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生人形の館Ⅱ

 「ライター? あるけど、貸そうか?」

 「いややっぱいい」


 私の学校は成績がピンキリだった。 偏見だったが、あまり成績のよくない男子であれば持ってるだろうと踏んだ。 案の定ではあった。


 でも、後々のことを考えるとリスクがわからない以上は、怪物の本を処分するという選択肢は避けてしまった。


 「さくら、不良になったかと思った」


 普段無表情の遙が、めずらしく顔をしかめてくる。


 「違うって、魔が差しただけ。 バレたら良くて停学、下手したら退学じゃん」

 「やりかねないと思って」


 遥は胸元に移動教室の教科書と、大学の赤本を抱えている。

 

 「あれ、響子は今日も遅刻? それかサボり?」

 「遅刻、こんな時期にホント馬鹿」


 自由人は今日も遅刻。 我が道を行く響子をうらやましいと思ったこともあった。

 

 5月中旬になると中間試験がやってくる。 高校2年生ともなると、進路のことを考えると勉強をおろそかにできなくなる。


 つまり怪物にかまっている暇なんか本当はないのだ。 しかし、世界の平和と天秤にかけると、溜息がでてしまう。







「――おお人間よ、ご苦労だった」


 帰宅早々に飛び込んでくるのは、平然とした様子でリビングのソファに腰をかけている怪物の姿。


 どうやら、大人しくしていたらしい。 前から思っていたが、案外素直なのよねこいつ。


 「アンタ風邪治ったの?」

 「もちろんだ、人間とは根本的に身体のつくりが違うのハックション!」

 「ちょっと! 部屋に籠っててよ、うつったらどうすんの」

 「それより、このティシューというものは大した発明品だよ。 ずびびび」


 よく見れば、ゴミ箱には大量の使用済みティッシュが山積みになっている。 そもそも怪物の風邪は人間にもうつるのだろうか。

 

 「それで、アンタはどうしたらこの世界から消えてくれるんだったかしら」

 「――そうであったな」


 どこか遠い目をしはじめ、なにやら哀愁が漂い始める。



 「我と会話の練習をしてほしいのだよ」



 そういえば前にも言ってたわね。 たしか娘がいて、関係がうまくいってないとかどうとか。

 正直なところ知ったことではないので、さっさと消えてほしい、とは言えないものか。


 「具体的には」

 「そうだな、いろいろと考えていたのだが……この空間で生活を共にさせてほしい。 そうすれば糸口が見えてくると思うのだ」

 「はぁ!?」


 冗談じゃない! なんでこんな得体のしれない奴と一緒に暮らさなきゃいけないのか。


 いや、これは交渉。 相手の言うことをそのまま受け入れてはいけない、折衷案よ。 妥協点を探るしかない。



 「嫌」

 「――なぜだ!? 親子というものは一緒に生活するものであろうが! 我が娘も同じ城に住んでいるぞ!」

 「親子の形にもいろいろあんのよ。 そんな一般論は通じないわ」

 

 納得いかない、といった表情。 ヤギ顔でも案外表情の変化というのはわかるものね。

 前回の「態度改めます」発言もあってか、こちらの要求も聞いてくれそうな雰囲気はある。



 「ならば、我が魔導書を返してもらおうか? あれが近くになければ不安で仕方がないのだ。 キサマに貸しているのも正直なところ勘弁してほしいのさ」

 「そ、それは」



 痛いところをついてきた。 この本は渡してしまったら、いったい何をしでかすかわからない。

 なにか切り返す方法はないか。 せめてマンションの隣の号室ならいいか!? いや、私にそんな経済的力はないし、空いてるかどうかも。


 「他に案がないようなら我はここに留まることにする」


 私が言い返せない様子を見て、早々に結論を出しやがった。 なんで世界の為に私生活まで乱されないといけないのよ。 そこまでして守る義理があるのか、疑問符がついてしまいそうになる。


 不満そうな私をよそに、さっさと話題を変えようとする怪物。 しかしそれは拍子抜けするものだった。

 


 「ところで人間よ、キサマの名はなんという?」



 そういえばちゃんと自己紹介をしたことはなかったな。 隠す必要もないか。


 「田宮さくら」

 「さくら、か! いい名前じゃぁないか! 我が娘サーシャには及ばんがな、ファーッハッハ!」


 なにがいったい面白いのかさっぱりだ。 サーシャという名前はちょこちょこコイツの口から出ていた言葉だが、いったいどんな奴なんだろう。 興味は、ないな。


 「それでは宜しく頼むぞ、さくらよ! ちなみに、我が名はセブロン・フランセス・レメディオルス・クリスピア―ネウ」

 「長いし覚えられないしどうでもいい」

 「なんだとッ!?」



 これからこの怪物と生活をしなければいけないと思うと憂鬱だった。


 後から部屋を見ていると、動物の毛があちこちに落ちていたり、獣臭が布団のシーツにこぶりついていたり、本棚があちこち物色されていたりと、散々な有様。 この怪物には、色々と躾をしなければ、とてもではないが生活なんてできそうになかった。


 会話の練習っていったって、それこそまだ抽象的。  

 何をしゃべればいいのか、世間話でもすれば満足してくれるのか? 適当に合わせていれば、そのうち消えてくれるというのが、一番なのだけれど。


 そういえば、コイツは「より実践に近い形式で」と言って、私に「父上」と呼べと強要してきた。 死んでもゴメンだった。


 仕方がないので、自分を「魔王」と自称しているから、「お父さん」に韻を踏んで「ま王さん」とでも呼んでやろうと思う。 これでも十分に譲歩している。


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