第14話 暗躍
翌日も私は潜入調査を続けることになった。昨日の報告で私は3-Aの全員が魔力持ち…管理対象になる事を渚さんに告げた。またミア先輩については固まっていた魔力が流れ始めた事から、それを促す何かしらの要因があった事も伝えている。
今日はより注意深く教室を観察してその要因を見極めるつもりだ。
私は『認識阻害』の術を使って3-Aの教室の端に立っている。ミア先輩は私の認識阻害を看破するが、昨日の夜の段階で翌日も教室に潜り込んで先輩の魔力が流れる原因を探るとメッセージで伝えてある。
…ミア先輩に大体全部話した事は冬香に呆れられてしまった。渚さんとしてはプライベートな過去の話とトレードで上野レイジの情報を得られたので別にいいのでないか?という感想。ちなみに雪守の事を喋ってたらかなりヤバいことになっていたらしい。あぶあぶ。
クラス全体の様子を眺めつつ、昨日の会話を思い出す。
「クラス全員で召喚されて、上野レイジを含めた数名にその記憶があるって事かね。」
「条件は分かりませんが、仮説としては彼らを召喚した王が息絶えるまで生き延びた…とかかもしれませんね。」
「とりあえずこの6人は要マークかな。でもかのんちゃんが聞いたチートスキル?が本当なら個々の戦闘能力はかなり高いって事やし最高戦力級の出番かな。雫、念の為に晶さんに連絡しとこうか。」
晶さんとは雪守の最高戦力級の方の名前だ。普段は名古屋と京都を拠点にしてで暴れている…もとい、魔の物の討伐をしている。
「私はもう少しだけ調査を継続します。…ミア先輩の魔力が流れるようになった要因を知っておかないと、残りの32人にも同じ現象が起こるかもしれないし。冬香、いい?」
「仕方ないわね。…ねえ渚、一気に40人近くが対応保留になったら雪守も困るだろうしこれは必要な調査という事でいいかしら?」
「せやね。だけどずっとってわけにもいかんから、とりあえず今週いっぱいの調査を依頼って事でいいかな?そこまでで結果が出なければ雪守としては依頼完了とする。」
つまりそこまでに確認出来なければそこから先の行動は粉雪の責任になるという事だ。
「かのん、今週いっぱい…あと3日でいける?」
「やってみるよ。ダラダラやっても仕方ないし、そこで何も分からなかったら手を引こうかな。」
…回想終わり。そして意気込んでやって来たはいいけどうーん、特に原因になりそうな何かって見つからないなあ。というか今日はミア先輩が学校に来ていない。昨日の上野レイジと私の話を自分なりに飲み込むための時間が必要なのかしら。
残りの魔力が流れている6人…上野、五反田、大久保、品川、池袋、恵比寿には、特に注意を払うが、彼らも特に何かしている様子は無い。強いて言えばノートを開いたまま心ここに在らずな者がいるぐらいだけど、別に学生として珍しいわけでも無いし。ついで最悪彼らに認識阻害を見破られる可能性も考えていたが、それも無さそうである。
全く進展がないまま1日が終わってしまった。
そして翌日…。
なんと、全く進展がないまま2日目も終わってしまった!
やべえ、やべえよ。というかなんでミア先輩は今日も学校に来てないんだよ。お前が来なかったら原因の分析もやりようが無いべさ!?恋の病で二日間も寝込むとかどんだけだよ!
一応他の生徒も視てはいるけれど、ミア先輩のように魔力が流れてだした生徒はいない。このまま明日になってもミア先輩が来なかったらどうしよう…その場合は学校を見張るよりミア先輩の様子を確認した方がいいかしら!?
