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第21話 私達の結論

 雪守家に集まったのは私と冬香、有里奈、渚さんと雫さん、それに雪守と粉雪の両当主の7人。


「じゃあ冬香、攫われたところから助け出されるまで話してくれるかい?」


「はい。」


 お義父様に促されて冬香が当時の状況を語る。


 文化祭の準備の中でクラスメイトと買い出しに出た冬香。ホームセンターで買い物をして学校に戻る途中で同行して居た男子が不意に腹を抱えて蹲った。具合が悪いのかと思ったがクラスメイトに回復術を使うわけにもいかず、人を呼んでくると言ったところ、彼は少し休んで行くから行くから荷物だけ持っていってくれと言って手に持って居た袋を渡そうとして来た。屈んでそれを受け取ろうとした瞬間、彼がポケットから小瓶を取り出して突き付けてきた。そこで刺激臭を感じた気がするがそのまま意識を失った。


「次に気がついた時はもうあの部屋に居たから、その間の事はわからないです。」


「そこは雪守が補足しよう。冬香を気絶させたクラスメイトは、あらかじめ付近で待機して居た共犯者と合流。レンタカーに冬香を乗せて、運転手と合わせて3人で現場を去った。

 その後2回、車を乗り換えている。いずれも予めレンタルしてそれぞれ別の駐車場に停めてあった車だ。情けない話だが車の足取りからホテルの特定が出来たのは、冬香が救い出される直前だった。

 …車を乗り越えた実行犯二人は、例のホテルに着くと冬香を大きめのスーツケースに押し込んで品川ユウキと池袋カナコに引き渡した。その後は一旦身を隠したが、翌日にはそれぞれ自宅に帰っている。」


 街中の監視カメラとかだけでそこまで特定できちゃうものなんだなあ。警察ってすごい。


「じゃあ私はスーツケースに入れられて部屋まで運ばれたんですね。そのまま沈められなくて良かった…。」


 ブルッと身を震わせる冬香。そう、今回は犯人達が彼女を殺そうとしなかったから五体満足で帰ってこれたけれど、その気になったらどうとでも出来たのだ。その事実に改めて恐怖を覚える。


「ホテルの部屋に運び込まれたのが誘拐当日の22時ぐらいだったのはカメラの記録から分かっている。」


「私の目が覚めたのは…たぶん日付が変わる前くらいだと思います。時計は無かったけど、そのあと6時間ぐらいで外が明るくなったから。」


 目が覚めた冬香は手足の拘束を解こうと試みたが紐は硬く引きちぎる事は出来なかった。それを見ていたユウキとカナコに、手足をさらに強固に縛られさらに太い紐で全身をぐるぐるに巻かれた上でベッドに縛り付けられてしまう。


「私達が部屋に入った時もその姿だったからね。」


 お義父様が会議室のモニターに縛られた冬香の写真を映す。なるほど、これだけガチガチに縛られた身体強化があってもどうにもならないだろう。


「そのまま助けられるまで丸2日強ですね、たまにユウキとカナコが様子を見にくる意外は部屋に一人でした。」


「その間、ユウキとカナコ以外の人間は訪れたかい?」


 冬香は首を振った。


「では今回の件に関わったのはユウキとカナコ、それに誘拐を実行した3人。合わせて5人で間違いないな。実行犯3人についてはカナコのスキルで操られて居た、でいいんだな?」


