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第13話 Aランク討伐

 なんで私が問題なのさ。


「なんで私が問題なのさって顔してるわね。


 さっきも言ったけど普通はBランク以上の単騎討伐は出来ないの。Aランクは言うまでも無いわね。でもにどの家もまあひとりふたりは化け物みたいに強い人って居てその人達はAランクの単騎討伐をやっのけているのよ。そういう人は総称して「最高戦力級」と呼ばれているわ。


 Aランクを単騎で討伐できることが「最高戦力級」として扱われる前提みたいな感じね。」


「冬香はその最高戦力級の人が誰かは知ってるの?」


「例えば白雪だと前当主様と瑞稀さん。あと今日話をしてきた上雪の今の御当主も最高戦力級ね。」


「各家の当主が最高戦力級ってこと?」


「そう言うわけでも無いけれど。下雪と雪森の御当主はBランクの討伐くらいは余裕でできるでしょうけど、最高戦力級としては名前が挙がっていないわ。」


「わかった、ありがと。じゃあ私も最高戦力級ってこと?」


「本当にAランクを単騎討伐したのなら、候補になるって段階ね。あくまでも上雪の配下の1人がそう証言しているだけで書面上はBランクの単騎討伐だから。


 …まあBランクの単騎討伐も十分すごいのよ?雫や渚あたりも相当の実力者でBランクの単騎討伐は出来るだろうけど、それでも無傷とはいかないと思うわ。」


「あー、あの2人でそのくらいなんだ。魔の物の強さの測り方ってピンと来なかったけど、強さを知ってる人と比較してもらえると分かりやすいね。」


「かのんの話に戻るわね。最高戦力級っていうのは各家の最高戦力と言うよりは一族全体として見た時に一番強いグループという事なの。だからどこかの一族に偏るのは好ましく無い。」


「理屈はわかる。」


「だからかのんが最高戦力級だってなると他の家は黙ってないのよ。パワーバランスが崩れるからね。」


「でも他の家にはひとりふたり居るんでしょ?ウチに私1人いて問題ある?」


「前にも言ったでしょう。お金を管理する粉雪が過剰な武力持つのは危険だと言う意見もあるのよ。かのんは私の妻だから他の家の配下につけるわけにもいかないしね。だから「粉雪は他の分家を押さえつけるため、もしくは一族に叛逆するためな最高戦力級を迎え入れた」なんて痛くも無い腹を探らせる口実になっちゃってるわけ。」


「なんじゃそりゃ…。」


「まあそう言う事を言うのは隠居した年寄り連中だけどね。とはいえ、かのんがここまで強かったっていうのが瑞稀さんとしても想定外だったとは言っていたわ。」


「だんだん話が見えて来た。」


「そういうこと。結局かのんが討伐したのがAランクかBランクか。会議室で話していても仕方ないって事でだったらAランク討伐に参加させてみればいいじゃないかという話になったわけ。」


「そういう事ね。でもAランクの魔の物なんてそうそう居ないんだよね?」


「そうね。魔の物を100体討伐したら90体はDランク、9体がCランク、1体がBランクぐらいの割合よ。Aランクはごく稀に発見されるってぐらいで1年に1回も討伐されないわ。」


「それが丁度今日、討伐する事になっていたと。」


「そう。年に1回出るか出ないかのAランクがこの間と今日って連続して出てくるのは珍しいケースだけどね。」


「はあ…私はどうすればいいの?」


「現着したら事前に備えていた討伐部隊と合流して対象個体の所まで行く事になると思うわ。接敵したら討伐部隊は待機、かのん単騎でAランクと戦ってもらう事になるんじゃないかしら。」


「それは、倒した方がいいの?私が強いと都合が悪いならわざと負けるのもやぶさかではないけど。」


「変な気を使わなくていいわよ。大体私も父さんもちょっと怒ってるのよね。かのんの意思も都合も何も聞かずにAランクを倒せだなんて勝手に決めて。いくら強いって言ったってAランクと戦ったら怪我だってするかも知れないし下手したら死んじゃうかもしれないじゃない?

