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第13話 祝福

 白雪会合も無事?に終わり、各分家の控室にて私は有里奈にメッセージアプリでびっくりした表情のクマのスタンプを送った。


 すぐに電話がかかってくる。


― どうしたの?


「さっき白雪の会合で有里奈と春彦さんの婚約が内定してたんだよ!」


― 相変わらずパニックになると変な日本語になるわねえ。でも言いたいことはわかったわ。当主様、もう話したんだ。流石に行動が早いのね。


「やっぱり本当なんだ…びっくりした。びっくりして変な声出て、みんなから冷たい目線を向けられちゃったよ。

 有里奈、おめでとう!」


― ありがとう。でもまだ正式には決まってないはずよ。下雪当主様が本家や他の分家のとなんだかんだをいい感じに話を付けてくれる事になってるはずだし。


「あ、そうなんだ…。もしかして他の家が反対とかするのかな?でも、私は有里奈の味方だもん。2人を応援するよ!」


― フフフ、ありがとう。


「えっと、とりあえずおめでとうを伝えたかったんだ。」


― 忙しいところわざわざありがとう。


「うん、今度会った時に詳しい話を聞かせてね!じゃあまた!」


― はいはーい。


 電話を切ってふぅと一息つくと、お義母様が声をかけてくる。


「春彦さんの婚約の件よね?」


「はい。以前からわりといい感じの雰囲気で、最近正式に付き合い始めたのは聞いてましたけど…あっという間に婚約しちゃってびっくりです。」


「そうなのね。でもかのん、うちの娘は付き合ってる女の子を紹介する前に本家の許可をとって入籍までしちゃったのよ。それに比べたら余程きちんと段階を踏んでいると思わない?」


 お義母様がちょっとだけ意地悪な表情で言ってくる。


「うぐっ…思います。」


「まあお父さんから聞いていた通りに話が進んで春彦さんが義理の息子になるよりは、かのんが娘になってくれて私は毎日楽しいからいいんだけどね。」


「わ、私もお義母様と一緒で毎日たのしいですっ!」


「でも春彦さんと久世さんがねぇ…それって婚約者を奪っちゃった負目からかのんがキューピッドになったのかしら?」


「…いえ、そういうのは全く無いですね。私はただ有里奈に幸せになって欲しいんです。有里奈には異世界にいた頃からすごく、すごく助けて貰ってて…私があっちで頑張って来れたのって有里奈が支えてくれたからなんですよ。日本では私だけさっさと冬香と結婚しちゃってて、有里奈も素敵な人に巡り会えたら良いなって思ってました。」


「仲が良いのね。」


「あっちで25年間、一緒にいた親友ですから。」


「そんなに長かったのね。冬香が嫉妬しちゃうんじゃない?」


「冬香に対しての想いと、有里奈に対しての想いって全然別物なんですよ。有里奈の事は大好きだけど、冬香といる時みたいに胸がドキドキしたりチューしたくなったりはしないので。」


「フフ、そういう事は本人に言って安心させてあげなさい?」


 お義母様は楽しそうに笑った。ほどなく、当主と次期当主のみで行われた打ち合わせからお義父様と冬香が戻ってきた。


「お義父様、冬香、お帰りなさい。」


「ああ、お疲れ様。」


「かのんには私から伝えるわね。」


 冬香がテーブルに座り私を呼んだので、冷たいお茶の準備をする。お義父様は別室でお義母様に話をするらしい。


「別にお義母様と一緒でも良かったのに。」


「かのんが知りたいのは有里奈さんと春彦さんの事で、正直他の内容はさわりだけで良いでしょ?父さんと母さんは親戚付き合いがあるから何処の家の大叔父さんが大往生したから初盆に参加するために仕事の調整を…みたいな話をするのよ。」


「なるほど、確かにそれは私は同席しなくていいかも。」


 私は苦笑しつつお茶を注ぐ。


「婚約について、有里奈さんには話を聞いた?」


「さっき電話しておめでとうって言ったぐらい。詳しくは次の回復術指南の時に冬香と一緒に聞こうかなって。」


「じゃあ下雪ご当主から聞いた話を伝えますか。」


「お願いします!」


 ご当主の言によると、春彦さん有里奈の婚約はあえてご当主が「内定」という言葉を使ったように、現時点では本家から正式に承認が得られた訳ではない。

 たまたま二人が良い付き合いをしていると聞いたので、一度有里奈に挨拶をという話をしたところ、昨日の夕方に面会が実現。その場で春彦さんと有里奈からゆくゆくは結婚したいという言葉があったので若い二人を応援しようと「下雪家としては二人の婚約を認める」という意味で「内定」としているとの事だ。


「それって何か問題があるの?」


「有里奈さん以外の女性だったら何も問題は無いわ。」


 冬香は続ける。


 ご当主としては一族会合の場で二人の婚約を暴露したのは特に深い意味があった訳ではない。ただ、粉雪家の次期当主夫妻が来年の春から留学するにあたり、白雪一族として有里奈とどう付き合うかと言った意味合いの話がでたので、そうであれば将来的に有里奈が下雪家に嫁に来るのでさしたる問題では無いと進言したまでである。…だそうで。


