Ep:35
皇帝との謁見、そしてクロエとの城内観光から数日経った今日俺達は和国へと帰国する。この数日は本当に慌ただしくシズクとアヤメとのデートや、クロエの和国への中等学院入学のお願い、そしてちょっとしたトラブルなど時間があっという間に過ぎる程濃密な毎日を過ごしていた。
そして気付けば今日を迎えた訳だが、割ととんでもない状況になっている。俺達は和国行きの高速飛行船乗り場にて入場待ちなんだけどなんとここに皇族であるクロエが来ているのだ。勿論周りには護衛の人も居るんだけど辺りは当然の皇女様登場に騒然となっている。俺としても事前に話も無かったので一瞬呆気にとられたもののすぐに気を取り直し、クロエから事情を聞き出そうとしている所だ。
「えっと、クロエ。久し振りで良いのかな?」
「はい。三日と四時間三十二分ぶりです、お兄様」
「そっ、そっか。あー、もしかしてお見送りに来てくれたの?」
「そうです。お父様やお母様には止められましたが、お兄様のお顔を見ずに別れるくらいならこの場で死にますと言ったらあっさり認めてくれました」
重い……重すぎる。これは想像になるが濁った目で実際に首元にナイフでも当てて言ったんだろうな。そりゃ認めるしかないよな。
「出発の時間までまだありますし、少しお話しませんか?お兄様にお渡ししたい物もありますし」
「分かった。――皆は少し席を外してもらえるか」
そう言うとやけに素直に従ってくれて、思わず拍子抜けしてしまう。シズクとコウの部隊員は昨日先行して帰国しているのでここにいるのはいつもの面子だが、シズク辺りがごねるかなと思っていたのにすんなりいくとは少し恐ろしい物がある。あとでなにか求められるんだろうなぁ……。
思わず遠い目をしてしまう。
「どうかなされましたか?あまり顔色がよくないみたいですが」
「大丈夫だよ。帝国での思い出を振り返っていただけだから」
「そうなのですね。思えばお兄様と出会ってまだ数日しか経っていないのに色々ありましたね」
「だな。最初の城の見学から始まり、街でのお忍びでの買い物や観光名所巡りもしたな」
「はい。それにお父様に中等学院から和国へ転入する事を認めて貰ったりもしました。本当に、本当に楽しい毎日でしたし私の心の中はお兄様との思い出で一杯です」
「うん、俺も楽しかったよ。最初は落とし前を付ける為に帝国に来たのに、こんな事になるなんて思いもしなかったし少し気障だけど運命ってこう言う事を言うんだなって感じたね」
「私もです。この世に生まれ落ちたのはお兄様と出会う為であり、今まで辛い思いをしたのもこの時の為の準備だったんだと今はそう実感しています」
おぉう……、そこまで考えていたとは……。クロエが十歳だという事を鑑みても余りにも想いが重い。皇族として最高水準の教育を受けているだろうし、年齢の割に確りしている事も一因だろうが俺に対する愛情が大きすぎる。どうしてこうなった……と言いたい。
「あー、そういえば渡したい物があるって言っていたけど何かな?」
「そうでした。あの、これです」
そう言って鞄から取り出したのは手のひらサイズのぬいぐるみだった。パッと見たところ作りはあまりいいとは言えず、所々縫い目が荒かったり綿が偏っていたりしている。
「もしかして手作りだったりする?」
「――はい。メイドに教えてもらいながら作ったのですが、不格好ですよね?うぅ、やっぱりお店で買った物にしておけばよかった」
「いや、凄い嬉しいよ」
「本当ですか!?」
「ああ。なによりクロエの手作りだし、気持ちが籠っているからね。これを作るのは苦労したんじゃないか?皇族としてやる事も沢山あるだろうしさ」
「大丈夫です。お父様やお母様に相談してスケジュールを減らして貰いましたので、じっくり取り掛かる事が出来たんですよ。ふふっ、お兄様を想いながらする作業は至福の一時でした」
