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第2話 家族会議

 今度は冬香と共に自分の両親の待つ控え室に向かう。


「あ、お姉ちゃんおかえり。冬香ちゃんもよろしくね。」


 かりんが出迎えてくれる。


「それにしてもお姉ちゃん、私この間『冬香ちゃんが義理の姉になったら嬉しい』とは言ったけど、フラグ回収するの早過ぎじゃない?」


「立ったフラグは気付いた時に回収していかないとラスボス直前にウィキみて実績埋めるだけの作業になるからね。」


「ウィキ見て結婚する姉とか嫌すぎる…。」


 苗字が変わっても変わらない妹に感謝しつつ、両親と向かい合いになって座る。


「お父さん、お母さん。今日はありがとう。」


「全く緊張したよ。お父さんがこれまで話してきた中でも一番偉い人だったな。さすがあの若さで白雪を切り盛りしているだけあって堂々としたね。」


「あら、気後れせずに話せていてお父さんも素敵でしたよ。」


 お母さんが褒めると、お父さんは少し恥ずかしそうに頬を掻いた。


「おじさま、おばさま。私達の我儘に巻き込んでしまって申し訳ございません。」


「いいのよ冬香ちゃん。あっ、これからは『おかあさん』って呼んでくれていいからね。

 本当にこんな子でいいのかなんて聞いたら、認めて頂いた粉雪さんと白雪さんに対して失礼にあたるのかも知れないけれど…それでもやっぱり親としては不安は大きいわ。

 お父さんも言っていたように嫁に出して恥ずかしくない子だとは思ってるけど…ほら、この子ちょっとオタクだし。」


「オタクじゃないよ?」


 ん?ないよね?


「お姉ちゃんは自覚がないだけだよ。」


 かりんのツッコミに冬香も静かに頷く。


「…でもお義母様。そんなところも含めて、私はかのんと一緒になりたいって思ったんです。筋を通さずにお嫁に頂いたことは申し訳なかったですが、私達の事を認めて頂けると嬉しいです。」


「こちらこそ、これからは私達のことも本当の親だと思って頼ってくれていいからね。」


 その後お父さんともきちんと挨拶をして、冬香は部屋を出る。今日は私たちはこのまま家…私にとっては既に実家になってしまったが。に帰り改めて私と話し合い。明日は朝イチで粉雪家に行ってそこから親族披露までみっちり立ち振る舞いなどを叩き込まれる。次に家族たちに会うのは結婚式である。


 ハイヤーに乗って実家まで送って貰い十和田さんと別れる。粉雪家に持っていくものを選別しなくていいかと聞いたら、部屋のものは明日全部持っていくので私は特に何もしなくて良いらしい。そんなことより家族とのお時間を大切にだそうだ。


 お母さんが腕にヨリをかけて私の好きなおかずをたくさん作ってくれると張り切っているので私も台所に行って手伝う事にする。お母さんのリズムに合わせて素材を切ったり調理道具を洗ったりしていると、エリーがお嫁に行った時を思い出す。最後の夜だからってあの子の好きなモノをたくさん作ってあげようって思ってたらエリーも手伝ってくれて。張り切って作り過ぎちゃったんだよね。こんなに食べられないよって二人で笑いながら食べたんだった。


「…いつの間にか、こんな手際よく料理ができるようになっていたのねぇ。」


「えっ?」


 一瞬自分の口から出た言葉かと錯覚してしまった。なぜなら最後にエリーとご飯を作った時、私も同じセリフを言ったから。


「娘なんだからいつかはお嫁に行くとは思っていたけど、さすがにちょっと心の準備がね。寂しくなるわ。」


 そう言って涙を滲ませるお母さんと、つられる私。お互いタマネギのせいだねって、そこにいない野菜のせいにして笑い合った。


 ディナータイムはみんなこれが最期だと意識しないようにしつつ、でもふとしたきっかけでしんみりした空気になってしまう。するとお父さんが寝室から一本のワインを取り出してきた。


「これはかのんが生まれた年のワインだ。高いやつだぞ?いつかお前が嫁に行く前に一緒に飲もうと思ったんだけど、まさか未成年のうちに行ってしまうとは思わなかったな。だから今日はお父さんとお母さんで飲んでしまいます!」


「えー!?私が20歳になるまで待っててくれないの?」


「知らん知らん!飲まずにやってられるか!お母さん、オープナー持ってきてくれ!」


「お父さん、それは大切にとっておいたお酒でしょう?ヤケ酒で飲んだら後悔が残りますよ。」


「むぅ…だがなぁ。」


「それにもうこれで会えなくなるわけじゃないんですから。かのんが20歳になったら、今日の悔しさも交えて一緒に飲めばいいじゃないですか?」


「…それもそうか。」


 そういうとお父さんはワインを横に置いた。


「かのんも、これ以上謝れなんて言わないけれどお父さんがどれだけ貴女を大切に思っていたか。それを忘れないでね。…もちろん、お母さんもよ。」


「…はい。」


「ところでお父さん、私の生まれた年のワインもあるの?」


「もちろんあるぞ。かりんとは嫁入り前の最後の夜に一緒に飲もうな!?」


「うーん、覚えてたらね。」


 さて、食事が終わりテーブルの上には紅茶が置かれている。普段は食後にお茶を飲むことはあまりないが、今日はこれから家族会議だから仕方がない。

 