なんて悩みつつもミア先輩の自宅の住所を確認するため職員室に忍び込む。3-Aの担任の席はあそこか、生徒の住所録はあるかな。物音を立てないように慎重に机を漁り目当てのモノを発見。スマホのミア先輩の自宅の住所を撮影して元に戻した。
さて、ミア先輩のいない学校で無駄に2日間も潰してしまった。このまま明日に賭けるよりは今からミア先輩の家に行って様子をみようかな。
先程撮った画像からミア先輩の家を探す…あった。冬香に帰りが遅れるって連絡を入れてから私はミア先輩の家に向かった。
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恵比寿ハツネのチートスキルは『傀儡蜘蛛』というもので、蜘蛛を自在に操ることができるというものであった。
異世界には蜘蛛型の魔物も何種類か存在し、それを手懐けることが出来るため決して弱いスキルでは無い。一度操った蜘蛛は永続的にハツネの支配から逃れる事は無く、眠っている時でさえ彼女を護る様にプログラムできる。彼女は大小多くの蜘蛛を同時に操り侵略国軍との戦いに貢献した。蜘蛛の毒や糸による戦闘能力も決して侮れるものではなかったが、真価はやはり小型の蜘蛛を送り込む事による諜報活動であった。
敵軍の動きを内側からノーリスクで知ることが出来る彼女の活躍は間接的にではあるが侵略国の侵攻を大きく遅らせた。ハツネは自分の仕事に自信を持っていたし、当初は気味が悪いと思っていた蜘蛛にも愛着を持つ様になった。
しかし蜘蛛を愛でるハツネの姿はクラスメイトからは気味悪がられ、また安全な王城から蜘蛛を送るだけの姿勢は非難の対象になった。できる事を精一杯やっているのに理解されずに非難されていた彼女を救ったのは、上野レイジだっだ。彼の『魔剣創造』も武器を作るしか能がないと言われ最前線には出られなかったが、しかしチートスキルを応用する事で戦力になれるように努力していた。そんな姿に仲間意識を持ち密かに惹かれていた。
しかしそんな彼女を差し置いて上野レイジと恋仲になったのがミアである。ハツネは淡い恋心に蓋をする事にしたのである。
ミアの死後もレイジはハツネを見る事は無かった。紅蓮の魔女への復讐を誓い1人旅立ってしまった。
異世界から日本に帰って来た時、今度こそはと思ったがやはりレイジの目にハツネが映る事はなかった。未だ紅蓮の魔女への未練に囚われているレイジはある意味で紅蓮の魔女に恋をしているようにすら思えた。彼の悲願が果たされるか、または紅蓮の魔女を忘れてくれれば今度こそ自分を見てくれる。そう信じて待ち続けるハツネであったが、そこにミアが割り込んできた。
何も覚えてないくせに。また自分を邪魔するのか。ならばもう一度死んで貰わないと。だが私が殺したらレイジに嫌われてしまう。
そんな彼女の前に都合よく現れた紅蓮の魔女。目の前の障害をまとめて排除し、レイジの目を自分に向けるプランが組み上がる。勝算は有るが負ける可能性もある。勝率は五分と言ったところか。命をベットするには十分高いと判断し、実行を決断した。
ハツネはスマホを取り出す。指紋によるロックを解除するため、隣で糸に囚われたミアの指を強引に引っ張る。
「…っ!」
ミアが苦悶の表情を浮かべるが、ハツネはお構いなしにスマホのセンサーに指紋を押し付けた。
ロック解除されたスマホを操作して、ミアの写真を撮ると、廿日市かのんにメッセージを送る。
次に自分のスマホを取り出して上野レイジに電話をかけた。
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ミア先輩の家に着いたが、家に明かりが付いていなかった。人の気配はするのにおかしいな。ミア先輩、これから行っていいかってメッセージも既読にならないし…なんだか嫌な予感がした。
状況を確認するためにチャイムを鳴らす。
―…はい。
「あの、私、ミアの友達のかのんって言います。昨日と今日、ミアが学校休んでたので何かあったのかなって…。」
―ミアの!?ちょっと待って!
