Ep:2
日が変わり朝。
いつも通りに庁舎へと出勤し、その足で情報局が入っているフロアへと向かう。
軍庁舎は地上三階・地下一階という作りで(表向きは)俺達実働部隊が居る場所からは離れた位置にある為行くのがやや面倒ではあるが、致し方なし。
朝なのでやや慌ただしさを感じるものの、雰囲気はゆったりしたものだ。これが俺の隊が出動するような案件がある場合はガラリと変わる。殺伐として非常にピリピリとした空気が漂うが俺としてはそちらの方が好きだったりする。常在戦場ではないが、長い事戦いに明け暮れていたのでそういった空気が当たり前になってしまったんだ。一般人から見れば異様に見えるだろうが生きている世界が違えばそう言うものだろう。
などと益体も無い事を考えている間に到着。
扉を開けて中に入ると傍に居た人に声を掛ける。
「すみません。局長に会いたいんですがいますか?」
「失礼ですがアポイントメントは取っておりますか?」
質問に質問で返されてしまった。人によっては不快に思う対応だろう。今後の為にも局長には一言いっておかないとな。……おっと早く答えなきゃ。
「いえ、取っていません。ですがユノが来たとお伝えして貰えれば分かるかと思います」
「分かりました。それでは少々お待ちください」
はぁ、こういったやり取りは少し面倒だな。俺の事を知っている人ならすぐに局長室に案内してくれるんだが今の人は新人だろうか?この時期に入隊するなんて珍しいが中途採用か部署移動で来たんだろうか?まあ、なんにせよ俺には関係ないが。
そうこうしているうちに先程の人が戻ってきて、案内をしてくれた。
重厚な扉を開けて中に入ると髭を生やした厳ついおじ様がこちらを見ていた。
その体躯は筋骨隆々であり、纏う雰囲気は猛者を感じさせるもの。子供が見たら泣くんじゃないかと思うくらい怖い印象を与える。
「久し振り」
「あぁ、元気だったかな?」
「いつもと変わらないよ。そうだ、これ昨日討伐した妖魔の原石ね」
そう言いつつおじ様の机に無造作に原石を置く。
「ありがとう。本来であればこちらから赴かなければいけない所なのにすまないね」
「別にいいさ。それに少し話したい事もあったし」
「そうか。それは吉報か、はたまた悪報か。どちらだろうか?」
「さあどっちだろうね。聞く人によってそんなのは変わるだろう」
「確かに。おっと、立ち話もなんだから掛けてくれ」
机の前方に置かれているソファを示しながらそう言ってくる。
それじゃあ有難く座らせてもらおうかね。
「それじゃあ早速聞かせてもらおうか」
「まずは昨日の出動要請は俺達CODE零じゃなく他の隊に任せるべきだったんじゃないか?確かにCODE壱~参が出払っている状況で俺達に回すのは間違ってはいない。が、それだと他の隊の面々が育たないと思うんだ」
「そうだな。それは尤もだ。だがクラスAの妖魔にCODE肆以下を当たらせると確実に死者が出る。軍としてはあまり許容できる話では無いんだよ」
「それは軍属である以上覚悟の上だろう。死ぬのが怖かったらそもそも軍に入隊するべきじゃないし、クラスB以下しか相手にしていなかったら何時まで経っても実力は向上しない。そうなれば困るのは軍の方だ。間違っているか?」
「いや、正しいよ。将来を見据えるならそうするべきだろう。だが、正論がいつでも通じるとは限らないし、ましてや軍の上層部は無駄な死者を出すことを敬遠するからな。確実に対応できる隊に要請するのは致し方ない事なんだよ。それはユノも分かるだろう?」
「はぁ……。まあそうだろうな。今後に期待――は出来ないか」
「ははは。なにか決定的な事態に陥らない限り変わる事は難しいな」
