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第6話 私達の休日

 幸とのうっかりエンカウントからしばらく経って、今日は久しぶりに有里奈と遊ぶ約束をしていた。有里奈と会う時ってわりと2人きりの事が多いんだけど、今回は冬香も含めて3人で会う事になっている。


 春から有里奈が大学4年生になりゼミに所属、卒研で忙しくなってしまったという事で会う時間がなかなか取れなくなってしまった。そこで珍しく予定が会うなら3人で会おうよっていう流れである。


 待ち合わせているお気に入りのカフェに着くと有里奈は既に席に着いていた。


「やっほ。待った?」


「待った待った。5分くらい。」


「それは待ったうちに入らないでしょ。」


「ふふ、じゃあ「今来たところ」よ。」


「何か頼んだ?」


「あなた達が来るのを待ってたわ。…ここで軽く食べて行く?」


「うーん、お昼は違うの食べたいかな。」


「じゃあお茶だけ飲みましょうか。」


 私と冬香が座ると同時に席に備え付けのベルを鳴らす有里奈。すぐに注文を取りに来たのでとりあえず紅茶を頼んだ。


「最近は大学が忙しいんだよね?」


「まあそれなりに。でも就職活動しないから私は楽な方かな。周りはもっと大変そうだから。」


「就職しないの?」


「進学希望よ。」


 有里奈曰く、もともとやりたい事はあったものの金銭的な事情で大学院進学は難しいと考えていたらしい。だが回復指南で頂けた報酬のおかげで奨学金の一括返済およびあと2年分の学費と生活費は問題無く賄えそうな目処がたった。さらに卒業後は雪守が就職先の斡旋をしてくれるという事であればやりたい事をやろうと思い大学院へ進学する事にしたとの事。


「せっかくの2度目の人生だし悔い無く生きたいっていう意味ではかのんと同じね。そんなわけであなたの留学について行く気は無いから、冬香ちゃんと仲良く行ってらっしゃい。」


「まだ誘ってないのに振られたんだけど!?」


「本気で誘う気だったのかよ。」


「いや…冬香が一緒に来てくれる事になったからもう誘うつもりは無かったけど、正直最初は何となく一緒に行けたらなって思ってた。

 だって前に白雪グループに命が狙われるかもって時は一緒に国外逃亡してもいいって言ってくれたじゃない!あの時の言葉は嘘だったの!?」


「だってあの時のかのんは独身だったけど、今のかのんは人妻じゃない。」


「確かに、人妻の色気に当てられて有里奈が間違いを起こさないとも限らないもんね。」


「そうそう、そのぺったんこな胸とかムラムラするわ。」


「有里奈のえっち…。」


「大体、冬香ちゃんを差し置いて私が同行できるわけないでしょ?あなた、冬香ちゃんの愛情に胡座をかいてたらいつか愛想を尽かされるから気を付けなさい。」


「はっ!?」


 思わず隣に座る冬香を見ると、苦笑いしていた。


「私は有里奈さんさえ良ければ一緒に来てもらってもいいですよ。他の人だったら断るけど。」


「ありがたい申し出だけど謹んでお断りさせてもらうわ。さっきも言ったように学びたい事があるわけだし。」


 そう言って冬香にウインクする有里奈。


「それに私だって自分の幸せを考えたいお年頃よ。あっちで結婚できなかった分、こっちではお嫁さんになりたいんだから。」


「そういえば春彦さんとはどうなってるの?」


「かのん、彼に何か吹き込んだでしょ。最近メッセージがくる頻度が上がったんだけど。」


「ほら、だから余計なことするなって言ったのに…。」


「でもでも、今のままだと二人の距離が縮まらないと思って…私は2、3日に1回くらいはメッセージを送った方が良いですよってアドバイスしただけだよ。返信を強要するような内容じゃなくて、そのくらいの頻度なら有里奈も面倒がらないと思いますって。」


