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第4話 白雪家のお正月

 今日は12月31日。大晦日である。去年までの私は大掃除だお節料理作成のお手伝いだで忙しかったけれど、今年はぶっちゃけ暇である。

 大掃除は家政婦さんがしてくれているので自分の部屋を整理整頓するくらいだし、明日の朝から白雪本家に行くからお節料理も作らないらしい。


「お正月の会合って、今回私は特に挨拶は無いんだよね?」


「かのんの年頭挨拶はないわよ。各家の当主から一言あってそのまま会食って感じね。」


「服装は?」


「留袖。早朝に白雪家に行って着付けと髪のセットをしてもらうわよ。」


「私、ちゃんとした着物を着るの初めてなんだけどちゃんと着れるかな?」


「着せるのはやって貰えるから大丈夫よ。そのあと調子に乗ってお代官様ごっことかしなければね。」


「してくれるの!?」


「しないって言ってるんだけど。」


 良いではないか、良いではないか。


「ちぇ、私も自分で着付けできるように習っておこうかなあ…。」


「お代官様ごっこをしたいからとか動機が不純にも程があるわね。」


「マンネリを防ぐための努力だよ。」


「それは下ネタを言うための万能の免罪符じゃないっ事は肝に銘じておいてね?」


 あれ、今の会話って今日のエロトークにカウントされたの?冬香は夜はノリノリの癖に普段の会話に下ネタ挟むの好きじゃないんだよなあ。「別に下ネタが嫌いなわけじゃないけど、どうせならもう少し品のある感じでお願いしたいわね。」とは冬香の談。品のある下ネタ…難しい。


「じゃあ特に用意する事はないと。ねえねえ、今日は暇ならデートしようよ。」


「今日外に出てトラブルに巻き込まれてもつまらないわよ?かのんってそういうフラグ回収するの得意でしょ?」


「トラブルって何さ?」


「うーん、例えば魔力持ちの人を見つけちゃうとか。」


 ありそうで困る。


「ちぇ、じゃあ今日は大人しくしてようかな。」 


「勉強は大丈夫なの?あなた年明けからしばらくうちの高校側は欠席になるから期末テストで赤点取ったら挽回効かないわよ。」


「え、その辺りって雪守が考慮してくれるんじゃないの?」


「そりゃあ出席日数の考慮はして貰えるけどテストで点が取れない子は救えないわよ。」


 ガーン。


「ま、まあ平気だとは思うけど、念のため勉強しておこうかな…。」


 大丈夫だと思うけど念のためね。


 そんなわけで大人しく勉強していたら夕方冬香が紅茶とお菓子を持って来てくれた。なんだよー、結局冬香も私も一緒に居たいんじゃん。かわいいやつめ。良き良き。


------------------------------


 翌朝、元旦。早朝から白雪家に移動して着付けをして貰う。


「かのんって着物が似合うわね。」


「ヘヘッ、貧乳だからね。」


 嬉しくないやい。


 会合はまあ特に言う事もないかな。皆様、ご挨拶ご立派でした。そのまま会食かと思いきやそのまま一族で初詣に行くとの事。どこの神社に行くのかと思いきやなんと白雪本家の敷地内にある神社らしい。さすがに一族専用神社は想像を超えて来た。


 年に一度だけしか使われないという社。厳かな雰囲気に包まれた本殿にて今年一年の一族の発展を願う。


 初詣が終われば会食である。しかし着物を汚さない様に食事ってのは緊張するなこりゃ。周りの人達をきちんと観察して動きを真似しよう。


「かのん、なんで振袖が汚れないような動きをしているの?あなたは留袖なのに。」


「しまった!怜ちゃんの動きを参考にしちゃった!」


「え?かのん姉様、私がどうかしましたか?」


「怜ちゃんの食べ方が綺麗だから真似してたの。」


「そんな、恥ずかしいです。」


「袖の部分は他の人を参考にしないと…。」


「かのん姉様、着物を着てお食事はあまりなさらないのですか?」


「うん、初めてだね。だから一番綺麗に食べてる人の動きを真似しようと思ったら怜ちゃんだったの。袖の違いは考慮してなかったわ。」


「一番綺麗だなんて、ありがとうございます!」


 嬉しそうに笑う怜ちゃん。かわいいのう。


「そういえば怜ちゃん、その後の任務はどう?」


「はい、前回かのん姉様にご指摘頂いた事を反省して、しっかり準備した上できっちりトドメを刺してます!」

 

