Ep:19
明けて翌日。俺は情報部の局長室に居る。昨日起こった不測の事態について話し合いをしている所だ。
「で、本当に情報は掴んでいなかったのか?」
「あぁ。こちらとしてもお前から言われた時はまさに青天の霹靂だったよ」
「となると完全に情報局の網から抜けてたわけか。そんな事あり得るのか?」
「ウチの情報網も完璧では無いからな。漏れも少なからずあるさ」
「そうは言うがな俺達は命を掛けてるんだぞ。情報漏れがありましたじゃ済まないだぞ」
「重々承知している。こちらとしても総力を挙げて事実確認をしている所だ。今回が初めてだが今後も似たような事態が起こる可能性もあるしな」
「現れたのがクラスAだったからまだ良かったものの、これがクラスunknownだったら洒落にならないし、マジで頼むよ」
「勿論だ。――それにしても今回の試験官がユノでよかったよ。他の人であれば確実に全滅していただろうからな。不幸中の幸いってやつだな」
「本来ならあってはならない事態だけどな。取り合えず報告書は上にも回しておいてくれよ」
「分かった。上層部も含めて今後どうするか早急に検討するよう促すよ。一応ユノからも口添えをして貰えると助かるんだが」
「んじゃ俺からも伝えておくよ。……今までに起こり得なかった事が起こるし、何かか動き出そうとしている前兆なのかもな」
「というと?なにか感じるものでもあるのか?」
「感覚的な話になるけど、最近妖魔の様子がどうにもおかしい気がするんだ。やけに好戦的だったり、より強くなろうとしてるって感じがする」
「それは……。もしかして大陸の外にあるっているあそこが関係しているのか?」
「それは分からない。ただ無関係では無いと思う。何かしらの大きな動きがあったのか、将又俺達の予想も出来ない事が起きたのか?なんにしろ情報が無さ過ぎて現状では判断が出来ないな」
「取り合えず要警戒ってところか」
「そうだな。分からない事が多すぎるし、推測に過ぎないからこの話は上にはまだ伝えないでおいてくれないか」
「まあ、仮定の話をしてもしょうがないしな。今の所は胸の裡に仕舞っておくとしよう」
「ありがとう。――後は今回の事についての謝罪か」
「待て待て。謝罪って誰に謝るんだ?」
「勿論受験者達だよ。幾ら不測の事態だったからとはいえ、本来起き得ぬ事があったんだ。試験官として謝罪するのは当然だろ」
「お前が謝るとなると、大問題になるから止めて欲しいんだが……」
「そうはいかない。ウチの隊員には言い聞かせるから問題無いぞ」
「皇王様とか皇女様が間違いなく大騒ぎするし、他国にも知れたら非難される事間違い無しだ」
「そうなったら俺が前面に出て事態を収めるから大丈夫」
「本当だな?あとで面倒だからって丸投げしたりしないよな?」
「おいおい、俺がそんなことする奴に見えるか?確り収めるから安心しろって」
「はぁ。じゃあ、任せたぞ」
「おう、任せろ」
情報局局長との話し合いはこうして終わりを告げ、局長室を出た足で次はCODE肆が居る部屋へと向かう。庁舎内を暫し歩き辿り着いた部屋の前でノックをした後入室した。
「失礼します。この前昇格試験を受けた三名はいらっしゃいますか?」
「はい、居ます。少々お待ち下さい」
近くにいた隊員に呼びに行ってもらうと、すぐにこちらに向かい小走りで来る三人の姿が見えた。
「ユノ隊長!今日はどのような御用でいらしたのでしょうか?」
「まずは、試験合格おめでとう。今日来たのは謝らなければいけない事があってね」
「ありがとうございます。ユノ隊長に謝罪されるような事は何もないと思いますが」
「ほら、試験の最中にクラスAの妖魔が現れただろう。あれは完全に俺と情報局の失態だ。情報を確りと掴んでいなかったこちらの落ち度だし、試験官として君達を危険に晒してしまって済まない」
「と、とんでもありません。寧ろ私達の方こそユノ隊長のお手を煩わせてしまって申し訳ありません」
