第3話 雪守の調査報告
「さっき雪守がマークしていた人物と、この五反田君がクラスメイトだって話をしたよね。」
「はい、やっぱり魔力持ちってひかれ合うんだなあと思いました。」
「かのん、スタンド使いじゃあるまいしそんな法則ないわよ。」
無いの!?
「まあ白雪家も魔力持ちは遺伝しやすいからって理由で一族の血を大切にして来たから、そう言う意味では一箇所に固まる傾向はあると思うけど。」
「コナちゃんの言うとおり白雪一族は例外的に念力…魔力持ちが集まる環境だけど、それ以外で魔力持ちが固まるって滅多にないんよ。
かのんちゃんとコナちゃんはクラスメイトで魔力持ちやけどそこはコナちゃんが白雪一族だから、まあそこにかのんちゃんが居たって事で…それでもすごい確率やねって思ってたんやけど。
そうじゃなくて同じクラスに魔力持ちがいるなんて、それこそ宝クジにあたるくらいの確率なんよ。」
「宝クジに当たる確率なら結構当たるのでは…。」
「2人までなら確かに無くも無いかあって思ったんだけどね。」
「3人目がいるんですか!?」
「おそらくだけどね。」
そう言って渚さんが別のスライドを映す。そこには2人の男子高生が映っていた。
「左が新宿ユキヒロ、まだ確証がないけど状況的にはほぼ黒。右が大久保コウメイ、こっちはやや黒よりのグレー。
この2人がうちがマークしていた、さっきの五反田君のクラスメイト。」
「…雪守は状況証拠から対象を絞り込んでいくんだけど、最後は念力を使うところが確認出来ないと駆除の執行が出来ない。
ただ、新宿ユキヒロについては既に秩序を大きく乱している存在の最有力候補だから、彼が黒である確証がかのんから得られたらその時点で駆除したいと考えていた。」
「それって、私が見て「彼に魔力がある」っていったら彼は雪守に駆除…殺されるって事ですか?」
「そうなる。」
「それはちょっと責任重大ですね。これまでの経緯を教えてもらっていいですか?」
「もちろん!かのんちゃんにも無関係な相手じゃ無いと思うしね。
まず、桜井翔一君って覚えてる?」
「そりゃまあ。私が嫁ぐきっかけになった人ですし。…ん?そう考えると彼は私と冬香のキューピッドなのか。ねえ冬香、今更だけど感謝したほうがいいかな?」
「あなた、自分を殺しかけた元カレにまで感謝するとか菩薩か聖女なの?」
「聖女は有里奈だから…。」
「じゃあ私の意見を言わせて貰うけどかのんを殺し掛けた人間なんて恨みこそすれ感謝なんてしないわよ。」
「そっか。じゃあ感謝するのは辞めておくわ。」
「それでいいの?適当ね。」
「はいストーップ!ちょっと脱線しすぎやから本筋に戻すね。その元カレ君なんだけど元々魔力は無いはずだったのに外付けの魔力がくっ付いて暴れて強なってたって事は前に教えてもらったよね。」
「そうですね。異世界では「魔導兵」って呼んでましたけど、そんな感じでした。」
「そう、その魔導兵。この間討伐してくれたAランクの魔の物、あいつも最後に魔導兵みたいな魔力の暴れ方してたって聞いたけど。」
「はい。そのせいで倒すの大変でした。」
「そいつらを魔導兵に変えたのが多分、この新宿ユキヒロ。」
「魔導兵に変えた…?」
「うん。順を追って話すね。まずかのんちゃんとウチが初めて出会った公園。かのんちゃんは元カレと戦ってた時に人払いの結界が張られていたわけだけど、あれはあの場にいなかった第三者の仕業ってところまでは認識あってるよね。
実はあのあと結界を張った人物を追い続けてたんよ。とは言えあの時のホシは完全に姿を眩ませたから、元カレ君の足取りから彼に接触した可能性のある人物を片っ端から探して行ったって感じ。
それで元カレ君、一度道端で倒れて入院したのは知っとるかな?その時に私達が追ってるホシに接触した可能性があると思ってその日の行動を洗ってる中で新宿ユキヒロの名前が挙がった…とはいえ、この時点では何十人もいる候補の中の1人でしかなかったんやけど。」
何気にすごい事してるんですけど!?
