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第16話 勝利の後で

 かのんが言った通り、麓の部隊はオオカミゾンビの群れと交戦していた。


「燐様!」


「隊長!状況!」


「は!多数のオオカミ型の魔の物が押し寄せて来ております!各個体の強さはDランク相当ですが数が多く、徐々に戦線が押し下げられて降ります!」


「死傷者は?」


「不意打ちで1名が重傷を負いました!」


「分かった。私も打って出る。」


 戦場全体を俯瞰し、戦力が足りないところへ駆け付ける。部隊を下がらせてオオカミゾンビ達を蹂躙していると部下から声をかけられる。


「燐様!あれは!?」


 刺された方を見るとそこには巨大な炎のドームがあった。新手の敵か!?一瞬焦るが、あの炎から感じる念は先程山で感じたものと同質であった。


「…心配するな、あれは味方の術だ。」


「あんな大規模な術が…。」


 その時、残っていたオオカミゾンビ達が崩れ落ちる。かのんがAランクを討ったのか?しかし炎のドームは未だ赤々と渦巻いている。まだ戦っているが、Aランクに死体を操る余裕が無くなったと見るべきか。


「負傷者を集めて応急処置にあたれ!戦闘可能は者は次の襲撃に備えて待機!」


 私は炎のドームに向かう。


 近くに向かうとドームの中から激しく戦う音が聞こえて来る。万が一かのんが負けた場合、私がこの中に居るであろうAランクを討伐しなければならない。


 しばらく待つと戦う音が止む。炎のドームの紅い色が徐々に薄まり、中の様子が伺える。


 ドームが完全に消えた時、丘の中心付近で抱き合うかのんと冬香。その近くには黒焦げになり首を落とされたAランクのオオカミが横たわっていた。


「かのんは生きているか?」


「はい。ちょっと疲れて眠ってしまいましたが。命に別状は無さそうです。」


 言いながら冬香はかのんに回復術を使っている。よく見れば満身創痍のかのんに比べると冬香はほぼ無傷であった。冬香を守りながら戦ったということか。Aランク相手に大したものだ。


 見ているとかのんの傷がみるみる治っていく。このまま完治するのかと思ったが、途中で冬香は回復を止める。


「…念力が尽きたのか?」


「かのんだけ治して力を使い果たすわけにもいかないので、とりあえず大きな傷だけ塞ぎました。残りは後でも大丈夫でしょう。

 部隊の人たちに回復が必要な方はいませんか?」


「そういうことか、気遣い感謝する。」


「いえ、隊長さんと約束しましたから。」


 私はかのんを背負い、冬香と共に部隊の待機場所へ向かう。負傷者を集めたテントに辿り着くと、怪我の大きな者から冬香の回復を受ける。


 ひと通りの治療が終わると今度こそ念力を使い果たしたのか、冬香もフラフラになっていた。


「迎えは呼んである。しばらく休んでいろ。」


「ありがとうございます。」


「こちらこそ、治療に感謝だ。…あの車の後部座席にかのんも寝かせてあるから、隣にいてやるといい。」


 冬香は改めて礼を言うと車に向かっていく。私はこれから後処理だ。さて、戦闘で楽をさせてもらった分こっちに注力しなければ。


------------------------------


 目が覚めると豪華なベッドの上だった。目論見通り燐様が上手いこと後処理をしてくれて私を運んでくれたようだ。よきよき。


 怪我は冬香が治してくれたのかな?身体はほとんど痛みも無い。魔力はほぼ回復しているけど使いすぎの反動かまだ少し頭が重いかな。


 周りを見ても誰も居ない。ここが何処か、起きて確認してもいいんだけどそのうち誰か来てくれる気もする。よし、まだ怠いしもう一回寝よう。二度寝最高!おやすみなさい!