インターホンから慌てた声が聞こえたかと思うと、扉が開いて上品なお母さんが慌てた様子で飛び出して来た。
「ミアのこと、何か知ってるの!?」
「え?えっと、おととい学校帰りにお茶をしたぐらいですけど…。」
「その話!詳しく聞かせて!」
お母さんの剣幕にただ事でない事態が起きていると判断する。
「あの、ミアがどうかしたんですか?」
「あの子、おとといから帰って来てないの!」
リビングに通された私は憔悴したご両親から話を聞く。ミア先輩は私と別れた直後に「今から帰る」とお母さんにメッセージを送ったらしい。
だがそのまま帰って来なかった。こらまで家出や無断外泊などした事の無いミア先輩、翌朝ご両親は慌てて警察に駆け込んだ。しかし警察も積極的に探してくれるわけではなく連絡を待つ様にという指示があった程度らしい。ただ帰って来ないだけでは事件性があると判断するには弱いと。
スマホも電源が切られている様で、最後に立ち寄った場所が最寄駅なのは間違いないがその後の足取りが分からないという事だ。
「ミアとはどんな話を…?」
「普通に友達同士の会話です。あとは…私の悩みを聞いてもらってました。」
「そう。…ありがとう。もしもミアの居場所が分かったら連絡くれるかしら。」
電話番号がかかれたメモを手渡される。
「はい、もちろん。」
ミア先輩の家を出ると同時に私のスマホが震える。通知に表示された差出人を見て驚いた。ミア先輩から!?慌ててメッセージを開くと縛られて倒れているミア先輩の写真だった。
続いてどこかの住所が書かれたメッセージを受信する。
地図アプリでその住所を検索すると、ここから20kmくらい先にある、倒産した会社の小さな工場のようだった。私は身体強化をしてそこに向かって駆け出した。
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「恵比寿、何のようだ。」
―上野君、大変。神田さんが紅蓮の魔女に攫われたわ!
「何を言っている?」
―昨日と今日、神田さんが学校を休んだでしょう?私、昨日お見舞いに行ってたのよ。そうしたら神田さん、2日前から帰ってないって聞いて。
「何だって!?」
―それで私、慌てて神田さんを探したの。見つけるのに丸一日かかっちゃったけど、蜘蛛が見つけてくれたわ。でもそこに紅蓮の魔女がいたの。
「紅蓮の魔女を顔を知っているのか!?」
―あの炎を使っていたのよ。私の蜘蛛じゃ神田さんを助けられ無いわ。だからお願い、力を貸して。
「…場所はどこだ?」
―一緒に行きましょう。まずは学校に来て。そこからそう遠くは無いわ。
「わかった。30分で着く。」
通話を終えたレイジは出たばかりの駅にもう一度入る。既に帰路に着いており自宅の最寄り駅まで帰って来てしまっていた。こんな事なら学校に残って勉強していれば良かった。
学校に向かう電車に飛び乗り、ミアの事を考える。何故ミアが紅蓮の魔女に攫われる事になったのだろう。2日前に自分が魔女の話をミアにしたせいか?それが理由だとは考えづらいが、タイミングが良すぎる。だとすれば自分のせいでミアは危険に晒された事になる。
「俺は、また彼女を死なせてしまうのか…?」
紅蓮の魔女、一度ならず二度までも自分からミアを奪うつもりか。…まだだ、まだ間に合う。今度こそ彼女を護る。
その背中に付いた小さな蜘蛛を通してハツネに全て見られている事をレイジは知らない。
レイジが自分の思い通りに動いているのを見てハツネは満足気に笑う。このままレイジと魔女をぶつける。どさくさに紛れてミアを殺し、魔女も殺す。
復讐を果たしたものの大切な人を再び失ったレイジの心の隙間に入り込む。我ながら穴だらけの作戦だが、即興なのだから仕方無い。最大の懸念点はレイジが魔女に勝てるのかという事だ。
まあ負けて殺されるならそれはそれで仕方がない。初めから自分の手札ではどうしようもなかったと諦めもつく。もとより2度目の人生にそれほど執着は無い。失敗したらレイジ諸共死ぬだけの話、それはそれでありだと思った。