「君達には何の落ち度も無いから謝る必要は無いよ。それと今後同じような事が起きないよう上層部でも原因の究明と対策をするから安心してくれ」
「分かりました。――私達が昇格で来たのもユノ隊長が試験官をしてくれたからこそだと思っています。試験中に色々と配慮して下さり、またクラスAの妖魔から守って下さり感謝の念に堪えません」
「当たり前のことをしたまでさ。っと長々と引き留めるのも悪いしここでお暇しようかな」
「ずっといて下さっても構わないのですよ?寧ろもっとお話をしたいといいますか……」
「今は仕事中だし、俺と話がしたいなら休憩時間にでもCODE零の部屋に来てもらってくれればいくらでも出来るからそうしてくれるか?」
「分かりました!必ずお伺いします」
「んっ。じゃあこれで」
「はい。お疲れ様です」
これで謝罪は終わったけど、話している最中他の隊員や隊長達から物凄く注目されてたな。あとで何か言われなきゃいいけど……。面倒事になりそうなら俺が出張ればいいか。全く中間管理職は辛いぜ。ブツブツと頭の中で取り留めも無く思考を巡らせながら、歩いて行く。
さてと、戻ったら明日までに片付けなければいけない仕事の続きをしようかな。
試験から幾日か経ったが特に問題も起こらず平穏無事に日々を過ごしている。仕事は大方片付けたし、大きな所は護衛に関する件だがそれは後日書類と共に連絡されるらしいので今は待ちだ。自席でお茶を飲みつつゆっくりしていると暇なのかカスミとスズネが声を掛けてきた。
「隊長。食事会の件ですがどうなりましたか?」
「あー、それか。一応来週末に決まったよ」
「誰が来るとかも決まっているんですか?」
「それなんだけど、最初の話では俺達とサクラ、長官達の娘・孫娘だけだったんだけどどこで噂を聞き付けたのか参加したいと申し出る人が結構いたみたいでさ」
「……それって名家とか旧家の人達ですよね?あとは隊長と縁を深めたい人とか」
「スズネ、良く分かったな。そう言った人が国内のみならず国外にもいてさ。結局ある程度は選定した上で招待したみたいだよ。だから完全にプライベートの食事会とはならないな」
「えー。面倒臭いですね」
「そう言うな。どうしたってそう言う話は漏れ伝わるものだし、好機と見て行動を起こす人だっているだろう。それにこう言った事はそう滅多にあるものじゃないし悪いが我慢してくれ」
「隊長がそういうならそうするけど。ただ……僕としては知っている人達だけでやりたかったなぁって思います」
「それはまた今度な。あと、一応ドレスコードもあるから間違ってもラフな格好で参加するなよ」
「ドレスとかじゃないと駄目な感じですか?」
「一応ご令嬢たちはセミフォーマルと決められているが、俺達はスマートエレガンス程度で良いみたいだぞ。ワンピースとかスーツ、若しくは着物だと小紋・紬か小振袖だな。そこらへんは各々に任せるよ」
「となると今まで着た事があるのじゃない方がいいかな。合わせもあるし、新調するなら時間的にはギリギリか~。洋服と和服どっちにしよう?カスミはどっちにするの?」
「私は洋服ですわね。最近買ったばかりの服がありますのでそれを着用しますわ」
「そっか。ねぇ、良かったら僕の買い物に付き合ってくれない?」
「構いませんわよ。なるべく早めの方が良いでしょうし、明日なんてどうですか?」
「OK。じゃあよろしくね」
「はい」
「ふむ。お前達はそれでいいとして俺はどうしようかな?スーツにするか、着物にするか。ユキだったら着物が良いって言うだろうけど、何度かこう言った機会で着たものばかりだしなぁ」
「僕は久し振りに隊長のスーツ姿を見たいです!」
「私もスズネと同意見です」
「そうか?なら久々に引っ張り出して着てみるかな。……何処に仕舞ってあるかユキに聞いておかなくちゃいけないな。あー、クリーニングにも出しておいた方がいいか」