「うん。カナコがそう証言した。嘘は言ってない。」


「そうか。そしてその3人は記憶が曖昧になってるんだな?」


「せやね。カナコの『誘惑』を強くかけて行動を強制した場合、その後記憶があやふやになるって性質らしくて。」


 渚さんの説明を聞いて、フーッと息を吐く雪守当主様。


「冬香、悔しいだろうが実行犯3人は雪守では裁けない。日本の法律での罰を望むんだったらその方向で警察と調整するが、どうしたい?」


 そう、今回は明確な証拠のある拉致監禁事件なので警察が逮捕する事もできる。それをするか、見逃すかの判断は当事者である冬香の意見を尊重される。


「…私は逮捕しなくて、いいと思います。彼らも操られていただけだし。」


「お優しい事だな。」


 フッとシニカルに笑う雪守ご当主。この答えが来る事は想定していたようだ。お義父様も満足そうに微笑む。


「じゃあ実行犯の3人は無罪って事で決定だ。」


 こうして前半パートは決着した。


------------------------------


 さて、ユウキとカナコ、そして航の扱いである。これは渚さんが場を仕切って話をする。


「まず勇者君…龍門寺航についてやけど。彼についても実は先の3人と同様にカナコに操られていたと言えなくも無い。彼の場合はカナコと定期的に会っていて、少しずつ思考を誘導していた感じらしいから記憶を失う事は無いみたい。」


「思考の誘導?」


「うん。互いに異世界の記憶を持ってる事をカミングアウトして親近感を湧かせて、その記憶を持つせいで雪守に狙われている。雪守は力を持つものを「秩序を保つ」と言って殺している。久世さんもそこに取り込まれてしまっている。みたいな感じで少しずつ、勇者君が自分が雪守と闘わんといかんと刷り込んだんやって。」


 マインドコントロールじゃん。…怖いなあ。


「『誘惑』は最初に接近する時と、最後の一押しぐらいでしか使っとらんらしいから、黒に近いグレーな感じかなあ。勇者君の方は完全にカナコに惚れ込んで自分の意思で動いたって構図やし。誰かを傷付けてたら黒判定しちゃうんやけど、久世さんが強すぎてワンパンしちゃったから未遂で終わっとるんよ…。」


「あれは航が弱すぎたのよ。私だって拍子抜けしたわ。」


「まあそんなわけで背景はともかく今回の件についての彼の立ち位置はさっきの3人と同じでええかな?」


 渚さんは冬香に聞いた。


「私は勇者さんには何もされてないので…。有里奈さん、それでいいですか?」


「私は構わないわ。あとは彼が魔力を使えるから普段の雪守裁定で監視対象にするか、勧誘するか、駆除するか…その判断までは口出し出来ないかな。

 ただ、私としては情が無いわけじゃ無いから出来れば殺さないであげて欲しいけれど。」


「久世さんにそう言われると判定甘くせざるを得んね。」


 渚さんが苦笑いする。


「まぁ、勇者君は聖剣がない限りほとんど何も出来んらしいし、有ってもヘナチョコだったってところを加味すると魔力の使用禁止、それと異世界での話の口外禁止あたりを約束させて解放かなあ。」


「渚さん、ありがとう。」


「どういたしまして。」


 こうして航の処遇も決まったのでついに本命二人について話す事になる。


「さて、品川ユウキと池袋カナコ。彼らについては今回のコナちゃん誘拐以外の部分を、まずはっきりさせよう。

 まず品川ユウキ。かのんちゃんも聞いたっていう「チートスキルで他人を傷付けた事は無い」って証言やけど、これは本当やったね。スキルの訓練を人里離れた山奥とかでする事はあったらしいけど、そこでも誰かを巻き込んだ事はないって事や。つまり今回の事件以前だと彼は秩序を乱して居ない。

 ただ、白雪グループの最高戦力級であるかのんちゃんと互角に戦えたって事でいつもの判断基準ならその実力だけで十分に『駆除対象』やね。」


「それって他の七英雄みたいに渚さんの契約でスキルを使えなく出来れば勧誘は出来ないんですか?」


「うちや親父が生きてる内はそれでええんやけどね。」


 渚さんの『契約』は代々雪守当主に伝わる術で、それによって契約対象の魔力を封じる事もできるが効果はあくまで術者が生きている間に限られる。跡継ぎに契約を譲渡する事で術者本人が死んでも契約は有効になるが、万が一雪守の人間が全員死んだ場合は全ての契約が無効となってしまうというリスクがある…との事だ。


「つまり万が一の場合に余裕を持って対処できない相手は勧誘出来んのよ。契約がなくなった時に対処できるのは最高戦力級のかのんちゃんだけ、それも次も勝てる保証はないぐらいの相手ってなればこれは野放しに出来んね。」


