Ep:37
another view point side ヴァネッサ・オフレ
和国へと亡命して早一週間が経ちました。数日は家の内装や家具を整える為に使い、残りは学院への道を確認したり近所の散策をしてどこに何があるのかの把握に努めていました。そうしてあれよあれよと入学式を迎え今日から本格的に授業が始まります。事前に学習内容について調べていましたが、今の私の学力でも問題無い事は分かっているのでその点に関しては一安心です。とはいえこの学院は和国の皇族や貴族、そして特筆すべき能力を持った選ばれた人たちが通う学び舎です。少しでも気を抜けばあっという間において行かれる事でしょう。少なくとも授業だけでなく自宅でもそれなりに勉学に励まなければなりませんね。
あっ、先生が来ましたので気持ちを切り替えましょう。
「初めまして、新入生の諸君。私は歴史を教えているマナベだ。これから一年間の付き合いになるが……あーまあ、頑張ってくれたまえ」
白衣を身に纏い、肩にかかるくらいに伸びた髪と無精髭というなんとも歴史に精通している人のイメージ通りという男性ですね。それに挨拶の最後が面倒になって適当に濁すところなども印象に拍車を掛けています。
「取り合えず今日は妖魔、そして和国の歴史について簡単に触れたいと思う。とはいえだ、この辺りの事は初等部や中等部でもやっているので耳にタコが出来ていると思うが悪しからず」
いよいよ授業が始まります。私としても非常に興味がある分野なので改めて先生の言葉に耳を傾けます。
まず妖魔について語ろうか。妖魔とは人類の敵であり未知の生物である。そして我々人類が強さ・脅威度・討伐難易度・被害規模に基づきクラス分けをしている。最低がクラスEでそこから順に上がり事実上の最高がSとなる。Sの更に上にクラスunknownが存在するが現状人類で討伐可能なのは数名しかいない。軍や討伐者の連合で対応できるのがクラスSまでなので先程も言った通り事実上最高がSとなるわけだ。では妖魔とは何か?これに関しては諸説あり未だ結論は出ていないが有力な説としては二つある。一つは世界の自浄作用によって生み出された説だ。世界が我々人間を異物と捉え排除する為に妖魔という存在を生み出していると言う事だな。これは人の免疫機構と同じでいわば私達は細菌と見做されているとも言える。そして二つ目は私達が住む大陸とは別の大陸からの侵略者という説だ。今住んでいる大陸は非常に広大であり、資源にも富んでいる。だが、人間と言うものはまだ見ぬ未知を知りたいという欲求を持っている。遥か太古からまだ見ぬ新天地を求めて航海へ出る人は後を絶たなかった。そして今から五百年前に大航海時代が始まりそれは百年ほど続いたが海へ出た者の帰還率は僅か0.1%にも満たない。余りの帰還者の少なさに大航海時代は早々に幕を下ろし、それ以降は滅多に外海へと赴くことは無くなった。
当時の文献には生還者から聞いた話が記載されており、それによるとこう書いてある。『醜悪な悪魔に船を襲撃され命を落とした帆船が多数、見た目は人間と酷似しているが人知を超えた力で訳も分からず消滅させられた帆船が多数。私が今生きていられるのは神の如し存在の戯れに過ぎない』と。外見的特徴から類推するに妖魔と見て間違いないだろうと言うのが大多数の研究者の意見となっている。このことから今から五百年前には妖魔の存在が確認されており、人類の敵対存在として認識されていた訳だ。その当時はまだ海での戦い――いや、虐殺が主だったが四百年前にはこの大陸でその存在が確認されている。そこからは皆も知っての通り大陸全土を巻き込んでの凄惨な戦いに身を投じて行く事になった。下級の妖魔であろうとその戦闘力は一般人を簡単に縊り殺せる程で、上級の妖魔になれば当時の装備や戦力では太刀打ち出来ない。