第4話 ブートキャンプの成果その2
魔の物の討伐で日本中を飛び回る私達。先日は広島に続き、今回は北海道だ。
北海道は上雪管轄なので怜ちゃんと総司君が同行する。魔の物がCランクなので今回は一般戦闘員の方々が戦い、そこに総司君が指揮官兼回復役として同行するというスタイルになる。怜ちゃんは一応見学だ。
「という事は私達は保険の保険?」
「あとは総司の回復術に対して私がフォローって感じかしら?」
冬香とそんな話をしながら羽田空港に到着。ここで怜ちゃん達と合流して、新千歳空港へ。何とさらに飛行機を乗り継いで女満別空港に向かう。
「朝から飛行機の乗り継ぎをするなんて、北海道はでっかいどう…。」
「そうなんですよ。私達も関東から移動してくるので北海道の山奥の場合は大抵土日が丸々潰れてしまいます。」
私の定番ギャグを軽くスルーした怜ちゃんが困ったように頷く。
「最近は結構討伐に出てるの?」
「月に1回ぐらいですかね。一応学業優先という事で。」
「あ、そういえば2人とも高校合格おめでとう!」
メッセージでは無事合格を聞いてすぐに返信していたけどその後会う機会がなかったので直接お祝いの言葉を伝える。冷ちゃんの「ありがとうございます」とはにかんだ表情がかわゆい。総司君も遠慮がちにこちらに頭を下げる。
「瑞稀姉様から、かのん姉様と冬香さんの事を聞きました。来年の春から留学されるんですよね?」
怜ちゃんが興味津々に聞いてくる。
「うん、そうなんだ。なんか嫁の立場で好き勝手なこと言ってごめんね。」
「全然大丈夫です!瑞稀姉様からは「冬香とかのんみたいに留学しろとは言わないけれど、自分のやりたい事をしっかりと考えた上で進路を決めなさい」ってアドバイスされました。だから高校に入学できたからって安心しないできちんと将来の事を考えないとって思ってます。」
立派だなあ。私が高校1年生だったのは体感で30年以上前だけどそんな風には全然考えてなかった。華の女子高生だぜウェーイ!としか思ってなかった気がするな。
私が将来を考える余裕があるのは異世界での経験があるからで。「意外と人生なんとかなるからやりたい事をやるべき」って人生の先輩方はアドバイスしてくれるけど、その価値観はある程度歳を重ねないと自分の中で確立できないんだよね。私もあっちで30年余分に生きてきたから、その言葉が実感を伴っているしこの世界では生き方に後悔したく無い。あっちでは17歳からの10年間を丸々無駄に過ごしたわけだし。
でも、これが人生一周目だったらやっぱり安定をとって当時考えてた医者を目指したかもしれないし、冬香を支えるために同じ大学に入りますって言ったかもしれない。
そう考えると一周目なのに自分の進路をしっかりと見ている冬香やそれをしようとしている怜ちゃんの方が私なんかより余程立派で、怜ちゃんの尊敬を含んだ眼差しはぶっちゃけ重い。
とはいえ純粋な好意を無碍にする事もないのでニッコリ笑って誤魔化す事にする。
「そういえば私、北海道に行くの初めてだ。」
なんなら先日の広島も初めてだった。このお仕事を続けたらいつか全国47都道府県の訪問を制覇出来るかもしれない。ただし残念ながら今回のような弾丸ツアーでは観光どころでは無いが。
「そうなんですね。修学旅行で行ったりはなかったんですか?」
「中学生の頃は定番の京都で、去年の春に行った高校の修学旅行では長崎方面だったね。」
異世界に行く前に修学旅行へ行ったので、冬香と一緒に吉野ヶ里遺跡を見に行ったのはもはや遠い記憶である。…でもそう考るえと去年の今頃はまだ普通に友達だったんだよなあ。私が冬香に抱く想いが恋心だと気付いたのは異世界から帰って来てからだけど、そういえば冬香はいつから私が好きだったんだろう?