「そういうアドバイスをあの手の人にするとね、本当に3日おきにメッセージを送ってくるようになるのよ。」


「春彦さんからも3日おきに?」


「ええ。まあ最近の討伐の件とか、訓練の話とかそんな事が多いけど。私も一言返信するくらいだから苦じゃないんだけど。」


「デートのお誘いは。」


「…今度一度お食事に行く事になってるわ。」


 良き良き。ちゃんとデートに誘うように伝えた甲斐があったなとニヤニヤしていると冬香に嗜められる。


「有里奈さんは春彦さんが好きなんですか?」


「嫌いじゃ無いわよ。でもプライベートな話をした事が無いから付き合いたいかと言われると分からないとしか言えなくて。」


「航の時もそんな感じだったから、あとはきっかけだよ。」


 ただ、異世界で有里奈と航が付き合う事になったきっかけは戦闘で航が死にかけてそれを有里奈が治すというわりとドラマチックな展開だった。春彦さんにはそんな事が起こらないで欲しい。


「そういえば幸に会ったんでしょ?冬香ちゃんが泣きそうな声で電話して来たから何かと思ったわよ。」


「その節はご心配おかけしました。」


「改めてだけど、ごめんね?」


「いいのよ。あんな風に遭遇するなんて誰に予想できないもの。」


「それで穏便に別れたって聞いたけど?」


「うん。」


 私は幸とした会話を有里奈にも伝える。


「ふーん…かのんの事は別に探して無かったし、なんなら婚約者が出来たねぇ。かのんはその話を信じたの?」


「冬香にもそれ本当なの?って聞かれたけど、個人的にはどっちでもいいかなって。本当に他に大切な人が出来たならそれは喜ばしい事だし、私に気を遣わせないように考えて咄嗟に嘘をついたんだとするならその気遣いに甘えようと思う。」


「なるほどね。それで連絡先も交換せずにさよならしたと。あの人は相変わらず男前ね、どこぞの勇者にも見習って欲しいわ。」


「どこぞの勇者はまだ何か言ってきてるの?」


「本人からは何も。お正月あたりに言わなかったっけ?なんか周りが勝手に盛り上がって「アリナ」を探そうとしてるって。何度かテレビ局から接触があったわよ。」


「迷惑極まりない話ですね、それ。」


「たぶん、航本人の意思は絡んで無いっぽいから彼に文句を言うのも違うかなって。仮にそうだとしても電話番号変わっちゃったみたいだし文句を言う手段がないんだけど。彼も幸みたいに良い人を見つけてくれれば助かるんだけどね。」



 お茶を飲み終えて外に出ると熱気が私達を襲う。


「GWを過ぎたらすっかり夏ですね。」


「さっさと屋根があるところに避難しようよ。」


「かのんはなんか自分だけ涼しくなる術が使えなかったっけ。」


「『気温操作』でしょ、あれ練習してるんだけどさあ。」


 そう言って発動して私の周りだけ気温25℃ぐらいの快適温度にしてみる。

  

「あら、涼しい。」


「うん、なんかかのんの周りだけ涼しい空気の塊がある感じする。」


「そうなんだよ、頑張ったけどこれ以上効果範囲を縮められなくて。」


 限界まで縮めて大体50cm程度だった。これだと隣の人やすれ違った人に効果が実感出来てしまう。


「なんかかのんの周りが少しボヤけてるような気がしない?」


「多分空気の層が出来ちゃって暑いところと涼しいところで光の屈折率が云々なのかなって思うんだけど、物理は苦手で詳しくは分からないんだよね。」


「なるほど?私も分からないわ。」


「そんなわけで微妙に使い勝手が良く無いし、だったら最近流行りの手持ちの扇風機で良いかなって。」


「あれ私も使ってみたけど本当に暑い日は温い熱風が来るから余計に不快よ。手荷物も増えるし微妙。」


「異世界では周りを気にせず『気温操作』してたんだけどねえ。」


「あっちは魔術があるのが当たり前だったしね。」


「異世界にも四季があったんですか?」


「日本とは周期が微妙に違ったけどね。大体300日くらいだよね。」


「そんな感じ。やっぱり異世界でも農作物は春に植えて夏から秋に収穫するのよ。日本ほど気温の振れ幅は大きく無かったわね。というか日本の夏が暑過ぎる気がするんだけど。」