「隊長のスーツ姿、スーツ姿。これは写真に撮っておかなきゃだね」
「滅多に無い機会ですし二人並んで撮りたいですわね。あぁ、想像しただけで頬が火照ってきますわ」
ちょっと怖い事を言っている二人をよそに、他の面々にも伝えに席を立つのだった。
食事会と一言にいっても多岐に渡る。ごく親しい人のみで行う場合、親類縁者と行う場合、会社の関係者と行う場合、権力者や政治家と行う場合など挙げればキリが無いが、今回の食事会に関しては線引きが割と難しい。皇女も参加する以上格式高いものになるが、参加者の八割は見知った顔なのでプライベートな会とも言えなくも無い。されども開催に当たって動いたのは和国の元首である皇王であるし、国内・海外から選ばれた人達がやってくるので結局の話どうなんだろう?と少し疑問に思ったりもする。
閑話休題
結局の話偉い人達が集まって飯を食いながらお話ししましょうって事なんだけどね。
さてさて、そんなこんなで食事会開催日少しばかり時計の針を進めよう。今俺達は皇居に居る。皇居とは皇王の家族が住まう場所で一般人が来ることは固く禁止されている。当然関係者であろうともおいそれと来れる場所では無いし、事前にアポイントメントを取ったとしても皇王やその家族に会うにはそれなりに時間が掛かる。そんな場所だ。
「ここに来るのも久し振りだな」
「そうですね。以前来たのは数ヶ月前ですから」
「相変わらず綺麗に手入れされているし、無駄に広いな」
「ユノ様。あまりそういった発言はなされない方が良いかと」
「この辺りには人はいないし大丈夫だろ。それに聞かれても事実だから問題にはならない……はず」
「少し自信が無いのですね。言葉尻が萎んでいましたよ」
「うっ……まあ偉い人に怒られたくは無いからな」
「ふふっ、可愛らしいですね」
なんてユキと二人で他愛無い話をしながら皇居の中を歩いて行く。開催場所がなぜか皇居にあるホールなのでわざわざ足を運んでいる訳よ。俺としては一級の食事処でも貸し切ってやるのかと思ってたんだけど皇王――ゲンパクが張り切っちゃって食材も料理人も場所もウチで用意するから!って言って来てそのままなし崩し的に今に至る。確かに前に話した時にゲンパクが色々と手筈してくれるって言ってたけど、まさか自分の家でやるとは思わなんだ。
「しかし久々にスーツなんて着ると堅苦しくて駄目だな」
「着慣れていないのでそればかりは仕方ないかと。和服の場合だとドレスコードに合うものがありませんし。こんな事ならこの前買い物に行った時にユノ様の着物も買えばよかったですね」
「本当にそうだよ。あの時はこの事を失念していたからな。あー、時間を遡れたらなぁ」
「そう思う気持ちも分かりますが、私にも時を遡る力はありませんし諦めるしかないかと」
「だよなぁ。――話している内に着いちゃったな。もう皆は来ているのかな?」
「恐らく中で待っているのではないかと思います」
「じゃあ、行こうか」
二人揃って瀟洒な造りの建物へと入っていった。
建物の中は豪華でありながら嫌味がなく、置いてある調度品もセンスの良さを伺わせる。初めて来る場所なのでキョロキョロしながら廊下を歩いて行くと、一塊になっている集団が見えた。
「おっ、あれかな?」
「そのようですね」
そのまま歩いていき、間近で見た光景は圧巻だった。
「遅くなってすまん。――あと、当たり前だけど皆いつもと全然違うな」
「えへへ~、張り切っちゃいました」
えっへん!と胸を張りながら言うスズネは普段はサイドヘアスタイルだが今は髪を結いあげて一纏めにしている。しかも編み込んだりとかなり手間がかかっていそうな感じだ。服装に関してもワンピースに上品なボレロを纏っていて可愛さと綺麗さを見事に表現している。
「うん、可愛いな」
「あ、ありがとうございます。そう言われると凄く照れちゃいます」
