表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

秘蹟の秘蹟

 翌日からも聖アベマリヤ転移修道院は日毎別の森に移動。様々な来客のために働く日々が続くことになった。

 幸いなことに、ひと月の間はマリヤにもこなせる仕事だけだった。



「この子はとても優秀で街の人も多く助けられているので、ぜひ女神様お墨付きな〝堅信の秘蹟〟をお願します」

 あるときはこんな頼みだった。成人式のようなものだ。


 やっぱり本来は司祭の仕事なのだが、マリヤは知ってはいた。徳のために祈り、市民の頭に手を置いて聖香油で額に十字を描くと唱える。

「〝父なる神の賜物たる聖霊のしるしを受け取りなさい〟」

 (いや天使や悪魔に存在を否定された父なる神って、ここでは何者なのよ?)と思いながらも。



「普段は神を畏れぬクールを気取ってて人目を忍んで密かにやってるんですけど、最近はいい機会がないので。〝聖餐の秘蹟〟をお願いします」

 またあるときはこんな依頼である。神との契約の再確認みたいな儀式だ。


 ぶどう酒に浸したパンを市民の口に含ませて唱える。

「〝取って食べなさい、これはわたしの身体である〟」『マタイによる福音書』だ。「〝この杯から飲みなさいこれはわたしの血である〟」


 イエス・キリストの言葉だった。

 神の息子であるという彼は、このゴッデスでは何者に該当するのだろうか。マリヤには疑問がよぎったが、市民たち的には気にしていないらしかった。

 マリアンヌが意味があると許諾しているのが全てらしい。あとは、一般人が意味はわからないままお経を有り難がっているようなものなのだろう。

 いちおうイエスについても尋ねてみたが、神と聖霊を含めて三位一体――ある種同一ともとられるためか、こちらも市民は覚えがないようだった。



「みなが知らないような斬新な式をしたいので、〝婚姻の秘蹟〟をお願いします」

 これは言うまでもなく結婚式である。

 それをJCが引き受けるとはまた妙に感じたが、やっぱり市民は気にしないらしいしこの時の新郎と新婦はほぼ同い年ぐらいに若かった。元世界の中世ヨーロッパを考慮すれば珍しくないのかもしれない。


 キキはとても華々しく聖堂を飾り付けてくれた。参列者に見守られ幸福に満ちた新郎と新婦を前に、マリヤは唱える。

「健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


 口づけを交わす新たな夫婦に、ちょっと元世界での恋愛などが懐かしくなる感じがした修道女であった。



「マリアンヌ様を信仰し続けた方に、〝終油の秘蹟〟をお願いします」

 こちらは臨終間際の人への祈りである。


 なのでこのときは、森を出てマリヤが病床の対象の下へと赴いた。森から続く石灰と砂を撒かれた道は城壁に囲まれたいかにも中世ヨーロッパ的な町へと続いており、うち一角の粗末な家に依頼者はいた。

 薄汚れたベッドに横たわり老いた相手に、聖油で、目、耳、鼻、手足に十字をしるして唱える。

「〝聖なる塗油と慈悲によりて、主なる神が汝の犯したる罪を赦したまわんことを〟」


「ありがとうありがとう」と繰り返して、まもなく彼はこと切れた。


 葬式も、やはり形態を問わないらしかった。数日間は修道院は転移しなかったので、マリヤは葬儀も手伝うことができた。

 

「〝主なるイエスは言われました。『わたしは、よみがえりであり命である。わたしを信じる者は死せども生きん』〟」


 多数の人の生と死に向き合うことは嬉しくもあり哀しくもあった。同時に、自身を成長させてもくれているとも実感できたマリヤであった。



 ……ともかく、異世界ゴッデスに来た初日のような超常的奇跡までは必要としない日々が続いた。


 もちろん、いつ無茶な仕事が来るのかわからないのでキキを通じてマリアンヌへは毎日呼び掛けていたが、ついぞ返答がくることはなかった。しかしどうにか乗り切り、ようやく自分としても異世界に馴染んできたなと手応えを覚えだした頃に、


 あの、めちゃくちゃな悪魔祓いの依頼を受ける羽目になったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