 そんな会話をしつつ目的の駅ビルに到着。今日はここでショッピングである。


「夏服が欲しいな。セクシーな服で冬香を悩殺できそうなやつ。」


「本人の前で言うの?」


「冬香の意見も参考にさせてよ。」


「「私はかのんがこの服を着たら悩殺されます」って意見が欲しいの?ちょっと無理だわ。」


「そこまで言ってないんだけどな!?」


 その後さんざん吟味して結局買わないのは女子あるある。だけど可愛い服をたくさん見られて私は大満足だった。その後遅めのお昼を食べて解散する。


「じゃあまたね。冬香ちゃんも次回の回復術指南、頑張って。」


「私はまだ有里奈さんみたいに上手に教える自信はないんですが、精一杯頑張ります。」


「困ったら連絡頂戴。すぐに対応できるかは分からないけど。」


「ありがとうございます。」


 次の回復術指南はメインの講師が冬香、補佐が雫さんという体制でやる事になっている。基本的な回復術の指導は冬香と雫さんでできるという事で新規の受講者相手なら忙しい有里奈に負担をかけずに済むという表向きの事情と、やはり本家分家主体で開催出来るようになりたいという思惑などがある。


 とはいえ有里奈との繋がりも残しておきたい…ということで本家分家主体の初心者コースと、有里奈に徹底的に鍛えてもらえるハードコースを作ろうかというのが今の構想だ。有里奈のブートキャンプは地獄の厳しさだったが受講者が全員、目に見えて強くなったためこれはこれで一族内の評判がいい。ちなみに先日、春彦さんがBランクの魔の物を単騎討伐した事もこの評判を後押ししている。


------------------------------

 

 有里奈と別れた私達はもう少し時間を潰したのち、私の実家…廿日市家に向かう。


 夜は家族でかりんの誕生日パーティをするから良かったら冬香と一緒においでと誘われたのだ。冬香は自分が居たら家族水入らずにならないのではと遠慮したのだが主役のかりんの強い希望もあって参加する事にした。


 実家に着いて呼び鈴を鳴らす。


「こんばんは、かのんと冬香です。」


「はーい。」


 玄関に通される。


「お邪魔します。お母さん、こちらつまらないものですが。」


 実家だけどここは既に私の家では無い。「ただいま」とは言わないし、ソファで寝転がったりしてもいけない。お呼ばれしたなら手土産も必要だ。嫁に出た立場としてこの辺りの線引きはしっかりしないといけない。


 私の態度からそんな雰囲気を感じ取ったお母さんはニッコリ笑って「いらっしゃいませ。」と言った。


 リビングに通されるとご馳走が準備されていた。お父さんがソファから立ち上がったのを見て礼をすると、お父さんもしっかり礼をしてくれた。


「あとちょっとで出来るから、2人は座っててくれるかしら?」


 お母さんに促されて私達もソファに座る。台所を覗くとお母さんだけで無くかりんもいそいそと準備をしていた。自分の誕生日だけど、料理が趣味のかりんは準備も手伝う…というか普段作れないような豪華なメニューが作れるのでと張り切っていて、今日のメインシェフである。


