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第16話 救出

 私達の高校をナビに入力して素早く車を出す有里奈さん。


「目的地までの目安は1時間か…。安全運転は出来ないけど、45分で着くわよ。シートベルトちゃんとしておいてね。」


「は、はい。でも有里奈さん、どうして私達の高校って思ったんですか?『学校の屋上』としか言ってなかったんですよね?」


 信号が青に変わると有里奈さんはアクセルを思い切り踏み込む。軽自動車がグンと加速する。


「順番に話すわね。まずかのんだけど、おそらく1人で動けないくらいの大怪我をしている。」


「ええ!?」


「冬香ちゃんでなく私に電話をしてきたと言う事は回復術による治療を必要としている。だから今は『どこかの学校の屋上』で身を隠している可能性が高い。」


「身を隠すって、どういうことですか?」


「普通なら一番安全なのって自宅じゃない。なのにそこではなく学校の屋上という場所を選んだのは、何がしかの脅威…誰かに追跡でもされたのかしらね、それから逃れて人気のない場所に身を隠したんじゃないかな。」


「脅威、追跡…?」


「それが何かは分からないけどね。追跡者から逃れて人気のない場所に隠れた。その時に動けなくなるくらいの怪我をしたって想像できるわ。」


「私達の高校なのは?」


「私達の中で学校で共通するのは私の大学かあなた達の高校ぐらいだから。だけど人気のない場所を探していたかのんが一度来ただけの大学に逃げ込むとは考えづらい。つまりあなた達の高校になるのよ。屋上なんて普段施錠されてて生徒は近づかないんじゃない?」


「はい、確かに。」


「ならやっぱりそこで決まりだよ。かのんはピンチの時に曖昧な指示を出すような子じゃないから。

 飛ばすから気をつけて!」


 通常1時間かかる距離を40分で私達の高校に到着し、有里奈さんは人気の少ない裏門付近に車を停めた。


「さて、屋上行きますか。校舎に入らずに上がれるかな?」


「それだと非常階段から上がれると思います。カギはかかってるかもしれませんが。」


「…あそこかな?じゃあ手前側の校舎から登ってみようか。」


 2人で階段を駆け上がる。


「フェンスの鍵が壊されてる、こっちでビンゴかな?」


 屋上にあがると給水塔の近くに倒れている人影があった。


「かのん!」


 慌てて駆け寄るがその凄惨な姿に息を呑む。全身ボロボロに見えるがぱっと見で両腕、特に右腕はズタズタだった。


「こりゃ、手酷くやられたね。でもこれは…。」


「有里奈さん、回復術なら治せるんですか?」


「死んでなきゃね。ちょっと失礼。」


 有里奈さんが両手を前にかざすとかのんが結界に包まれる。


「今日教えた結界の応用で私は『診察結界』って呼んでる。効果としては結界内の人物の怪我や病気を詳細に把握できるの。」


「治すのは別の術って事ですか?」


「うん。とりあえず怪我を治すって事もできるけどこれだけ重傷だとどこが悪いのか確認した方がいいからね。…うん、出血は少ないし命に別状はなさそうね。」

 

 その言葉にとりあえずほっと一息。だが有里奈さんは顎に手を当てて少し考え込んでいる。


「…有里奈さん?治療しないんですか?」


 この場では治せないのだろうか?


「あ、ごめんね。ちょっと考えたんだけどさ。冬香ちゃん、これ治療してみない?」


「ええ!!??」


------------------------------


 目が覚めると知らない天井だった。


「…あのセリフは言わないからね。」


「何を考えたか大体想像がつくけど、起き抜けにつまらないボケをかませるならもう大丈夫ね。」


 隣を見ると有里奈がご飯を食べていた。


「ありがとう。有里奈が助けてくれたんだよね。」


「どういたしまして。お隣で寝てる彼女さんにもお礼を言っておきなさい。」


「へ!?」


 びっくりして反対側に目を向けると同じベッドで冬香が眠っていた。


「あわわわわっ、ハレンチなっ!?」


「私のベッドでおっぱじめたらさずがに2人とも出禁だからな?…バカな事言ってないで。あなたの怪我を治したのはその子なんだから。」


「冬香が?」


「魔力を無理して使って焼き切れた脳神経は私が治したけどね。流石に初心者にあれは無理だわ。」


「…つまり、どういう事?」


「その子、最近ちょいちょいウチに来て回復術を覚えてたのよ。」


「うん…なんとなくそんな気はしてた。魔力もどんどん洗練されていくし、術を覚えるのもお預け状態なのに何も言ってこないからこっそり教えて貰ってるんじゃないかなって。」