「なるほど…。」


「まあ品川ユウキについては本人もかのんちゃんと全力で戦って満足したから殺してくれて構わないって言っとるからね。このまま駆除処分でええと思っとるよ。」


「マジっすか。」


 私と戦えたから満足だ、殺してくれって…それってなんかだいぶ後味悪いんだけど。そう思っていると私の心境を察したのか、隣に座る冬香がさり気なく手を握ってくれる。


「…次は池袋カナコやね。この子も『誘惑』は使いまくってるけど秩序を乱す行為…人を傷つけたり殺したりってのは無い。」


「誘惑しまくってるのに秩序は乱してないのね。」


「うん。カナコは1月に逃亡してから今まで、街で男を誘惑してお金を稼いでいた。…まあ今風に言うとパパ活やね。そこで相手を誘惑する事で体を売らずに大金をせしめて回ってたらしいよ。せやから雪守的には秩序を乱してないという事になる。まあ誘惑された側はやることやれずに大金だけ払ってるから大損やけど、そこはパパ活自体が褒められた事やないしね。

 そしてカナコのスキル、『誘惑』の効果は確かに驚異なんやけど対象が異性に限られる事や本人の戦闘能力は皆無な事から彼女は勧誘でいける。さっき話した勇者君にも、カナコの安全を取引材料に契約を結べるからウチとしては彼女は生かして置いていいかなと思っとる。」


 なるほど、もしも契約が無くなっても本人に戦闘能力が無ければどうとでも出来るって判断か。やっと雪守の考え方が分かってきた。この辺りは前に白雪について勉強した時、紙の上ではきちんと理解しきれなかった部分なので実例に則すと分かりやすいなあ。


「…という前提を踏まえてや。コナちゃん、かのんちゃん。当事者の二人はどうしたい?」


 渚さんが手をパンッと叩いて空気を変えて、私と冬香に訊ねてくる。


「事前にちょっと話したけど、今回は粉雪次期当主夫妻が被害あってるからね。二人の意思も尊重した上でジャッジしようと思う。

 …コナちゃんは攫われて3日間監禁、彼らにその意思がなかったから命に別状は無かったけど、大分衰弱しとったし、まあ今回の件だけでも二人は一発レッドカードよ。」


 冬香が握った手に力を入れる。そして渚さんの方を見てしっかりと意見を口にする。


「私は、殺して欲しくないかな。雪守の裁定に口を挟むつもりは無いから、渚と当主様が駆除すると判断したならそれは仕方ないと思う。…でも、どうしたいって意見を聞いてくれるなら、殺さないで欲しい。」


「自分が被害者なのに、優しいやん。理由聞いていい?」


「うまく言葉にするのは難しいんだけど…ユウキとカナコは異世界の記憶があるからこんな事をしたのよね。その記憶を持って居る他の5人は既に許されているから…。」


「前例に従ってって事かな。」


「それもあるんだけど、なんというか…。」


 冬香はチラリと私の顔を見る。何か私に気を遣っているのだろうか。私は構わないよと頷くと、冬香は改めて渚さんに向き直った。


「かのんと有里奈さんは気を悪くするかも知れないけれど。…異世界で、日本の常識と倫理観を持ったまま、戦うことを強いられたのはかのんや有里奈さんも、ユウキやカナコも同じでしょう?

 だから、ユウキやカナコって私達に出会わなかったかのんや有里奈さんの姿なのかなってどうしても思っちゃうのよ。もちろん二人は白雪に出会わなくても誰かを傷付けるような事はしないってわかってるけど。」


「なるほどね。コナちゃんの意見は分かった。つまり今回の件はその辺りの特殊な事情も鑑みて許したるって事か。」


「…そうしてくれたら嬉しいわ。」


「かのんちゃんもそれでいい?」


「私は冬香が許すなら、それに異論は無いです。」


「わかった。じゃあ今回のコナちゃん誘拐監禁については雪守としては二人の判定に考慮しないと言う事で。親父もそれでええ?」


 渚さんが雪守ご当主様に確認する。


「今回の件はお前に任せているし、雪守の考えからから外れてもいないから、問題ない。」


 当主様が頷くと、渚さんが結論を下す。


「じゃあ、雪守として裁定します。池袋カナコは勧誘対象として今後魔力の使用の禁止を前提とした契約の交渉に入ります。品川ユウキについてはその能力の危険性を考慮して駆除対象、速やかに駆除を実行します。」


