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死を望むあなたへ  作者: ねこネコ猫
26/38

Ep:25

 another view point


「それで首尾の方はどうなっている」

「問題なく進んでいるよ。ただ、今回は相手が相手なので今の準備で対応できるのか心配ではあるがな」

「それはもう仕方ないだろう。俺達に出来る事は全てやったし、後は出たとこ勝負だろ」

「……たくっ、どんなに周到に用意をしても不安が拭えないなんて初めてだぜ」

「だな。――果たしてこの任務で何人が死ぬんだろうな」

「一人くらいは生き残って欲しいが、希望的観測だな。……俺の見立てでは全滅する可能性が九十九%だ。正直あの化け物二人相手に死に体でも生き残れるとは思えねぇよ」

「それでも皇女の命は刈り取らねばならない。例え俺達の命と引き換えだろうともな」

「当然だ。依頼は必ず遂行するのが組織の決まり。誰が相手だろうと失敗は許されないし、どんな汚い手を使おうが標的の命は奪うさ」

「まあ、最後の仕事になるだろうがあの人類の守護者と呼ばれる相手と戦えるんだからある意味で歴史に残るかもな。名前は決して残らないだろうが」

「ははっはっ。表には伝わることは無いだろうが、裏では語り継がれる伝説になるかもな。それに、手傷でも負わせられたら、確実だな」

「ははははっ……はは……はぁ。――いよいよ決行は明日だが、今から手の震えが止まらねぇ」

「俺もだよ。今夜は誰も眠れねぇんじゃねぇかな?恐怖と絶望と間近に迫った死を前にして普通に出来るヤツが居たら見てみてぇよ」

「違いねぇ。……取り合えず明日に影響が出ない程度に酒でも飲むか」

「そうしよう。少しは気持ちも楽になるだろうしな」


 another view pointEND


 はい、本日もお仕事が始まりました。最初はどうなる事かと思っていた護衛任務も割と順調で、思ったよりも上手くやれていて自分でも驚いている今日この頃。しかもだ、普段なら妖魔との戦いがメインで必ず血を見る事になるが、この任務ではそんな事は一切無し。そう言う事もありかなり新鮮な感覚を覚えています。――して、仕事が開始したわけだが、オフレ殿下の方で何やらあったらしく一時間程予定がずれ込むと連絡があったので今はカスミと二人で談笑をしている。

「しかし殿下は大丈夫なんだろうか?」

「詳しい内容が分からないので憶測になりますが、慣れない国や場所に来て疲れが出たのではないでしょうか?そういった疲労は少し時間を置いてからドッときますから」

「あー、確かに。頻繁に他国に行ったり、国内でも視察等で出掛けるならそこら辺も慣れているんだろうけど殿下はそうした経験が無さそうだもんな」

「はい。――本当であれば今日一日ゆっくりと静養するのが望ましいのですが、無理な話ですよね」

「流石にな。予定も詰まっているし、余程の事が無い限りは中止とはいかないだろう。今日明日は俺達も殿下の様子を注意深く見つつ動くとするか」

「分かりました。……それにしてもやっと二人きりになれましたね」

「んっ?まあ、そうだな。任務初日に一緒に飲んだけどそれきりだったな」

「凄く寂しかったです……」

「そうは言うが毎日顔を合わせているだろ。それに一緒に仕事もしているし」

「そうですが、私は隊長と二人で居たいんです。それなのに邪魔者がいてそんな機会はないですし」

「邪魔者って……護衛任務なんだから誰かしら常にいるのは当然だろ」

「分かっているんです。理性では理解しているのですが、感情が納得しません。これは我儘だと分かっていますがそれでも言わせて下さい。もう少し私との時間を作ってもらえないでしょうか?」

 これはちょっとマズいな。カスミがここまで溜め込んでいるとは思っていなかった。いつもならこんな事は言わないんだけど、少し箍が外れているのかな?なんにせよこのまま放置すれば早晩爆発すること間違いなしだし、ここら辺で手を打っておくか。

 仕事前はお互い時間が無いし、難しいから仕事終わりが妥当な線か。普通であれば飯を食いに行ったりするんだろうけど、俺達は月二回くらいしか食事をしないから却下。酒を飲みに行くのも毎回だと芸が無いし、カフェにでも行くか?夜中でも営業している所はあるしなによりお店の数も多いからマンネリになる事もない!よしっ、これだ。

