エピローグ
街はすっかりクリスマスムード。今日は冬香と2人でお買い物である。
「みんなでクリスマス会するの楽しみだねぇ。来年は受験生だし、流石にこの時期は勉強しないとかな。」
「かのんは行きたい大学決まったの?」
「うぐっ…もうちょっとだけ考えさせて下さい。」
実はまだ大学に行って学びたい事は決まってない。冬香と一緒に経営について学びたいかって言うとそれは違うんだよな。
かといって以前目指していた医学部も、自分が医者になるビジョンが見えないせいでなんかしっくり来ない。
「決めるのに時間がかかるほど受験で苦労するのはかのんだから私は構わないわよ。」
「ほぇぇ〜。」
「ちょっと狙い過ぎね、25点。」
有里奈より採点が辛い!
「ところでプレゼント交換は何にするか決めたの?」
「決めた決めた!可愛いやつにした!自分が欲しいくらい!」
「自分には来ないんじゃないの?」
「プレゼント交換は「自分が本気で欲しいもの」にするのが楽しむコツなんだよ。冬香も決めた?」
「候補は絞ってあるって感じね。今日決めちゃおうと思ったんだけど、かのんにバレちゃうわね。」
「じゃあ1時間だけ別行動しよう!私はその間に見たいお店があるんだ。」
「OK。じゃあ1時間後にここで良い?」
「オッケー!」
そうして冬香と別れた私は目当てのお店に入る。店員さんを捕まえて商品を見せてもらい、事前のリサーチ通りだったのでそのまま購入。出口まで見送って貰ったあとは戦利品をリュックの底に大事にしまい込む。この紙袋を見られたら冬香に一発でバレるからね。
そのあとちょっと本屋に寄ってファッション誌を購入。待ち合わせ場所に戻る。よし、1時間以内に戻って来れた。その場でしばらく待っていると冬香が戻ってきた。
「お待たせ。ごめんね、待った?」
「ううん、私も今きたところだよ。」
「嘘おっしゃい。ほっぺも手もこんなに冷たくしちゃって…中で待っててくれていいのに。」
「私の手が冷えてると、冬香の右ポケットにお招きするためのこの上ないほどの理由になるかなって。」
「その歌に沿うと私はいつか君の居ない道を歩く事になるんだけど?」
「オーイェーアハーン。」
「それで何買ったの?本?」
「そうそう、お嬢様っぽい冬服を揃えた方がいいのかと思いまして。」
「そのファッション誌、すごくフェミニン系だけど?」
「好きなの選んじゃうんだよねえ…。」
「かのんは無理に着飾らなくていいわよ、そのままが一番かわいいわ。」
「ほぇ!?」
「20点。」
「ほぇぇ〜。」
「ほら、体冷えちゃうから中に入りましょう。」
カフェに入って温かい飲み物を飲みながら軽食を頂く。
「冬香はプレゼント買えたんだよね?」
「ええ。私も自分が欲しいものにしたから、かのんに当たるとちょっと微妙かもね?」
「おブラ様?確かにサイズが合わないなぁ…。」
「なわけないでしょ。…でも意外とニアミス?」
「マジか。下ネタボケのつもりだったのに。」
「はい、今日はもう下ネタ禁止ね。」
私があまりに下ネタを連発するせいで冬香から下ネタは1日1回までという制約と誓約を結ばされている。だから今からの私は冬香に怒られないギリギリのラインを攻める事になる。リスクはバネ!ちなみにこれで私の念は1ミリも強くならないし、制約を破っても別に死なない。けど冬香は本気で怒る。
「クリスマスはさ、昼間みんなでパーティするじゃん?夜は2人でお酒飲もうよ。」
「女子高生にあるまじき発言ね。じゃあ美味しいシャンパンを用意しておかないと。」
この女子高生だって、ノリノリである。
「楽しみだねー、雪降るかなぁ。」
「ホワイトクリスマスがいいの?」
「うーん。冬香と一緒ならどっちでもいいかな?」
「…そう。私もよ。」
そう呟いて真っ赤になる冬香。可愛いやつめ。
「かのん、顔赤いわよ。」
バレたか。
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そして迎えたクリスマス会。とはいえ、プレゼント交換して美味しいお菓子とジュースと、ちょっとのお酒を飲んで後はおしゃべりをするという実態はただの女子会だ。