------------------------------


 目が覚めると簡素な、だが品のある部屋に寝かされて居た。特に拘束されていたわけでは無いが、窓は開かず部屋の扉にも鍵がかかって居た。『光魔法』で鍵を焼き切れないか試そうとしたところで魔力が全く無い事に気付いた。


「俺は、紅蓮の魔女と戦って…そうか、負けたんだったな。」


 最後は華麗な格闘術でノックアウトされたんだった。まさかお互いに魔力が無くなる展開になるとは思わなかったが、そうなった時の備えがあった魔女と無かった自分。その差が勝負を分けたのだろう。


 そんな風に分析をしていると外から扉が開く。その前には一人の女の子が立って居た。


「あ、目覚めたんやね。初めまして、ウチは雪守渚いいます。」


 彼女の顔には見覚えがあった。以前彼女が大久保に契約をした時、俺は光魔法を使って自分の姿を見えなくしてその様子を側で見て居たのだ。


「ウチとしては初対面のつもりなんやけど、多分キミはウチのこと知っとるよね?まあ事情聴取というか、話を聞かせて欲しいんやけど。」


 そうして俺は彼女にこれまでの事を話す事になった。異世界の事、日本に帰ってきてからの事、今回紅蓮の魔女と戦うために粉雪冬香を攫った事。


「なあ、俺を殺すのか?」


「…それは今の話を聞いて、これから決める感じやね。」


 否定しないと言う事は、おそらく彼女の中では決まってるのだろう。


「…もともと日本に帰ってきてからは人生のアディショナルタイムみたいな感覚だった。心残りだった光魔法で全力を出してみたいって願望も紅蓮の魔女(最高の相手)に試す事が出来たし、後悔はねえ。」


 強がりのつもりでは無く、本心だった。それを聞いた雪守渚は複雑な顔をして「そう言ってくれるならこっちも気は楽になるね」と呟いたので、やはり俺の運命は決まっているのだろう。


 死刑囚に対する気遣いの様なものか、出される食事はとても美味だった。



 翌日夕方、少しずつだが魔力が回復し始めたのを感じる。もう一晩この調子で魔力が回復すれば『光魔法』を発動してここから逃げる事は出来るが、雪守はそれを許さないだろう。


 扉が開く。雪守渚が刀を持って険しい表情で入ってきた。意外だったのはその後ろにいた人物だ。


「紅蓮の魔女…。」


「いい加減、そう呼ぶのはやめて欲しいんだけどな。その二つ名ってあんまり好きじゃ無いんだよ。」


 名前は知ってるでしょ、と言いながら渚と共に部屋に入ってくる。


「廿日市かのん。」


「今は粉雪かのんだよ。」


「俺が殺されるところをわざわざ見にきたのか…俺は今から処刑されるんだよな?」


 渚に問いかけると、彼女は表情を崩さずに答えた。


「雪守の裁定にて、あなたは秩序を乱す存在として駆除対象と認定されました。」


「はは、やっぱりな。昨日も話したけれど、この世に未練は無い。ひとおもいにやってくれ!」


 覚悟を決めてそう言うと、俺は大の字になってベッドに仰向けになった。


「粉雪かのん、俺のわがままに嫁さんを攫って悪かったな!この命で償うってことでまあ許してくれよ!さあ、やってくれ!この覚悟が鈍らない内に!」


 そう言って目を閉じる。


 だが、そんな俺に粉雪かのん声をかけた。


「あなたさ…、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


------------------------------


 池袋カナコは勧誘対象として、品川ユウキを駆除すると宣言した渚さんに、私は待ったをかけた。


「渚さん、品川ユウキってどうしても駆除しないとダメですか?」


「…かのんちゃん、彼を殺すのは私の仕事だからかのんちゃんは気にせんでもええよ。」


「そうは言っても彼が殺されるのは私の責任だって思っちゃいますし。」


 渚さんは頭を振って私に向き直る。


「彼の能力は強すぎる。魔力を封じたとしても、万一の事があったら次に押さえ切れる保証がないのはかのんちゃんも分かっとるやろ?あと、本人もかのんちゃんと戦って燃え尽きた感があるし、ここで死なせてやってええんやないかなと思うよ。