 私はフカフカの布団に潜り、眠気に身を任せる。スヤァ。


 …。

 

 ……。


 ………。


「これ、多分一回目が覚めて二度寝してるわよ。」


「本当ですか!?傷は治したはずなのに丸一日以上目覚めなくって、心配で…!」


 ん?誰か横にいる?話し声に気が付き目を開ける。そこには心配そうに私を見つめる冬香と、呆れたように私を見下ろす有里奈がいた。


「2人ともおはよう。」


「あ、かのん!大丈夫!?」


「うん、もう大丈夫。ちょっと無理して魔力を使い過ぎて枯渇状態になっただけだと思う。」


「でもあなた、一度目が覚めたでしょ?」


「あ、はい。」


「有里奈さん、そこまでわかるんですか?」


「ええ、顔色がだいぶ良かったから。魔力が枯渇して意識を失った場合ってもっと青い顔してるのよ。それである程度まで回復すると大抵意識が戻るわ。

 そのあと二度寝した人はこんな顔してるって典型だったから。」


「でもそれって回復しきってはいないって事ですよね?だったらもう一度寝てしまっても仕方ないのでは?」


「自然に目が覚めた時点で十分動けるはずよ。少なくとも泣きながら心配してる冬香ちゃんに無事を伝えられる程度にはね。」


 有里奈の冷静な指摘が突き刺さる。


「まあこの子が魔力枯渇したあとポンコツになるのは昔からだけどね。シリアスモードからの反動が大きいのよ。」


「ちょっと待て?そんな設定だった記憶はないんだが?」


「私たちはみんな言ってたわよ。シリアスモードとポンコツモード。」


「みんなって誰!?クラス全員!?どうせ有里奈と航と幸くらいでしょ!3人はみんなとは言いませんーっ。」


「ごめん、王国の人達もわりと言ってた。」


「ひぃっ!」


「ともあれ、このモードになってるなら心配はいらないわ。本当にマズい時はこうならないから。」


「良かった…。あ、かのんが目を覚ましたら連絡するようにって上雪の御当主様に言われてたんです。ちょっと電話して来ますね。」


 冬香はスマホを持ってパタパタと部屋を出ていく。


 2人きりになると有里奈はベッドの端に腰掛けた。


「『紅蓮」を使ったんですってね。」


「うん。…ごめんね。」


「別に謝る必要はないけど。必要だったんでしょ?」


「うん。」


 有里奈は私の正面に立つと顔をじっと見つめてくる。


「いいんじゃない?この後に及んでうじうじしてたら気合い入れてやろうかと思ったけどそんな事もなさそうだし。」


 そう言うと立ち上がり、部屋の扉に向かう。


「じゃあ私は帰るわ。かのん、またね。」


「うん、また。」


 笑って手をヒラヒラと振り部屋から出ていく有里奈。入れ違いに冬香が戻って来た。


「冬香、一度起きた時にすぐ声をかけなくてごめんね。なんかぼーっとしてた。」


「大丈夫。私の治療がまずかったのかなって心配になって有里奈さんに来て貰っちゃっただけだから。何ともないみたいで良かったわ。

 ところでかのん、このあと燐様が話せるかって。起きれる?」


「うん、大丈夫。でもその前にシャワー浴びていいかな?」


「平気よ。浴室はそっちの扉ね。」


「ありがとう。ちなみにここはどこ?」


「ああ、上雪のお屋敷の客間よ。戦いのあとここに運び込まれたの。」


「なるほど。」


 シャワーを浴びて用意されていた服を着る。この「気が付けば服が用意されている」って状況、慣れないなぁ。


「キレイなかのん!」


「はいはいキレイキレイ。」


「ちなみに私のお化粧ポーチはどこでしょうか…?」


「…残念ながらキャンピングカーが爆発炎上してリュックごと燃え尽きたわ。お財布とスマホだけは念のため備え付けの金庫に入れておいたから無事だったけど。」


「あ、そうなんだ…。」


「ごめんね、かのんのリュックまで持ち出す余裕がなかったの。」


「ううん、大丈夫。冬香が無事でいてくれたことの方が大事だから。」


「ありがとう。化粧品だけど、ベースメイク用のは洗面所に備え付けてあったでしょう?」


「あるのは気が付いたけど、なんか高級なボトルに入っててプチプラコスメ女子にはハードル高いんだが?」


「プチプラも良いものだとは思うけど、粉雪の人間としては白雪ブランドの物を使って欲しいわね。いい機会だし切り替えたら?」


「白雪ブランドのやつだったんだ?」


「ええ、社員割効くわよ。」


 そこだけ庶民的だな!でも助かる。


 そんなわけで洗面所に引っ込んでメイクをする。お高いだけあってなんか化粧水も乳液もめっちゃ浸透する気がする!気がするだけかも!