只々家畜の様に屠殺されるのを待つだけの存在に成り下がった人間だが、幸いな事に妖魔の出現頻度が低い事や上位個体が滅多に現れない為絶滅の危機は回避される事となる。当然の事だがただ手を拱いているわけではなく、あらゆる国家が手を組み妖魔研究が行われ対抗できる装備を研究開発していった。が、その手の物は得てして時間が掛かるものであるし相手にも対策されてしまうので常に刷新していかなければいけない。ジリジリと追い詰められる恐怖、上級の妖魔が現出すれば国が一夜にして滅びてしまうという事実。まともな精神状態で居られるはずもなくいたる国で恐慌が発生し、犯罪係数も跳ね上がり日々の暮らしさえ満足に行えない状況が続く。そんな中まるで追い打ちを掛けるように発生したのが第一次妖魔大戦だ。これは今から約二百五十年前に起きた。妖魔大戦とは簡単に言えばあらゆるクラスの妖魔が一斉に現出する現象の事を示す。当然だがその中にはクラスS・クラスunknownも含まれているがその数は数体と他と比べて少ない。少ないと言っても脅威度は計り知れない物があるし、一所に纏まって現れるのではなく大陸各地に散らばって現出するのでその厄介さは筆舌に尽くしがたい。先も言ったように人類は長年に渡る妖魔との戦いで疲弊しきっている所にこれだ。各地に現れた妖魔に精一杯抵抗したが結果は幾つもの国が滅び、数千万人が死亡し負傷者はその倍以上出たと言われている。倒しても倒しても現れる敵に人類は疲弊し、この地獄を持って人という存在は滅びるのだろうと諦観していた所に救世主が現れた。その者は圧倒的な力で屠り、屠り、屠り続け最大の脅威となるクラスS・クラスunknownでさえ殺して見せた。その戦姿は神々しくもあり、地獄を統べる悪魔の様でもあった。全身に返り血を浴び赤く染まり、手足が千切れようと地に落ちた体の一部をくっつければ傷は瞬きの内に癒えてしまう。その様な事が出来るのは神か悪魔くらいのものだろう。当時の人達は多くの疑問を抱き、畏敬の念を覚えたがそれでも今目の前で自分達を助けてくれる人物に縋るしかなかった。そうして彼の者は大陸各地を巡りただ一人で戦い続ける。幾日も、幾月も、幾年も。そうして戦神の如く戦に明け暮れる事数年経ったある日、ついに大陸から全ての妖魔が消え去る事となった。その事実を知った時人々は天に祈りを捧げ、歓喜に咽び泣き至る所で喝采が鳴り響く。今ある奇跡を誰が齎したのかも知らずに、只々全てが終わった事に喜んだ。そんな時間も長くは続かず、すぐに現状へと認識を変える事になるがまずやるべき事は復興や死者を弔う事であり、負傷者や病人への手当ても必要だろう。そうった必要に迫られている事を市井の民や政治家が行っている一方で国の上層部は別の事に注力していた。それは――妖魔を殺戮し続けた人物についての情報だ。目撃者の証言から幾つかの事実は判明している。中性的な顔立ちと体格をしている為男女どちらなのかは不明。刀を使う。手足が切り落とされようとすぐに元通りになり、心臓を潰されようが死ぬことは無い。また、時折着物姿の少女と話をしていたという。どの国も得られている情報はこんな所で、真実を知るには圧倒的に不足している。様々な情報が錯綜する中、突如として和国が謎の人物についての情報公開をすると声明を発表したのだから世界は大いに揺れる事になる。公開された情報はこのような物だった。
一.和国出身の男性ある。二.その身は不老不死であり、あらゆる身体的損傷を瞬時に癒す事ができ、決して老いることは無い。三.妖魔との戦闘は此度が初めてであり、武芸を嗜んでいた訳では無い。四.ある目的の為に大陸を渡り歩いて妖魔と戦い続けた。五.決して英雄になりたいわけでは無いので詮索しないで欲しい。六.不老不死の力は他人に分け与える事が可能である――正し特定の条件を満たした場合に限る。