そう語るクロエの表情は恍惚としている。というかよく皇帝も了承したな。普通ぬいぐるみを作りたいので勉強や習い事を一時的に減らしますと言われたら怒りそうなものだけど、思った以上に寛大なのかもしれない。これは評価を少し上げておかなくちゃいけないな。
「それでですね、これを私だと思ってお兄様の近くに置いて頂けると嬉しいなって思うんですけど」
「分かった。それじゃあ俺の部屋か職場の机に置くことにするよ」
「ありがとうございます!」
小さく手を上げて喜ぶ姿は年相応で可愛らしい。うん、こういうのでいいんだよ、こういうので。さっきみたいなドロドロとした感情をぶつけられるより無邪気に喜ぶ姿の方が俺も好ましいしさ。
「お話し中の所申し訳ありません。もう間もなく入場の時間となります」
「分かった。ありがとな」
「いえ、お礼を言われるような事ではありません」
そういった後一礼してから去って行くアヤメの後姿を眺める。
「もうお時間なのですね。あっという間でした」
「だね。さっき話し始めたばかりだと思っていたのに時間が経つのが早い。さて、そろそろ行かなきゃ」
「あの、もう少しだけ一緒に入られませんか?」
「ごめん。流石に飛行船に乗り遅れるわけにはいかないから」
「そうですよね。我儘を言ってすみません」
顔を俯かせ、服の裾をギュっと握る姿に罪悪感が芽生える。とはいえ俺に今できる事なんて――そうだ。ふと思いつき鞄から紙とペンを取り出しサラサラと書き込んでいく。最後にペン先で親指に傷をつけて僅かに滲んだ血を塗り広げたらペタッと紙に押し付ける。所謂血判というやつだな。
「お、お兄様。大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。……はいこれ」
「これは……?」
「クロエのお願いをなんでも一つ聞いてあげる券だよ」
「っっ!なんでも一つお願いを聞いて頂ける券」
鸚鵡返しに呟くクロエの表情はあまり嬉しそうには見えない。
「もしかして他の物の方が良かったかな?一応血判もしているし、俺の直筆の署名も入っているから法的な効力もあるしやっぱり無かった事に~なんてならないから安心して」
「その点は心配していません。ただ、本当に私がこのような物を貰っても良いのかと思いまして」
「うん、クロエの為に書いたものだし貰ってくれると嬉しいな」
「分かりました。ありがたく頂きます。ですが、お願いに関しては今すぐは思いつかないので後ででも大丈夫ですか?」
「勿論。クロエがこれだ!って思いついた時に連絡してくれれば良いよ。何年経とうが忘れないから」
「お兄様……、本当に、ありが、とうございます」
ポロポロと涙を零し、僅かに嗚咽を漏らしながらお礼を言ってくれた。果たしてその涙は嬉しさと別れる辛さが入り混じったもので思わず俺もウルッとしてしまうが、優しく彼女の頬に流れる雫を拭いながら別れの言葉を告げる。
「クロエとはここでお別れだけどもう二度と会えない訳じゃない。俺からも連絡するし、築き上げた絆は決して解ける事なく続いて行く。だから、また今度会った時は笑顔でいられるように『さよなら』は言わない」
「はい」
「だから君にこの言葉を送るよ。『また会おうね』」
「ぐすっ、すんっ。はい!またお会いしましょう」
手を振り最後の別れを告げる。こうして帝国での出来事は幕を閉じた。
これは蛇足になるが彼女がユノから受け取ったお願い券。これは帝国でのクロエの立場を一変させ、世界に影響を与える程の物である事は彼女はまだ知らない。そして、この件を発端として帝国はその様相を変じて行く事になる。後に亡国の天使と呼ばれる存在が誕生した瞬間だった。
様々な出来事があったが無事和国へと帰国して数日。今日から休暇が明けて出勤だ。庁舎に向けて歩きつつ帰国してからの事を改めて思い出してみる。