 家同士のメンツだのパワーバランスだのためにかのんが危険な目に遭うなんて許容できないって父さんも反対してくれたんだけどね。」


「そうだったんだ。お義父様もありがとうございます。」


 お義父様はシートにもたれ掛かり、目を瞑ったままの姿勢でサムズアップをした。


「でも結局はこれも白雪裁定。かのんには万が一が無いようにサポートをつけた上での作戦になるとのことよ。」


「サポート?」


「上雪御当主様が同行しますって。なんやかんや理由をつけて、結局それが目的だったってこと。実力があればこそ、屁理屈を捏ねれば大抵の無理を通せちゃうといういい見本を見せて貰えたわ。」


「…じゃあ私も最高戦力級に認定されれば今後何か言われても突っぱねられるってことか。」


「理屈の上ではそうだけど、無理だけはしちゃだめよ?」


「まあこの間の鹿くらいの強さなら苦戦はしないと思うけど。あ、そういえばアンチマジックフィールド持ちだった時のために火力のある武器って借りられる?やっぱり拳銃が理想かな?」


「北斗の技はもういいの?」


「あんなの武器が無いから仕方無くだよ!」


「フフ、とりあえず武器を借りたい旨は伝えておくわね。」


 そういうと冬香はスマホを取り出しメッセージを送る。


「さて、到着まであと30分ってところかしら。あと何か聞いておきたいことは有るかしら?」


「うーん、Aランクの魔の物ってどんなやつか聞いてる?」


「姿かたち?特異能力?」


「両方知ってれば教えて欲しいけど。」


「オオカミの姿をしているとは聞いたわね。能力があるのかどうか、あるとしたらどんな能力がまでは聞いてないわ。把握して無いんじゃないかしら。」


「まあ人間じゃ無いなら大丈夫か。」


「…魔の物が相手でも、人間は殺せない?」


「ケースバイケースかな。でも力試しみたいな形ではやりたく無い。」


「…そう。」


 冬香は何か考えるように目を伏せる。まあこんな露骨な態度を取ってたら何かあるって分かるよなあ。それでも有里奈に言ったように、まだ私は全てを冬香に話す勇気がないんだ。


「…有里奈と言えば。」


「ん?有里奈さんがどうかした?」


「あの子って今結局どこの所属になるの?フリーランス?」


「回復術指南では白雪が雇った事にはなってるけど、まあ全体的な認識としては粉雪寄りのフリーって感じかしらね。何で?」


「さっき言ってた最高戦力級のパワーバランスの話。

 あの子ってタイマンなら私より強いよ?」


 有里奈は回復術特化といいつつ、まず身体能力強化の強化倍率が半端無い。極めると人間こんな速さで動けるんだーすごーいって思う。そしてタイマンでは与えたダメージは瞬間的に回復するため彼女の魔力が尽きるまで傷一つつけられない。何が反則かって自分対象の強化と回復は魔力の利用効率が良すぎるようで、普通に戦ってる限りはまず魔力が枯渇しない。


 極めた身体強化と自己回復によるゴリ押し。これがシンプル故に最強の聖女の戦闘スタイルだった。


「…私は何も聞かなかった。」


「有里奈は私より強いよ?」


「私は何も聞かなかった。」


「有里奈はぁー!私よりつよいよー!?」


「何も聞いてないんだってばぁ!これ以上考えなきゃいけない事を増やさないでーっ!」


 聖女の秘密をがっつりカミングアウトしている内に車は集合場所である山の麓に到着する。


 既に上雪勢は到着していたようだ。


りん様、お久しぶりです。」


 上雪燐。上雪家の現当主の女性。まだ30歳で瑞稀さんとは幼馴染らしい。この方は結婚していてなんなら幼稚園児のお子さんがいる。


「かのん、披露宴以来だな。息災だったか?今日は急に呼び出して済まないな。」


「Aランクの魔の物の討伐と伺っておりますが。」


「うむ。この山を縄張りにしているらしい。」


 そう言って山を見上げる。


「場所は分かるか?」


「さすがに山全体となると察知はできませんね。」


「じゃあ登るしか無いな。」


「白雪の高性能AIで場所はわからないんですか?」


「スノーホワイトを知っているのか。あれは初期検知に特化しているから細かい場所を探すのは苦手なんだ。一応オオカミのような獣だというとこはわかっている。」


「なるほど。」


「そうだ、武器を要望していたな。残念ながら渡せるような銃はない。Aランク相手だという事で討伐部隊の用意しているのは高火力のアサルトライフルやサブマシンガンばかりで、訓練なしで使えるような小型の拳銃は個人が忍ばせている程度のものしかない。いざという時のための武器を取り上げるわけにもいかなくてな。