「そんでこれ以上どうやって絞り込んでいこうかと思てたところに別の魔導兵が出没したんよ。こいつは繁華街のチンピラだったけど私達が駆けつけた時には既に3人殺してたしその場で駆除したんやけど、その時も人払いの結界は張られててね。また逃げられたんやけどここでかなり絞り込めた。ぶっちゃけこの時点で新宿ユキヒロとあと10人体ぐらいやったし、本命は新宿ユキヒロやった。
ただ、残念ながら確信するための最後の一押しが出来んのよ。その後も何人か魔導兵は駆除して、奴が一般人に魔力を押し付けて魔導兵に変えて人を殺させようとしているのは九分九厘間違いないと思うんやけど現場がどうしても
押さえられない。監視を付けたんやけど向こうも警戒したのかピタッと魔導兵の出現が止んでまってね。
そのまましばらく膠着状態が続いたんやけどある日、新宿ユキヒロがこっちの大久保コウメイととある山に入っていったんよ。山みたいに人がおらんところやと尾行は難しくて彼らが何をしていたかまでは分からんかった。
でも1週間くらいしてその山で魔の物、それもAランクが見つかったって言えばピンとくるやろ?」
「あの白オオカミを魔力を押し付けて魔導兵にしたのが新宿ユキヒロって事ですね。」
「状況はそう示している。大久保コウメイについては山に同行していたってだけやけどそこで魔導兵を作ってたとしたら無関係とは考えにくい。…だけど残念ながら証拠がない。そこでかのんちゃんへのお願いになるわけよ。」
「その学校に潜入して新宿ユキヒロと大久保コウメイに魔力があるか視ればいいんですね。…でも視るだけなら別に学校に潜入する必要はなく無いですか?」
「同じクラスに3人、魔力持ちの可能性が高い人間がいる。…果たして3人だけやろか?」
「…なるほど。クラス全員、というか生徒全員を視た方がいいって事ですね。」
「そういう事。彼ら3人をなんとかして話が終わるならそれでええ。やけどもし学校単位で何かしらの異変があるならそれを先に調べなあかん。
私達で調べた限り、異常はなさそうなんけど事が事だけに慎重を期したい。…行ってくれる?」
「ちなみに私ひとりで視るだけなら『認識阻害」で堂々と入れますけど?」
「それ、監視カメラには映ってまうやろ?」
「なるほど、カメラがあるような学校でしたか。」
「カメラの位置は事前に調べて教えておくけど、もし映った時にそこの生徒の振りできた方がええかなって。」
「さすがです。じゃあ冬休みが終わったら早速行って来ますよ。」
「ありがと!助かるわ!」
「…かのん、いいの?」
冬香が心配そうに聞いてくる。
「うん。あの白オオカミが関わってるとなると間接的に冬香に危害を加えられた事にもなるし、これ以上危ない目に遭わせる前に大本を叩いておきたいしね。魔力持ちなのが分かったら、それを伝えればいいんですよね?」
「うん。雪守としてはもう状況証拠は揃っとるからね。あとはかのんちゃんが魔力持ちだと確定してくれれば、少なくとも新宿ユキヒロには駆除執行やね。彼のせいで少なくとも10人、死んどるから。」
「かのん、彼らが魔力持ちだとしたらどういうケースが考えられる?」
有里奈が確認してくる。
「うん、おそらくだけど私達と同じように異世界に召喚されていたって可能性が高いと思う。魔力持ちってだけじゃなくて魔導兵を作れるのが怪しいね。もしかすると魔族国に召喚されて魔導兵を作らされていたのかもしれない。」
「だとしたらあなたが気をつけるべき事は?」
「探っている事は気付かれちゃいけないけど、特に私が異世界に召喚されていたって事は絶対にバレちゃだめだね。魔族国側に居て魔導兵を作っていたって事は向こうで私が殺した相手だって可能性もあるんだから。」
「分かってれば良し。」
有里奈は頷いた。
「ねえかのん、あなた達以外にも召喚された人っていたの?」
冬香が聞いて来た。
「向こうで会ったことは無いよ。でも向こうで日本人っぽい人の痕跡を見つけたり、ご先祖が日本から召喚された人に会った事はあるね。」
「そうなんだ…。それで、魔族国との戦争の時にその人達と戦ってたって事?」
「わかんないけどね。少なくとも私は日本人を相手にしていたって認識は無いんだけど…有里奈、そういう事ってあった?」
「私も無いわね。」
「だよね。まあ紅蓮の術で大規模に燃やし尽くす事も多かったからその時まとめて焼き殺してたかもしれないけど。」
「なるほどね、じゃあもし向こうがかのんを覚えてて正体がバレたらマズいんじゃない!?」
「まあそうなったらマズいね。でも私が行かないと魔導兵が日本で作られ続けちゃうかも知れないし、行かないわけには行かないよ。」
「…気をつけてね。」
「もちろん!」
私はグッとサムズアップする。
「かのんちゃん、本当にありがとね。じゃあ詳細はまた年明けの会合の後にでも決めようか。いま色々決めても忘れてまうし。」