以上の内容が大陸の各国家に宛てて伝えられた。驚くべき内容に最初は真偽を疑ったが、数々の目撃証言と照らし合わせると合致する箇所が多く、事実を裏付けるように戦闘の光景を撮影した物が添付されていたので否応なしに認めるしかなくなる。そうして一度容認してしまえば気になる箇所が出てくる。そう、先の文言にあった不老不死という項目だ。不老不死とは誰しもが憧れ、欲し、望むが決して手の届かない夢幻のようなものだった。そう――だったのだ。実際に死と老いを超越した人間が現れ、剰えその力を他人に分け与える事も可能とくれば権力者ならずとも目を輝かせるだろう。例えどの様な代償を支払おうともその力を身に宿したくなるのは人が持つ宿痾と呼べるかもしれない。悪魔との契約か将又神との契約か。そのどちらであれ、何としてでも手に入れようと大陸中の国が動き出す。どの様にその力を手に入れたのか?力を使用する事による代償はあるのか?件の人物は果たして本当に人間なのか?等々真っ先に行うべきは種々確認であって、その後に件の人物と面会なりをして為人を確かめるべきだったのだ。だが、国を司る中枢部は間違えた。問答無用でその人物を捕まえて、無理やりにでも自身を超越した存在へと昇華させようとしたのだ。その為の手段は問わずある国では暗部を総動員させ、ある国ではならず者達を動かし、ある国では軍の精鋭を動員させた。ありとあらゆる手段で我先にと捉えようと動く様は砂糖に群がる蟻が如し。まさに世界を敵に回しているのと同然の状態で、仮に和国が彼の人物を匿ったとしても世界から激しい糾弾をされ、早々に面に出すしかなくなるだろうとこの時は誰もが思っていた。だが、真実とは小説より奇なりという言葉がある通り世界は見て、そして知る事になる。
彼が神の如し存在であるという事を。
事が動き出した以上和国としてもただ座している訳では無い。国防の為に人員を総動員し、各部署は戦場もかくやという忙しさに見舞われ、国の中枢部は慌ただしく駆け回り各種情報や他国の動向確認にてんやわんやとなっている。そんな中時の皇王陛下が彼――ユノ氏を呼び出しこう問いかけたそうだ。
『世界の救世主、そして我が国の誇りでもあるそなたの力を求めて大陸中の国家が動いている。私にできる事があれば協力させて欲しい』
この問いかけに対して返ってきた答えはまさに想像の埒外であった。
『私のせいでこのような事態を招いてしまい申し訳ありません。申し出は大変光栄なのですが身に降りかかる火の粉はこの手でもって払います。例え数千の屍の山を作ろうとも』
そう、たった一人で事態の解決に動いたのだ。対妖魔に関しては疑う余地もなく強い。否――圧倒的かつ絶対的な無類の強さを誇る。だが、今回の相手は人間だ。様々な作戦を練り、練度の高い武力を大人数で行使する途轍もなく厄介な相手。さらには国同士で手を結び連合軍として動いている所もある。果たしてそんな相手にぶつかって勝てるだろうか?普通であれば絶対に無理だし、それこそこちらも全戦力をぶつけて辛うじて白星をあげられるかどうかと言った所だ。それをただ一人で行うのだから正気を疑ってしまうのも致し方ないだろう。しかして、結果から言うと全てを返り討ちにし二ヶ国が地図から姿を消した。数万人もの手練れを殺して、殺して殺しつくし正に屍山血河の光景を作り出したのだ。流石にそこまでされればまともな国であれば手を引くだろう事は想像に難くない。が、どこにでも自分を絶対者だと信じて疑わない馬鹿は居るものでどうせ和国から増援が来て辛勝したのだろうと都合の良い妄想を思い浮かべ更なる行動に移す。本人への攻撃が困難なのであれば周囲の人間を巻き込めばいい。そうすれば遅からず窮地へと追い込まれ自ら首を垂れ、止めて下さいと懇願するだろう等と愚にも付かない作戦を実行に移したのだ。それがユノ氏の逆鱗に触れるとも知らずに。