 その代わりナイフは最高級のモノを用意した。」


 渡されたのは刃渡30cm程度もあるがっしりとしたナイフだった。ブンブンと振ってみる。多少重いがこれなら魔の物がアンチマジックフィールド持ちだったとしてもスムーズに討伐できるだろう。


「じゃあ行きますか。タイムリミットってあります?」


「夜明け前には討伐隊は撤収する予定だが、私はいつまででも行けるぞ。」


「野生の獣を狩るのに敢えて夜を選ぶのってやっぱり一般人対策ですか?」


「そうだな。最近は特にすぐにSNSに画像がアップロードされたりするから、油断は出来ない。」


「わかりました。明るくなる前に終わるように頑張りましょう。」


「ああ、よろしく頼む!」


 出発前に用意してもらったキャンピングカーに乗り込んで服を着替える。自衛隊が来ているような迷彩服で、非常に丈夫で動きも阻害しない。


「随分立派なナイフね。扱った事はあるの?」


 既にキャンピングカーで待機している冬香が聞いて来た。


「昔これ一本でゾンビの跋扈する洋館から脱出したり、やたら不便な警察署の謎を解いてたよ。お父さんが。」


「フフ、じゃあ3時間以内に帰って来たらロケットランチャーを貰わないとね。」


 弾無限のね。


 行ってくるね、と冬香にキスをしてキャンピングカーを出る。


 さて、頑張りますか。


------------------------------


 出発して1時間ほど。私と燐様は山の山頂付近までて来てしまった。一応周辺の魔力を探りつつ登って来たが、魔の物も居ないし前回のような魔力溜まりもなかった。


「山の反対側ですかね?」


「フム。その可能性もあるが、山の反対側はここから探ってみて何かありそうな感覚はあるか?」


「さっぱりなんですよね。直感に従うならやはり来た道の方にいそうな気がします。」


「同感だ。登りはだいぶ早いペースで走って来たからな。下りはより慎重に探っていくしかなかろう。」


 確かに登りは結構な速さで登って来た。帰りは少し魔力を放ちつつ下るか。餌として喰いつくかも知れないし。


 自然に漏れる感じに魔力を垂れ流しつつ、山道を下っていく。


「フム、ほどよく漏れ出る感じに念を感じるな。これはわざとやっているのだろう?」


「はい、これに喰いついてくれれば儲けものかなと。」


「器用なものだ。先程の身体強化も見事だった。…一体どこでこれだけの業を身に付けた?」


「…瑞稀さんに聞いてないですか?」


「聞いたよ。異世界に召喚されたとな。だがにわかに信じ難い。」


「でもそれが事実なんですよねぇ。」


「召喚される事でこれだけの実力をつけられるなら、いくらでも召喚されたいものだ。」


 …私はこんな力いらないから召喚なんてされたくなかったよ。


「冬香とはどこで出会ったんだ?」


「中学の時に、同じクラスで。燐様は冬香とは長いんですか?」


「ああ。あの子が赤ん坊の頃から知っているさ。私たちの世代は比較的親戚間で仲が良くてな。私と瑞稀あたりは小さな子供たちの面倒を見たりしたものだ。

 冬香も幼い頃は懐いてくれていたのだが、他の家の子供たちが念力に目覚め始めた頃から距離を取るようになってしまってな。やはり自分だけ使えないということが心の枷になってしまっていたのだろう。仕方ないとは言え寂しい事だ。

