Ep:1
『入電。入電。E街区にてクラスA及びクラスBの妖魔が発生。至急現場に向かわれたし。詳しい情報は気送管にて書面を送付済みです。繰り返します。E街区にて妖魔が発生。至急――』
突如部屋に鳴り響く音声に驚く者は誰も居ない。
が、一様に不思議そうな表情をしていた。
「クラスAで私達が出動するっておかしくない?情報の送り先間違ったのかな?」
「かもしれませんわね。後で情報局に文句を言っておかないと」
「もう少しで業務終了なのに面倒臭いなぁ~」
口々に思い思いの言葉を述べているが、そこには自分たちに一切関係が無いというのがありありと伝わってくる。それもそうだろう。実際この部隊に所属する面々が相手にするクラスの妖魔では無いのだから。だからこそ帰り支度をしている者が居てもなんらおかしい事では無い。
が、その状況に待ったをかける声が場に響く。
「あ~、悪い。さっきの連絡は誤情報でもなんでもなくて、正式な物だったよ」
「隊長。本当ですか?でも、普通ならCODE壱~参が対応する案件ですよね」
「うん。そうなんだけど、両方とも出払っているみたいでさ。現状対応できるのが俺達だけみたいで、それでこっちに話が来たみたい。んで、悪いんだけどこれから出動って事で一つよろしく」
「分かりました」
「それで面子なんだけどクラスAだし俺と、あと一人か二人くらい一緒に来てくれるかな?」
「「「「はい」」」」
俺の言葉に一斉に手を上げる隊員たち。流石に全員で行ったら過剰戦力が過ぎるし、ここはジャンケンで決めてもらうのが無難だろうか。
「それじゃあ、誰が来るかジャンケンで決めようか」
その言葉に一瞬にして殺気立つ女性陣。かたや男性陣はそれを見守るのみ。まあ、鬼の形相をしている人達の輪に進んで入りたいとは思わないだろう。俺も嫌だし。
「貴方達雑魚は引っ込んでいなさい。どうせ足を引っ張るだけなのですから」
「はぁ?どの口が言ってんの?殺すよ」
「まあまあ、カスミもスズネも落ち着いて。隊長の前だよ」
「そうでしたわね。少し取り乱しましたわ。隊長、お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」
「ごめんなさい。許して下さい」
一転して殺気が雲散霧消して、申し訳なさそうな……いや顔を青褪めさせて謝る姿に何となく居た堪れない気持ちになる。というかシオリの一言が無かったら確実に殺し合いが始まっていただろう。隊員達の血で血を洗う戦いなど見たくないから助かったよ。後でシオリには感謝を伝えておこう。
あとは、誰を選んでも禍根を残すだろうしもう全員で出動って形にしたほうが丸く収まりそうだな。
「んっ、大丈夫だよ。気にしてないから。でも……そうだなぁ。業務終了時間も近いし全員で行こうか。勿論そのまま直帰だから忘れ物とかしないようにね」
「分かりました」
「やった!」
「隊長。ありがとうございます」
さてそうと決まれば俺も準備をしないとな。
装備を整えて全員揃って駐車場へと向かう事約十分。
地下駐車場へと来たわけだが、俺達CODE零専用駐車場は一般区画から少し歩かなければいけない。
余談だが各隊には専用駐車場がそれぞれ区画に分かれている。が、俺達の隊だけ結構離れた所にあるんだよね。正直移動が面倒だし勘弁して欲しい。隊所有の車両なんて数台しか無いんだからなんなら一般区画でも構わないし近場に用意して欲しいというのが本音だ。
だが、こんな事を隊員たちの前でポロッと漏らしたら最後。彼らはあらゆる手段で実行・達成するだろう。そう文字通りあらゆる手段を使ってね。
隊長として彼らの立場が不利になるような行動を取らせるわけにはいかないし、細心の注意を常々払っている。本当に気苦労が耐えないよ。
なんて益体も無い事を考えている内に我が隊の駐車区画に到着。
「さて、誰が運転する?俺でも構わないけど」
「E街区までの最短ルートを知っているので、今回は俺に任せてもらってもいいですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます」