まずは帰ってきて早々飛行船乗り場にはカスミ・スズネ・シオリ・ジンが待っていて、少し驚いてしまった。国外に出向くときは部隊全員で行く事が多い為こうして出迎えがあるのは新鮮だなぁ~なんて考えていたら女性陣が勢いよく向かってきて三方向から抱き付いてきたんだよ。しかも三人ともわんわん泣きながら寂しかったとかユノさん成分が取れなくて死ぬかと思ったとか言われたよ。必死で宥めて何とか泣き止んでくれたけどそれからはずっと傍に居て片時も離れようとしなくてさ、トイレに行く時にも付いてきたから流石にそれは止めたけども……。なんて事がありつつ各々の自宅へと向かった訳だが移動中に三人から私達も休暇を取ったのでユノさんが仕事に戻るまでお家にお邪魔しますね♡と言われて強引に押し切られてしまったし、ユキなら止めてくれるという一縷の望みも『私は構いませんよ』と言われて無残にも散ってしまい。結局なし崩し的に部下と数日一つ屋根の下で暮らす事になりましたとさ。
当然男女――スズネは男の娘だが――が同衾していれば色々あるわけで。詳細はご想像にお任せするが精魂尽き果てたとだけ言っておこう。とまあそんな事がありつつも冒頭で述べた通り今日から仕事です。まずは上層部への報告をしなければいけないし、友好国への連絡もある。その他細々とした書類作成や情報局に聞くこともあるしこれから二、三日は怒涛の様に過ぎていくだろう。
思わず溜息が出るが、頬をパシンと叩き気合を入れる。さあ、頑張るぞ!
朝に気合を入れたものの終わらない仕事は果てしなく強く、また膨大であった。いつもなら定時で帰るのだが現在時刻は二十二時を過ぎている。休みなく働いていた為、濃い疲労と軽い頭痛を抱えながらなんとか自宅へと帰る。玄関を開けるとそこにはユキの姿があり、優しい表情で労いの言葉を掛けてくれる。
「夜遅くまでお疲れ様でした。お風呂の準備はしておりますがどう致しますか?」
「んっ、荷物を置いたらすぐに入るよ」
「分かりました。では着替え等の準備をしておきます」
「悪いな。ユキも疲れているのに」
「いえ、私よりもユノ様の方がお疲れでしょうに。お風呂上りに軽いマッサージでもしましょうか?少しでも疲労が和らぐかと思いますよ」
「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」
「お任せ下さい」
軽くユキとやり取りをした後、自室へと行き荷物を置いたその足で風呂場へと向かう。脱衣所で服を脱ぎ浴室に入ると檜の良い香りが鼻孔を擽る。この風呂は俺のお気に入りで普段であればついつい長湯をしてしまうのだが、今日は疲労困憊なのでササッと上がろうと思う。たぶんユキから烏の行水ではないんですからとか言われそうだが甘んじて受け入れる所存である。
というわけで十数分で風呂から上がり自室へ。
襖を開けるとそこにはすでにユキが布団を敷いて待っていた。
「悪い、待たせたな」
「いえ。それよりも随分とお早い入浴でしたが確りとお湯には浸かりましたか?」
「ああ。十分身体は温まったよ。というかなんかお母さんみたいだな」
「ふふっ、ユノ様の様なお子でしたら大歓迎です」
柔らかく微笑みながら言うその姿は聖母も斯くやという程美しい。
「うぅ、自分で言っておいてなんだが少し恥ずかしいな」
「では、布団の上にうつ伏せになれば顔は見えませんしどうでしょうか?」
「んっ、そうするか」
ユキに言われた通り布団にうつ伏せになると、肩のあたりに小さい手が置かれる。これからマッサージをしてくれるのだろう。こういうさり気無い気遣いをしつつ、俺の為に何かをしてくれるのは本当にありがたい。
「では、軽く揉みほぐしていきますね。途中で眠たくなったら寝て構いませんよ」
「分かった。よろしく頼む」
