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第1話 魔力持ちはひかれ合う?

 3日間の帰省の2日目、私はかりんとショッピングにやってきた。


「お姉ちゃん、かわいい妹にクリスマスプレゼントを奮発する予定とかある?」


「そんな予定もお金も無いんだよなぁ。スタバのラテでいい?」


「億万長者の嫁になったのにお財布事情は庶民のままなんだね。」


「かりん、真のお金持ちってのはケチなんだよ。」


 厳密に言うとケチではない。粉雪家の方々は使うべき時はしっかり使う。家にあるものも高くても良いもの…多分だけど…ばかりだし。つまり無駄遣いをしないのだ。


 そして私は無駄遣いが大好きだ。かわいいクマがいればつい買いたくなるし、なんなら同じものを持っていても「あの子に妹を買って行ってあげちゃおうかな」なんて思ったりしちゃう。


 そんな私はうっかり散財しないために、必要以上のお金を貰わないようにしている。先日Aランクの討伐報酬も粉雪家に入って私個人には少しお小遣いに色をつけてもらえた程度だ。そのボーナスは冬香とのペアリング代で既に使い果たしている。


「じゃあトッピングたくさんしてもいい?」


 かりんはラテにトッピングを乗せることで手を打ってくれるらしい。


「良き良き。たくさん乗せなさい。ニンニクマシマシヤサイマシアブラカラメでもいいよ。」


 私は胸をドンと叩く。お姉ちゃんの太っ腹なところを見せてあげよう。


「そんなしつこいラテは飲めないかな。お姉ちゃんがそれを頼むと良いよ。」


「馬鹿野郎そんなオーダーしたら痛い子だと思われるべさ!」


「特大ブーメランをキャッチしてくれて助かるよ。」


 かりんはホイップクリームやらチョコチップやらキャラメルソースからをかけてもらったラテを満足げに持っている。


「かわいい妹が嬉しそうで私も嬉しいよ。」


「お姉ちゃんは紅茶だけ?」


「うん。これが好きで飲んでるから遠慮はいらないよ。」


 適当な席についてのんびりティータイムを楽しむ。


「そういえばかりんは彼氏とどうなの?私なんかより彼氏にプレゼントもらった方が嬉しいでしょ。」


「まあまあやってるよ。でも彼もお金無いからそんなにおねだりはできないよ。」


「プータロー?」


「高校生。」


「やっとちょっとだけ情報を得たよ。同じクラス?同じ部活?」


「どっちでもないよ。違う高校だし。」


「えっ!なにそれ!?すごい!どこで出会ったの?」


「内緒。」


「気になるなあ。ねえねえ、お姉ちゃんの事も話すからかりんも話さない?」


「お姉ちゃんの話は出会いから馴れ初めまで全部知ってるからノーサンキューでーす。」


「くっ…そういえば。じゃあお姉ちゃんの元旦那さんとの馴れ初めならどうだ!?」


「ゲームの話?」


 はっ!かりんの話が聞きたくてつい異世界トークをしてしまうところだった!一昨日冬香に話したせいでなんかネジが弛んでるな、気を付けないと。


「じゃあクリスマスにデートしたのか、それだけ教えて!」


「はぁ…会ってないよ。それどころか1ヶ月近く会ってないよ。…彼は受験生だから今は追い込みなの。」


「と、年上っ!?」


 高3が高1のかりんに手を出すとかなんてこと!?ちょっとお姉ちゃんは許しませんよ!?100歩譲って付き合うのは許可してもかりんが18歳になるまではAまでしか認めませんからね!


「お姉ちゃん、こういうところでそういう発言は一緒にいて恥ずかしいから本気で勘弁して…。」


「はっ、声に出てた!どこから?」


「全部。…はぁ、自分は冬香ちゃんとやる事やってるクセに何言ってるんだか。というかAとかBとか、今時の高校生は普通言わないよ。」


「私たちは結婚してるし。」


 ちなみにAはキス、Bは寸止め、Cが本番。お父さんお母さん世代のものの言い方だけど私はなんか初々しい感じがするから嫌いではない。


「心配しなくてもその辺りはしっかり自制してるから。」


「なら良かったよ。それで、馴れ初めは?」


「グイグイくるなー。」


「だって久しぶりに会ったとはいえ、姉妹で話すことってそんなに多くは無いじゃない。やっぱ乙女は恋バナよ。」


「私はお金持ちの私生活とか気になるけどね。」


「えっとね、朝ごはん食べる時はテレビ見ない。」


「それ別にお金持ち関係なくね!?」


 結局上手にはぐらかされて彼氏の話はほとんど聞けなかった。写真も見せてくれないし。照れてるだけだと思うけど、もしも変な人と付き合ってたらと思うとお姉ちゃんは心配だよ。


