悪魔の秘蹟
さて物語は、その大問題な大規模悪魔祓いを完遂した翌日。
告解室に来客を装って訪れた女神マリアンヌと対面したマリヤに戻る。
「何なんですか、昨日のあの仕事は!!」
小部屋を区切る小窓下のささやかな机に手をついて立ち、修道女はがなる。
「なにって」女神はすっとぼける。「悪魔祓いくらい、元世界にもありましたでしょう?」
「んなレベルじゃなかったでしょあれ!?」
マリヤは興奮して捲し立てる。
「いえ普通の悪魔祓いでも選ばれた司祭の役割だし、映画『エクソシスト』とか程度だとしても到底無理そうなイメージだったからビビってたのに。あれじゃ妖怪大戦争ですもん。絶対シスターの仕事じゃないですって!!」
「でもこなせた」
落ち着き払って、マリアンヌは遮る。
「それにわたくしとて鬼じゃありませんわ、本当に無理そうだったら手助けする用意くらいしてありましたわよ」
半信半疑ながら、いちおうちょっとは落ち着いて座り直すマリヤである。
「……どうだか」
そこで。ごまかすように微笑んでくるまたいついなくなるとも知れない女神に対し、特に聞いておきたい問いを投げ掛けることにする。
「にしても、あの悪魔と呼ばれてた群れは何者だったんですか? リリスみたいな元世界での悪魔、ましてやその首領とされるルシファーまでここでは神として召喚できてましたけど」
「〝神無き狂信者の成れの果て〟ですわね」
「……はい?」
要領を得ずに頓狂な反応をしてしまった修道女に、女神はいくぶん丁寧に言い直した。
「自分の行いを神のせいにして正当化、そこからも行き着きうる正当化そのもの、根拠無き正義に狂った者たち。それらより生じしもの。ですわ」
「……人だと仰るのですか?」
「いいえ、神を介さなかった人の魔法といったところですわね」
一瞬血の気が引く推測が浮かんだが、どうやらそこまでのことではなかったようで否定された。もし真実がそうだったらマリヤは耐えられなかったかもしれない。
けれども訳が分からないでいると、女神はさらに詳しく解説した。
「ゴッデスでは、善いものにせよ悪いものにせよ、あらゆる願いに対応した神がいますわ。ところが、人はそれに先行した願いだけを優先することがありますわよね。〝自分の言動は神の意志だ〟とか、〝自分の言動は正しいはずだ〟とか。どちらも同じことですのよ。ようは人の理不尽な行いを神のせいにしているか否かだけの違いですの」
常にどこかとぼけた感を出していた女神が、深刻な空気を纏ったようだった。
「根拠なき正義で突き進むだけの願いによる魔法発動の意志は、それが介する神もないままひたすら進み続けるエネルギーとしてやがて魔物となる。その通り道は荒廃し、やがては人自身や世界を滅ぼしうる。形が違えど、あなたの世界でもそうであるようにですわね。そういった人々に心当たりがあるんでなくて?」
マリヤには確かに思い当たる節があった。
古くは母の宗教が関与した魔女狩りなどがそうだろう。悪い魔女がいるはずだという盲信により、多くの裁くに値しない変わり者なだけな人々や無実の人々が疑われ、拷問され処刑されたという黒歴史。同じ人の仕業によってである。
形を変えて、人による似た愚行は現在もまだ続いている。
「……〝誰かや何かは悪であり自分は正義と無根拠に突き進む意志〟。が、ここでは悪魔になるということですか?」
恐る恐る自己流に翻訳してマリヤが問うと、女神マリアンヌは静かに首定。
やがて言った。
「そして、いずれ魔王を生みますの」




