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プロローグ

 退屈な授業の終わり。ホームルームを待つクラスメイト一同。彼は机に座り担任が来るのを待っていた。早く帰って先日買ったゲームをやりたいなと思っていた。


 そのとき急に教室の床に魔法陣が現れて、気が付けばクラス一同見たことのない場所にいた。


 なんだなんだと騒ぐクラスメイト達。だが何人かは期待に目を輝かせていたし、自分もその1人であった。最近流行りの異世界転移?既にステータス!と叫んでいるものまでいる始末であった。


 となれば次に来るのは王か女神か。今回は王であった。彼はこの国の平和を脅かす侵略者から守ってほしい。君達を呼んだ時にユニークスキルをひとつずつ与えていると言った。


 ステータス、と呟くと本当に目の前にステータス画面が出てきたのだから驚きだ。

 

 全員が持つ『異世界言語理解』。これのおかげで言葉に苦労しないのは助かるが、まあ異世界転移モノではあって当たり前のスキルである。


 もう一つ、個々のユニークスキル。こちらが重要だった。『勇者』や『剣聖』などをツモれるとは思っていない。そんなものは陽キャに割り当てられるスキルだ。最近のトレンドはクラスに友人が少ない自分のような者が、一見ハズレのスキルを持たされる。そして追放、覚醒、ざまぁの流れ。これだ。


 ハズレスキルを狙うなんて我ながら呆れた話だ。わくわくしながらスキルを確認した。『魔力付与』。わぁ。今流行りの付与魔術か。悪くない、悪くないぞとガッツポーズをする。


 各々スキルを確認したクラスメイト達は王に自分のスキルを申告していく。案の定陽キャのイケメンが『勇者』、その幼馴染の女が『聖女』、インテリメガネが『賢者』といったスキルを獲得していた。こいつらはほうっておけばその内ラノベのかませ犬ムーブをしてくれるだろう。


 むしろ気を付けるべきはパッと見で弱そうだけれども使い方次第で強力なスキルだ。そう思ってむしろクラスで目立たない連中のスキルに注意を払う。


 ガリ勉女子が『鑑定』を持っていた。これはスタンダードな能力だが使い方次第で大化けする。『闇魔法』。こういう出来る事が多そうなスキルも注意だな。自分の『魔力付与』を申告すると、王の隣にいた男…宰相は大層喜んだ。なんだ、既に付与魔術の有用性はわかっているのか。そちらのルートもありかと思った。


 だがよくよく話を聞くと『魔力付与』は自分が思っていたものとは違った。これは魔力が無い人間に魔力を付与してその身体能力を底上げするというスキルらしい。


 試しにひとりの兵士に魔力付与をする。するとそれまで下から数えたほうが早かった彼の実力は兵団上位のものと互角に戦えるまでに強くなったのである。

 ノーコストで兵力を大きく底上げできる彼の能力は、王国に非常に喜ばれた。しかし彼自身は楽しくはなかった。高待遇を受け、安全な城で兵士を強化する日々の傍ら、クラスメイト達は日々訓練。ダンジョンにいってスキルレベルが上がったという者もいた。


 ダンジョンに潜りファンタジーを満喫するクラスメイトを横目に兵士を強化する日々。なんとか自分自身を強化する術はないか。そう思った彼は宰相に相談した。すると宰相は魔力が余っているのなら魔術を覚えれば良いのではと提案してきた。魔術とはスキルと違いこの世界の人間が魔力を使い行使する技術にあたるらしい。


 さっそく兵士を強化しつつも魔術の勉強に励む。どうやら魔力付与は使った対象が得た経験値の一部を自分に還元する能力があったらしく、召喚当初より彼の魔力は大きく増えていた。


 魔術自体に適性がなく、あまり高度な魔術は使う事が出来なかったがそれでも基本的な身体強化や簡単な結界術などを覚える事ができ、スキル頼りのクラスメイト達と差別化できたことは彼の自尊心を満たした。


 訓練やダンジョン攻略によるクラスメイトの育成が終わるといよいよ侵略者との戦いに駆り出される事となった。


 それまではどこかゲームをしているようなフワフワとした空気があった。だが実際戦場に立った事で彼を含めたクラスメイト達はここが現実でもあると嫌でも思い知らされる。最初の戦いでクラスメイトの4分の1にあたる10人が戦死したのである。