「キレイなかのん:破!」


「すっぴんは序だったの?じゃあがっつりメイクが急?」


「Q。」


「そっか、かのんですもんね。準備ができたら今度こそ燐様のところに行きましょうか。」


「だいぶ待たせちゃったかな?」


「30分後に行くって言ってあるから、丁度いい時間よ。」


 さすとう!


------------------------------


 応接間に通された私たち。ちなみに私はあのあと丸一日以上寝ていたらしく、討伐は土曜日の深夜だったが今はもう月曜日の午前中だ。


「かのん、もう大丈夫か?」


「はい。ありがとうございます。」


「こちらこそ礼を言う。かのんの迅速な判断と冬香の回復術のおかげで部隊は損害ゼロで乗り切る事ができた。

 もしもお前達が居なかったら少なからず死者を出していたと思うし、最悪全滅もあり得た。そのぐらい特異な個体だったな。」


「損害ゼロですか…?」


「なんだ、不満か?」


「いえ。確か私、ゾンビにされた隊員さんに銃で撃たれたので反撃で両腕と両脚を吹っ飛ばしたなと思って。だから死者1名はいるんじゃないですか?」


「ああ!あいつだな!奴はオオカミゾンビと戦っていたら急に身体の自由が効かなくなり、気が付けばかのんを撃っていたらしい。直後に手足を撃たれてその後のことは記憶に無いと言っていたよ。ぶっちゃけ彼が一番の重症者だったが、冬香の術で元通りだ。

 冬香も言っていたが、あのオオカミの奴は対象が生きていても操る事が出来たようだな。死体ほどの精度ではなかったが。」


「生きていたんですね、良かったぁ…。」


 いやほんとに良かった!あの時なんとなく頭を撃ちたく無くて手足を撃ったんだけど、頭だったら私が犯人になるところでした!あぶねーっ!


「さて、討伐報酬についてはあとで冬香から聞いてくれ。今回もガッツリやりあってお互い納得のいく配分となっているぞ。」


 ニヤリと笑う燐様。


「私から話すのは2点だけだ。一つかのんはAランクを一人で討伐できたのか、という点について。オオカミゾンビについては実質うちの部隊が戦ったからな。


 だがあの炎のドームが出来たあと、オオカミゾンビ達は糸の切れた人形のように動かなくなった事から、かのんは仮にうちの部隊がいなかったとしてもAランクのオオカミを討伐できる状態であったと判断できる。


 親玉の白いオオカミについては纏っている魔の量、白く変異した毛皮、持っている透明能力と死体操縦の危険さからAランクで確定とした。


 以上より「粉雪かのんはAランクの魔の物を単騎討伐できる武力がある。」が結論だ。やったなかのん。最高戦力級の仲間入れた。」


「ワーイウレシイナー。」


「心底どうでも良さそうだな。まあ気持ちは分かる。最高戦力級だなんて言ってなんやかんや言うのは外野だけで本人としてはどうでも良い。それどころか余計な枷が増えるだけだからな。」