「話としてはこれが一つ目で二つ目はここに来た際に対応した局員の対応なんだけど、もう少し教育した方がいいぞ。あれだと人によっては不快感を抱くからさ」
「どういった対応を取られたのか聞いても?」
「ああ。質問に質問で返されたんだ。しかもこちらを探るような感じでさ。今まで見た事ない人だから中途採用か部署移動で来たんだろうなとは思うんだけど、それでもあれは頂けない」
「分かった。今一度全員に伝える事にする。その上で再教育が必要であれば確りと実施するよ。貴重な意見をありがとう」
「んっ。これで俺からの話は終わりだ」
「そうか。……少しお前に耳に入れておきたい話があるんだが」
「なに?」
「実はCODE零に入隊希望の者がいるんだ。これはまだ内々で知っているのは極一部なんだが、お前の耳には早めに入れておいた方が良いと思ってな」
「ふぅ~ん。実力は?」
「クラスAを討伐可能だ。伸びしろもあるし、将来性もある」
「…………その程度ならいらないな。うちの隊は少数精鋭だし、現状俺を含めて七人いる。これ以上増やしても意味が無いし、実力も足りていない。実働部隊で欲しいと思えるのはCODE壱隊長のシズクかCODE参隊長のコウくらいだな」
「分かった。上の方にはそれとなく伝えておくよ。それにしてもシズクとコウか。確かにあの二人ならお前の隊に入っても十分に活躍できるな」
「ああ。それに隊員達とも仲が良いし、付き合いも長いからさ」
「二人とも最初はお前の隊に入りたがっていたものな。なんやかんやあってそれぞれ隊長の任に就いているけど今でも所属部隊変更届を出しているみたいだぞ」
「そうか。気持ちは嬉しいけど実際変更は難しい……というか無理だろうな」
「違いない。本人たちも分かってはいるが、一縷の望みに掛けているんじゃないかな?それと二人とも最近お前と会えてないって愚痴っていたぞ」
「あ~、それは……うん。今度顔を出すよ」
「そうしてくれ。あいつらが不機嫌なのはだと多方面に影響があるからな。まあ、お前の隊員ほどではないが」
「んっ。ありがと」
「さて長々と話をしてしまったが、そろそろ戻らないと心配しているんじゃないか?」
「だな。それじゃまた今度」
「おう。気を付けて帰れよ」
情報局を出た後、実働部隊が入っているフロアへと向かい歩く。
暫く歩くと目的の場所に到着したが、我がCODE零は少し特殊な部隊なので他の隊とは別の区画に部屋がある。別に秘匿されているわけでは無いが、厳重なセキュリティと重厚な扉に遮られた先にあるのでここに来れるのはCODE零の隊員以外では各隊の隊長・副隊長、各局長と上層部のみとなっている。といっても頻繁に誰かが来ることは無いんだけどね。少し寂しいけど。
少しセンチメンタルな気持ちになりつつ部屋に入ると一斉に中にいる人の視線が飛んでくる。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。俺が居ない間なにかあった?」
「いえ、いつもと変わりありません」
「了解。それじゃあ、本日も一日頑張りましょう」
と言ったはいいもののやる事と言えば昨日の報告書を書くくらいだ。
一時間程で終わるしその後は暇。
いやさ、実働部隊なんて出動要請が掛からないと本当に暇なんだよ。――えっ?訓練とか雑務とかあるだろうって?うーん訓練に関しては各々でやっているし全員で揃ってという事は基本的に無い。そして雑務は他の隊ならそれなりにあるんだろうけどうちは……ねぇ。特に無い。
俺達が相手にする妖魔は基本的に滅多に出現しないし、そうなるのも仕方ないよね?