「怜ちゃんは恋人いないの?」
「そうですねー、かのん姉様より強い殿方がいれば考えないでもないですが。」
「有里奈と同じような事言ってると出会いを逃すよ。」
「あら、失礼ね。私は自分より強い人であってかのんよりは弱くても大丈夫よ?」
「大差ねぇ。」
「かのんさんは冬香さんのどこが好きなんですかー?」
「顔。」
「え、即答で顔?」
「胸。」
「最低だな!」
「尻。」
「おまわりさーん!こちらでーす!」
「あと全部かなぁ?」
「惚気うぜぇー!じゃあ冬香さんはかのんさんの何処が?」
「………。」
「あ!冬香さん真っ赤だ!あれに照れる要素あったか!?」
そんな恋バナに話を咲かせてみたり、
「私のプレゼントはかのん姉様からですね。…かわいい白くまさんのぬいぐるみ?」
「お!怜ちゃんに行ったかぁ。それは前に術の指南で使ったクマシリーズのクリスマスリミテッドバージョン、限定500体だよ。どやどや。」
「ありがとうございます、姉様だと思って可愛がりますね!」
「私は冬香ちゃんからね。これはパジャマかしら?ジェラピケ?」
「はい。着心地良いって聞いて。私は試した事ないんですけど。」
「ありがとう。使わせてもらうわね。」
「私のは…綾音さんのかぁ。」
「いや開けて下さいよ。」
「なんかこのメンツだと綾音さんがネタに走ってそうなんだよなぁ。」
「走ってますよ!?だからこそ開けて下さいよ!」
「走ってるのかよ!…ち、仕方ねえなあ…。重っ。
え?何これ羊羹?」
「はい!老舗和菓子屋の特大サイズの羊羹です!めっちゃおいしいです!」
「お、おう…。」
「でもカロリーヤバいのでそれをかのんさんが1人で食べたら絶対太ります!かのんさん、それを私だと思って大事に食べて下さいね!?」
「なんでだよ、みんなで食べるよ!」
「えぇ!怜さんにはクマを自分の身代わりにするのを許すのに私の羊羹は私だと思ってくれない!?」
「綾音さんってこんなに面倒臭い人だっけ?」
「だいぶお酒入ってますね。」
こんな感じで和気藹々とプレゼント交換したり。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「それでは冬香さん、かのん姉様。次にお会いするのはお正月ですね。」
怜ちゃんが礼儀正しく礼をする。
「うん、またね。」
「今日はとても楽しかったです。またみんなで集まりましょうね。」
「そうだね、また集まれるといいね。」
「はい。ではおやすみなさい。」
みんなが帰ったあと、冬香と2人で片付けをする。
「みんな楽しんでくれて良かったね。」
「そうね。去年まではこんな風に集まってパーティするなんて考えもしなかったから。」
「またやろうよ。クリスマスだけじゃなくてさ。せっかく仲良くなったんだもん。楽しい思い出たくさん作ろ。」
「…ええ。」
片付けが終わったので2人でしっぽりお酒タイムである。冬香が用意してくれた美味しいシャンパンを頂く。
「乾杯…、メリークリスマス。」
「かんぱーい。」
飲み過ぎには注意しないとだな。この一杯でやめておこう。
「かのん、あなたにクリスマスプレゼントがあるわ。」
「奇遇だね。私からも冬香にクリスマスプレゼントがあるよ。」
「じゃあせーの、で交換する?」
「いいね。せーのっ!」
私は用意していた紙袋を冬香に渡す。
「あら、この特徴的な青い袋って…。」
そういって中から箱を取り出す冬香。
「開けてみて。」
パカッ。
「指輪が2つ…もしかして、ペアリングかしら?」
「正解!」
「着けてみていい?」
「もちろん!」
冬香は指輪の片方を取り出し、右手の薬指に着ける。装飾の少ないシンプルなリングだが思った通り冬香によく似合う。
「…私だけだとなんだか照れるわね。かのんも着けてよ。」
「ではお言葉に甘えて。」
冬香からペアリングを渡されたので私も右手に着ける。
「ふふ、お揃い。」
