Ep:36
「では、話を続けさせて頂きます。――第三次妖魔大戦が十数年以内に起こると予測される今、弱小国はもとより列強諸国でも我々と同盟を結びたいという申し出が増えるでしょう。これに関しては上層部が決定する事であり、私達はそれに従うまでですが……一ヶ国ならギリギリ人員を派遣できますがそれ以上となると」
「無理ですね。同盟国へのCODE零部隊派遣で八割の人員は居なくなりますし、自国の防衛の為にもユノ隊長・シズク隊長・コウ隊長には残って頂きたいです。となれば必然同盟国を増やす事など出来ないのは自明の理。そこは上層部も分かっているのでは?」
眼鏡を掛けた隊長が進行役に対して疑問を呈する。
「はい。その通りですが、政治的判断や外交等もあるので簡単に袖には出来ないと思います。場合によっては条件を付けた上で受け入れる可能性も視野に入れなければいけません。とは言っても結局は上がどう判断するかですけどね」
「まあ無能では無いし、馬鹿な事にはならないだろうさ」
そう言いつつもどことなく不安そうな顔をしている。自国を守る為に軍に入ったのに他国へと遠征して死ぬなんて悔いしか残らないだろう。それも政治的要因で決まったなんちゃって同盟国に赴いてなど死んでも死にきれん。彼等を慮ってではないが、少し安心させてあげるか。
「あー、同盟云々に関しては俺も一枚噛んでいるし、軍に不利になる様な事があればそれとなく釘を刺しておく。それと和国を守るだけなら俺が居なくてもシズクとコウが居れば問題ない。だから他国へは俺が行って随時対処すれば被害も最小限に抑えられるしお偉いさんも納得するだろう」
「それはそうだけど、あの子達が納得すると思う?」
「…………俺に付いてくるだろうな」
「でしょ。私だってユノと離れたくないし、教会とか妖滅連盟にも助力をお願いしたらどうかしら?」
「シズク、簡単に言ってくれるが妖滅連盟は独立組織で国が絡む案件には原則手を貸さないんだぞ。それと教会は戦力としてみれば大きな助けにはなる。なるけど……個人的にはあまり借りを作りたくないんだよ」
「向こうは喜んで手を貸すと思うのけど。寧ろユノに頼まれたら死兵と化して、例え命が尽きても戦うわよ」
「分かってはいるが、嫌なんだよ。そもそも教会は宗教組織であって戦闘集団じゃないからな。あくまで守られるべき側であり、俺達が守るべき存在だ」
「あらあら、その言葉を聖女が聞いたら涙して喜ぶわね」
「はぁ……。取り合えず教会にも妖滅連盟にも基本的には協力を申し出ない。自国の防衛、他国への派遣についてはさっき言った通りだ。基本的にはこの考えで進めていく。何か疑問がある人は居るか?」
俺の言葉を投げかけるが誰も手を上げる者はいない。質疑はないとみて進行役に視線を送り、次の議題へと進むよう促す。
「では、これで一つ目の議題を終わります。次の議題は高等学院で行われる講演についてです」
へぇ、珍しいな。その手の依頼をしてくるのは基本的には妖滅連盟や軍の下部組織等だがその数は決して多くは無い。年に一回あるかないかくらいだし、出向くのは隊員なのでこういった会議で話題に上る事は滅多に無い。それが今回こうして議題に上るという事は何かしらの思惑が絡んでいるとみるべきか?