「それで昨日かのんから電話がきたときにも一緒にいたからね。置いていくわけにもいかないでしょ?」


「まあそうだね。」


「一緒に高校の屋上に行ってね、その場で脳の治療以外は済ませたんだけどそれを冬香ちゃんにやってもらったってわけ。」


「お、おう?」


 まだ顔に疑問を浮かべている私に有里奈が仕方ないという表情で説明を重ねる。


「ちょっと重症だったけど、怪我自体は命に別状はなかったからね。研修医に盲腸切らせるみたいな感覚かな?恋人のあの怪我を初めてで治せるなら今後余程のことがない限りメンタルは崩れないと思うわよ。…一応私もチェックはしたつもりだけど右腕に違和感はない?」


「意外とスパルタ先生だね…。」


 私は右腕を回したり拳をグーパーしたりして違和感がないか確認しつつ、有里奈に苦笑した。


「かのんのせいよ?」


「私のせい?」


「私は今でもかのんが最強だと思ってるからね。そんなあなたがそこまで追い込まれるなんて余程の事態じゃないの。これから何があるかわからない状況では冬香ちゃんには1日でも早く一人前になってほしいと思ったのよ。」


「最強だなんて。油断した結果がこのザマだよ。イメージに体が全くついていかない。」


「やっぱり腕の怪我は過剰な身体強化による自爆ね?知識を引き継いで魔力ばっかり鍛えた弊害よ。体づくりは時間をかけるしかないんだから今後も筋トレは続けなさい。」


「こっちの世界ではか弱い乙女のつもりだったんだけどな。」


「同感。まさか戻って来て一ヶ月でこんな大怪我治す事になるとは思わなかったけどわよ。…何があったか聞きたいんだけど冬香ちゃんにも話せるわよね?」


「あー…。話さないとだね。うん、話すよ。」


「じゃあ冬香ちゃんが起きたら話してもらうわね。ところでご飯食べる?」


「いただきたい!美味しそうだなって思ってました!」


「はいはい、相変わらずね。じゃあ準備してくるから座って待ってて。」


「えー、私って別に食いしん坊キャラじゃないよ?有里奈の手料理が好きなだけで。」


「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ。」


「お世辞じゃないってー。」


 有里奈が用意してくれた料理に舌鼓を打っていると冬香が目を覚ます。


「ん…私寝ちゃってた…?あ、有里奈さんスミマセン!!」


「いいよいいよ、相当無理させたからね。おかげでかのんもすっかり元気よホラ。」


「かのんっ!もう大丈夫なの!?」


「冬香が治してくれたんだってね、ありがとう。すっかり元気だよ。」


「良かった…目を覚さなかったらどうしようかと…。」


 そう言って涙ぐむ冬香。心配かけてごめんね、と抱きしめるとぎゅっと抱き返してくる。


「いちゃつくなら自分家でやってクダサイネー?」


「このくらいはセーフでお願い!」


「いやもう時間切れっス。…それでかのん、冬香ちゃんも起きた事だし何があったか話してちょうだい。」


 私は昨日の公園での出来事を有里奈と冬香に話す。


「最初は学校と駅の間にある運動公園…アスレチックとかあるところ、冬香わかる?」


「うん、わかるよ。」


「学校帰りにそこで休憩してたらまだ明るい時間なのに周りに誰も居ない事に気付いて、慌てて『魔力察知』をしたら周辺に魔力が充満してたから多分人払いの結界が張られていたんだと思う。」