「分かった。それじゃあ、任務期間限定になるけど仕事終わりにカフェにでも行こうか」

「っっ!本当ですか?」

「勿論だ。カスミさえ良ければだけどね」

「行きます。何があろうとも必ず行きます!」

「おっ、おう」

 凄い剣幕で返事をしてきたからビックリしたよ。――喜んでくれたみたいだし、これで爆発する事も無いだろうし、カスミとの交流も深められるしで一石二鳥だな。……ただ、他の隊員にはなるべく知られないようにしないとな。スズネとシオリ辺りが絶対にあーだこーだ文句を言ってくるだろうし。

 最悪耳に入ってしまったら、温泉旅行に行った時に接待をして機嫌を直してもらおう。うん、我ながら完璧なプランじゃないか。

「あっ、そうだ隊長。二人でデートしているのがバレたら面倒なのでこの事は内密にお願いしますね」

「当然。あーでもユキには話してもいいか?」

「構いませんよ。寧ろユキさんに話を通しておかないと隊長が大変な目に合うのでは?」

「違いない。じゃあユキ以外には秘密って事で」

「秘密……二人だけの秘め事ですね。ふふっ、ふふふふっ」

 カスミさんがちょっと遠い世界に行ってしまったようだ。表情はニッコニッコなのに空を見つめて怪しげな笑いをしているからちょっと……いや、かなり怖い。けど本人が喜んでいるようなので良しとしましょう。うん、これに関しては深く関わってはいけないと本能が告げているんでね。

 なんて事がありつつ、時間は流れていき二人揃ってオフレ殿下が待つ応接室へと向かった。


 最初に殿下と顔を合わせた時に思ったのはあまり顔色が優れないなという事。今日は街を散策する予定なので人も多いし、長時間歩くことになるので少し心配になってしまう。

「あの、体調が優れない様でしたら街の散策は午後からにしますか?」

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが少し疲れているだけなので、予定通りで問題ありません。――ただ、少しだけ休憩を多めに取らせて貰えれば助かります」

「分かりました。その様に致します。また本日は夕方まで時間を取っていますが、オフレ殿下の体調次第で早めに切り上げる可能性もありますのでご了承下さい」

「分かりました。この度は私の自己管理が至らぬばかりにご迷惑をお掛けしてすみません」

「そんな。殿下が謝罪する必要は一切ありません。寧ろ私の方がもっと気を付けるべきでした」

 本当にこればっかりは俺が悪い。護衛なんだからただ守るだけではなく対象の体調や精神状態にももっと気を使うべきだったんだ。経験不足だから仕方ないとはならないし、そんな事俺自身が許せない。兎にも角にも今日から改めて気を引き締めて任務にあたろう。


 そんな事がありつつ、移動をして当初の予定通り繁華街に来ています。

 少し話が逸れるが街中での護衛というのは特に難しいと言われている。何故かと言うと大勢の人が居る中というのは暗殺者や何らかの害意を持っている者にとっては格好の隠れ蓑になる上、人波に紛れて危害を加えそのまま現場から逃走するのが容易いからだ。一見すると大勢の目撃者が居ると思われがちだが、人間というのは想像以上に周囲の事を見ていないので、人は居るが目撃者は零という事も多い。

 という理由から通常であれば対象の周囲に数人が張り付き、少し離れた所にも同様の人数を配置するのだが、今回は俺とカスミ、そして帝国からお付きで来た護衛が二名と少数なので出来ない。増員したくともオフレ殿下の体調も多少は良くなったが全快とはいかないのでなるべく少人数で行動したいと意見を貰った。それに沿った形を取らなければいかず、現状となった訳だ。