 L字型のソファの短い方にお父さんが、長い方に私と冬香が座る形だ。少しするとお母さんがお茶を持ってきてくれた。


「2人ともわざわざありがとう。」


「こちらこそお招き有難うございます。」


 その後軽く近況報告…とはいえ、話せない事も多いのでわりと当たり障りない感じになってはしまう。


「そういえば今年受験だけど、進路は決まったのかな?」


 お父さんは深い意味も無く聞いたんだと思う。だけど丁度良い機会なので話してしまう事にした。


「えっとね、高校を卒業したら冬香と2人で世界中を旅しようかなと思ってるんだ。」


「ええっ!?」


 目を丸くするお父さん。


「かのん、何も伝えてなかったの!?…お義父様、すみません。」


「あ、ごめんなさい…。じゃあきちんと説明するね。」


 私は留学したいと思うようになった経緯やお義父様にプレゼンして許可を貰ったこと、本家当主にも認めて貰っていることや条件として最難関大学に合格することなどを説明した。


「そうか、自分できちんと考えて進んでいるんだな。かのんは子供だと思っていたけれど、いつの間にかすっかり大人になってしまったんだね。」


「フフ、お嫁に行った娘を捕まえて何言ってるかな。」


「お嫁に行っても娘は娘さ。…ところで留学の資金は大丈夫なのかい?うちにもかのんの大学進学用の貯蓄はあるけど、留学はさすがに想定してなかったな。」


「それは心配には及びません。かのんは既に粉雪家の仕事を一部負担してくれていて、そこに対する報酬も得ています。さすがにそれだけで留学費用を全て賄えるほどの額にはなりませんが既に仕事ができると見なされている事と、将来的にはより多くの利益をもたらしてくれると判断された事で本家から無利子で借り受け出来る事になってるんですよ。」


 冬香の説明は概ね間違っていない。ただしあと数回魔の物の討伐をすれば本家からお金を借りなくても十分予算には届くのだが。嫁入りして1年に満たない私が既にそれだけのお金を稼いでいると知れば何をしているのかと勘繰られる可能性があるし、何より一般庶民のお父さんはいい気持ちがしないだろうと良い感じに濁してくれている。


「そうなのか…。大きなお家に嫁いだから大変かと思ったけど、頑張っているんだね。じゃあお金のことについてはそちらのお父さんに相談するよ。嫁いだとはいえ娘の進路についてだからね、一度話はしたいと思ってたし今日は話が聞けて良かったよ。」


 そういうとお父さんは笑った。


 パーティの準備もできて、お誕生日パーティの始まりだ。


「ハッピーバースデーかーりーんー。」


「お姉ちゃんはあいかわらずの歌声だね。」


「お母さんはかのんの歌声も素敵な個性だと思うわ。」


 かりんとお母さんが作ったご馳走に舌鼓を打つ。一通り食べ終わったらケーキの登場だ。17歳にもなると年の数のロウソクを立てたりはしない。


「もしかしてこれも手作り?」


「さすがにスポンジは既製品だね。でもデコレーションは私とお母さんでやったんだよ。」


 ケーキを食べたらプレゼントの出番。


「はい、かりん。お姉ちゃんからだよ。」


「ありがとう!…かわいいワンピース!」


 以前はよく服の貸し借りをしていたのでこの子の好みはしっかり把握してある。少し大人っぽいデザインのワンピを選択してみた。


「私からは、コレ。」


「冬香ちゃんもありがとう!わぁ、アロマキャンドルだ!」


 冬香は身につける物を貰うと使い道に困るかもと言って消耗品のアロマキャンドルを選んでいた。なるほどそういう気遣いもあるんだなと感心する。確かにうっかりアクセサリーをプレゼントすると彼氏から貰った方を付けられないからね。ほんのり化粧したかりんの左手のチェーンバングルをお姉ちゃんは見逃さない。


 かりんの彼氏…元七英雄の五反田アキトについては無事に大学に合格したらしいところまでは渚さんから聞いていたが、その後の動向は特に把握していない。だけどかりんとは相変わらず仲良くしているようで何よりだ。


 というかお姉ちゃんはそろそろかりんから彼氏の話を聞きたいんだけどなあ。恋バナしようよ恋バナ!女子高生の心のガソリンはやっぱり恋バナなんだよなぁ!?

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