにも相談したんだけど『お姉ちゃんはどう思うの?』って言われて、そういえば私は冬香の気持ちばっかり考えてたなって思って。

 それで、自分はどう思っているのかってよく考えたら…冬香の事が好きなんだなって思った。それは友達としてって意味じゃなくて…恋してるって意味で。

 我ながら節操ないなって思うんだ。私の感覚では20年ぶりの恋だけど、こっちでは一応3日前までは彼氏がいたわけで、乗り換えたって言われても仕方ない状況だし。何より娘より年下の女の子捕まえてはしたないこと言ってるなって自分でも思う。でもね、冬香がいいの。すごく自分勝手だけど冬香とずっと一緒にいたいし、私以外が冬香の隣に立ってるのはイヤなの。だから、私決めたの。」


 冬香の手を取る。


「周りの目とか噂とかそんなの気にしないし、私が冬香を守るから。誰にも文句は言わせない。この手を離さない。

 だから、ずっと一緒に居てほしい。友達としてじゃなくて恋人として。」


 私の思いの丈をぶつけられた冬香は真っ赤になって俯く。私も恥ずかしさは有るけれど、目を逸らさず冬香をじっと見つめたまま返事を待つ。ちょっとヤバげな発言も含まれていた気がするけれど、私はもともと重い女である。自覚はあるから問題無い。

 手を握ったまま、しばらく時が過ぎ、ようやく冬香が小さく呟く。


「かのん、情熱的過ぎるよ…。きっと私、この先こんなに熱い想いで告白される事なんて無いと思う。」


 そして顔を上げると私に問いかける。


「ねぇ、信じていいの?守ってくれるって。この手を離さないでいてくれるって。」


「うん、必ず守る。約束する。」


「…嬉しい。私もかのんが好き。大好き。」


 そういってはにかんだ冬香は今までで1番可愛かった。

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