 ――話を戻して、繫華街に来ている訳だが俺の隣でオフレ殿下が目をキラッキラさせている。

「わー、凄い!人が沢山いますし、お店も沢山ありますね」

「ここは和国一の繁華街ですので、連日賑わっております」

「そうなんですね。――もしかしたら帝国の首都よりも栄えているかもしれません」

「生憎と帝国には久しく訪れていないので、比較は出来ませんがそう言ってもらえて嬉しい限りです」

「あの、一つお聞きしたいのですがこれだけお店が密集しているのに蒸気が殆ど出ていないのですね」

「はい。主要な場所には清浄装置が設置されておりますので、ご覧の様に蒸気に悩まされる事なく遊んだり買い物をしたり出来ます」

「だから誰もマスクを着用していないのですね。空気も新鮮でずっとこの場所に居たいくらいです」

「はははっ。お気持ちは分かります。私も買い物に行く場合は殆どここに来ますから」

「……ユノ隊長が買い物をする姿は余り想像できません。こう、いつも鍛錬をしているイメージです」

「んー、正直な所私はあまり鍛錬はしないんですよ」

「意外です。――もしかして強さの秘訣は鍛えない事なのでしょうか?」

「単純に私が面倒臭がりというのと、肉体と技術がもう完成しているのでこれ以上鍛えても意味が無いんです。無駄な時間を消費してまで身体を動かしたくはありませんし」

「成程。そう言う事なんですね」

「はい」

 とは言ったものの普通の人は技術向上の為日々鍛錬をした方が良いし、本当の意味で全てが完成して何もかも不要になるのは才能がある人でも百数十年は掛かるだろう。盆栽であれば二百年以上はまず間違いなく必要になる。だから俺なんて例外中の例外で俺を普通と思ってもらっては困る。そこら辺はオフレ殿下も分かっていると思うし心配はしていないが。

 なんて考えていると、歩きながら殿下が話しかけてきた。

「ユノ隊長は普段はどの様な場所で買い物をされているのですか?」

「そうですね。日用品はユキ……一緒に暮らしている人が買っているので、普段は呉服屋、雑貨屋等でしょうか。あとは適当に気になったお店を冷やかす程度ですね」

「えっ!?ユノ隊長はあの……誰かと一緒に暮らしているのですか?」

「はい。ユキという女性と暮らしています。彼女とは非常に長い付き合いで、日常生活に携わる殆どを任せています」

「そ、そうなのですね。知りませんでした」

「別段秘密にしている訳では無いのですが、あまり知られていないのですね」

「はい。風の噂でも聞いた事がありません」

 ほぉー、これは意外だ。休みの日とか普通に二人で出歩いたりしているのに、なんでだろ?それこそ少し調べれば分かると思うんだが謎だ。まあ、今は関係ないしどうでもいいんだけど。

「あの、ご迷惑でなければユノ隊長のお勧めのお店に行ってみたのですが」

「分かりました。ではご案内致します」

 オフレ殿下からご指名を頂いたので、俺がよく行く呉服屋に案内してみようと思う。和服は和国伝統の衣装だし、それなりに楽しめると思うしなんなら一着仕立てても良いんじゃないだろうか。急ぎで仕事をして貰えば三日くらいで出来上がるから帰国には間に合うし。

 なんて思惑は見事に的中し、流行りの柄でなんと二着も仕立ててもらう事になった。ちょっとこれは想定外だけど殿下がキャッキャッしながら楽しそうに選んでいたので俺としても満足です。美少女の笑顔はプライスレス!――カスミにジト目で見られて、ウッ……となったがそれでも美少女の笑顔はプライスレスだぜ!異論は許さない。


 そんな感じで楽しく過ごしていたが、どんな物にも終わりはあるもので。

 色々と見て回り時間も経ったので、休憩しようかとカフェに向かい歩いている時にそれは起こった。

 剣呑な気配を纏った複数の人物が俺達の周囲を囲むように現れた。先程までは微かな揺らめき程度しか感じず、少し注意していた程度だったが現状を好機と見たのか漏れだす気配が大きくなったのでこちらも臨戦態勢となる。正直気配の消し方もそれほど上手くないし、包囲網も少し穴がありその道のプロではあるがそこまで実力者という訳では無いのだろう。俺一人で制圧可能だが、万が一があっては大変なのでカスミと連携して確実に仕留める。

 横目でカスミにアイコンタクトを取ると、僅かに頷いてくれた。ここら辺の連携に関しては楽で助かる。他の人だったらこうはいかないからな。

 俺とカスミがさり気無く刀に手を掛け相手の動きを探っている中、帝国から来たお付きの人達はというと未だに気付いていない様だ。仮にも皇女殿下の護衛として来ているのにこの体たらくでいいのかと人事(ひとごと)ながら心配してしまう。まあ、彼等が気付かなかろうがいざという時に動けなかろうが俺達が居るので問題は無いんだけどさ。