「今回依頼してきたのは高等学院です。勿論一般の学院ではなく皇族や名家、旧家の御子息・ご令嬢が通う由緒正しき学院ですので安心して下さい。――内容としては将来政財界や軍に入る若者たちに妖魔の事や世界情勢などを教えるのが目的です。当然ですが秘匿とされている内容や情報を話す事は厳禁ですし、私達の住む世界の裏側等も話せません。それを踏まえて未来ある若者たちに実のある講演をして頂きたいのです」
「それは私達隊長がやるべき仕事では無いのでは?いつも通り手の空いている隊員に任せるべきだと思いますが」
「仰る通りですが、依頼を出してきた学院がサクラ皇女殿下が通う学校でして。それとユノ隊長が保護しているオフレ元皇女殿下も通う予定の学校です。……今から話す事は内密して欲しいのですが皇王様や軍の上層部が企画立案した肝煎り案件なので私達には拒否権は無いんですよ」
「それは……成程。分かりました」
「では、最初に誰が行くべきかを決めたいと思います。我こそはという人は挙手をお願いします」
進行役がそう言ったが誰も手を挙げる者はいない。何分隊長ともなると仕事に忙殺されるし、あっちこっちに出向かなければいけない。正直言って上が決めた案件だろうがさして重要度は高くないし、そんな事に時間を使うぐらいなら少しでも抱えている仕事を処理したいだろう。
「…………えー…………皆様の気持ちは痛い程分かりますが、ここで決めないといけないので協力して貰えないでしょうか」
「それならお前が行けばいいんじゃないか?」
「私は講演当日は遠征に行っていますので物理的に不可能です」
「くそっ、運のいい奴め。とはいえ俺も暇じゃないしどこかの部隊の副隊長でも宛がえばいいんじゃないか?別に絶対に隊長じゃなきゃダメという訳じゃないんだろ」
「最悪の場合はそうなりますが、査定に響きますし上層部は良い顔をしないでしょう」
うわー、皆揃って苦い顔をしているよ。この様子だとかなり長引きそうだし、結局の話誰が貧乏くじを引くかって事だろ。――サクラとヴァネッサが学院でどう過ごしているかも気になるし、丁度良い機会だ。俺が立候補しようかな。
「誰も立候補しない様であれば俺がやっても良いだろうか?」
「ユ、ユノ隊長が登壇するのですか?」
「そうだけど何か問題でもあるのか?」
言葉に詰まりながら聞いてきた進行役に対して答えつつ疑問を投げかける。――が、何やら思案顔でうんうんと唸っているだけだ。さてどしたもんかと思っていると隣に座っているコウが声を掛けてきた。
「あのさ、ユノが講演に出るなんて何時ぶりだよ?」
「えーと、百年くらい前に一回したような記憶がある」
「んじゃ百年ぶりの講演になる訳だ。そしてお前の話を聞く機会なんて生きている内に一度あるかないかだし、クラスunknownの妖魔と戦い続けている奴から語られる内容に興味を持つ人は大勢いる。その中には王族・皇族・貴族・果ては政財界の大物から軍属の人間まで様々だ。んでだ、降って湧いたようにお前が講演をしますとなったらどうなると思う?」
「…………大勢の人が押し寄せるな」
「そんなもんじゃ収まらないぜ。大陸各国から人民大移動が起こる。そうなれば和国はパンクするし対応も出来ない。だからこいつは青い顔をして唸っているのさ」
「そう言う事ね。でも、招待制にすれば解決するだろ。学院のホールに入れる人数も限られているし」
「招待制を導入すれば呼ばれなかった奴が必ず不満を持つ。表立っては何もしてこないだろうが裏で何がしかの行動はするだろう。それが数ヶ国にも及んだら処理が凄い面倒なんだよ」
言われてみれば確かにと思う。だが、俺自身割と乗り気だし止めますとは言いたくはない。何か妙案が無いかと空を睨みながら思考していると横合いから助け船が出される。
「招待するのは和国の人間と、同盟国のみ。他の国には公にせず情報局に協力してもらって情報統制すればなんとかなるんじゃないかしら?」
「あー、それなら大丈夫……かな。だが確実に厄介事は起きるぞ」
「降りかかる火の粉は叩き潰せば良いだけよ」
