エピローグ
かのんと冬香が去ったあと、有里奈は瑞稀と最高級のワインを楽しんでいた。渚と雫も同席している。二人はまだティーンエイジャーじゃなかったかしら?と思ったが無粋な指摘はやめておこう。だってこんなに美味しいですもの。美味しいお酒を心置きなく愉しむために、するべき話はさっさとしてしまおうと考え、瑞稀との会話から本題に切り込む。
「それで、かのんの事で聞きたいことがあるんですよね?」
「まだ何も言ってないのに、怖いくらいに優秀ね。」
「いや、お開きのタイミングでこんなの出して引き留められたらさすがに分かりますって。二人も気付いていたと思います…いや、かのんは分かんないな、あの子鋭いようでたまに信じられないくらい抜けてるから。」
そこがまたカワイイんですけどね、と言ってワイングラスに口を付ける。
「聞きたいのは、さっきの異世界での話の中でかのんさんが意図的に話さなかった部分について。」
「あー、やっぱり気付くんだ。白雪のその見抜く力すごいですね。」
「力に頼ってばかりでは足元を掬われるから、普段の何気ない会話から洞察力も磨いているのよ。かのんさんが話す時、意図的に避けている話題がある気がしたの。」
「うちは気付かんかったわ、瑞稀ちゃんすごいなー。でも異世界での事で隠し事あっても構わんちゃう?そもそも現実かどうかも確定しとらんで?…久世さんを疑っとるわけやなくてね。」
渚の言い方に、有里奈は構わないといった様子で手をヒラヒラと振る。
「私は二人の話は本当にあった事だと思っているわよ?まあさすがに公にするわけにはいかないから一族に説明する時に適当な脚本を作る必要はあると思うけど。
気にしているのはかのんさんのバランスの悪さと言えばいいのかしら?雫を圧倒するくらい強いっていうのに渚の話では昨日は明らかな格下相手に大怪我してたっていうし。かのんさんが話さなかった異世界での経験に何か理由があるのかしらと思ったの。白雪の当主として、知っておきたいわ。」
さすが鋭いなと有里奈は思った。これは長くなりそうだ。グラスのワインをぐいっと飲み干すと回復術で体内のアルコールを分解した。
「確かに、ここにいるメンバーは知っておいた方が良いかもしれないですね。この場限りの話って事で良いですか?」
「もちろんよ、約束します。」
「…冬香は呼ばなくていい?」
「冬香ちゃんにはかのんが自分から話せる時まで伝えないであげて下さい。きっとかのんも葛藤してるんで。」
「…わかった。」
「まず、あの子の態度や言動に不自然な部分って感じません?特に渚さんや雫さんは。」
「うーん、やっぱり気になるのは昨日公園で魔導兵に負けそうになってた事かな?手抜いてるんはなんとなく分かったけど、雫に圧勝できるような子があれに負けるってのはちょっと不自然よね。」
「…同感。私を倒したあの魔力鉄砲を撃てば一発で倒せたはず。」
「瑞稀さんはあります?」
「そうね、私は話に聞いただけだけど…。かのんさんの殺人に対するスタンスに歪なものを感じるの。」
「歪?」
「ええ、かのんさんが魔導兵に負けそうになったのって相手を殺したくなかったからでしょう?その割に彼を手にかけた渚に対して何も感じていないように思えるの。」
「そういえばウチがかのんちゃんの元カレ殺してまってるんやったね。」
「だからなんというか、「自分では絶対に殺したく無いけど他の誰かが殺す分には構わない」って態度に思えるのよ。殺人自体に忌避感があるなら渚に対する嫌悪感みたいなものがあっても良さそうなのに、それが全く無い。」
「他にはあります?じゃあ直接戦った雫さんから見て。」
「…私に撃った魔力銃。あれがあるなら最初から使わない理由がわからない。身体強化による体術は正直並の使い手よりちょっと上程度の印象。その前には自爆上等の魔力暴発までやってるし、わざと危険になろうとしているようにすら思える。」
「…みなさんさすがですねー。私が昨日今日で気になった部分、大体全部言い当てちゃってます。あっちに居たころから変わってない部分です。最初に結論言っちゃうと、あの子って壊れちゃってるんですよ。」
「壊れてる?」
「はい、私の回復術でもどうしようもないくらいに。」
有里奈以外の三人が息を飲む。
「自分が殺されかけても他人を殺したくないと思ったり。でも自分が直接手をかけるのでなければ別に他人が殺されても全く動じなかったり。
強すぎる術で不意に殺してしまわないようにまずは弱い攻撃で相手の頑丈さを確かめたり。傷が治る前提なら死ななければオッケーぐらいの感覚で骨を断たせて肉を斬ったりもします。…慣用句の間違いではなくてホントにそのノリなんですよ。
このあたりってかのんは全部無意識にやってるんです。あの子は自分が壊れてるって自覚さえ無いんですよ。」
「有里奈さん、壊れているってどういう事?見たところ体に異常は無いし…異世界の出来事が原因でPTSDになっているって事かしら?」
「PTSDとは少し違いますね。もっと根幹の彼女の精神を作る部分が壊れちゃってるって言えばいいのかな。」
「でもメンタル病んでるようには見えへんよ?」
「そうなんですよね。ぱっと見で何も問題なさそうに見えるのが性質悪くって。…せっかくだし召喚されたところからかのんに焦点を当てて、順番に話しますか?だいぶ長い話になりますけど。」
有里奈が3人を見る。3人は神妙な顔で頷いた。
「じゃあ昔話をしましょう。…異世界で『紅蓮の魔女』の呼ばれた私の、大事な大事な妹分が壊れ切ってしまうまでの昔話です。」
有里奈は懐かしそうに語り始めた。
とりあえずの危機も去り、二人が家族になったところで一章完結となります。
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
二章以降はポンコツ振りに拍車がかかると思います、残念ながら書き溜めのストックが無くなってしまったので、1日2話の投稿はここまでとなります…。
ここからは1〜2日に1話くらいのペースでの投稿となりますので、引き続き気長にお付き合い頂けると嬉しいです。