「え~、今回は僕が運転したかったのに。ジンに横取りされた~」
「ジンが最短ルートを知っているらしいから、スズネには悪いけど今回は諦めてくれ。その代わり次の出動の際には任せるからさ」
「分かりました。ふふっ、早く次の出動要請がかからないかなぁ」
「もう、スズネったら不謹慎だよ。私達は市民の安全の為に働いているんだからそんな事を言ったら怒られるよ」
「ぶぅ~」
一見すると和やかなやり取りだが、現場に向かう途中なんだけどなぁ。まあいつもの事だしとやかく言うつもりは無いけどさ。
「何時までも喋っていないで早く車両に乗って下さい。早く現場に向かわなければいけないんですから」
冷たさがある一声により各人がすごすごと車に搭乗し始める。
その様子を見ながら件の言葉を発した人物に近づき一言。
「アヤメ助かったよ」
「いえ、当然の事をしたまでです。というか、下らないやり取りで隊長のお時間を無駄に消費させているのが許せません」
「まあまあ。あいつらも就業時間終了間際の出動要請で思う所があるだろうし、今日の所は大目に見てやって欲しいな」
「隊長がそう言うのであれば分かりました」
「んっ。頼りにしているよ副隊長」
俺がそう言うとポッと頬を桜色に染めて俯いてしまった。
えぇ~、今の発言にそんな態度を取る要素があったの?怒らせてしまっただろうか?こういう時女心が分からない自分が恨めしい。男同士なら些細な機微でもすぐに分かるんだけどなぁ……。
はぁ、やらかしてしまったぜ。
暗澹たる気持ちを抱えたまま車両に乗り込み、すぐに現場に向けて発進。
目的地であるE街区までは通常であれば四十分ほどだろうか。だが今回は近道を通るので少しは短縮できるだろう。
さて折角時間もある事だし、ここらでブリーフィングでもするか。
「みんな注目。現場に着くまでにブリーフィングをする。ジンはそのまま聞いていてくれ。今回の討伐対象はクラスAの妖魔が一体、クラスBの妖魔が三体だ。被害は入電時の情報では出ていないが今はどうなっているかは不明。また、出現場所はE街区の郊外であり街中には侵入していないと思われる。ここまでで質問はあるか?」
俺の問いに全員が沈黙で答える。
「無い様だな。ではメンバーについてだが、クラスAの妖魔には俺・カスミ・ゴロウで当たる。クラスBにはアヤメ・スズネ・シオリ・ジンで当たってくれ。各々の分隊のリーダーは俺とアヤメが担当する。それと今日は煙の濃度が濃い為各自マスクを着用するように。俺からは以上だ」
「質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「被害はどの程度許容されますか?」
「そうだな。人的被害は無し、建物等に関しては倒壊は避けてくれ。損壊程度なら問題ない」
「分かりました」
ものの数分でブリーフィングが終わってしまった。長い付き合いだし、隊員の数も少ないからこれで十分だし、お互いの実力や戦術も理解しているからこその早さだろう。
やる事をやったらあとは現場に着くのを待つのみ。
暫くして運転しているジンから間もなく到着すると伝えられた。
それに伴い改めて装備を確認していると速度は緩やかになり、停止。
揃って車両から降りると各人を見ながら一声。
「それでは状況開始」
俺の言葉と同時に一斉に走り出す。見た所まだこちらまで来ていないらしく被害は皆無。であるならば早急に殲滅するのみ。敵の位置は把握しているし問題ない。
走る事十数分で敵を目視。その頃には相手もこちらに気付いたらしく、ジッと見ている。
「ふーん、最初に会った人間が中々強そうで良かったよ。退屈しないで済みそう」
妖魔が開口一番そんな事を宣ってきた。相変わらず傲慢でどいつもこいつも同じような事しか言わないしこっちとしては辟易してしまう。当然返事をする事もしない。面倒臭いし。
「あはは。怯えているのかい?まぁそうだろうね。俺と君たちとじゃ隔絶した実力差があるわけだし、そうなっても仕方ない。精々全力で抗ってくれよ!」