 ちなみにどこまで話していいかは事前に確認をとってあるのでちょちょいと虚実織り交ぜて話すつもりではある。

 

「さて、お姉ちゃん。どういうことか説明して貰いましょうか?」


 かりんが口火を切る。


「そうは言ってもあちらの思惑は言われた事しか分からないんだよなぁ。」


「いやそもそもなんで一足飛びに結婚って話になってるのよ?」


「一足飛びって話でもないんだけど…。」


 一昨日の夕方公園で渚さんにあったと話をする。その時はロクに会話もしなかったのだが、私はうっかり生徒手帳を落としてしまった。生徒手帳を拾った渚さんはたまたま冬香の親戚で、落とし主を知っているか冬香に聞いたところ私と冬香が付き合っていて丁度一緒にいるということでじゃあ会って返そうかとなったのが昨日のディナー。そこ中で冬香には一族内で婚約者にしてはどうかという人物がいる事が知らされる。なら私達は一緒に居られないねと言ったら先に結婚しちゃえばいいんだよという流れになってその場で婚姻届にサインする事になったというわけで。


 ふむ、なんやかんや嘘偽りなく説明し切ってしまった。我ながら天才じゃなかろうか。どやどや。


「全然納得出来ないんですけど…。」


 呆れるかりん。マジか、この説明が不服と申すか。


「なんで冬香ちゃんに婚約者がいてお姉ちゃんが割込んじゃえって話になるの?」


「正確にはまだ婚約者じゃなかったらしいから早い者勝ち理論ってコトらしいよ。」


「それマズくない?」


「正式に冬香と相手の婚約の話が白雪本家に上がる前に私達の婚姻を認めさせちゃったから、一応ルール的には問題は無いらしい。」


「かのん。お父さんも仕事で早い者勝ちになる状況はあるけどそれは割り込まれた方の恨みを買うやり方だよ。相手はきちんと筋を通して話を進めていた中でかのん達はルールの穴をついて自分達の利益を確定させてしまった。ルール上問題無いなら相手はそれを飲むしか無いが、到底納得できるものでは無い。」


 ですよね!うん知ってた。だってみんな言ってたもん。しかしもう進むしかない。


「今回婚約を先に進めていた相手とは良好な関係はまず築けないと肝に銘じておきなさい。相手方に悪意があれば今後かのんと冬香さんにルールの穴をついて様々な嫌がらせをしてくる可能性さえある。先に同じ事をしたのはお前たちだと言ってね。…白雪一族独自のルールについてお父さんは分からないが、社会にはいくらでもそういうやり方があるんだよ。」


「あれ?もしかして私たちも狙われたりする?家族の命が惜しければ結婚をやめろ!みたいな。」


 お父さんの真剣な忠告に、かりんが心配そうに呟く。


「かりんの心配しているような事はとりあえず起こらないらしい。それをやっちゃうと白雪の決定に対しての反逆扱いになるから。ただ、かりんの進学先や就職先で下雪の力が強いところは避けた方が無難だって言ってはいた。それこそイチイチ指摘していられない嫌がらせを受ける可能性があるって。」


「マジか…。」


「あと、お父さんとお母さんの職場はどちらかと言えば白雪の力が強いところだからとりあえず心配いらないって。」


「…今はその言葉を信じるしかないね。でもかのん、少なくともかりんは既に将来の選択肢に一部制限を受けている。君達の行動が周りに与える影響を、もっと考えるクセを付けなさい。」


「…はい。気を付けます。かりんもごめんね。」


「ちなみに下雪の力が強い大学や就職先ってどこになるの?」


「細かくは聞いてないけど、防衛大学や警察学校はやめた方がいいって。あとは志望校が決まったら教えてくれるよ。就職先だと自衛隊、警察、公安。あとはないと思うけど風俗店なんかも下雪のシマって言ってた。」


「…まあその辺りはもともと考慮の外だったから大丈夫かな…。」


「お父さんもかりんも、分からない事だらけで不安になる気持ちはわかるけど素直にかのんの事を祝福してあげましょう?せっかくいいお家にお嫁に行けるのに暗い気持ちで送り出したくはないじゃない。」


 お母さんがそう言って笑う。


「ほら、改めて。かのんの玉の輿にかんぱーい。」


「玉の輿って!?」


「はは、確かに玉の輿だな。我が家の格で白雪一族に名を連ねるなんて、素直にすごい事だぞ。」


「お姉ちゃんのことこれからはシンデレラって呼ぶわ。じゃあお父さんとお母さんも、せーの!」


「「「ビビデバビデブー!」」」


「なんだよこの送り出しはよぉ!」


 そう言ってみんなで笑い合った。またこうやって笑い合えるといいな。そんな感じで廿日市かのんとしての最後の夜は過ぎていった。


------------------------------


 下雪家当主は部下からの報告書を乱暴に投げ捨てた。三男の春彦と粉雪の一人娘を結婚させて将来的に一族の金の流れを掌握する計画はどこぞの鳶に攫われた。


 そもそもこの計画は子供を作る段階から動いていたものだ。長男には自分の後を継がせ、次男は上雪の娘と結婚させる…この二人は数年前に婚約済であり、次男の大学卒業後には結婚予定である。粉雪には当時子供がいなかったのでどちらが産まれても対応出来るように息子と娘を1人ずつ作った。


