第12話 かのんと有里奈
「有里奈!ここ、ここ!」
喫茶店に入って来た有里奈を見付けて私は手を振った。一瞬、周りのお客さん達の視線を感じるが気にしない事にする。有里奈は苦笑いすると私の向かいに座った。
「どう?」
「雰囲気は合格。よく見付けたわね?」
「えへへ。」
有里奈はケーキセットを頼む。私は既にケーキを1つ食べてしまっていたので追加のケーキは我慢して、紅茶のおかわりをオーダーした。
「はいこれ、地元のお土産。」
「わ、たくさん。」
「まあ適当に食べてくれればいいけど、この焼きまんじゅうは足が早いからさっさと食べちゃってね。」
「ありがとう。みんなで頂くね。」
焼きまんじゅう以外にも、定番のお菓子やお酒のおつまみになりそうなものがいくつも入ってされていた。
「私の実家がおフランスとかならもっと小洒落たチョイスになるんだけどね。」
「私はこういうのも嬉しいよ。…あ、このラスクのパッケージってフランスの国旗みたいじゃない?これはほぼフランス土産だわ。」
「あ、それしっかりメイドインジャパンだから安心して。」
「知ってる。」
2人で笑い合っているとケーキセットと紅茶が出て来た。
「冬香ちゃんと大喧嘩したって?」
「そう、夫婦の危機だったんだよ。」
「今やってる潜入調査関連?」
「そうそう、順を追って話して良い?」
有里奈が肯定の意味を込めて防音結界を張った。私は先週からの調査の結果と、先日の新宿ユキヒロとの戦い、そしてその後の冬香との喧嘩までの流れを有里奈に話した。
「冬香ちゃん、そんなわがままいうんだ。かわいいわねぇ。」
「まあ無理しないって約束はしたけど実際どこまで守れるかっていうのは難しいと思ってて…。冬香との約束ではなるべく自分が傷付かないようにするって事になったけど、私だって別に怪我したくてしてるわけじゃないし。」
「別にそこは気にしなくて良いんじゃ無い?というか実際戦ってる最中に余計なこと考えてたら死ぬわよ。…冬香ちゃんはかのんが1人で解決しちゃうのが嫌なのよ。あの子はかのんに守られたいんじゃなくて、あなたの隣に立ちたいってタイプだもん。」
「つまり…?」
「一つ目の依頼を受ける時に相談するってところさえしっかりしておけばとりあえずの問題は無いと思うけどね。戦闘時はなるべく死なないように気を付けなさい。」
「死ぬような戦いをしたくないんだけど!?」
「私だってかのんに死んでほしく無いわ。即死しなければ治してあげられるから、致命傷を負うなら私の前にしてね。」
ニッコリと縁起でもないことを言う有里奈。
「…善処します。」
「それで、残りの6人はどうするの?」
「ぶっちゃけ残りの6人に対しては雪守に丸投げでいいと思うんだよね。そういう人をなんとかするのがお仕事だし。迷ってるのが残りの33人。」
「多いわね。」
「彼らがこのまま魔力を腐らせるのか、いつか覚醒するのか…そもそもなんであのクラスだけ全員が魔力持ちなのかも分からないし、ちょっと悩ましいところなんだよね。」
「とりあえず全員魔力持ちってことで雪守の「管理対象」だっけ?スプーン曲げでも一応チェックしておくってリストに載せて貰えばいいんじゃないの?」
「本人に自覚が無いのにリストに載せちゃうのも忍びないんだよね…。」
私は渚さんから教えてもらった、雪守が超常の力…この場合は魔力を持った人の扱いについて有里奈に説明する。
「管理対象」は魔力があると判定された人が漏れなく対象となる。ただ、その力が世の中の…というより白雪の秩序を乱さないと判断されれば何かされると言う事は無い。その人の周りで超常現象と思しき何かが起きた時に優先的に調査するためのリストといった位置付けになる。
「対応保留」については管理対象から一段進んだ、勧誘か駆除のどちらかをする必要がある程度には影響力があると判断された対象に割り当てられるステージだ。ここにカテゴライズされて既に秩序を乱した者…先日の新宿ユキヒロや、冬香と結婚しなかった世界線の私などはそのまま次の「駆除対象」となる。そうで無い場合は勧誘を受ける。「お前、超能力使えるの分かってるけどウチの傘下に入るなら殺さないでおいてやるよ、どうする?」って交渉をもうちょっとだけ丁寧な言葉でする感じだ。ちなみに拒否したら駆除対象になる。
「駆除対象」は名前の通り、既に秩序を乱した者かその恐れが限りなく高い者が秘密裏に処分される。かなり物騒ではあるが、そうしなければ白雪の秩序…ひいては世の中の秩序が守れないため、法的にも倫理的にも褒められたものでこそないが自分達の行うそれは必要悪であると雪守は本気で考えている。
こうして列挙すると、雪守はだいぶ大雑把に区分けしている。対応保留になると取り込まれるか駆除されるかの2択しか無いため、例えば学生…それこそ今回の3-Aの面々がこれに該当すると将来の道が白雪グループの傘下 or DIEという二択になりある意味で進路が制限される。