そこからは極楽の時間だった。だったと締めたのは俺の記憶が途中から無くなってしまったからだ。そう、寝落ちである。ハッと気づいた時には朝で、隣で寝ていたであろうユキに『おはようございます』と挨拶されてビックリしたよ。それから朝の支度を開始したんだがもう身体が軽い、軽い。昨夜の疲労や鉛が詰め込まれたような重さも無く実に快適で何度もユキにありがとうと感謝の言葉を述べたほどだ。
だが、地獄の労働は終わらず今日も今日とて遅くまで働かなければいけない。帰る頃には昨日と同じ状態になっているのは火を見るよりも明らか。滋養強壮に効く飲み物でもがぶ飲みするかと思案していると玄関まで見送りに来ていたユキが俺の考えを見透かしたように声を掛けてくる。
「本日もお風呂の後にマッサージを致しますね。それとお夕食として用意したお弁当には滋養がある食べ物を入れてありますのでお召し上がりください」
「帝国から帰ってきて早々にユキには負担を掛けて済まない。今度子の埋め合わせはするから」
「ご無理はしないで下さいね。私にとってユノ様が健康でいる事が何よりも大切なのですから」
「ありがとな。それじゃあ、行ってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
こうした何気ないやり取りがとても心地よく、元気をくれる。改めてユキには頭が上がらないなと思いつつ職場へと向かうのだった。
自分の机の前で書類と格闘していると、部屋の扉がノックされ一人の隊員が入室してきた。
「ユノ隊長はいらっしゃいますか?」
「ここにいるぞ。何かあったのか?」
「本日十四時から隊長会議が予定されていますが、議題について変更点がありましたので書類をお持ちしました」
「隊長会議……、今日だったっけ?」
「はい。一月ほど前に全部隊の隊長に連絡が入っていると思いますが」
「やべ。完全に失念していた。何か準備する物とかあったっけ?」
「特に必要なものはありません。今お渡しした書類を持って来ていただければ大丈夫です」
「分かった。教えてくれてありがとう。危うく不参加になる所だった」
「お力になれたのならなによりです。それでは私はこれで失礼致します」
ふぃ~、まさに危機一髪だった。まだ先だと思っていた会議が今日だったとはな。取り合えず書類を確認して内容を把握しなければ。あ~、でも今やっている仕事も午後一で出さなきゃいけないし……。
「隊長。そちらの仕事は私が処理しておきます」
「悪い、助かる。終わったら情報部に提出しておいてくれ」
「分かりました」
惨状を見かねたのかアヤメが手助けをしてくれることになった。こういう時、出来る部下を持っていて良かったと思うよ。さて、やる事をさっさとやりますかね。
午後になり、隊長会議が開かれる部屋へと向かう。隊長会議とはCODE零~CODE捌まである各部隊の隊長が一堂に会し議題に基づき話し合う場だ。ちなみに番号が小さい程強くて優秀という建前になっている。というのも実力的には俺に匹敵する実力を持つコウがCODE参の隊長を務めているし、それ以外にも実力と所属している部隊が違うという人も居る。何故ちぐはぐなのかについては軍の柵があるとしか言えない。政治や権力争い、果ては人間関係によって立場は変わるという事だ。とまあ、それはさておきトボトボと歩く事暫し。目の前には両開きの扉があり、中からは談笑する声が聞こえてくる。開始時間まではまだ余裕があるが半数以上が集まっている事が伺える。キッと僅かな軋みの音を立てて中に入ると一斉にこちらに視線が飛んできた。
「おはようございます」
挨拶をしたのに返事をする者はいない。さっきまで騒がしかった空間は静謐で満たされたように音が無くなっている。そんな中透き通るような声が響く。
「ユノ、おはよう。私の隣が空いているから座ったら」
「ありがとう。いつもより早く来たんだな」
「本当はユノと一緒に来たかったんだけど、外せない用事があって……」
「それなら仕方ないさ。それとコウもおはよう」
「おう。おはようさん」