他の隊の手伝いとか、協力とかは難しい。隊毎にルールや、やり方がある上にあまり知らない所に土足で上がるのも問題だろう。例えそれが要請されての事だったとしてもだ。
なので一部の例外を除きそう言った事はしていない。
では、普段は何をしているかというと何もしていない。
お喋りをしたり、お昼寝をしたり等々。
他人から見れば給料泥棒、窓際部隊、左遷された人員の寄せ集め等に見えるだろう。本当の緊急事態以外は動くことは滅多に無いんだから当然とも思うが、まあいい気はしないよな。
昔その手の事で問題が起こった際は、大惨事になったし……あの時は本当に大変だった。勿論被害が出たのは相手の方で俺達には一切被害は無し。というか荒れ狂う隊員を宥めるのにどれだけ苦労した事か。そして被害の方だが死傷者多数・建物の損壊は甚大。一歩間違えれば軍壊滅の危機だったと言えばその規模が分かるだろう。……いやいや高が一部隊でそんな被害が出るはずないだろう!とお思いの方もいるかもしれないが、それが出来るのが我がCODE零なんだよ。
んで、結果としてはその件以降件の誹謗中傷は一切無くなった。当然影でも言われることは無い。こうして心の平穏は守られたという訳だ。
閑話休題
毎日ダラダラと過ごしているがまあ悪くは無い。
「隊長。お茶が入りましたので宜しければどうぞ」
「うん。ありがとうアヤメ」
ズズッと飲むと馥郁たる香りが鼻孔を通り抜ける。
相も変わらずアヤメが淹れるお茶は上手い。
あっとそうだ。遅ればせながら我が隊のメンバーを紹介しよう。
隊長:俺ことユノ
副隊長:アヤメ
隊員は以下となっている。
カスミ
スズネ
シオリ
ゴロウ
ジン
以上の女性四名 男性三名からなる部隊だ。(一部女性?といっていいのか不明な子もいるが)
それぞれが一騎当千の実力者であり、ある能力を共通して持っている。
どんなものかは秘匿事項に当たる為今はお伝えする事は出来ない。今後知る事が有るかもしれないが。
「そういえば小耳に挟んだんですが、CODE弐が当たっている任務で結構な被害が出たみたいですよ」
「そうなんですの。珍しいですわね。クラスAの妖魔を複数相手にでもしたのかしら?」
「出現したのはクラスCが数体とクラスAが二体だけだったらしいんだけど……」
「なにかあったのね?」
「うん。戦闘中に当然クラスSの妖魔が現れたらしくて。少し遊んだ後に消えたみたいだけど」
「成程。そのレベルが現れたなら生きているだけでも僥倖と言った所ですわね」
「そうだね」
書類仕事をしているとシオリとカスミの話が耳に入ってきた。
何やら気になる無い様なので少し話に参戦させてもらおうかな。
「災難といっていいのか分からないが、ツイて無かったな」
「「隊長」」
「悪い。少し話が聞こえてさ」
「全然構いませんよ。寧ろどんどん参加して下さい。ねっ、カスミ」
「シオリの言う通りですわ」
「ありがとね。で、クラスSが現れて被害を受けたって事だけど、どのくらいの損害か分かる?」
「死者五名・負傷者十名と聞いています」
「成程……。その程度なら大分遊んでいたな」
「ですね。CODE弐にクラスSの妖魔に対応できる人材は居ませんから、全滅もありえました。それがこの位の被害で済んで本当に良かったと思います」
「そういえば私達に出動要請はかかっていなかったですわよね?」
「うん。通信班が全滅したか、それどころじゃない程追い詰められていたか――というところじゃないかな?どっちにしろ今更だけどね」
淡々と人事の様に話すシオリだが別に人情が無いとか、人の心が分からないサイコパスという訳では無い。あくまで別の部隊の話であり、自分達に出来る事が無いからこそそういう言い方になっているというだけだ。……まあうちの隊員は自分の所属している隊、もとい俺の事を第一に考えてそれ以外は有象無象・路傍の石程度でしかないと思っているのは重々承知だがそれでもだ。
「そうなるとCODE弐は再編中に別の任務が舞い込んできて、現在当たっているわけか。状況によっては俺達に要請がかかるかもしれないな」
「その可能性は高いですわね。ただ行くとしても一人か二人でしょうが」