ちなみに取り込まれたからと言って雪守の必殺仕事人になるわけではなく基本的には白雪グループの傘下で飼い殺されるだけで、多くの人は超常現象に対して口外したら駆除されるという契約を結んだ上で関連企業に就職する事となる。まあ白雪グループはそれこそ何でもやってるので大抵の場合はやりたい事ができる。商社に入りたいなら白雪商事、医療従事者になりたいなら系列病院、教師や幼稚園教諭、芸能人にだって一族の息のかかった事務所からデビュー可能だ。なので白雪グループに入るからやりたい事が出来なくなるという事はほとんど無い。ただし特定の企業に入りたい!という想いがあってもそこが白雪グループと関係なければそれは無理となってしまう。
つまり、私が3-Aの全員が魔力持ちだと報告すると将来的に彼らの進路に制限がかかる可能性があるのだ。
そんな葛藤を吐き出すと有里奈も真剣な顔で答えてくれる。
「まあ「管理対象」の段階なら進路に制限はかからないんだし、そこから上に行っちゃうかは本人次第って事である程度仕方ないんじゃないの?それを言ったら私たちだって既に白雪にどっぷりよ。」
「そういえば有里奈も勧誘受けたんだもんね。」
「あれはイレギュラーな感じだったみたいだけど、そうなるわね。私は別に特定の企業に入りたいって訳じゃないし別に良いんだけど。むしろ今は来年の春から行きたい会社を言ってくれって聞かれてるわよ。」
「そうなの!?てっきり回復術道場を開くのかと。」
「あれは期間限定のお仕事ね。とはいえこのまま白雪グループの関連企業に就職すれば待遇は大分考慮してくれるらしいわ。」
「そうなんだ。…結婚はしないの?」
「春彦さん?」
「うん。口説かれてるんでしょ?」
春彦さんは下雪家の直系だ。三男なので次期当主でこそないが、玉の輿には違いない。夏に実施した回復術の指南を通して有里奈に惚れ込み交際を申し込まれたらしい。
「あの人自身は悪い人じゃないし、頑張ってる姿は好感が持てるんだけどね。下雪の思惑というか、政治的な云々があるかもっていうのが少しだけ懸念点っていうか…。」
「あれ、春彦さん本人に対しては満更でもない感じ。」
「そりゃそうよ。お金持ちでイケメンで努力家よ?冬香ちゃんの元婚約者候補でかのんがそれを横から掻っ攫ったって経緯がなければ交際を申し込まれたその場でOKしたわよ。」
あ、そうなんだ。意外と打算的というか…。そんな私を見て有里奈はフフっと笑った。
「もちろん本人の人柄が好ましいって言うのはあるわよ。ただ、この年になると学生みたいに少しずつ距離を縮めていって何かきっかけがあって想いを確かめ合うなんて恋よりも、お互いに条件から入ってお付き合いしてみるって流れが自然になるってだけ。」
「…大人な考えだね。」
「精神的にはお互いオバチャンでしょ。かのんは年相応に子供っぽいけどね。そんなところも可愛いわよ。」
「よ、よせやい。」
「そういう素直なところも、ある意味では羨ましいわ。…そんなわけで春彦さんに対しては返事は保留って感じ。あなたと下雪の関係に確執が無いって分かったらこちらから交際を申し込みたいなってところかな。ああ、無理に下雪と仲良くしてねって意味じゃ無いからね。」
「そんな風に言われるとちょっと下雪と相対する時に構えちゃうな。」
「私は私で上手くやるから、気にしなくて良いわよ。」
「私にそんな高度な事ができるかしら!?」
「知らんがな、頑張れよ。」
「…そういえばちょっと聞きにくいんだけど、航の方はもう平気?何も言って来たりしてない?」
「うーん、実はあんまり平気じゃ無いっていうか…。」
「えっ!?」
「なんかね、航のバンドのメンバーの人が私を探してるっぽくて。テレビ番組の力で「アリナ」を特定して引き合わせようって企画?みたいなのが動いているみたい。」
「ええっ!なんでそうなるの!?」
「知らないわよ。まあ、私にフラれて意気消沈した航にサプライズのサプライズで再開みたいな流れを企画してるんじゃ無いの?」
「だって有里奈はしっかりフッたよね!私も横で聞いてたよ!?」
「テレビを作る側は面白ければ一般人の都合なんてどうでも良いんじゃ無いの?」
「面白がってなの?航の為とかじゃなくて?」
「知らない。でもこっちからしたら迷惑な事には違いないわね。」
「ちなみになんで有里奈はそんな流れを知ってるの?」
「雪守の情報網にひっかかって、渚さんが教えてくれたのよ。私が白雪一族の人間だったら圧力掛けて辞めさせられるけど、流石に今の段階でそれは無理ってことで情報だけ伝えてくれたの。」
「なるほど…。でも「アリナ」って名前だけじゃ有里奈には辿りつかないんじゃ無いの?」