飛行機を乗り継ぎ無事に女満別空港に到着。そこから車2台で目的地を目指す。前の車には上雪傘下の戦闘員の方々が、後ろの車に私達だ。
「さすが北海道、山の方はまだまだ雪が残ってるね。」
「そうですね。5月の連休ぐらいまではスキーが楽しめるそうですから。」
東京はもうすっかり春で、そのイメージだったから冬香のアドバイスが無ければ薄着で来るところだった。昨日荷造りしている時に指摘してくれたのだ。
「今日は雪山での討伐になるって事?」
指揮官をする総司君に聞いてみる。
「そうですね。足が取られやすいのと、大きな音や爆発があると雪崩の危険があるので注意が必要です。あとは雪庇にも気を付けないといけません。」
「せっぴ?」
「雪が庇うと書いて雪庇です。雪が積もって本来なら足場がないところまで歩いていけるように見えてしまっている部分の事ですね。」
総司君が簡単な図で説明してくれる。雪が崖の上に積もると、下に何もない部分にまで迫り出している事がある。こう言った場所に踏み込むのそのまま真っ逆さまということらしい。こわっ!
「ほかには凍傷にも気を付けるぐらいですかね。」
「ありがとう、勉強になったよ。」
「総司、頑張ってね。」
怜ちゃんの応援を受けて総司君は「任せろ」と胸を張った。現場に到着すると総司君は車を出て行く。
「私たちもついて行っていいのんだよね。」
「はい、行きましょう。」
ちなみに広島の討伐で利用したハイエースに2台のモニターを設置して魔の物の場所や状況がリアルタイムに把握できるあのシステム、下雪の発明品ということでまだ開発中でもう少ししたら実用化されて各家に配備される予定とのこと。でも呪術を使えるのが綾音さんと怜ちゃん、おまけで私しかいないんだけどな…。
そんな事を考えながらまだ積もってる雪を掻き分けて歩く。しばらくすると総司君が止まる。
「ここから100mほど先に標的あり、各自持ち場につけ!」
指揮官として各戦闘員に指示を飛ばす。私達も邪魔にならないように後ろに下がる。全員が持ち場につくと総司君が開戦の合図をあげる。
「構え!…撃て!」
戦闘員の方々はライフルを撃つ。多分狙撃用のライフルだと思うんだよな…ゲームで見たやつに似たような形してるし。あれでおっぱいのペラペラソースしてくる奴らを撃った記憶がある。
4名の戦闘員から放たれた銃弾は100m先の魔の物に命中したと思われる。感じる魔力が霧散したからだ。
「構え!」
総司君の号令が響く。戦闘員の方々は改めて銃を魔の物がいた方向に向ける。そのまま10分ほど様子を見て、魔の物が起き上がる様子がない事から銃を降ろさせる。全員で魔の物に近付く。拳銃を構えさせるのも忘れない。たっぷり5分ほどかけて距離を詰め、そして魔の物が死んでいる事を確認した。
「休め!」
総司君が合図する。改めて、周囲に他の気配がない事を確認した。
「討伐完了!…おつかれさまでした。」
全員の肩の力が抜ける。ここが戦場なら致命的な油断だけど、まあ私も半径3kmぐらいの範囲まで索敵して魔の物が居ないのを確認してるから今日は問題無いだろう。
「総司、お疲れ様!」
「ああ、お疲れ。」
怜ちゃんが嬉しそうに声をかけると総司君もフーッと息を吐いて応じる。討伐自体は戦闘とも呼べないような物だったけど、部隊を率いて行動するというのは大変なんだろうなあ。
「この魔の物の死体は?」
「これはそこのソリで駐車場まで運んで、黒服部隊に引き渡します。」
戦闘員の4名はテキパキとソリに魔の物を乗せて固定している。
「私、Dランクの討伐って初めて見たけどこんな感じなんだね。」
これまで経験してきたのはわりと魔術でなんとかする感じで、銃で撃って終わりっていうのは新鮮な感じだ。
「そうですね。魔の物の9割はDランクなので今日みたいに銃で撃って終わりです。それでも万が一の測定ミスや急な変異があった際に対応するために魔力持ちが率いることになってます。」
なるほどね、9割はこんな感じなんだね。良かったよ、初回から暫定Aランクのシシガミのおかわりが来るわ、次に戦ったAランクの白狼は魔導兵になるわで魔の物の討伐ってどれだけ危険なんだと思ってたからね。
戦闘員の方々がえっちらおっちらソリを引いて車に戻れば今日の仕事はおしまいだ。
「何事もなく終わって良き良き。」
「本当それ、かのんが居ると大抵トラブるイメージがあるからね。」
「わざわざ来ていただいたのに活躍の場が無くてすみません。」
「構わないわ。私達の出番がないって事は想定外が起こらないって事ですもの。」
前回の広島では鍛えられた春彦さんの戦闘能力がしっかり発揮されたけど、今回は総司君のリーダーとしての成長が見られたという事でいいんじゃないですかね。今日の総司君は頼もしかったし。いやあトラブルがなくて本当に良かった!