「分かっていただけて幸いです。」


「まあこれからは最高戦力級の仲間としてよろしくな。さて、2つ目。ちょっとそこのモニターを見てくれ。」


 燐様がパソコンを操作して応接間に備え付けのモニターに画面を出力する。


「これは昨日の朝、あるSNSに投稿された写真だ。」


 そこには私が展開した紅蓮の檻が映っていた。


 ―昨夜星を見てたら隣の山にクソデカい火の玉出来ててビビった。


 そんなコメントと共にそこそこ鮮明映っている写真。


「実はこれがネット上で話題となっている。ちなみに昨日の夕方のニュースであるテレビ局が取り上げている。」


「マズいんですか?」


「まあテレビ局側にはこの件を報道しないよう既に圧力がかかっているからそこは問題ない。ネットの方はこれだけ広がってしまうと正直どうしようも無いな。」


「結構インパクトある写真ですねコレ。距離はあるけど天体観測するような人だからいいカメラとレンズを持ってたのかな。」


「最近はこんな風に世界中に発信されるからどうしても対応が後手に回ってしまいがちだ。いつもはAIが文章や写真から魔の物の討伐に関係ありそうなモノを見つけ、適宜排除しているんだが今回は地名がはいっておらず、かのんの作った炎のドームがAIの学習前だったこともあって発見が遅れたんだ。」


「申し訳ございません。」


「ああ、術を使ったことはいいんだ。必要だったんだろう。今後使うなと言うつもりもない。

 ただ良い機会だからこういった事もあって白雪も対処していると伝えておきたかったんだ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「よし、それでは話は終わりだ。良い時間だし昼食は一緒にどうだ?」


「ご一緒させて頂きます!」


 これは冬香と「時間的にお昼ご飯に誘われるかもしれないからその時は行くと即答しましょうか。」と相談していたのだ。


 私たちは食堂に移動してお昼ご飯を頂く。なんだかんだ会話が弾む私と燐様。冬香は少し緊張気味だ。


「かのんは怜に「かのん姉様」と呼ばせているんだな。」


「そうなんですよ。すごい慕ってくれて。実家に妹は1人いるんですけどあんな風に懐いてはくれないので、かわいい妹が増えたみたいで嬉しいです。」


「あの子は例の回復術指南に行ってから人が変わったように明るくなった。感謝しているぞ。」


「良かったです。今度別の術も教える約束してるんですよ。2ヶ月見てましたけど怜ちゃんは私より才能もあるし、すごい努力家なのでうかうかしていると追い抜かれちゃうかもしれないですね。」


「ほう、それは恐ろしいな。あの炎のドームを作る術も教えるのか?」


「…あれだけは私にしか使えない術なんですよ。異世界でも多くの人が術の習得に挑戦して諦めました。」


「そうなのか。炎を操る術は瑞稀も得意としている。あいつも報告を聞いて驚いていたぞ。」


「瑞稀さんも使えるんですか!?それは知りませんでした。」


「ああ、だがあれも白雪の念力とは一線を画す力だ。最高戦力級と呼ばれる者は例外なく「自分だけの特別な力」を持っている。無論、私もな。

 かのんの場合はそれがあの炎になるわけだな。ちなみにあの炎に名前はあるのか?」


「『紅蓮』っていいます。」


「ほう。良い名前だ。かのんが付けたのか?」


「術の開発に協力してくれた仲間と一緒になって考えました。私は『メラメラのカイザーフェニックスfeat.邪王炎殺黒龍波』が第一希望だったんですけどダサ過ぎるからこっちにしておけって言われて。」


 コウはどうしても『紅蓮』を推したかったらしく、お互いに譲らなかった私たちはギャンブルで決着をつけた。だがその場でコウはイカサマをしたのだった。それを見破れなかった私は敗北し、かくしてこの術は『紅蓮』となった…という経緯がある。


「確かにかのんの案はあまり格好良くないな。その仲間に感謝するといい。」


「解せぬ。」


 この話をするとみんなコウの肩をもつ。アリナもユキも、コウの味方をした。だってコウが「今のはメラゾーマではない…メラだ」ごっこしたいって言ったんだよ?だったらカイザーフェニックスは絶対必要じゃない!?


 そのあとは燐様の娘さんの話を聞いたりして楽しい時間は過ぎていった。帰りに冬香が「燐様って親バカだったのね…知らなかった。」と呟いていたが、私的には燐様に共感マックスだったり。

 

 3〜5歳くらいの娘って1番可愛いんだよ!おませさんぶろうとする姿なんて萌え萌えですわ。

 

 これが7歳くらいになると生意気さが強くなってくるんですよーと心の中で育児の先輩ぶっておいた。


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