最初は自身の近くに住んでいる人間が死んだ。次は贔屓にしている店の人間が死んだ。そして、話しただけの人間も死んだ。最後には無差別に殺戮を繰り返す事になる。時の情報部がすぐに犯人を特定し、裏にある国家を暴きユノ氏にもその話が耳に届く。そこからの彼の行動は早く、すぐさま件の悪徳国家へと向かい全てを破壊し尽くした。人も、物も、何もかもが灰燼へと帰しそして二つの国が亡国となり果てた。その情報は瞬く間に大陸中に巡り、その事件以降ユノ氏の力を狙うものは居なくなることになる。
後に【災厄を招く道化師】として後世に名を残す事になる事件である。
「さて、ざっと第一次妖魔大戦までの話をしたがここで皆に感想を聞きたいと思う。では――君にしようか。今の話を聞いてどう思ったか率直な意見を聞かせて欲しい」
指名された男子生徒が立ち上がり言葉を紡ぐ。
「まず最初に思ったのは人間とは愚かな生き物だという事です。自身の命と住まう国、そして人類という存在を身を挺して守った人に対して感謝を述べるでもなくその力を欲しようと襲い掛かる。犬畜生にも劣る愚行であり、言葉は悪いですが全ての国が滅べばよかったのにと思いました」
「ふむ、人間とは愚かという意見には私も賛成するよ。助けられたことに関してユノ氏を崇め奉り、信奉せよという訳では無いが敬意を払い感謝するのは人として当たり前の事だと思う。が、権力者というのは兎角自身の権勢を増そうと躍起になるもので、それが災いして国が亡びるという運命を辿ったのは喜劇という他無い」
確かに先生の言う通りだと私も思います。誰しもが勝てない敵を屠る事が出来る英雄に対する対応では決してないし、滅びの道を歩んだのは当然の結果でしょう。……ヘルブラム機械帝国も一歩間違えれば同じ道を歩んでいたと思うと背筋に冷たい物が流れます。帝国も、延いては私も歴史から学んでいたのに――いえ、頭で理解しただけで本質を分かっていないからこそあのような事件が起きたのでしょう。深く、深く自省しなければいけませんね。
「では、次に話すのは第二次妖魔大戦に関する事になるが、この部分に関しては時間も押している為簡潔に纏めたいと思う」
第二次妖魔大戦は今から百年前に起きた。前回の第一次妖魔大戦は大陸各地で妖魔が出現し猛威を振るったが、第二次では特定の場所にしか現出しなかった。その場所とは大陸中央にあるオウルム大平原を中心とした四か国が交わる地点である。オウルム大平原は肥沃な大地としてしられ大陸各国へと食料を供給する一大食料生産地として栄えていた。――『いた』と過去形なのは現在は草木さえ生えない不毛の地と化しているからだ。話を戻して大陸中心部に突如として現れた妖魔の大群の情報は時を置くことなく全ての国に伝えられ、同時に救援要請も行う事になる。各国はすぐに自国の軍隊を編成し、オウルム大平原へと進軍を進める準備に取り掛かった。同時に前回と違い一ヶ所に限定して出現した事にホッと胸を撫で下ろしていたのは当然と言えるだろう。そして自国が被害を被らないとなれば、今まで研究・開発してきた対妖魔新兵器を試す絶好の機会となる。他国がどうなろうが関係ないし、一大食料生産地だろうが妖魔大戦が勃発した以上今までの様には決して行かないのは目に見えている。であれば、未来の安寧を得るために尊い犠牲なってもらおうと考えるのは間違ってはいない。ただし、人としてどうなのか?と問われれば間違いなく終わっているし、被害に遭っている四か国からしたら腸が煮えくり返る思いだろう。
未来の平和の為にという大義名分を掲げてありったけの新兵器を携えて戦場へと向かう各国の軍。対照的に和国はたった九人しか派兵していない。ユノ・アヤメ・カスミ・スズネ・シオリ・ゴロウ・ジン・シズク・コウの九人だ。ユノ氏を除く八名は全員が不老不死の力を授けられており、その実力は一騎当千でありクラスunknownの妖魔とも渡り合える実力を持っている。しかして、どの様に出会い力を授けられたのかは未だ不明であり、彼・彼女等のバックボーンに関しても数名を除いて全てが謎に包まれている。