「おっかねぇ女だな」
「あら、誉め言葉と受け取っておくわね」
シズクとコウが短いやり取りをした後、俺の方へと視線を向ける。
「ユノがやりたいなら私は幾らでも協力するわ。だから頑張りましょうね」
「俺も同じだ。やると決まったからには全力を尽くすぜ」
「シズク、コウ。ありがとう。という訳で俺がやっても良いだろうか?」
全体を見回してそう問いかけてみる。各々の反応は賛成八割、反対二割と言った所か。反対している面々から意見は出ていないし、恐らくは仕事が増えて面倒だからっていう理由だろうから反駁しずらいと思われる。
「各人思う所は有るかもしれないが、反対意見が出なかったので俺がやってことで決まりだな」
「はい、よろしくお願い致します。この件については会議の後早急に上層部に情報を持っていき詳細を詰めたいと思います。――では次の議題に移ります」
その後二時間程会議は続き終わりとなった。中々実のある内容だったし、部下に伝えなければいけない事も多々ある。残っている仕事も山ほどあるから今日も帰りは遅くなるだろう。はぁ~と溜息を吐きながら隊室へと戻るのだった。
部屋の中に響くカリカリというペンを走らせる音。そして微かな息遣い。一人下を向き黙々と仕事をしているが流石に疲れてきた。ふと壁掛け時計に目をやると二十二時をさしている。
「もうこんな時間か……。この書類は明日には提出しなきゃいけないし帰るのは日付が変わる頃かな」
誰に言うでもなく呟くと、入口の方から二つの声が返ってきた。
「お疲れ様です」
「こんばんは。遅くまでご苦労様ですわ」
「カスミ、スズネ。こんな時間にどうしたんだ?何か問題でも起きたか?」
「僕はこの辺りを散歩していたら部屋の灯りがまだついていたので来ました」
「私はユノ隊長の帰りが遅くなりそうな予感がしたので伺いましたの」
「そっか。わざわざありがとうな」
「いえいえ。それよりもまだ帰れなさそうなんですか?」
「そうだな、あと二時間かそこらでなんとかなりそうではある」
「それじゃあ日付が変わっちゃうじゃないですか。僕も手伝います」
「でももう業務は終わっているんだし無理することはないぞ」
「大丈夫です。ユノ隊長のお役に立てることが僕の幸せなので」
嬉しい事を言ってくれる。思わずスズネの頭を撫でてしまったがにへらぁ~っとして目を細めて気持ちよさそうにしているので問題無いだろう。
「う~、ちょっとだけ羨ましいですわ」
「じゃあカスミもこっちおいで」
「はい」
楚々とした動きで俺の前まで来るとカスミの頭も撫でてあげる。するとこちらも気持ちよさそうな――いや、蕩ける様な顔を浮かべている。美人と美少女男の娘がトロットロになっている表情を見ているとこう……疲労も相まって下半身に来るものがある。が、ここは職場であるからして如何わしい事など出来るはずもない。気分を変える為にも飲み物でも飲むか。
「二人とも、何か飲むか?時間も時間だからお茶かジュースになるけど」
「それでしたら私が淹れますわ。丁度昼に水出し緑茶を作ったので」
「それじゃあお願いしようかな」
「はい。少しお待ち下さいませ」
簡易台所へと向かうカスミを見送りつつ、胸元に顔を埋めてクンクン臭いを嗅いでいるスズネに声を掛ける。
「スズネ。今日はまだお風呂に入っていないから臭いを嗅ぐのは止めてくれ」
「ふぇもいいにほいがじますよ」
……でも良い臭いがしますよだろうか?そう言われても流石にな。
「はいそこまで。カスミも戻ってきたしお茶をしてから、仕事をするぞ」
「は~い」
その後三人でお茶を楽しんだ後カスミも仕事の手伝いをしてくれるとの事で一時間ほどで終わる事が出来た。こりゃあ、後日お礼をしなければと心のメモ帳に記入してから帰宅の途に就くのだった。