恥ずかしそうにモジモジしているスズネを、微笑ましい気持ちで見ていると他の女性陣がジッとこちらを見ている事に気付いた。これは一人一人に感想を言わなきゃいけないパターンか。……折角だしゴロウとジンの格好も褒めておこう。ビシッとスーツで決めているし滅茶苦茶格好良いからな。
その後は各々に所感を述べつつ、反応を楽しんだりしていたら思いのほか時間が掛かってしまった。多少の余裕は持って来たけど、そろそろ会場に入らないとマズいという事で全員揃って会場の中へと入っていった。
会場に入った瞬間にまず感じたのは香水と、女性特有の香りだった。どちらも鼻を摘まむほど臭いという訳では決してなく、僅かに漂ってくるくらいなので寧ろ多少の心地よさを覚える位だ。パーティー慣れしていない人が多いと噎せ返る様な香気と化粧と体臭が入り混じった吐き気を催すような臭いで充満するのだが、幸い今日会場に来ている人達はパーティーなど何百と経験している人達ばかりなのでそこら辺の配慮というか、慣れがあって先述したような心地よさを覚える香りになっているのだろう。
「もう殆どの人が集まっているっぽいな」
「そうですね。まだ多少時間には余裕がありますが」
「まあ、俺達が最後にならなくてよかったよ」
「はい。最後に登場となると凄く目立つ上、色々と面倒ですからね」
「だな」
などとユキと話しつつ辺りを軽く見回してみる。参加者の男女比は七:二くらいで圧倒的に女性が多い。あとは、会場の端の方に横長のテーブルが幾つもありその上には各種飲料――酒から炭酸水まで様々―と贅を凝らした料理が並べられている。今回は立食形式なので各々好きな料理を取り、談笑しつつ食事をするという感じだ。そんなこんなであっちこっち見回している内に、参加者全員が揃ったようで開催の挨拶を偉い人がしたあと、スタートと相成った。
「何はともあれまずは飯だな。お腹も空いたし沢山食べるぞ」
「欲張って一度に沢山お皿に盛るのは駄目ですよ」
「分かってるよ。マナー違反だしそんなミスはしないさ」
ユキにお母さんみたいなことを言われつつ、いざ参らん!と意気込んだ所でこちらに向かって小走りで駆け寄ってくる人影が一つ見えた。いやにスピードが速く、グングンと近づいてきたと思ったらタッ!とこちらに向かって飛び込んできた!回避する訳にもいかず抱きとめると、相手が満面の笑みで言葉を紡ぐ。
「ユノお兄様!お会いしたかったです!」
「おお、サクラ久し振りだな。元気にしていたか?」
「ユノお兄様に会えなくて元気ではありませんでした」
「そうだったのか。ゲンパクから聞いたんだが、わざわざケールカ王国に行こうとしたんだってな?」
「はい。だってユノお兄様に会えない期間が一月もあるのですよ。そんなの耐えられません。お父様が必死になって止めてきて、結局はケールカ王国には行けず仕舞いでしたが……」
「あー、確か俺がケールカ王国に数日前に会ったよな。それでも耐えられなかったのか?」
「はい。私はユノお兄様のお姿を、お声を、存在を常に感じていなければ死んでしまうのです。和国に居られるのなら最低でも二週間に一度はお会い出来ますし、発狂する事はありません」
「…………うん。それでさ、そろそろ離れた方が良いんじゃないか?ほら、周りの目もあるし」
「周囲がどう思おうが関係ありません。――ユノお兄様は私に抱き付かれるのはお嫌ですか?」
「そんなことは無いが、ちょっと腹が減ってさ。ご飯を食べたいなぁ~なんて思ってさ」
「まあ、気が回らず申し訳ありません。では、行きましょう」
サクラに手を引かれながら料理が所狭しと並べられているテーブルの方へと歩いて行く。
さて、ここで疑問に思った人も居るだろう。なぜ、ユキや隊員たちが止めに入らなかったのか、抱き着くという行為をしておきながら殺されなかったのかと。