「それは良かった。気になってたんだよね。」


「かのん姉様こそ、最高戦力級に認定おめでとうございます!」


「ありがとう。とはいえ何が変わるってわけでも無いんだけどね。」


 なんか色々と揉めてるって話は冬香から聞いていたけれど、先日無事に私も白雪家の最高戦力級としてカウントされる事になったと連絡を受けた。

 今後、他の家から私に魔の物の討伐依頼が来る場合は最高戦力級としての働きを求められる。代わりにその家から粉雪家にはそれなりのレンタル料が支払われる事になるらしい。ただし、他の家も最低1人は最高戦力級を抱えているので実際私に依頼が来るようなことは無いと思われる。

 とそんな感じであくまで家同士で何かする時に決まり事があるくらいでそれ以外はこれまでと何ら変わらないというのが私の認識である。まあパワーバランスとか伝統を重んじるとかそういう人には面白く無い話で、それが冬香のいう色々揉めたって事らしいけど。


「でも最高戦力級ってなると中々かのん姉様とは討伐にご一緒できなくなっちゃうのが残念です。」


「なんか私の方から勝手についていく分にはお金がかからないらしいから、予定さえ合えば一緒に行こうよ。ちゃんと戦えるようになったか見てあげる。」


「そうなんですか!楽しみにしてますね。」


 ニコリと笑う怜ちゃん。


 これが仕様の穴…というかあえてガバガバにしているところで、最高戦力級が勝手に首を突っ込む分にはタダ働きとなる。もちろんあまりに好き勝手したらお叱りを受けるし、裏でこっそりお願いして表向きは勝手に動きましたみたいな事をし始めると収拾がつかないのでついて行った先でBランク以上の魔の物と戦う場合などは報告義務が生じたうえで状況次第ではお金の動きは発生するなどのルールはある。


 結局怜ちゃん以外に所作を真似する対象が見つからなかった私は存在しない振袖に注意を払うという動作をしつつもなんとか着物を汚さずに会食を乗り切ったのであった。


------------------------------


 昼食の会食が終わると各家に用意された部屋に案内される。部屋と言いつつホテルのスイートのような感じで、粉雪家に用意された部屋にはきちんと2つベッドルームがある。お義父様とお義母様の寝室、冬香と私の寝室だ。このあと夜まで自由時間となり夜は宴会が予定されている。


 自由時間と言いつつもちろんゴロゴロして良い時間というわけではない。各家当主が一堂に会する数少ない機会なのでこういう時しかできない話し合いが行われたりする。


 今日の議題の一つに次回の回復術指南の開催についてがあるという事でお義父様は冬香を連れ立って会議室に向かっていった。


 私はと言えばお義母様とのんびりティータイムを楽しんでいるのだが。


「全くやることがないと言うのも困り物ですね。」


「私達が参加しても発言するのは当主様だけだからね。嫁の仕事は疲れて帰って来た当主様をきちんと労わる事よ。」


「そうですね、冬香が帰って来たらしっかり癒してあげないと。」


 わきわきと手を動かす。


「あら、いつもマッサージとかしてあげてるの?」


「そうですね、たまに。動画サイトを参考にしただけの自己流ですが。」


 厳密に言えばそこに微弱な魔力の流れを追加したオリジナル魔力マッサージだ。これを定期的に行う事で受けた冬香は魔力の流れがスムーズになるし、私は彼女の魔力の流れの良し悪しから体調管理ができてしまう。