忙しい日々を過ごすと何故こうも時が経つのが早いのだろうか。気が付けば冬が終わり春を迎えていた。以前ヘルブラム機械帝国に行ったのが二月ほど前なので本当に時間が流れるのは早いものだ。さて、春と言えば帝国から元第三皇女のヴァネッサが和国に亡命してくる時期だ。家や学院への入学手配、その他諸々は全て終えて受け入れ態勢は万全だ。万事恙無く進んでホッとしているが本番はこれからと言えるだろう。今月はヴァネッサの入学、親しい人を招いての花見、そして学院での講演と目白押しだ。更には軍人としての仕事もあるからまだまだ忙しい日々は続いて行く。
隊室の窓からぼんやりと外を眺めながら物思いに耽っていると突然部屋に声が鳴り響く。
『入電。入電。三街区の外れでクラスBの妖魔が出現。これに伴いCODE肆・伍部隊は出動されたし。繰り返します。三街区の外れで――』
「三街区と言えば住宅街の近くか。クラスBだし壊滅する程の被害は出ないと思うが少し心配だな」
思わず独り言を呟いてしまったがそれに応える声が横から掛けられる。
「二部隊が出動していますし、あの辺りは防壁もあるので問題は無いかと思いますよ~」
「シオリか。んー、確かにそうなんだがどうにもな……」
「何か気になる事でも?」
「最近ランクが上の妖魔出現が多いと思ってな」
「言われてみればそうですね。ユノ隊長が帝国に行っている間にもクラスAの妖魔が一体出現しましたし」
「第三次妖魔大戦の前触れ……にしては規模が小さいし、数年前から妖魔の活動が活発化する事を考えると別の要因を考えるべきか」
情報局ならなにかしら掴んでいるかもしれないが、正確な所は分からないだろう。アヤメなら知っている事もあるだろうが、あの国を離れて長い。治めている者も変わっているだろうし内部事情も当然変化している。生の情報を手に入れるには直接赴くのが一番だが流石に今は無理だし、一度行けば五体満足で帰ってこれる保証はない。はぁ、モヤモヤとするが今は自分が出来る事をやるしかないか。
「ユノ隊長、なんだか思い詰めた顔をしていますよ。大丈夫ですか?」
「あぁ、すまない。少し考え事をしていた」
「私にできる事があれば何でも仰って下さいね。命を賭して遂行しますので」
「気持ちは有難いが、シオリが死んだら悲しいから命大事にで頼む」
「ふふっ、分かりました。はぁ~、ユノ隊長に心配されるなんて嬉しくて胸がポカポカします~」
そう言って自身の胸を押さえる。うん、相変わらずおっぱいデカいな。片手でぐにっと押さえているから制服の胸元がパツンパツンになっている。凝視しちゃ駄目だと思うのにどうしても視線が外せない。
「あら、私の胸が気になりますか?」
「っ、悪い。つい目線がいってしまってな」
とっさに言い訳をしてしまうが、馬鹿正直に貴方のおっぱいが素晴らしくて凝視していましたなんて言える訳がない。というか胸に視線が吸い寄せられるのはもう男の性だからな。仕方ない。
「よければ触ります?あっ、そうなると下着が邪魔ですね。今ブラジャーを外しますからお待ちを~」
「大丈夫、大丈夫!別に触るつもりは無いし、それに今は仕事中だからさ。気持ちだけ貰っておくよ」
「そうですか?残念です」
可愛らしく口を尖らせて残念がるが、職場で部下のおっぱいを触るとか懲戒解雇待った無しだ。
「そ、そうだ。シオリに任せたい仕事があるんだけど頼めるか?」
「お任せ下さい」
ふぅ~、これで危険は回避できた……だろう、多分。他の女性陣がこちらの事をジッと見ているが気にしてはいけない。さてと、俺も仕事をしますか。
相変わらず多忙な日々を過ごしていたが、ようやっと落ち着いてきた今日この頃。さて、実は今日帝国から元第三皇女のヴァネッサが和国に来る予定だ。高速飛行船乗り場に俺達CODE零部隊全員が集まり、警備をしつつ到着を待っている。到着時刻は今から三十分後なのでもう少しと言った所だ。
「ヴァネッサさんと会うのは皇居での護衛兼案内以来なので楽しみですわ」
「そうか、カスミはあれから会っていないのか」
「はい」
「これから此方でヴァネッサが暮らすに当たってカスミにも色々手伝ってもらうかもしれないがよろしく頼む」
「勿論ですわ。ユノ隊長の頼みとあれば何でも致します。必要な物があれば実家や分家に頼む事も出来ますし、入手困難な物でも問題ありません」