最初に声を掛けてくれたシズクと話しつつコウとも挨拶を交わす。その間も俺達以外で話をする者はいなかった。円形の大きな机を回るようにしてシズクの隣に座わり、周りに視線を向けてみる。皆一様に緊張しているのか背筋を正したまま微動だにしないんだけど。毎回の事ながらこの空気をどうにかして欲しいと切に願う。そんな居心地の悪い中両隣にいるシズクとコウと他愛無い話をしていると続々と他の隊長達が部屋へとやって来る。これも毎度の事だが俺の顔を見て一瞬固まり、そそくさと席に座るのはなんでなの?俺そんなに怖い顔をしているだろうか?なんて自問自答している間に時間になり会議が始まる。
「それでは只今より隊長会議を開始したいと思います。――最初の議題は妖魔大戦についてになります。前回の対戦から百余年りが経ちました。第一次妖魔大戦から第二次妖魔大戦が発生した期間を考えると十年以内には同様に発生するのではないかと情報局は考えているようです。前回から和国、また列強諸国は軍備を増強し備えて来ましたが未だ十分とは言えません。特に弱小国等にとっては死活問題で我が国に早くも依頼をしてくる程です」
「戦時協定を結んでいない国に力を貸すなんてするわけねぇだろ。阿呆かそいつ等は」
進行役の言葉をバッサリ切る勢いで発言したのは巌の様な体躯と竦み上がる様な面持ちの男だ。
「尤もですが、国の命運が掛かっているので四の五の言っていられないのでしょう。それに同盟国以外の列強諸国も気持ちは同じだと思いますよ」
「はっ、普段は俺達と対立しているくせにいざとなれば助けて下さいとか笑い話にもならねぇ。そもそも自分のケツは自分で拭けないなら大人しく死んどけばいいんだよ」
男の発言に眉を顰める女性隊長達。流石に今の発言はいただけないし、俺にも思う所がある。
「それは流石に酷と言うものじゃないかしら。助けを求めているのなら出来るだけ手を貸すのが人道と言うものよ」
「下らねぇ戯言だな。顔も知らない奴の為に命を張るなんざ御免だし、大戦が起これば自国の事で手一杯で他国になんて戦力を割く余裕は無い。んな事お前だって分かっているだろう?」
「勿論理解しているわ。それでも何もしないよりも自分に出来る事をした方が良いと思うのだけれど」
「はぁ~、相変わらずの甘えた考えをしているな。そんな事だからお前の隊は弱い奴ばかりなんだよ」
この発言に場の空気が一瞬で凍り付く。この男の性格は豪放磊落で、遠慮が一切ない言動をするがそれも限度を過ぎればこのような事態を招く。それは分かっているはずなのに学習しないと言うかなんと言うか……単純に脳筋なんだろうな。天井を見上げながらぼんやりと考えていると、ガタリと椅子を引く音が響く。出所に目を向けると武器を携えて、鋭い眼光を飛ばす女性隊長が移る。
「私の事であれば我慢は出来ますが、隊員を馬鹿にするのは許せません!」
「ほぉ、やろうってのかこの俺と」
ニヤリと口角を上げて好戦的な雰囲気を醸し出す。まさに一触即発。他の隊長達も自らの身を守るべく武器を手に取っているしこのままいけばマズい事態になる。
「二人ともそこまでにしておきなさい。ユノ隊長の御前ですよ」
凛とした中にも信心深さが滲む声がまさに動かんとしていた二人に掛けられる。その声にハッとしたようにこちらに視線を向け、やや青褪めた表情で頭を下げつつ絞り出すように言ってきた。
「「申し訳ありませんでした」」
「意見をぶつけ合うのは構わないが、流石にお前の発言は頂けない。取り合えず後で謝っておけ。それと途中から議題と関係ない内容になったが以後気を付ける様に」
「「はい」」
全く、開始早々これでは気が重くなるよ。それにこちらに向かって満面の笑みを浮かべている女性。場を治めてくれた事には感謝しているが、彼女の性格的に会議が終わった後が大変そうだ。俺の暗澹たる気持ちなど知った事かと話し合いは再開される。