 死んだのはいずれも支援系の能力を持った者たち。『回復』や『治療』、『魔力回復』などのスキルを持った彼ら彼女らは戦場から後方に位置する砦にて待機していた。そこを敵が魔術で攻撃したのだ。敵は大規模な炎の魔術で砦全体を覆った。数百人以上が待機しており、小さな要塞都市のようだとまで言われた砦は長い時間をかけて燃やし尽くされてしまったのである。


 待機していたクラスメイトの中には『防衛』というどんな攻撃からも身を守るドーム状の壁を作るスキルを持っていた者もいた。恐らくクラスメイト達は彼の周りに身を寄せたのだろう。全員が彼を中心とした十数メートルの範囲で倒れていた。彼らはほとんど全員が窒息死していた。長い時間炎に包まれた砦の奥。炎は防ぎ切ったものの、防衛ドーム内の空気が無くなったのだと思われる。

 徐々に空気が薄くなる中、防衛ドームの内側から紅蓮の炎を見つめ続けて死ぬとはどんな拷問だろうと思いクラスメイト達は身を震わせた。


 その後、残された彼らはより一層訓練に力を入れざるを得なくなった。


 なんども魔力付与をする内に、単純に魔力を与えるだけよりも人の感情…特に恨みや憎しみといった負の感情を餌にする事でより効果が大きくなる事がわかった。ただしその場合、スキルを解除するとその兵士は廃人もなってしまった。それでも侵略者と戦うためにと彼は多くの仲間を死兵に変えた。


 最初は間接的に人を殺しているような気がして心が重くなったが、何度も繰り返す内に慣れてしまった。何より死兵達はその強さから多くの経験値を彼にもたらした。


 しかし戦いはどんどん激しさを増す。繰り返される戦いの中で『賢者』が。『勇者』が。そして『聖女』まで、戦場でその命を散らす事となった。


 時に前線で兵士たちに力を与え、時に後方支援にあたる。その配置の妙が、奇跡的に彼を生き残らせた。賢者が死んだ時には彼は前線におり、勇者と聖女が戦死した時には後方にいたと言った具合だ。


 侵略者との戦いが終わった時、生きていたクラスメイトは彼を含めて7人だけであった。残念ながら彼らを召喚した国は侵略者の猛攻を防ぎ切る事が出来なかった。


 もう勝ち目が無いと判断した王は彼ら生き残ったクラスメイト達を秘密裏に逃した。国は滅びるが違う世界から来た者まで運命を共にする必要は無いと。


 そうして逃げ出した彼らはその後、異世界で永く生きた。彼自身、今さらチートで異世界でハーレムをなんて気分には慣れなかったし、ハーレムをするには向かないチートスキルだったけれど、国で魔術を学んでいた事と豊富な魔力が幸いしてスローライフを満喫するには困らなかった。


 残りのクラスメイト達も各々好きに生きた。晩年まで友人付き合いした者も居たし、冒険者稼業で成功したと聞いた者もいた。クラスメイトの復讐したいと侵略者の国に向かったものまでいる。


 最後には流行病でその生涯を終える事になった彼は、ひとつだけ後悔した。同級生達はその後の人生でチートスキルを大いに活用した。逆に、彼は国を出た後最後まで『魔力付与』を行わなかったのである。

 当時はそれが最善だと思っていたが、いざ人生の終わりが近づくと別の人生もあったのではないかと思うのである。


 まあ今更そんな事を考えても仕方がない。だが、もしも人生をやり直せるなら。もっと好き勝手に生きようと思い目を閉じた。


 気が付くと高校時代の教室に居た。


 混乱しながら周りを見ると、あの戦いで死んでいったクラスメイト達は全て生きていた。それどころか何も無かったかのように談笑している。


 注意深く観察すると、同じように混乱していると思われるクラスメイトがもう何人かいる事が分かった。いずれも侵略者との戦いを生き延びた者達だった。


 あの戦いを生き延びたものだけが異世界での記憶を持っている。そう仮定したものの、特に確認はしなかった。なぜなら彼らはこの世界では特に親しく無かったから。


 もうひとつ、自分の中にある魔力…死ぬ前とは比べ物にならないほど弱くなっているが、それを確かに感じたからだ。


 もしかするとチートスキルも使えるのでは?そう思った彼は放課後さっそく街に繰り出した。


 負の感情を持った人間を求めて。

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