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生人形の館

 「フェレス、我が娘サーシャが部屋にいないが、いったいどうなっている」

 「申し訳ありません、魔王様。 サーシャ様は用事があるといい、出て行ってしまわれました」

 「行き先は?」

 「重ねて申し訳ありません、教えていただけず……」


 あまり元の世界に戻ることは避けたいのだが、辛抱たまらずに帰ってきてしまった。

 あれから人間の女に絶品の『キャンディー』を買ってもらったゆえに、サーシャにも食べてほしかったのだが。


 「城の外は危険だというのに、もし誤って人間の領土に足を踏み入れて残党共に襲われてしまったら、と思うと心配で仕方がない」

 「私の力不足でございます、たいへん申し訳ございません。 ですが、他の者に尾行をさせていますので、万が一の事態は避けられるよう手は打っております」


 仕方がないか。 今までもこのようなことはあったが、なんとか無事でいてくれている。 だが、親の心というものは子には伝わらぬものだ。

 


 私はキャンディーをメフィストフェレスへ手渡す。


 「魔王様? こちらはいったい」

 「これは、えー、戦利品だ。 異世界で人間から奪い取った品だが、非常に美味でな。 必ず我が娘サーシャへ渡しておくように」

 「承知いたしました」


 フェレスは私の話がひと段落済んだ、というのを察した様子で、話を切り出してくる。



 「――魔王様、ご多忙の中で非常に恐れ入るのですが、現状の我が軍の侵攻状況についてご報告をよろしいでしょうか」

 「話すがよい」


 メフィストフェレスは要点をつまんで報告をしていく。 しかし、特に大きな事態には発展しておらず、トラブルも起きていないようだ。

 

 これまでの流れでは、魔族の領土である超大陸スクラヴィア・クラトンに対して、人間は連合国家ウルティマを名乗り、勇者を筆頭にして侵攻を開始してきた。 しかし、結果は惨敗。


 現在は連合の中心を担っていると思われる3か国を、魔王軍の各幹部が進軍をしている。


 「――ハックションッ!!」

 「という形で、いずれも状況に問題は……ご不調でしょうか、魔王様」

 「も、問題ない。 フェレスよ、流石の手際の良さだ、今後もぬかりなく頼む」

 「お褒めの言葉を賜り、光栄でございます」


 早いところ異世界へ戻りたい、そんな気持ちでソワソワしているのを察したのか、メフィストフェレスは話を切り上げる。



 「最後になのですが……これは私の不徳といたすところですが、やはり私が指揮を執っていること、この城に残り魔王様への伝令を務めていることを、よく思わない者も少なからずおります」

 「……ふむ」


 言いづらそうに頭を下げるメフィストフェレス。 その可能性は以前から危惧していたのか、私に進言していたことだな。



 「魔王様のお耳にいれるのは早計かと考えたのですが、軍の士気は戦果に直結いたしますので……」



 メフィストフェレスが優秀なことは疑わないが、どうやら不穏な空気が流れ始めているようだな。


 「よい、我は異世界で手が離せぬ。 フェレスの指揮は我の指示であり、我の指揮も同然であると、再度皆へ周知するがよい」


 






 ブブブブブブ、というアラームが鳴る。 もう7時か。 布団の中から、スマホを置いていた場所へ手を伸ばす。


 「ふぁ……」


 東側の窓からは陽気な光が差し込んでくるのに、私の気分は憂鬱だった。

 歯を磨き、制服に着替え、学校にバレない程度の簡単な化粧。



 おそるおそるとカバンを開く。 あった。 ちゃんと約束を守っているようね。



 私の住んでいるマンションには使っていない部屋が3つもある。 元々は家族で生活をするはずだった5LDKという間取りは、ほとんど死んでいる。


 いや、死んでいたはずの1部屋に、昨日から異物が転がり込んでいるのだ。



 「体調はどうなのよ」

 「――ハックションッ! ハックションッ! 大丈夫だ! この程度で倒れるようであれば魔王サタンの称号を受け継ぐことなどできないッ!」



 布団の中でギャーギャーと唸っている珍獣、いや怪物。

 あれから、仕方がなく家へ入れることになってしまった。


 「あっそう、大人しくしててね。 あの汚い本は私が持っていくから」

 「汚いだとォ!? あれはだなァ――」


 さっさと家を出て、学校までの徒歩20分。


 なにをいったい、どうしてあんな奴と同じ空間にいなければならないのか。 でもおそらく、これは世界の平和を守るために、私がやらなければならないことなんだろう。




 田宮さくら、それが私の名前。 普通の公立高校に通っていて、勉強はあまりできない方だ。


 あの怪物と出会ったのは、同級生の男子に手紙で呼び出されていた時だった。

内容は察しがついた。 めんどくさかったけど、わざわざ手紙っていうアナログな手段を使ってくるところが面白くて、行くだけ行った。



 場所は校舎裏の桜の木の下。 ベタだな、と思っていた時、なんの気配もなく怪物は現れていた。



 ギャーギャーと色々吠えてて、「魔王」「魔導書」「殺す」とか言ってて、最初は演劇の役者か、そうとうイタイ人だと思っていた。

 炎のマジックみたいなのは「すごい」くらいにしか思ってなかったが、心を読むマジックくらいから「あれ?」と思い始めていたと思う。


 関わったらダメだ、と言い聞かせていたけど「娘がどうの」っていうのが面白くて、つい軽口をたたいてしまい、翌日にも怪物は気配もなく屋上に現れた。



 なんとなく「こいつヤバいな」っていうのは予感してた。 けど、頭とか首とか触った時点で、もうダメだった。 生き物の体温、この世界の存在じゃないって確信する。


 こいつの言っていたことは全て事実なんじゃないか、って考えたら怖かったけど、態度に出してしまったら負け。 なんてことを思ってたら、気が付いたら怪物相手に啖呵を切ってしまっていた。


 私のせいで世界が滅ぶ? ニュースであの怪物が映ったらどうしようって考えてたら、SNSで繁華街を呆然とふらついている画像と動画が出回っていた。 これは少し笑ってしまう。


 それからあの怪物にもなんかあったみたいで、一応は人間に敵意はないって言うために、わざわざ私の前にまた現れた。


 とはいえ、怪物が危険な存在であることは疑う余地はない。 カバンの中にある本さえ持っていれば、高校生男子に負けるくらいの力しか持っていないのは確認済み。

 


 もうこの世界には来ない、そう言ってくれるまではこの本は返せない。

 いや、一度だけ返した。 「お菓子を娘にあげたい」と聞かなくて、返してしまったのだ。 軽率だったか、と思ったけどもちゃんと約束を守って私へ返してくれた。



 「――いや、もしかしてこの本を燃やしちゃったら、全て解決するんじゃ」


 

 どこかにライターを持ってる悪い奴はいないか、そんなことを思って正門をくぐった。


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