「ペアリングって思ったより感動するのね。」
指輪をつけた手をあげたり回してみたりと、珍しげに眺める冬香がかわいい。
「私もこれ、開けてみていい?」
「ええ。」
冬香から貰った箱を開けると小さめの腕時計が入っていた。
「あ、かわいい!」
「どうかしら?」
「着けてみるね!」
いそいそと左手に着ける。うん、かわいい。
「冬香、ありがとう!」
「どういたしまして。」
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間接照明で照らされた部屋で私と冬香は見つめ合う。冬香のほんのりと上気した顔が色っぽかった。
「ねぇ、かのん…。」
「うん?」
「私はまだ信用して貰えないのかな…。」
「…そういう事じゃない。」
まだ、私に勇気が出ないだけ。
「私はかのんを愛してるわ。」
「…うん、私も冬香を愛してる。」
「かのんの全部を受け止めたいと思ってる。…どんな過去だってね。」
「………。」
「それにね。」
「………?」
「有里奈さんだけ、かのんの全部を知ってるなんてズルいじゃない。」
聞き取れるかどうか、ぐらいの小さな声で呟いた冬香。そして拗ねるような表情で黙り込んでしまった。そんな様子を見て、ああそうかと理解する。私が話せるかどうか葛藤している間、冬香も辛かったんだ。
「全然愉快な話じゃないよ。」
「うん、わかってる。」
「冬香は私を軽蔑するかもしれない。」
「それは…聞いてみないとわからない。」
「私は、冬香に嫌われるのが怖いんだ。」
「嫌いになんてならない。」
「吐き出して受け入れて貰ったとして、今度は冬香の重荷にならないかな。私だけ楽になっちゃわないかな。」
「…辛い事なら尚更、私はかのんと分け合いたいわ。」
真剣な表情で見つめてくる冬香。きっと勇気を振り絞って聞いてきてくれてるんだろう。これを断ったら冬香は2度とこの話をしない。そんな予感がした。その代わり、私と冬香の間には永遠に埋まらない小さな小さな亀裂が入る、これも確信めいた予感だった。…それは嫌だなあ。
だから、私は決心した。勇気が湧いた訳ではないが、冬香の真剣な決意には応えないといけないと思ったから。
身体を起こし、服を着る。
水差しからコップに一杯の水を汲み、一気に飲み干す。
「長くなるけど、何処から話そうか。」
「…最初から。」
「そうだね…。でもまずは結論を話しておこうか。順番に話していくと、途中でやっぱり無理ってなっちゃうかも知れないし。」
「…うん。」
「冬香。私はね…異世界で人を殺してる。」
私は冬香に話しかけるというよりは、独り言を呟くように話し始める。
心臓がバクバク鳴っているのが分かる。水を飲んだばかりなのに口の中がカラカラになる。
「誰をって聞かれてもほとんど答えられない。名前も知らない人達を大勢、殺したから。何人って聞かれても分からない。街ごと丸々焼き尽くしたのは一度二度じゃないから。
この世界に帰りたい一心で、私は罪もない人を何万人も殺してきたんだよ。」
冬香はどんな表情で聞いているのか、今の私には彼女の顔を見ることが出来ない。だから淡々と手元の本を読むかのように、下を向いたまま話し続ける。
「じゃあ、最初から話すね。異世界に召喚されてから、戦争に駆り出されて、最後は王国を滅ぼすまでの全部を。」
誰も幸せにならなかった話を。
これにて2章完結となります。
3章についてなんですが、大筋の流れぐらいしか出来てないのでしばらく書き溜め期間に入らせて頂きGW明けくらいに投稿再開したいと思います。
また過去(異世界)編ですが、本編に差し込もうとするとどう頑張ってもグダグダと不自然な流れになるので別枠で連載にします。
「異世界に召喚されて聖女と言われましたけど、一緒に召喚された魔女のメンタルが心配です!」
↑異世界オンリーなのでハイファンタジーに投稿しました。こちらを読まなくても本作品単体で完結させるつもりですが、合わせて楽しんで頂けると幸いです。