「うん、筋は通ってるような気がする。」


「だから、問題無いのよ。相手が有里奈さんじゃなければ。」


「有里奈って下雪の嫁として十分相応しいと思うよ?可愛くて気が利いて、肝も据わってるし。」


「誰も相応しくないなんて言ってないの。逆よ、逆。どの家も喉から手が出るほど彼女が欲しいの。」


「なるほど。」


「器量良し、気立て良し、肝も据わっているというポジティブ3Kに加えて、回復術を白雪一族にもたらした救世主。かつ本人も最高戦力級の実力があるであろう事は、ブートキャンプを通じて各家知っているわけで。

 これまで特定の分家が積極的に取り込みに行かなかったのは、あまりにスペックが高すぎて他の家から抗議の声が上がるからっていう事情があったのよ。だから本家預かりって事にしていったん良き付き合いを続けて結論を先延ばしにしてきたっていうのが暗黙の了解だったの。」


「さすが有里奈、モテモテ過ぎて逆に恋人ができない美人みたいな立ち位置だったんだね。」


 その例えは上手いこと言ったようで微妙に的を外しているわね、と冬香は笑う。


「まあそこに「本人同士が好き合っている」って事で下雪が有里奈さんと春彦さんの婚約を認めちゃったら、当然上雪と雪守は面白くないわよね。」


粉雪(うち)は?」


「さすがに去年かのんを貰ってる以上は何も言えないわよ。それにこれ以上最高戦力級を囲いたくもないって言うのも本音よね。」


「じゃあ上雪と雪守…ついでに白雪(本家)も婚約に反対って事かのかな。」


 せっかく好きな人と婚約だっていうのに家同士の都合で反対されたら有里奈がかわいそうだ。


「そこが下雪の上手いところというか…一族会合の場であんな風に宣言されたら、他の家は理由も無く反対出来ないのよね。「有里奈さんが有能過ぎるから下雪にくれてやるのは惜しい」なんて正当な理由にはならないもの。かといってその場で諸手を挙げて賛成もしたく無い。…幸い有里奈さんは進学を予定しいてるから、結婚となると早くて2年後くらいということで本家としては承認を一旦保留としたって流れね。」


「保留して、時間を稼いで…どうなるの?」


「どうにもならないと思うわよ。結局本人同士の意思がある以上反対しようが無いんだから。あとは下雪と他の分家で納得できる落としどころを探るって感じじゃないかしら。

 例えばこの間広島で見せて貰った魔の物をクマに持たせたカメラでリアルタイムに調査・監視するシステムあったじゃない?あれのシステムを他の分家に無償で提供する…とか、それでも足りなければ配下の有能な人材の戦力貸出(レンドリース)とかで手打ちになると思うわ。

 粉雪としては反対する理由ってあんまり無いんだけどかと言って二つ返事でOKすると他の分家の立場がないから丁度良い塩梅の条件をこれから探っていく事になるわね。主に父さんが、だけど。」


「そっか。じゃあちょっと時間はかかっても有里奈は幸せになれるんだね、良かった。」


「幸せになれるかは春彦さん次第ね。」


「確かに。アハハ。」


「有里奈さんに関してはそんな感じよ。あとの議題は…もう話すの疲れちゃったから、後でいいか。」


「うん、話してくれてありがとう。」


「さて、私も有里奈さんにお祝いを言わないと。」


 冬香はスマホを取り出すと有里奈にメッセージを送る。


 私はお茶を飲んだコップを片付けつつ、今後に想いを馳せる。有里奈が結婚かぁ。…私達は嫁同士で家の愚痴とか言い合うような関係になっちゃったりするのかな?それはそれで楽しそう。ついニヤニヤしてしまった。


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 数日後、回復術指南の場でさっそく有里奈と話す事ができた。


「改めておめでとう。」


「おめでとうございます、これは私達から。」


 冬香が有里奈にプレゼントを渡す。バカラのペアグラスである。私はYesNo枕を推したんだけど冬香に却下されてしまった。


「わざわざありがとう。」


「ねえねえ、詳しい話を聞かせてよ。」


「こら、かのん。」


 無遠慮に訊ねる私を制する冬香。


「詳しくもなにも、春彦さんのお父様にご挨拶に行っただけなんだけどね。でも春彦さんがしっかりと宣言してくれたのは嬉しかったかな。」


 そういって照れくさそうに笑う有里奈は乙女の顔をしていて、同性の私達でも思わずキュンとしてしまう。


「あとは来月あたり、私の実家に一緒に行こうって話になってるわね。うちは一般的な家庭だからそういうのは拘らないんだけど、春彦さんがしっかり挨拶しておきたいって言ってくれて。」


「なるほど。有里奈のお父さん、お前みたいな馬の骨に娘をやれるか!って春彦さんを殴ったりしないかな?」


「かのんの期待沿えなくて残念だけど、そういうタイプの親父では無いわねー。それに春彦さんが馬の骨だったら久世家は馬のフン以下になっちゃう。」


「かのんってそういうのに憧れてたの?今からでも父さんに殴ってもらう?」


「いやいや、1年経って殴られたらただのDVだからね!?」


「初対面で殴ったらDVどころか傷害罪な件。」


 3人で笑い合った。

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