「うん。まあ、あれこれと憶測で話してもしょうがないし要請が来たら対応しよう」
「「はい」」
話し終えて、また暇な時間がやって来たと思った矢先に気送管からカンッと音が響く。
何かしらの伝達事項がきたようだ。
嫌な予感を抱えつつ筒を開け、中から紙を取り出し読むと案の定あまり面白くない事が記載されていた。読むうちにドンドン眉間に皺が寄ってしまう。
「どうかなされましたか?」
「んっ?あぁ、アヤメか。少し面倒な事になってさ」
「というと?」
「国外でクラスunknownの妖魔が確認されたらしい」
その言葉で部屋の中の空気が一変した。
ピリピリと肌を刺すが如く鋭く、剣呑な物へと瞬時に変わり俺の続きの言葉を待つ隊員達。
「交戦状態には入っておらず、動向を確認している段階だが今の所被害は出ていない。このまま立ち去るなら良し、もし人の生活圏に侵入するようなら討伐となるだろ。その際には俺達に召集命令が下される」
「数は一体でしょうか?」
「確認されたのは一体だ。クラスA~Sの妖魔は確認されていないので単独だと思われる……が安心は出来ないな。はぁ、うちでもクラスSやらAが出ているって言うのに本当に空気を読めって感じだよ」
「ぷふっふふ。隊長、あいつらにそんな高度な能力はありませんよ」
スズネが皮肉を込めて言ったが、個人的には的を射ていると思う。どこまでいっても所詮は妖魔であり、本能の赴くままに行動する野生の獣とさして変わらない。ただ、圧倒的な力と脅威を孕んでいる事を除いてだが。
「今の所速報の段階だから何とも言えないが近日中には何かしらの動きがあると思う。各員即応できるように準備だけはしておいてくれ」
「「「「「「了解」」」」」」
速報が入った日から二週間程たったある日。それは唐突に訪れた。
部屋に備え付けられている気送管からコトンという音が鳴り、中を開けると書類が筒状になって入っている。何時ぞやも感じた嫌な予感を覚えるが見ない訳にはいかないので中を確認すると……。
「全員集合。指令が下った」
俺の一声で全員が集まる。それぞれ表情は真剣そのもので、さっきまでの緩い雰囲気は一切無い。
「国外で確認されたクラスunknownの妖魔だが唐突に姿を消し、その後も存在は確認されていない模様だ。よってよって暫くは警戒態勢を敷きつつ静観するらしい。次にCODE弐に被害を及ぼしたクラスSの妖魔が再度確認された。対応するのはCODE弐だが応援として我が隊からも人員を出す。ここまでで質問はあるか?」
「はい。対応するのはCODE弐という事ですが、前回の件も考慮するとまた大きな損害を出すのではないでしょうか?」
「そうだな。ゴロウの言う通りだが、これは上が決めた事だ。俺達に出来るのは可能な限り被害を最小限に止める事くらいだろう。よし、他に質問はあるか?――無い様なので続けるぞ。うちからは二名出そうと思っている。戦力としては十分だろうし、これ以上となると緊急事態等が起きた際に対処するのが少し面倒になるからだ。そして参加してもらう人はカスミ・スズネに任せようと思うがどうだろうか?」
「うぅ、私ですか……。隊長の言う事に否やはありませんが」
「CODE弐だと知り合いが居ないから心配だけど、頑張ります」
二人が各々答えてくれたが、回答は真反対と言った感じだな。というかスズネが素直に頑張るなんて言うのは珍しい。
「カスミは何か心配事でもあるのか?」
「そうですわね、心配と言えばそうなります」
「どんな事でも良いから言ってくれ。俺に対応出来る事ならすぐに対処するから」
「以前あそこの副隊長と諍いがありまして。それでどうにも顔を会わせ辛いと言いますか……」
「へー。カスミの事だから半殺しにでもしたの~?」
「そんな訳ないでしょう。軽く言葉を交わすだけで終わりましたわよ」
スズネの茶化す言い方にも真面目に返しているがその話は初耳なんだけど?俺の耳に入っていないって事は大事にはなっていないはずだから詮索は不要かな。
「なるほど。では副隊長と同じ班にならないよう俺から話しておくよ。それだったら問題無いだろう?」