だが、そうであっても圧倒的な力を持つ者であるからしてその待遇は下にも置かないものである。さて、そんな最終兵器じみた存在を送り込めば一気に戦況は変わり、早々に終結するだろうと思われていたがそうはならず予想に反して長期に渡り戦い続ける事になってしまう。理由はクラスS、クラスunknownの大量現出によるものだ。第一次妖魔大戦では数が少なかったが、今回は打って変わって下位クラスの妖魔が少なく上位クラスまた最上位クラスが大量に現れるという事態に陥ってしまったのだ。そのせいでオウルム大平原に隣接する四か国は早々に亡国となり、救援要請に応え駆け付けた各国の軍も甚大な被害を齎した上で敗走する事になる。皮肉な事に前回と同じく人類の存亡はユノ氏を含む九名に委ねられる事になる。かくして人という種の生存を賭けた戦いの火蓋が切って落とされたわけだが、果たして戦況は芳しいとは言えず苦戦を強いられることになる。唯一にして最大の問題は敵の物量にある。先も述べた通りクラスS、クラスunknownの大量現出により一人当たり十体以上を同時に相手にしなければいけないのだからさもありなん。手足が千切れ飛び、頭を潰され、心臓を穿たれてもなお生き続け闘争に身を置き続けるのは並みの神経では――いや、例え鋼の精神を持つ者であろうが畢竟狂気に呑まれ死を迎えるだろう。しかし彼等は決して狂う事なく平時の精神を保ち続けたと言われている。逆を言えばだからこそ二年に渡る長き戦いを続けられたのだ。そう……最終的には二年もの年月を掛け全ての妖魔を討ち果たし人対妖魔の生存戦争に打ち勝つ事となった。勿論その陰では大陸各国が開発した新兵器も少なからず活躍したし、各方面からの補給も絶えずあった事も忘れてはいけない。
そうして第二次妖魔大戦は終結を迎えたが、同時に戦争とは技術を飛躍的に向上させる機会であり今回は限定された場所のみに妖魔が出現した事もあって大陸各国は技術革命の波に乗る事になる。その影響は凄まじく僅か三十年余りで生活様式が一変し、時代が一世紀は進んだと言われるほど大きなターニングポイントとして今でも語り継がれている。また、ユノ氏含む九名の最大功労者達についてだが其の戦果をもってして『世界の守護者』と呼ばれるようになり、和国はもとより大陸各国に多大な影響力を与えその一言で世界情勢が動くほどの力を得る事になる。これに関しては別の側面から見れば最上位クラスの妖魔を幾万と屠れる存在に歯向かえばどうなるか等火を見るよりも明らかであり、だからこそ矛先が自身に向かない様に恭順を示したと言える。云わば自己保身に走った結果である。
第一次妖魔大戦の事を考えれば何とも浅ましく愚かだが、それこそが人間の本質なのかもしれない。
「と、ここまで歴史について話してきましたがそろそろ時間なのでこれで終わりたいと思います。皆さんそれぞれ思う所はあると思いますが、私から言えるのは二度と同じ轍を踏むなという事です。仏の顔も三度までという言葉もありますが、私達は二度も過ちを繰り返している。三度目があれば呆れられ、見捨てられるかもしれません。その時が私たち人という種の最後になるでしょう。……それでは日直、号令を」
最後に挨拶をして歴史の初回の授業が終わりました。先生が最後に仰っていた言葉が先程から胸に残っています。私はユノ様と親交がありますが、あのお方に見捨てられたらと思うとキュッと心の臓が締め付けられます。今一度心の中で『ユノ様のお力になる事こそが私の存在意義』という言葉を反芻しそっと息を吐きだしたと同時に開かれた窓から一陣の風が吹き抜けました。
まるで私の想いを肯定するかのように。
another view point side ヴァネッサ・オフレEND