「人払いの結界?」


「その結界を張った範囲に人が入り辛くなるんだ。魔力を持ってない人にはわりと効果が高くて、この結界が張られているところにはなんとなくで足を向ける事がほぼ無くなるし目的を持っていても入る事に強い嫌悪感を抱くようになるの。反面、魔力持ちには殆ど効かないから魔力を持たない人を締め出すぐらいにしか使えない。」


「そうは言っても元々その場にいる人を外に出す効果は無いわ。だからかのんがその公園に行く少なくとも2、3時間前には結界が張られていたと考えるのが自然ね。」


「じゃあかのんはうっかりそこに踏み込んで…?」


「うっかりしたのは認めるけど、誘い込まれたんだと思う。今思えばあの公園で休憩しなくても良かったし自然に足が向かったから。」


「人払いの結界にそんな効果はないわよね?」


「うん。だから何か別の術が併せて使われて「私を閉じ込めるために」あの場所が用意されたんじゃないかと思った。」


「考えすぎじゃ無い?」


「結界内で桜井くんに会ったんだ。彼は私を待ち伏せているような事を言っていたから、ターゲットは私で間違い無かったと思うよ。」


「桜井?」


「同級生で、冬香と付き合う直前にフッた私の元カレ。」


「お、おう。」


「むっ有里奈がなんか複雑な顔してるから言い訳するけど冬香に乗り換えるために別れたんじゃないからね?」


「あー、そこは本線に関係ない話でしょ?あとで聞いてあげるからとりあえず昨日の話を続けて。」


「そだね。桜井くんは私に恨みがあるような事いって、乱暴しようとしてきたんだ。」


「乱暴ってそっちの意味よね。」


「だろうね。「犯してやる」って連呼してたし。」


「うわ、気持ち悪い…。」


「私も体を許すつもりはなかったから撃退しようと思ったんだけどね。彼が魔導兵だったんだよ。」


「なっ!?」


「…魔導兵?」


 目を丸くして驚く有里奈と、意味がわからず首を傾げる冬香。


「魔導兵っていうのは私達が異世界で戦った兵器のひとつでね。もともと魔力を持たないヒトに強引に外付けの魔力を定着させて信じられないくらい身体を強化するの。」


「その桜井ってやつがもともと持っていた魔力を暴発させたって可能性はないの?魔導兵には人払いの結界なんて張れないじゃない。」


「魔力の荒ぶり方が魔導兵とそっくりだったしその他の特徴も合ってたから魔導兵、もしくはそれに近い存在になっていたと判断したよ。有里奈の指摘は尤もで、だから私はどこかにもう1人いると思ってその場で桜井くんを止めようと思ったんだ。」


「殺したの?」


「有里奈さん!?」


「殺さずに止められれば良かったんだけどね。そうしようとした結果があの怪我だよ…全力でやっても彼を止める事は出来なかった。」


「魔導兵を殺さずに止めようとするなんて無茶ってレベルじゃないわよ。」


「もうダメかもってタイミングで刀を持った女子高生が現れてね。その子がサクッと桜井くんの腕を切り落としたの。そのとき結界が解除されたのを察知したから私はそこから逃げ出したんだ。」


「その子が結界を破ったの?」


「破られたっていうより術者が解除したような感じだったから違う気はするけど、きちんと調べる余裕が無かったから何とも言えないところかな。私が全力で逃げてる後ろで女の子は桜井くんの首を刎ねてた。」


「その状況だと女の子がかのんを助けてくれたように思えるんだけど、どうして逃げたの?」


「その子の殺気がこっちにも向いてたから。私はもう戦える状態じゃなかったしだったら逃げるしかないかなって。」


 冬香にはわざわざ言わないし有里奈には言わなくても分かっていると思うが、殺気が向けられていなくても逃げたと思う。異世界では優しいフリして近づいてくる相手に碌なやつは居なかった。長い戦いの中で学んだ重要な事のひとつは「信用できる仲間以外は敵と思え」だ。


「無事に結界は解除されてたし、刀の子は追ってこなかったんだけど代わりに別の追っ手が迫ってきてね。気配察知にひっかからなかったから隠密に長けてるタイプだと思う。どうも私の魔力を察知して追いかけてきているみたいだったから『魔導人形』で囮をつくって誘導して、私は学校の屋上に避難したの。囮が追いつかれる前に魔力を消して有里奈に助けを求めたって流れ。」