言い終わるや否や目にもとまらぬ速さでこちらに向かってくるなり拳を突きだしてくる。がそれを薄皮一枚で躱し後退。これはクラスAでも中堅と言った所か。
「へぇ、今の攻撃を躱すなんて中々やるじゃん」
パチパチと拍手しながら言ってくる様は完全に上位者のそれだ。
若干のイラつきを覚えつつも相手の実力も把握したし、さっさと終わらせるか。こちとら時間外労働真っ最中で早く帰りたいんでね。
「お褒めに与り光栄だよ。だが俺達も暇じゃないので死んでくれ」
「…………あっはっはっは!君面白い事を言うねぇ。いいよ、いいよぉ!そういう威勢の良さは嫌いじゃない。が、少し躾が必要みたいだね」
「隊長。ここは俺に任せてもらってもよろしいですか?」
「んっ?ゴロウがそんなこと言うなんて珍しいな」
「少し思う所がありまして」
「そっか。カスミもゴロウに任せて問題ないか?」
「はい、問題ありませんわ」
「んじゃ、よろしく」
「了解です」
さて俺達は少し離れた所で見守るとしましょうかね。
ポテポテと移動しつつ様子を眺めているとすぐに戦いの火ぶたは切って落とされた。
「一人で俺を倒そうなんて随分と余裕じゃないか。その鼻っ柱をすぐに圧し折ってやるぜ」
その言葉を言うが早いか目にもとまらぬ速さでゴロウに肉薄する妖魔。
が対峙しているゴロウに動きは一切無い。
それを好機と見たか顔面に向けて鋭いストレートを打ち出す。
真面に喰らえばトマトの様に脳漿をぶちまけて首から上が消え去ること間違いなしのその一撃をパシッという気の抜けたような音と共に受け止めてしまった。
「はっ?」
間の抜けたような声を出したのは拳を打ち出した妖魔だ。まるで狐につままれたようなアホ面を晒している。零れだしそうになる笑いを堪えるので精一杯だからこれ以上は笑わせてくれるなよと益体も無い事をつい考えてしまう。
「軽いな。お前の拳は余りにも軽い。自身の身体能力に自信があるのだろうが、それにかまけた馬鹿正直な打撃など誰がくらうか」
「こっの!」
ゴロウの言葉に激怒した妖魔は胴体目がけて蹴りを繰り出す。
当たれば上下真っ二つになり内臓が爆発四散して即死は確実の蹴りをさっと後ろに飛び退くことで回避。と同時に地を蹴り一足飛びで相手に飛び込む。
刀を構えそのまままるで意趣返しの様に顔面に剣閃を叩きこんだ。
パンッ!という甲高い音と共に妖魔の首から上が消え去った。後に残ったのは頽れる身体のみ。
だが、その身体も時間を置かずして跡形も無く消え去ってしまった。その場に残されたのは原石のみ。
「よし。これで任務完了だな。お疲れ様」
「お疲れ様ですわ」
「お疲れ様です。討伐証明の原石は隊長にお預けしますね」
「んっ。後はアヤメたちの方か。遊んでなければいいけど」
「副隊長がいるので大丈夫とは思いますが……スズネ辺りが鬱憤晴らしにやらかしそうな気もします」
「あー……うん。業務終了間近での任務だったし多少は大目に見るつもりだけどどうなる事やら」
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「はぁ~。隊長達は大丈夫かな?万が一でも怪我でもしてたらと思うと心配だよ」
「スズネの心配は杞憂だと思うよ。というか隊長が怪我をするとか本気で思っているの?」
「でも万が一っていう可能性があるでしょ。大きな怪我じゃなくても擦り傷とか、切り傷とか小さなものでも負って欲しくないんだ」
「それは私も同じだよ。でもカスミとゴロウも居るしやっぱり杞憂だと思うな」
「かなぁ~」
暢気にお喋りに興じているが今いる場所はカフェでも寛げる部屋でもない。まさに戦場そのものに身を置いているのだ。事実目の前には三体の妖魔が口から涎を垂れ流しながら獲物を狩ろうと今にも動き出そうとしている。普通であれば臨戦態勢をとり、ピリピリと張り詰めた空気が漂っているはずだ。
そう考えると今の状況はあまりにも常軌を逸していると言わざるをえない。
ではなぜ彼・彼女らがここまで余裕でいられるのか?