 白雪本家では特定の家に力が偏らないよう当主は財閥の方から優秀な人間と結婚する事が多いが、分家間ではその限りではない。一族内で子を成せば力を使える人間が産まれる可能性が高まるがかといってあまり血が近ければ遺伝的な問題がでる。そこでそれなりの遠縁でありつつ力を持つ分家やその血縁と婚姻を結ぶのは推奨こそされていないが黙認されていた。


「雪守に邪魔されたな…。」


 今回の件は報告書の通りなら粉雪の娘がたまたま見つけた才能豊かな娘を取り込むために、白雪と雪守を巻き込んだように見えるが。


「雪守の娘め。母親に似てとんだ女狐だ。」


 そもそも。発端となった廿日市かのんに対する雪守の裁定は重過ぎる。報告書の中では廿日市かのんが念力を持った一般人に殺意を持って力を振るったためとあるが、これには彼女がこの場所に誘致結界で誘い込まれた前提が抜けている。自分を誘い込むための結界の中での反撃すら許されないのであれば、結界が張られた時点でこの娘は結界を張った人間に殺されるか雪守に秩序のために排除されるかの2択が決定付けられる事になる。それはさすがに雪守の裁定として許されない。


 今回は防衛の正当性が十分に認められるケースだ。


 ではなぜ雪守は廿日市かのんを『駆除対象』としたのか。それはこの娘と粉雪冬香を結婚させるためで間違いないだろう。つまり春彦と冬香の婚約を防ぐため、敢えて厳しい裁定を下しその抜け道として冬香とかのんが結婚するしか無いという道筋を書いた。これが分家総出での裁判なら異議も申し立てたれようが、粉雪冬香ひとりでは雪守渚の裁定を覆すのは厳しかろう。


 全ては雪守渚の手の上だったというわけだ。


「だが何処から何処までが雪守渚の筋書きだ…?それを見極める必要がある。」


 雪守はいつ廿日市かのんに目をつけたのか。私達が粉雪家に春彦と冬香の婚約を持ちかけた、今年の3月には雪守はこの動きを察知していたに違いない。その時点で別の人間を結婚相手する案はあり、候補として冬香の周囲を調べただろうから友人の一人として廿日市かのんの名前は上がっただろう。


 だがその時点で廿日市かのんが適切だと判断したなら、今回の雪守の動きは遅すぎる。こんな滑り込みギリギリのタイミングになったのは、廿日市かのんの力を雪守もギリギリまで把握していなかったという事だ。


「件の公園での事件、これは雪守の差金だとするにはお粗末だな。状況を利用したと考えるのが自然か…?」


 雪守の動きを追いかけてみる。3月、我々の動きを知って冬香の周囲を洗い廿日市かのんはその際に友人としてリストアップされる。7月半ば、冬香とかのんが付き合い始める。雪守がかのんの力を把握したのは恐らくこの頃か?いや、そうだとしたらもっと余裕を持って動いたはずだ。2人の関係にこそ気付いていたが所詮は子供の遊びと重要視しておらず、精々かのんの周辺を詳しく洗った程度だろう。そして8月上旬。例の公園の事件について、雪守渚はかのんが桜井翔一に襲撃させる一部始終を見たはずだ。そこでかのんに念力がある事を知り、急遽その状況を利用して冬香と結婚させるまでの筋書きを作った。これが一番しっくりくるな。


「廿日市かのんに念力を扱う才能があったという我々にとっての不運があったとはいえ、与えられた状況を最大限利用して私を出し抜くとは賞賛に値するな。」


 何故失敗したのか振り返る事は大切だが、引きずられてはならない。粉雪の娘との血縁は結べなかったが幸い2人は女同士、跡継ぎには養子が必要だ。そこに手のものを送り込むなりなんなら将来的にその養子とウチの孫と結婚させるなりできればいくらでも挽回は出来る。今はもっと喫緊の課題に向き合う必要がある。


「久世有里奈。…回復術だと。」


 一族の悲願の一つであった回復術の開発に成功したうえ、他人に教える事が可能だという。警戒すべきレベルで言えば廿日市かのんより明らかにこちらが上だ。


 粉雪と雪守からの勧誘という事だが、詳しく調べる必要はある。取り込むか、取り入るか、排除に動くか。いずれにしても情報が無さすぎる。上雪とも相談して今後の動きを決める必要があるな。


 まずは新組織に送り込む人員の選定だな。やるべき事を決めて、秘書を呼び出す。

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