「残念ながら「クゼアリナ」までは伝わってるみたいよ。航が私の名字を忘れてくれてればまず問題なかったけどね。東京在住の大学生の「クゼアリナ」って言えば特定されたようなものじゃない?」
「久世さんって珍しいもんね。」
「SNSはやってないからまだ連絡来てないけど、その内直接訪ねてくるんじゃ無いかしら?」
「それは大変だね…。しばらくウチに来る?」
「婚家に平気で友達をしばらく住まわそうとするとか流石の図太さね。ありがたい提案だけど、逃げてても解決しないから悩ましいわ。」
「じゃあテレビに出ちゃう?」
「それは無い。航に連絡して辞めさせるのが早いんだけど、例の番号はもう通じないみたい。」
「ああ、新宿ユキヒロがネットに書き込んだせいで拡散したからね。そりゃ番号変えるでしょ。」
「そんなわけで、年明け早々しょうもない問題に頭を抱えてるってわけ。」
「有里奈、春彦さんと婚約したら雪守パワーで解決するよ!」
「相手があまりにしつこかったら本気で選択肢に上がりかねないからフラグは立てないでね。」
有里奈は苦笑いした。
その後は今月末からの回復術と呪術の指南の話とか、普通に女子っぽいトークやらをして解散する。店を出ると辺りは暗くなって来ていた。
「すっかり長居しちゃったわね。」
「たくさん話ができて良かったよ。お土産もありがとう。」
「どういたしまして。」
有里奈は車で来ていた。家まで送ってくれると言うのでお言葉に甘える事にする。と、その時学校の方から見知った人物が歩いて来た。
「あ。ミア先輩だ。」
「さっきかのんが話してた、魔力はあるけど固まってて体を循環して無いっていう、グレー判定の子ね。」
私の呟きに気付いた有里奈がミア先輩の方を見る。ちなみに有里奈も魔力の有無は「視る」事が出来る。ただ私の場合は目に集中して文字通り視覚で判断するのだが有里奈の場合はなんとなく雰囲気で察知しているらしい。この辺りは得意とする術の特性の違いだろうか。
「…うん?かのん、あの子普通に魔力流れてない?」
「え、うそ!?」
有里奈に指摘された私は改めてミア先輩を視る。すると昼間は固まっていたはずの魔力が、ほんの少しではあるが確かに流れているのが確認できた。
「有里奈、悪いんだけど。」
「はいはい。このお土産は私が直接あなたの家に持って行くから、いってらっしゃい。…冬香ちゃんは家に居るのよね?」
「うん、もう帰って来てるはず。ごめんね、ありがとう。」
私はその場で有里奈と別れると、『認識阻害』を使ってミア先輩に近付いた。ぼーっと歩いていたミア先輩はふと何かに気が付いたようにこちらを見る。一瞬怪訝な顔をしたがすぐにいつもの明るい笑顔になった。
「やっぱりかののんだ、こんばんは。」
「こんばんは、ミア先輩。こんなところで会うなんて奇遇ですね。もしかして私に会いに来ました?」
「そんなわけないでしょ!今からお家に帰るんだよ。普通に学校から駅に向かうルートでしょうに。」
「あらあら、うふふ。じゃあそういう事にしておきましょうか。せっかくだし駅までご一緒しますか。」
さり気なくミア先輩の隣を歩く。
「かののんこそ、こんな時間に何してたの?」
「あそこのオシャレカフェご存知ですか?あそこで友達と放課後ティータイムしてました。あ、もちろんあの有名バンドのコピーをしていたって意味じゃ無いですよ。」
「心配しなくてもカフェで軽音やるとは誰も思わないよ。」
軽口を叩きながら並んで歩きながら私はミア先輩を注意深く観察する。これでミア先輩が私の認識阻害を見破ったのは2回目、しかも今回は私がいた場所を注意深く観察したわけではない。
私の認識阻害は魔力持ちなら誰でも見破れる程度の代物ではない。つまりミア先輩自身の才能の可能性が高いのだが、決め付けは危険だ。とりあえず出来るだけ情報を引き出したいけど、ここで上野レイジの話題を私から振るのは流石に不自然かな…。そんなことを考えつつ適当に話を合わせる。
「そういえば私、かののんに聞きたい事があったんだけど。」
「なんですか。スリーサイズは乙女の秘密ですよ?というちゃんと測った事ないので正確な値は知らないんですけど。ちなみにブラはAカップです。チクショウ。」
「あ、なんかごめん…って私が聞いたんじゃなくてかののんが勝手に暴露したんだよね!?」
「はい。だから代わりにミア先輩のを教えて…いや、やっぱりいらないです。凹むだけなので。」
「うん、教えるつもりはないから安心して。それでかののんに聞きたい事なんだけどさ。」
「はい。」
「かののんって「紅蓮の魔女」なの?」
予想だにしない質問に一瞬固まってしまう。しまったと思った時にはもう遅かった。ミア先輩は私の一瞬の硬直を肯定と受け取ったようだ。そのまま同じ口調で、でも声に警戒を含ませて、続ける。
「異世界で、私たちを殺し回ったって本当なの?」
どうするかのん!?
ニアごまかす
かんねんする