 だが披露宴以降、あの子は以前のように明るく笑うようになった。それだけでなく、今日は上雪家相手に一歩も引かずに意見をしていたぞ。

 それもこれも、かのんが隣に居てくれるおかげだ。あの子を支えてくれて、感謝している。」


「上雪と冬香は今日、だいぶやりあったと聞きましたが。」


 ハッハッハと笑う燐様。


「それは上雪当主として、振る舞わなければならないからな。冬香の事は好いていてもそれはそれだよ。」


「当主って大変ですね。」


「ああ。冬香もじきにそうなる。それを支えるのがかのんの仕事だ。」


「…がんばります。

 そういえばこの間怜ちゃんと総司くんにだいぶきつい事言っちゃったんですが。」


「ああ、報告は聞いている。」


「部外者なのに知ったふうに説教して申し訳ございません。」


「まぁ正論ではあったが確かに君に言われる筋合いは無い、というのが正直なところではある。だが怜は君に懐いているし、総司も少し天狗なところがあったからいいクスリだったろう。気に病む事はない。」


「ありがとうございます。

 総司くんは大丈夫ですかね?怜ちゃんからはメッセージも来ているし立ち直ってくれたかなと思うんですが、総司くんは様子がわからなくて。」


「そうだな。確かに怜は翌日には吹っ切れたように訓練にも参加していた。総司は…まだ迷いがあるようだ。だがそれをバネに成長してくれると思っているよ。」


「そうですか…。」


 とりあえず良かったのかな。今度会う時には改めて謝ろう。


 さて、気持ちを切り替えて魔の物討伐だ。


「それにしても見つからないな。もう半分ほど下山して来てしまったぞ。」


「私もずっと魔の感知をしていますが、それらしい反応はないんですよね…。痛ッ!!」


 急に左肩に鋭い痛みが走る。思わず足を止めて肩を見ると、高さ2メートルはあろうかという巨大な白いオオカミが後ろから私の肩に喰らい付いていた。


「このっ…!」


 反射的に右手でその頭を掴み、魔力を爆発させる。


 ボンッ!


 小気味良い音を立ててオオカミの顔が爆ぜる。しかしオオカミは私の肩から牙を抜く事なくさらに力強く食らいついてきた。


「はなせっ…つーのっ!」


 肉が千切れる覚悟で腰を軸に全力で上半身を捻る。ぶちぶちと音を立ててやっとオオカミを引き剥がす事に成功した。


 そのまま指を向け魔力弾をオオカミに放つ。


 オオカミは私の魔力弾を全て躱して横にひとっ飛び、距離をとった。この至近距離で躱わすのか!


「かのん!大丈夫か!?」


「軽傷です。ところで燐様、あれが近づいてくるの分かりましたか?」


「いや、全く。完全に不意を突かれた。」


「私もです。やつの魔だけでなく動くものの気配も見落とさないようにしていたはずなのに。」


「…こうして姿を見せると確かに魔を纏っているのを感じるのに、かのんが喰らい付かれるまで全く感知することができなかった。」


「つまり、それがコイツの持つ固有の能力なんでしょう。」


 やり辛いな。


「っ来ます!」


 オオカミが飛び込んでくる。


 私は借りたナイフを鞘から取り出すとヤツの軌道上に置くように振り抜く。だがナイフはオオカミの毛皮に弾かれ、私はそのまま押し倒されてしまう。


 そのまま後ろに倒れ込みつつ、両膝を曲げてオオカミと自分の間に足を挟む。背中が地面についた瞬間、足をバネのように伸ばしてオオカミを巴投げのように上に放った。


 足を伸ばした勢いで跳ね上がる。そのまま今度は私が投げられたままの体制のオオカミに飛び込んで羽交い締めにしようと試みる。


 しかしオオカミ横にゴロンと回って私の追撃を逃れる。


 私はオオカミと反対方向に一回転、地面を叩いた反動で改めて立ち上がる。オオカミの方を見ると相手も体制を整えたようでこちらを睨んでいる。


 互いの距離は4mほど。これはオオカミからすればひと飛びで私に届く距離で、かつ私の魔力弾は見てから余裕を持って避けられる距離でもある。


「特殊能力無しでも強いなコイツ…。」


 私は改めてナイフを構えた。

 

 

 


 

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