 ティータイムを終えてお店を出る。このあとはブラブラとウィンドウショッピングの予定だ。


「…とその前にちょっとお花を摘みに行ってもよろしくて?」


「どうぞどうぞ。そこのベンチで待ってるね。」


 用を足してベンチに戻るとかりんがスマホを見ていた。


「お姉ちゃん、ちょっとだけ抜けていいかな?彼がたまたま近くに来ててクリスマスプレゼントだけでも渡したいって言ってきてるんだけど…。」


「キタコレ!紹介してもらうチャンスじゃね!?」


「恥ずかしいから嫌だって…。」


「冗談だよ、そこまで図々しくないから。じゃあ適当に1人で見てるから、行って来なよ。終わったら連絡して。」


「うん、ごめんね。」


 そう言ってショッピングモールの出口に向かうかりん。私は人気のない通路に入り、『認識阻害』の術を使って周囲の背景に溶け込みかりんの後を尾ける。


「かりん、ごめんね。野次馬根性とかじゃなくて、金髪タトゥー鼻ピアスとかの彼氏じゃないかだけでも確認させて欲しいだけだから…!」


 5分ほど歩くとかりんが誰かに電話をし始めた。そのまま周囲をキョロキョロとして、目的の人物を発見したのか手を振っている。


 合流したのは眼鏡をかけたどちらかといえば陰属性…つまり陽キャの反対っぽい男子だった。よく言えば優等生っぽい。受験生って言ってたから冬季講習の帰りだろうか、制服の上にコートを羽織っている。金髪タトゥー鼻ピアスDV彼氏じゃなくて良き良き、会話まで盗み聞きしたらさすがに悪いからさっさと戻りますか。あ、そうだ。合流しやすいようにかりんに魔力でマーカーをつけておこう。この間、白いオオカミに付けたときは気付かれて裏を取られたけどかりんは魔力が無いからそんな心配も無いしね。


 20mほど先にいるかりんに魔力マーカーを飛ばして付けるため、少し集中する。街中で人も多く、他の人に魔力が付かないように慎重にやらないと。…ほいっとな、よし上手く飛んでった。


 最後に、私の魔力の欠片がかりんに付いているか「視て」確認する。そのまま隣の彼氏さんも「視えた」のはほんの偶然だっだ。


「…あの人、魔力持ちじゃん。」


 なんと。かりんの彼氏は魔力持ちだった。しかも以前の冬香のように才能が有りながら気付いていないというタイプでなく、ごりごりに使いこなしている感じだ。魔力の流れが明らかに整っている。


「スタンド使いはひかれ合うって聞いたことあるけど、魔力持ちもそうなのけ…?」


 しかし見つけてしまったなら彼の素性を確認して雪守に報告する必要がある。何故なら私は粉雪の嫁なので。


 スマホを取り出しズームして彼の写真を撮る。以前の私のスマホはわりとしょぼい写真しか撮れなかったが、結婚したらこんなこともあろうかとカメラの性能がとても良いスマホを買ってもらっている。しかし撮る人間の腕は残念なんだよなぁ…。と思って撮った写真を見たら顔と制服ぐらいは十分判断できる品質だった。ヘタクソが使っても綺麗に撮れる、これがハイテクノロジーということか。


 あとは声が聞きたいんだけど、『盗聴』の術を使うと向こうに気付かれるリスクがあるなぁ…。仕方ない、苦手だけど唇を読むか。


 またね


 うん、またこんど、べんきょうがんばってね


 おい!もう別れる所じゃねえか!もうちょっと話せよ、君たち恋人同士だるおぅ!?