 …それともなんか考えあるん?」


「考えというか、まあ思いつきの範疇ではあるんですけど。渚さん、雪守の配下に最高戦力級ひとり、欲しくないです?」


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「かのんちゃんはキミがこのまま死ぬには惜しい言うて、雪守の配下に入って魔の物の討伐にその力を役立て言っとる。」


「その見返りは、私との再戦。まあ無制限に挑まれても困るから、機会は年に1回。あなたが私に勝つまで。それでどう?」


 勝手に俺を生かすと決めて条件をつけてくるかのん。


「なんで…?」


 色々と言いたい事はあるが、声に出たのは単純な疑問だった。


「もう異世界の云々で誰かが死ぬのは嫌なんだよ。そんなのはあっちで十分。それに冬香を攫った事を抜きにしたら、あなたは殺されるほど悪い事をしていない。

 …ただ力が強いってだけで殺されるなんて、そんなの納得出来ない。戦った私が断言する。あなたのその力は、ただ与えられただけじゃ無い。動機はどうあれ、自分と向き合って、高めて、磨き続けてきた尊いものだよ。そんな努力をした結果が殺されるなんて、そんな事があっちゃいけない。」


 かのんは真剣な表情で続ける。


「私と全力で戦えたから満足だって?ふざけるなよ。私はまだ半分も実力を出してない。そんな程度で満足して貰ったら心外だよ。あなたの人生はその程度だったってこと?」


 嘘つけ、どうみても全力だっただろう。だけど、ここで虚勢を張ってでも俺に生きろと言うのか。


「…1年後の再戦では、アンタを殺していいのか?」


「殺せるものなら殺してみなよ。たった1年で私を超えられるならね。」


 強がりに決まっている。だけど、その言葉にわくわくしてしまう自分がいる。だからその手を取ることにした。


「雪守渚、俺は今の条件で雪守の配下に入る。…この力を雪守のために使うと誓おう。」


 その言葉を聞いて、かのんと渚は表情を崩す。


「わかった。…言っとくけどウチは厳しいで?」


---------------------------


「本当に良かったの?」


 家への帰りの車の中で、冬香が聞いてきた。


「うん?」


「1年後の再戦。今度こそ殺されちゃうかも知れないじゃない。」


「うーん、そうでも言わないと多分契約してくれなかったんだよね。」


「そのためにかのんが危険に晒されるなんて、私は嫌よ。」


 とはいえ、ユウキと交渉する前に冬香の許可は得ているんだけど。


「1年後には私ももっと強くなるよ。今度は楽に勝てるくらいに。」


「これから入試も留学もあるのよ?」


「「元々の予定は遂行する」、「ユウキに勝つ」。両方やらなくっちゃあならないってのが、つらいところだね。覚悟はできてる。」


「まさかかのん、そのセリフが言いたかっただけって事じゃないでしょうね?」


「ギクっ!だ、大丈夫!このセリフを言ったら勝てるから!」


 死亡フラグになるセリフは言わないように気をつけてるんだよ!と続けると、冬香は笑った。


「まあかのんのそんな所も好きになっちゃったんだから仕方ないわね…。惚れたモノ負けか。」


 そういって口を尖らせた。


「前から言おうと思って居たんだけど、冬香とかのんは私の前でも構わずにイチャつき過ぎじゃ無いかな?」


 向かいに座るお義父様が困った様に呟いた。一応、キスは我慢したから自重したつもりだったんだけど、それではダメだったらしい。てへぺろっ!

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