 と、要らぬ世話を焼ている内に敵が動きを見せた。前後左右から自然に包囲を縮めて、完全に囲まれてしまった。スッポリと円が描かれた形と言えば分かりやすいか。こうなるとこちらに逃げ場は無いし、建物の屋根伝いに二人ほどこちらを伺っている奴もいるので下手に動けば上方から一気に攻撃されてしまう。だが、それはこちらも同じで敢えて敵に有利な状況を作り出している。そうした理由としては情報を聞き出す為にも誰一人として逃がすつもりは無いのと、下手にこちらが分散して行動を取るとリスクが高くなるからだ。

 特大の釣り針に美味い餌を付けているのだから、この機会を逃すはずもなく一斉に殿下を狙って動いた。タタタタッと足音を響かせながら四方から凶器を持った輩が襲い掛かる。

「っと、それまでだ」

「ちっ!死ね」

 服の袖に仕込んでいた刃物で刺そうとした所を寸でで止めると、俺に向かって抑えられている右手ではなく左手から仕込み刃物を取り出し一閃。

「危ないな。取り合えず気絶しておけ」

「グハッ……」

 僅かに腕を引いてから放たれた刺突を右手で相手の手首を掴み無力化。そのまま両腕をこちら側に引き寄せ態勢が崩れた所で膝蹴りを一発。その攻撃で意識を刈り取ったのを確認し後、残りの奴らに向き直る。

「クソッ。お前はアイツを足止めしろ。お前ら二人であの女と帝国の護衛を押さえておいてくれ」

「「「了解」」」

 言うが早いか一人は俺に向かってきて、残り二人はカスミと帝国の人達の方へと駆け出している。最後の一人は他には目もくれずオフレ殿下へ一直線に向かっている。

 この状況はちと宜しくないな。距離の関係でカスミ達はすぐに動いたとしても間に合うかギリギリ。となると俺に向かってきている奴を即排除したのち一気に距離を詰めて殿下に向かったやつを無力化するのが一番か。瞬時に思考を巡らせ最適解を導き出したら、行動開始。

「眠っておけ」

「ガッ……ァ……」

 向かってきた敵の顎を左拳で打ち抜き、朦朧となった所で後頭部へ肘打ちを入れて気絶させる。そのままオフレ殿下の元へ一気に駆け出す。距離にして五、六メートルは離れていたが僅か一歩で零になり、今まさに凶刃を振り下ろさんとしている奴の腹に刀の柄頭を勢い良く叩きこむ。

「ゲハッァ、……クッ……ソ」

 恨みがましい視線を俺に投げつけつつ地へと倒れ伏した。さて、残るは屋根に居た奴らだがどこにいるかな?と気配を探ると既に倒れていたんだけど。どういうこっちゃと思っていると敵の首根っこを引っ掴んでこちらに来るカスミの姿が目に入った。ニコニコと笑みを浮かべながら大の男を軽々と引き摺る様は見慣れていない人なら大層怖いだろう。事実帝国組――オフレ殿下含む――は引き攣った表情をしつつ冷や汗を流している。

「隊長、上から狙っていた敵を捕縛してきましたわ」

「お疲れ様。ありがとう。……他に気配も無いし、こちらを狙ってくるような害意も感じないから殿下を狙ったやつらはこれで全部かな」

「はい。そうだと思いますが、念の為周囲の警戒は続けていますわね」

「頼む」

 さて、捕縛したは良いがこのまま放置しておくわけにもいかない。幸い今いる場所は表通りからズレた裏通りとでもいうべき場所なのであまり人がいないのが救いだが、情報局の連中が来るまでに騒ぎにならないとも限らない。連絡は敵の気配を察知した段階で緊急連絡端末で伝えているので、あと十分もすれば来ると思うがそれまでは殿下も含めて少し話をしておこうか。

「殿下。お怪我などはございませんか?」

「はい。ユノ隊長とカスミ様のご活躍により無事です」

「それは何よりです。――申し訳ないのですが、襲撃者がこの者たちだけとは限りませんので早急に安全な場所まで移動したいと思っていますが、大丈夫でしょうか?」

「問題ありません。ですが、この人達を放置しておいて良いのでしょうか?」

「襲撃者はもう間もなく来る――ああ、今来ましたね」

 丁度良いタイミングで情報局の人達がやって来たので、そのまま要点のみ伝えて引継ぎをする。他に仲間がいないか等の確認や、現場の調査は情報局の人間にお任せする事になるので俺達はここで一旦終わり。