 そしてかりんがこっちに向かってくる。仕方ない、彼の素性調査は雪守に任せるか…。私はささっとショッピングモールに戻り如何にも1人でお洋服を見てましたってポーズでかりんと合流した。


「お姉ちゃん、お待たせ。」


「うん、早かったね。てっきりラブラブしてくるものかと思ったよ。」


「お姉ちゃんみたいに人前でいちゃついたりしないよ。」


「私達も別にいちゃついてはいないんだけどな。」


「自覚ないのが性質悪いんだわ。」


「ちなみに相手の名前とか教えてもらっても良い?」


「SNSやってないから検索しても出てこないよ。」


「くそ、お見通しってわけか。でもググったら何か出てきたりしない?」


「どうだろう。私も中学生時代の部活で大会に出た結果とかが出てくるから、名前くらいはひっかかるかも?」


「そこからパーソナルデータが引っ張れれば…っ!」


「そんな事いう人に教えたく無いんですけど。」


「ヒント!ヒントだけでも!」


「嫌です。あんまりしつこいと怒るよ?」


 声が本気になって来た。これ以上は聞けないな。


「ごめんごめん、妹の恋バナが楽しくてつい。もう聞かないよ。…いつか紹介してね。」


「しないといけない時が来たらね。」


 その後は当初の予定通りウィンドウショッピングを楽しんだ。しかしかりんは私の妹なのにスタイルが良い。というかぶっちゃけ胸が大きい。それを羨ましいがると「お姉ちゃんもそのうち大きくなるよ」と励まされた。

 だが私は自分のアラフィフになった時の身体を知っている。夢も希望もないとはこの事だ。


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「お風呂あがったよー。」


 明日は粉雪家に帰るので今日が帰省最後の夜。ちなみに実家に私の部屋は既に無く、昔から書斎が欲しかったお父さんの部屋に代わっている。なので私が帰省したときは客間にお布団を敷く事になっているのである。


 せっかくの帰省という事でみんなで団欒しようという事になり、夕食後に順番でお風呂に入る事になった。一番風呂を頂いた私は髪を乾かしておつまみを作るお母さんを手伝う。


「私もお酒飲んで良い?」


「だーめ、未成年が何言ってるのよ。」


 ちぇ。


 廿日市家の家族団欒と言えば何となくみんなでテレビを見ながらお酒とおつまみを頂く感じだ。私とかりんはジュースだが、隙を見てお父さんの日本酒を飲んでやろうと目論んでいる。


 テレビは年末の恒例、歌番組4時間スペシャルみたいな番組を流している。


「あ、この歌懐かしい。」


「お姉ちゃん、これって今年の1月にリリースされたばっかりの曲だよ?懐かしいも何もずっと流れてたじゃない…。」


「そう言えばそうだね。なんか30年ぶりくらいに聞いた感覚だったよ。」


「かのん、最近の曲が全部同じに聞こえるのは大人になったって事だな。」


「お父さん多分それ違うと思う。」


 なんて楽しい会話をしているとテレビに見覚えのある顔が映る。


ー 続いてはDragon's Gateの皆さんです。


 司会が紹介すると航とその仲間達がインタビューを受ける。航はもうすっかり勇者だった頃の面影もなく…ん?なんか勇者っぽい格好してないか?


「あ、ドラゲーだ。」


「かりん、知ってるの?」


「最近人気出て来たバンドだよ。アニメの主題歌がバズったの。」


「ほほう。」


ー リーダーのKOHさんは今年とても不思議な経験をなされたとか?


ー そうなんです。実は夏頃、異世界に召喚されて勇者として魔王と戦ったんです。


ー ええ!?


ー 10年間も異世界で戦って来たんですが、誰も信じてくれなくて(笑)。


ー いや、コイツある日急に「俺は勇者をやって来んだ!」って言い出して。お前昨日からずっと部屋にいたからって(笑)。


ー そんなKOHさんの不思議な体験をもとにしたニューシングル、歌って頂きましょう。「異世界LOVER」!



 私は目が点になっていたと思う。


「異世界だって。設定としてはちょっと痛いね。こういうこと言ってる人って後から黒歴史になるの確定してるんだからやめとけばいいのに。」


 かりんが辛辣に突っ込む。


「お、おう。そうだな。」


 私は曖昧に返事をする傍らでスマホを取り出しとりあえず有里奈と冬香、それと渚さんにメッセージを送る。


― 歌番組で勇者がヤバいっス。


 とりあえずヤバい以外に表現のしようがない心境だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 イタイ勇者・・・・(^^;; 妹ちゃんの彼氏の正体は!? 次回も楽しみにしています。
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