「はい。ご配慮ありがとうございます」
「構わないさ。さて、居残り組だが待機となる。が、気を抜くことはしないように。以上」
連絡も終えた事だし、少し残っている書類仕事でもやるかな。隊長と言う立場上隊員よりやる事が多いのは仕方ないけど、こうもデスクワークばかりだと飽きてくる。いっその事軍事学校にでも行って講話でもしようかしら?でも需要があるかも分からないしいざやってみて空席ばかりだったら嫌だからやめておいた方がいいか……悩むな。
はぁ~、取り合えず今は仕事をしますか。
以前のブリーフィングから数日経ったある日。
今日はクラスSの妖魔討伐作戦実行日だ。庁舎は朝から引っ切り無しに人が行き交い、そこかしこに警備員が待機している。また、装備を整えた部隊員もそこかしこで見られる。一般人がこの光景を見たらすわ戦争が起こるのか!?と勘違いするだろう。
そんな中俺達はと言うといつもと変わらない緩い空気が流れている。
「それじゃあ、最終確認だがカスミは二班・スズネは三班で前線で戦ってもらう。もし敵の戦力が想定以上だった時はすぐにこちらに連絡してなるべく安全な立ち回りをしつつ応援を待つという方法を取る。あとは詳しい作戦内容は現地で聞いてくれ。あくまで応援という立場なので上官の言う事は聞くように」
「「はい」」
俺から伝える事は言ったが最後の方はまるで子供に言うような内容になってしまったけど、確り伝えないと彼女達は独断専行に走るからな。なまじっか圧倒的な個の力があるから上の立場の人間も諫める事が出来ないというね。だが絶対にそれが駄目と言う訳では無く時と場合によるんだけど、その判断を正確に下せるかどうかは難しい。それこそ彼女達と長い付き合いがないとね。
結果として俺が小言を言う事になるんだけどそれも隊長としての役割だと割り切るしかないよな。
「あぁ~、そうだ。今回の任務が無事終わったら食事にでも行こうか」
「「「「「「本当ですか!?」」」」」」
「おっ、おう」
異口同音に言われたからマジでビビった。しかも目をクワッと見開いてるもんだから尚更だよ。
「もうそろそろ空腹になると思うし、丁度良いタイミングかなと思ってさ。それでここに行きたいとかリクエストはある?」
「特にありません。寧ろ隊長が食べたい物を提供しているお店に行くべきかと」
「そうだね~。私達が食べたい物は隊長が食べたいものだし、決めてもらって構いませんよ」
「そうか。じゃあ、考えておくよ」
「すみません。俺の希望なんですが、キツめの酒を置いてある店がいいです」
「分かったよ。ん~、となると行けるお店は限られてくるな……」
ジンは酒好きだからな。最近は美味い酒を出す店が減ってきたしその上で満足いく食事も提供できるところとなると難しい。暫く頭を悩ませることになるなこりゃ。
「ジン。隊長が困っているじゃない。お酒なんて適当でいいでしょ?ふざけた事抜かしているとミンチにするぞ」
「そうカッカするなよ。あくまで要望を伝えただけだろう。というかシオリが俺に勝てるとでも思っているのか?」
「あぁ!?」
ヤバイ。少し黙考していただけなのに変に受け取られて一触即発の空気になってしまった。このままでは戦争になる。ここらで止めねば。
「はい、二人ともそこまで。別に要望を言うのは問題ない――というかドンドン言って欲しい。俺が全部決めるよりも皆の意見を聞いて決めた方が良い感じになるしね。という事で二人とも矛を収めてくれ」
「「はい」」
ふぅ。シオリも普段はおっとりしていて優しいし、基本的に怒る事は無いんだけどなぜか俺絡みの時はさっきみたいな些細な事でも激怒するんだよな。……俺ってそんなに頼りないんだろうか?俺もまだまだ成長しないといけないって事か。隊長として、一人の人間としてもっと努力しよう。
この考えは当たらずと雖も遠からずと言った所だが、大事な部分が抜け落ちている。それを早く自覚しなければ今後大きな問題になるだろう。……いや、最早取り返しのつかない所まで来ているのかもしれない。振られた賽子の目が変わる事が無いように一度決まってしまったら後は……。