「すみません。引継ぎが終わりましたので、後の事は彼等に任せて私達は移動しましょう」

「はい。宜しくお願い致します」

 こうして移動開始となったが、徒歩で動くには余りにも危険なので情報局員が手配してくれた車に乗って軍庁舎まで行く事になる。ここからなら二十分少々で着くのでその間に少しでも殿下の精神状態が落ち着いてくれればと思う。……まあ、襲われて平静でいられるわけが無いし心情は推して知るべしだろう。


 そうして僅かな時間を経て軍庁舎へと到着。俺達ともに貴賓用応接室へと行き、一先ず安心と言った所。取り合えず今後の事について話し合う事が急務だが、殿下の状態によっては明日に変更した方が良いかもしれない。何にしろ気持ちを落ち着かせる為にも少し話をしようか。

「殿下。ご気分が優れなかったり、どこか調子が悪いなどはございますか?」

「今の所は大丈夫ですが、ただ……精神的に少し辛いです」

「いきなり襲われたのですから無理もありません。リラックス効果のあるお茶があるので、今ご用意しますね」

「態々ありがとうございます。この様な事で醜態を晒すなど皇女として情けないですね」

「いえ、この場合は立場など関係ないと思います。恐怖や心理的ショックは誰しもが決して避けられない事ですので。寧ろ下手に隠される方がこちらとしても対処が難しくなるので」

「お心遣いありがとうございます」

 話してみた感じ心的外傷後ストレス障害になる程では無いようだな。軽いショック程度だし、二、三日で平常に戻るだろう。とは言っても適切なケアは必要になるが。

 とこれからの事を考えつつ、お茶を人数分淹れて手渡す。このお茶には先程も言ったように精神安定作用があり、その効果は医学的にも保障されている。まさにこう言った時にもってこいというわけだ。

 そのまま、暫くゆったりと過ごし多少は落ち着いた所で本題に入ろうと思う。

「殿下。幾つか確認したい事があるのですが宜しいでしょうか?」

「はい」

「まずは、今回の襲撃に関してですが実行犯の尋問を迅速に行い情報を吐かせます。その内容次第になりますが、大事になる可能性があります。規模としては和国と帝国間で冷戦が勃発等が考えられますね。次にオフレ殿下に関する事になりますが、今後どう動くかを考えておいて下さい。帝国に戻るのか、将又暗殺未遂があったので他国に亡命するのか、その他の手段を取るのか等ですね。最後にこの事件について明日にでも和国の首脳陣を交えて話し合いが行われるので参加をお願い致します」

「冷戦……ですか。それと私自身の今後をどうするか……」

「はい。現実味が無いかもしれませんが、考えて頂ければと。――明朝には尋問の結果も出ますし、それを踏まえて会議で話し合いをし最終決定をして欲しいと思います」

「期日は明日ですか。もう少し時間が欲しいのですが」

「申し訳ありません。事態は急を要するので時間を掛ければかける程悪化してしまうのです。ご無理を言っているのは承知ですが何卒お願い致します」

「分かりました。考えてみます」

「お願い致します。――では、今日の宿泊場所ですが軍庁舎の施設に泊ってもらいます。警備の点から今までご宿泊いただいていた宿では不十分なのでご理解ください」

「はい」

「それではこの後宿泊施設にご案内致します。その後は軍の人間が護衛に付きます。私とカスミに関しては少しやる事がありますので引継ぎ後別行動になります」

「承知しました」

 確認を終えた後、少し時間を置き軍庁舎にある宿泊施設へと案内してオフレ殿下とはお別れとなった。自国は夕方に差し掛かった所だが、これからやる事が山とあるので順に処理していこう。カスミとも少し話をしておかないといけないしな。

 はぁ、厄介な事になったぜ。今頃ゲンパクは大慌てだろうな。だが、オフレ殿下の下した決定次第では寝る暇も無い程忙しくなるし、今は嵐の前の静けさと言った所か。

 たくっ、勘弁して欲しいぜ。

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