結果から言えばいつもの事なので特にこれといった感情は浮かんでこないのだ。ユノ、ユキ、隊員達はサクラが赤子の頃から知っているし、それこそたまに面倒を見たり一緒に遊んだりしていたのだ。今更怒ったり、憤ったりなどしない。あとは俺がお兄様と呼ばれているのは俺がそう呼ばせている訳では無く、小さい頃から遊び相手になったり構っていた事が要因となって兄と慕うようになったという話だ。当然血縁関係は全く無いし、親戚とかでもない。それと先程のやり取りでも少し垣間見えたがサクラには少し情緒が不安定な部分がある。それも俺絡み限定で。普段は清楚可憐で非常に頭も良く、誰とでも仲良くなれ人柄も良く、なんでもそつ無く熟す才女といえるだろう。国民からも愛されており、街を歩けば皇女様ではなくサクラ様と呼ばれている事からもその人気が伺える。容姿も大変優れており、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と多くの人が口にする程。そんな完璧超人なサクラだが、俺に関する事には物凄く敏感でなんでそんな事を知っているの?と疑問に思う程色んな情報を持っているちょっと怖い所がある子だ。怖いと言えば皇女という立場でありながら頻繁に会いに来て、身体的接触や臭いを嗅いだりするのも少し遠慮して欲しい所だ。会いに来るのは構わないし、俺としても嬉しいんだけど抱き付いたり、腕を組んだり、おっぱいを押し付けて来たり、更には一緒に昼寝をしようとしたりと枚挙に暇が無いがそういった事はマジで控えて欲しいと思う。だって皇王であるゲンパクに知られたら俺の首が物理的に飛ぶ。思わず首を摩っているとニコニコ笑顔で腕を組んだサクラが怪訝そうにこう聞いてきた。
「もしかして首が痛いのですか?皇室付きの医者を今すぐ呼んできますね」
「まてまて。なんとなく触っていただけだからそんなことしなくていい」
「本当ですか?痛みや違和感などは無いのですね?」
「無いよ。だから大丈夫。それよりも凄い種類の料理だな」
「参加者が多いという事もありますが、なにより沢山お食べになる方たちがいらっしゃいますので。味の方も皇室付きの料理人が厳選した素材を使い料理をしましたので、ユノお兄様のお口にもきっと合うと思います」
「色々と気を使ってくれてありがとな。俺達の食う量は尋常じゃないしさぞ大変だっただろうな」
「寧ろこんなに沢山の料理を作れて嬉しいと料理長が言っておりましたよ」
「マジか。……もしかして普段はあまり量を作らないのか?」
「そうですね。私とお父様、お母様の分なので量は少ないですね」
「そっか。それじゃ、料理長渾身の料理を頂くとしますかね」
どれもこれも美味しそうだが、何はともあれ肉だ!年を取ると肉や脂っこい物が食べれなくなると言われているが、俺には一向にそんな気配は訪れない。健啖家と言えばそれまでだが、野菜や魚ばかり食べていると経験上体力も落ちるし、戦闘能力も少し落ちてしまう。肉に含まれる何がしかの要素が身体に好影響を与えているのは明白だ。よって肉ばかり食べるのは仕方ないのだ。はい、自己弁護完了。皿に目に入った肉料理を載せていると、横合いからユキに声を掛けられた。
「もう少しお野菜も食べた方がよろしいのではないでしょうか?」
「あとで食べるよ。多分……」
「もう。仕方ありませんね。では頃合いを見計らって私が持ってきますね」
「ありがと」
またしてもユキにお母さんみたいなことを言われてしまった。俺に限定して世話焼きだし、様々な面で気に掛けてくれるとてもよく出来た女性だが今この時だけは俺の好きにさせて欲しい――なんて言えるわけもなく素直に従う事にする。次の食事の際に盛り沢山の野菜料理を食べさせられるのは勘弁だからな。
ここだけの話ユキは割と根に持つタイプなんだよ。だからあまり怒らせたくないんだ。完全に尻に敷かれているのは……うん、もうね……仕方ないよね。ははは……はは……は……。