「ありがと。でも、まあそこまで大事にはならないとは思うよ。帝国で彼女の家に行った時も随分と質素――いや、質実剛健な暮らしをしていたしな」
「そうなのですね。ではあまり物欲が無い方なのでしょうか?」
「んー、年頃だしそれなりにはあるんじゃないか?必要な時に必要な物を買うってタイプと見た。ユキと同じタイプだな」
「流石にユキさんには敵わないと思いますわよ。全てを完璧に熟し、ユノ隊長をすぐ傍で支え続ける私の憧れの女性ですし」
「ははは。その言葉はユキに直接言ってやってくれ。喜ぶと思うから」
「はい。機会があればいつもお世話になっているお礼も兼ねて言おうと思います」
そんな風にカスミと何気ない会話をしていると、アナウンスが流れ帝国出発―和国行きの飛行船が到着する。俺達全員が一瞬で気持ちを切り替え、横に並び到着ゲートから吐き出される人を待つ。
次々と流れる人の波は途切れることなく続き、人影が疎らになった頃お目当ての人物がこちらに歩いてくる。以前あった時から数ヶ月しか経っていないというのに感慨深いものを感じるのは年のせいだろうか。「ユノ様。お久し振りです」
「お久し振りです。オフレ殿下――いや、もう皇女では無いのだしオフレさん?」
「あの、もし宜しければヴァネッサとお呼び下さい」
「分かりました。ではこれからはヴァネッサと呼びますね」
「はい!」
彼女の事は心の中では名前呼びしていたが、こうして本人から了解を貰えたなら口に出して言えるし大分楽になったな。前までは対面ではオフレ殿下、心の中ではヴァネッサと使い分けていたから間違えそうになる時が結構あったんだ。これからはその心配もなくなるし、一安心です。
「道中何か問題があったりしませんでしたか?」
「特にありませんでした。懸案だった帝国を出る際、何がしかの妨害や嫌がらせ等も一切なく無事辿り着けました」
「そうですか。何よりです。――これから和国で暮らす事になる訳ですが、何かありましたら遠慮なく私か部下に申し付けて下さい。可能な限り対応しますので」
「お心遣いに感謝致します。私の方でも使用人を何人か連れてきていますので基本的にはこちらで対応できるかと。ですが、私共ではどうしようもない事があった場合はユノ様にお力をお借りしますね」
「分かりました。ではそのようにします」
ちらりとヴァネッサの後ろに目をやると数人の執事と侍女が控えている。亡命する元皇女に付いてくるという事はもう帝国へは戻れない事を意味する。帝国のお屋敷では十数名の使用人が居たが、篩にかけた結果僅か数名が残ったという事か。老齢の執事はまあ分かるが、侍女に関しては全員が年若い――見た目で判断しているので実年齢は不明――のに思い切った決断をしたものだ。まあ、ヴァネッサに付いていれば必然俺とも親交がもてるし、そこら辺も含めてメリット・デメリットを考慮した結果がこれなのだろう。となれば雑に扱うことは出来ないし、問題を起こさない限り友好的な関係を築くべきか。
「後ろの方たちは初めましてですね。私は和国の軍でCODE零部隊の隊長をしていますユノです。以後お見知りおきを」
俺の挨拶を皮切りに隊員達、そして使用人達が挨拶を交わす。一通り自己紹介が終わった後ヴァネッサがこれから暮らす事になる家へと案内する事に。
「帝国で暮らしていた屋敷に比べるとかなりグレードは落ちると思いますが、警備の兼ね合いもありまして用意した以上の物はどうしても難しく……」
「その点に関しては全く問題ありません。実は私大きい家よりもこじんまりした家の方が好きなんです。なのでご用意して頂いた家は私にとって理想とも言えますので」
「それはなによりです。――これから蒸気機関車で移動した後、徒歩での家まで向かいます」
「はい。よろしくお願いします」
こうして無事亡命したヴァネッサの向かい入れが完了した。暫くは身の回りの整理などをした後、学院へと通う事になるだろう。そうすれば一先ずは俺の肩の荷も下りるし、少しゆっくり出来そうだ。
などとこれからに想いを馳せながら歩いて行くのだった。