「そこで気を失ったかのんを私達が回収したって事ね。」


「ホント助かったよ。2人ともありがとう。」


「…でもまだ安心は出来ないわね。刀の子と追跡者と結界の主、昨日は逃げ切ったけどまだ探してるかも知れないし。」


「そうなんだよね。なんか秩序を守らないとみたいな事言ってたし、目を付けられちゃったかも知れない。」


「秩序というわりには魔導兵を瞬殺してるのよね。かのん、現代日本だと殺人は重罪よ?」


「だから昨日あの公園で殺人事件があったか調べてるんだけど、特にニュースになってないんだよ。」


「何それ、逆に怖いじゃない。…なにか闇組織が絡んでるとか?」


「私達が知らないだけで日本にも魔力持ちってそこそこいるのかな?一般的じゃないだけでもしかして魔術組合みたいなのが管理してたりして。」


「じゃあ私達ってそこに加入してないモグリの魔術師ってこと?奇しくもBJになっちゃったわね。」


「お医者さんは有里奈だけね?じゃあわたちは助手やるわ。」


「助手なら冬香ちゃんの方がいいかなぁ、かのんは回復術使えないし。」


「アッチョンブリケ。」


「それでどうする?顔を覚えられたならしばらく顔変える?」


「まあ夏休みはもう学校に行かないからしばらくあの公園に近づかないし、いったん様子見しかないかな…ってああっ!!」


「どうしたの?」


「公園にカバン置いてきてる!中に財布とか手帳とかあるから思いっきり素性バレてると思う!」


「はい詰んだー。」


「どうしよう冬香!国外逃亡するって言ったら付いてきてくれる?」


「え、ごめんさっきから会話のノリについて行けないんだけどどこまで本気なのかしら?」


「アッチョンブリケー。」


「そういう悪ふざけに冬香ちゃんがついて来れないんじゃないかしら?」


「…わりとマズいと思ってるのは本気。でもお金も無いし国外逃亡は最後の手段かな。ただ相手の素性も出方も分からないし正直動きようがないんだよね。自宅がバレてるって事は家に帰るのも危ないよね。というか無断外泊しちゃった?捜索願とか出されてないよね!?」


「その辺りは昨夜のうちにフォローしてあるわよ。冬香ちゃんに感謝しておきなさい。」


「冬香ありがとー!」


「その辺りテキパキ指示してくれたのは有里奈さんだから。私はただ慌ててただけだし。」


「有里奈もありがとー!…ちなみにどうフォローしてくれたの?」


「冬香ちゃんとかのんがウチに勉強に来て、遅くなったしかのんは寝てて起きないから今日はそのまま泊めますねって電話しただけよ。冬香ちゃんが電話口で証言してくれたおかげで余計な詮索されずに済んだわ。…とはいえ今日送ってく時にきちんと会って謝罪は必要ね。お互いかのんのご両親に叱られる覚悟はしておきましょう。」


 そう言って有里奈は紙袋を掲げた。近所のスーパーで菓子折りを買ってきてくれたらしい。わざわざそこまでしなくてもと言うと、こういうのは最初の印象がその後の信用に関わるので千円で好印象が買えるなら買わない方が勿体無いわよ。今回はいきなり外泊から入ってしまったので今後の付き合いを考えるなら必須ね、とのことだった。


「というわけで暗くなる前にあなたを家に送り届けたいんだけど、さっきの話だと家は危険なのよね?」


「そだね、自宅はマークされてるかも…。」


「それなんだけど、かのん。さっき話してた刀を持った女子高生ってもしかして関西弁じゃなかった?」


 冬香が聞いてきた。


「そういえばそうだった。冬香、知ってるの?」


「多分親戚ね。昨日の夜その子からメッセージ来てたわ。」


 そういって冬香が見せてきた画面には『この子知り合い?「廿日市かのん」って言うんだけど』というメッセージともに私の生徒手帳の写真が表示されていた。

 


 

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