「私もお父さんによくマッサージしてあげるのよ。やっぱり事務仕事をする人は肩が凝るから。」


「そうなんですよねー、冬香にも定期的にストレッチする様に言ってるんですけど集中しちゃうと何時間も机にかじり付くから…。」


「お父さんもそうなのよ、やっぱり親子よねぇ。」


 宴会の30分ほど前に部屋に戻ってくるお義父様と冬香。2人を労いつつ話を聞くと、次の回復術指南は今月末から開始で調整することになったらしい。


 あわせて私の呪術指南も正式にそれとして実施すると言う事で、何を教えるか考えておいてほしいとのこと。各家で魔術か呪術か回復術かの適性判断をした上で、それぞれ2〜3名を受講者として選定予定との事だ。


「前回みたいに身体強化じゃだめなの?怜ちゃんと綾音さんは喜んでたよ。」


「下雪はどちらかというとクマカノンの諜報能力を重用していたわね。どんな術を覚えるかで送る人材も考えたいって言ってたわ。

 だから各家からの要望として呪術にはどんな術があるのかリストアップしてほしいって。」


「それは1ヶ月くらいで習得できるものに限定して?」


「ううん。難易度の高い物も合わせて全部教えてほしいらしいわ。…かのんの切り札を晒すとこになるから出来ればでいいらしいんだけど。」


「それは構わないよ。1番の切り札は誰にも真似できないし。」


「『紅蓮』だっけ?あれは他の人には使えないのよね?」


「魔術と呪術、両方の技術を合わせるからね。逆に言えば私以外でもその才能がある人は使える事になるけど。」


「なるほどね。じゃあ教えてもいい範囲であとで呪術をリストアップしておいてくれる?」


「了解!」


「さて、そろそろ宴会ね。」


「お酒飲めるかな?」


「こら未成年!大体あなたは酒癖悪いから二十歳を過ぎても公の場での飲酒を許可するつもりはないわよ。」


「ガーン!」


 宴会への期待が一気に無くなってしまった。


------------------------------


 お酒の飲みない宴会という地獄も終わり、今日の予定はこれにて終了だ。冬香とお義母様と一緒にお風呂に入って髪を乾かしたら後は寝るだけである。


「今までで一番緊張した元旦でした。」


「フフ、お疲れ様。廿日市のお家ではお正月はどうしてまの?」


「そうですね、みんな大晦日に夜更かしをして二年参りするので元旦はお寝坊することが多いです。テレビで駅伝見ながら母が作ったお節を食べて、午後から親戚の家に行きますね。夜はやっぱり宴会です。」


「今年はかのんが居なくてみんな寂しいんじゃないの?」


「どうでしょうね?あ、そういえばあけおめメッセージが来てるかも。」


 朝からずっと放置していたスマホを取り出す。家族には朝イチであけおめを送っておいたので問題無いだろうと思っていたが、想像以上にたくさんメッセージが来ていた。


「従兄妹達から「あけおめ!結婚したとか聞いてない!」ってメッセージが来てますね。」


「ほら、やっぱりみんな寂しいのよ。」


「もともと年に一度しか会わない様な関係だしなぁ、寂しいというよりはゴシップに興味津々なだけじゃ無いかなぁ。」


「フフフ、そうかもね。女子高生でお嫁行くなんてそうそう無いもの。」


「あと1年ちょっとは現役女子高生妻ですからね。」


「世の中の男達の夢ね。冬香が羨ましいわ。」


「お義母様、実は私の妻も現役女子高生なんですよ。」


「あら!それは大変!」


「2人して何バカなこと言ってるのよ。かのん、メッセージ見てすぐスマホを放り出したけど返事はいいの?」


「ん?うん、全員に「あけおめ」ってスタンプを返しておいたから。」


 もともとお正月しか会わなかった従兄妹達、異世界での30年を挟んだせいで実はもう顔を思い出せない子も多い。それよりは今の家族との会話の方が大事だしね。


 粉雪かのんとしての初めてのお正月はそんな感じで過ぎていった。

 

 

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