渚さんはそういうとパソコンをテキパキと片付けてる。
「そういえば有里奈、帰省はしなくていいの?」
「本当は今日帰る予定だったんだけどね。アホな元カレのせいでこれが無駄になっちゃったわよ。」
そう言って今日の午前中の新幹線の指定席切符をヒラヒラとさせる有里奈。
「あっ!そうなん?ごめんな久世さん、やったら電話会議でも良かったのに。」
「渚さんは悪くないわ。それに電話会議しつつ1人であんなクソ寒い愛の告白されるくらいなら自由席で帰る方がマシだもの。」
「ああ、お金出すから指定席取り直していいよ。ここで予約しちゃう?」
そういって蓋をしたノートパソコンを再び広げる渚さん。有里奈はじゃあ遠慮なく、といって画面を覗き込む。
「この上野から高崎までの便でいいかしら?」
「オッケー。ほい、取ったよ。メールいった?」
「来たわ。ありがとう。」
「どういたしましてー。」
その後私たちはお昼ご飯を頂いて解散となった。渚さんと雫さんには年明けの会合で会うけど、有里奈とはしばらくお別れだ。お土産をいっぱい買って来てあげるって言ってくれたので楽しみにしていると伝えて別れた。
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「有里奈…なんでなんだ…。」
涙が止まらない。
「コウ、どうしたんだ?」
バンドのメンバーが声を掛けて来る。
「聞いてくれるよ、有里奈から電話があったんだ!」
「え、まじで?」
メンバー達は現時点でも俺の異世界召喚を信じてくれていない。ただ何処かで「有里奈」に出会って恋焦がれていると思っている。
「あの意味不明な事言ってる動画で番号分かって電話してきたって事か?」
「ああ…何度も言うけどあれは異世界で学んだ言葉、言わば俺たちだけにわかるメッセージなんだ。」
厳密に言えばユキとカノンも分かるだろうけど、そこは2人だけの暗号としたほうがロマンチックなのであえて残りの2人については周囲に説明していないのだが。
「それで嬉し泣きしてるって事か。良かったな。」
「良くない!」
「まさかフラれたのか?」
「俺のことは忘れてくれって…新しい彼氏も出来たって…。」
「マジで?お前と婚約していながら他に彼氏作るとかビッチじゃん!」
「ビッチとか言うな!…俺からのメッセージを見るまで異世界での事を忘れていたらしい。動画を見て思い出したけど、時既に時間切れって奴だな…。」
「へぇー。」
興味なさそうなメンバー達。
「まあそれなら仕方ないな。さっさと切り替えてくれよ、今日も歌番組への出演があるんだからな。」
「そんな簡単に割り切れるかよ!…せめて一目、会うことは出来ないかな。」
「フラれた女に会いに行くとか辞めておけよ。というかこの間街で出会ったって言ってなかったか?」
「ああ、向こうはこっちを知らないようだったから人違いかと思ってたんだけどあの時点では俺のことを覚えてなかったんだな。でも今は記憶が戻ったと言うことなら会って話せるかも知れない。」
「だからその記憶が戻った彼女にフラれたんだろ?」
「何か事情があるのかも知れないだろ?」
「新しい彼氏が居るって言われたならそれが事情だろ…。」
「そりゃそうだけどさ、最愛の人にもう一度だけでも逢いたいと思うのはそんなに悪い事なのか?」
「ストーカーは良くない事だと思うぞ?」
「正論のパンチはやめてくれよ…。」
そういえば死にたくなければ魔力を使うなって言ってたな。もしかしてこの世界でも魔力が使えるのか?まあ俺に出来るのは身体強化ぐらいだが。
「死にたくなければ使うなって事は、死にたくなったら使えばいいって事か。」
「お前何言ってるんだ?死にたいとか辞めてくれよ。」
「有里奈に拒絶されたこの世界で生き続ける意味はあるのだろうか…。」
「馬鹿野郎!」
バキッ!メンバーに殴られる。
「な、何をするだぁー!」
「俺たちが居るじゃないか!お前に取って俺達は一緒に生きていくに値しないって事かよ!?」
「なっ…!」
「これからビッグになって有里奈を見返してやろうぜ!そうしたらお前のもとに戻って来るかも知れないだろ!?」
「…ああ、ああ!そうだな!スマン、俺がどうかしていた!俺にやるべきは嘆き悲しむ事ではなく、よりビッグになって有里奈にもう一度振り向いて貰う事だもんな!
ありがとう!お前のおかげで目が覚めたぜ!」
仲間と握手をする。
「有里奈…いつか世界一の男になって迎えに行くから、待っててくれよ…!」
俺は仲間達とこのバンドを世界一にすると決意する。そんな俺の耳には仲間の呆れたような呟きは耳に入らない。
「とりあえずやる気を出してくれたな。単純で助かったぜ…しかし「有里奈」が実在するとはな。このまま忘れてくれれば良いけどそうもいかないか?ちょっとマネージャーに「有里奈」を探してもらっておくか。」