こうして魔の物の討伐北海道編は終了した。
想定外の事態はその後に起こるなんてこの時の私は想像だにしていなかった。
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魔の物の討伐も無事に終わり、翌日はまた飛行機に乗って帰るだけなのだが。
「せっかくだから観光して行こうよ。」
女満別空港から新千歳空港へ。そしてここから羽田行きの飛行機に乗り換えるのだが、そこで私は冬香をデートに誘う。
「乗り継ぎの飛行機まで1時間ちょっとしかないのに?」
「夕方の便に空きがあるんだよ。ほら、座席も並びで取れるしこっちのチケットに変えてさ。」
「もう…仕方ないわね。」
スマホでポチポチ、乗る便を変更する冬香。そのままお義父様にも北海道を見て行くから帰りが遅れる旨を伝えてくれた。
「それで、何処に行くの?」
「さっき飛行機の中でデートプラン練っておいた!どや?」
冬香にスケジュールを送信する。
「なになに…まずは札幌に行って時計塔とテレビ塔を見る。ラーメンを食べたら新千歳空港に戻ってきて温泉に入る。え、温泉!?」
そう、この空港には温泉があるのだ。なんだかんだ数時間しか無いし移動にも時間を使う。であれば場所を絞った方が良いだろうという判断で厳選したコースだ。
冬香は「この間、留学の計画を立てた時もこのくらいテキパキと決めてくれれば楽ちんだったのにね」と笑ったが、それは言わないお約束である。
………。
「これが世界三大がっかりの1つか。」
時計塔を見上げる私達。
「勝手にワールドワイドにしちゃダメよ。日本三大がっかりね。それも諸説あるらしいし、そもそも目の前で口にしたら失礼よ。」
冬香に諌められる。なるほど、確かにこんなもんか感はある。でも三大ガッカリだなんて言われてハードルが下がり過ぎてるせいか、まあこんなモノかなって感じ。なんならもっとショボいのを想像していたまである…ハッ!思ったよりもショボく無いっていう逆ガッカリか!?
「さて、テレビ塔も見ましょうか。」
「そうだね。時計塔は満足したよ。」
そのまま少し歩いてテレビ塔へ向かう。展望台から周囲を臨むと大通公園やその先に雪の積もる山々が見えてその景色に満足出来た。
「あとこのあたりで有名な観光名所っていったらススキノの繁華街とか?私達にはちょっと早いね。」
「そうね、ハタチを過ぎたらねしましょうね。」
「じゃあラーメン食べて空港に向かおうか。」
「ラーメン屋さんも決めてるの?」
「それは決めて無いかな。適当なお店でいい?」
「ええ。」
札幌でラーメンを食べるという行為がなんとなくそれっぽいというだけで別に食べたいお店があるわけでは無い。この際全国チェーンのお店じゃなければいいかという事で目についたお店に入る。
「いらっしゃい!」
「2人、空いてます?」
お昼時なのでお店はそこそこ混んでる。
「相席でよろしいですか?」
「オキドキでーす。」
やや大きめのテーブルに案内され、冬香と並んで座りメニューを手渡した。
「私は味噌ラーメンにしようかしら。かのんは?」
「じゃあ私は塩で。シェアしようシェア!」
素早く注文を済ませる。こういうお店によくあるテーブルにコップと水差しがあるタイプだったのでコップを2つ取る。目の前でスマホを触ってる人のすぐ横に水差しがあったので一応声をかける。
「すみません、お水貰いますね。」
「え?ああ、どうぞ。」
そう言ってスマホから顔をあげてこちらに水をくれたサラリーマン風の男の人はハッとした顔で私を見る。
「…まさか、かのん?」
「ほえ?」
「やっぱりかのんじゃないか!」
適当に入ったラーメン屋でたまたま相席したサラリーマンは。
「お、おう…久しぶり…?」
異世界で死別した私の元夫、長野幸であった。
そんな創作みたいな偶然が!?…これ、創作なんですw
広島の街の描写は全く無いのに札幌の街の描写が詳しいのは、作者の土地勘があるか無いかというだけで深い意味でありません^^
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