答えは簡単だ。
隔絶した実力差がある他に無い。
事実クラスB程度であれば仮に現状の二倍~三倍の数がいても一人で殲滅可能だろう。それがたった三体、こちらは四人だ。正直消化試合も甚だしい所だろう。完全に弛緩し切った空気の中パンッ!とひとつ手を打つ音が響く。
「任務中ですよ。些か弛んでいるのではないですか?」
声を発したのは分隊のリーダーであるアヤメだ。
マスクで口元は覆われているが、それでも絶世の美女と一目で分かる美貌、そしてサラサラと流れる黒髪は夕日を反射して輝いている。百人居れば百人が口を揃えて美しいと言うであろう女性が腰に刀を提げている様は少し異様に映るだろう。否それは他の隊員も同じか。
「ごめんなさい。でも雑魚相手だとどうしてもやる気が起きなくて……」
「はぁ。それでも任務は任務です。それにこうしてダラダラしているとそれだけ隊長をお待たせする事になるんですよ。恐らくもう討伐しているでしょうし」
「早く倒そう!シオリもジンも全力で当たってね!」
「たくっ。相変わらずお前は現金だな」
「まあまあ。スズネは昔からこうだから。それはジンだって知っているでしょう?」
「そうだが、少しは改善して欲しいもんだぜ」
愚痴をこぼしつつも雰囲気を戦闘モードに切り替える様子は流石と言うべきか。
「それではスズネ・シオリ・ジンがそれぞれ一体ずつ相手をして下さい」
「「「了解」」」
返事と同時に動き出す三人。
瞬時に妖魔に肉薄したかと思えば一閃。
もし他の人が見ていたならば何が起きたか理解できないだろう。気が付けば妖魔の身体が上下に分かれているのだから。例え歴戦の猛者であろうとも結果だけしか理解できず、そこに至るまでの行動は一切分からないのは間違いない。
さて、ここで彼らの行動を説明すると至極単純な物になる。
まず妖魔に向けて走り出し、刀の間合いに入った瞬間に横一文字に斬る。
ただそれだけだ。こうして言葉にしてみる余りにも呆気ないが、仮にも相手はクラスBの妖魔だ。普通であれば四~五人で相対してそれなりの犠牲を払って勝利を収める。これはCODE弐~参の話になるがそれほどの相手なのだ。それを単騎でただの一振りで討伐する異常さと言ったら筆舌に尽くしがたいだろう。
まさに人外、超越者、化け物。
それも一人では無くCODE零に所属する全員が同程度の実力を持っているという事実。
果たして彼らは人間なのだろうか?そんな疑問を持っても何ら不思議ではない。
「はい、お疲れ様でした。原石は回収して隊長と合流した際に渡して下さい」
「「「了解」」」
「それでは移動を開始します」
その場から四人が消え去った後にはまるで戦闘など無かったかのような静かな空間が残されていた。
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別れた別班を待っている間他愛もないお喋りに花を咲かせていると、前方からこちらに向かってくる一行の姿が見えた。
「ようやく来ましたか。思っていたよりも遅かったですわね」
「うーん、なにかあったのかな?報告よりも妖魔の数が多かったとかさ」
「その可能性はありますが、情報局が間違えるとは思えません。恐らくやる気が出ずにダラダラとして時間が掛かったのではないでしょうか?」
「俺もそう思います」
「そっか。まあなんにせよ全員無事でなによりだよ」
そんな会話をしている内に別班が俺の前に整列して代表としてアヤメが口を開く。
「クラスBの妖魔三体の討伐を完了しました。こちらの被害は零です」
「了解。それじゃあ原石を貰えるかな」
スズネ・シオリ・ジンからそれぞれ原石を貰った所で本日の任務は終了。
車に乗り込み撤収と相成った。
帰りの車中で明日の予定について連絡しておこうかと思い口を開く。
「明日の予定なんだけど俺は朝一から情報局に行くから定時になったら仕事を始めてくれ」
「分かりました。……あの、隊長にお願いがあるんですがいいですか?」
「話してみて」
「今回はCODE壱~参が出払っていた為私達が任務にあたりましたが、本来であれば有り得ない事ですよね?そもそも三部隊が居なくなる事自体がおかしい訳で。なので今後はこのような事が無い様情報局局長に進言してもらえないかと思いまして」
「ふむ……」
シオリがこんな事を言うなんて珍しい。何かしら思う所があったんだろうけどさ。
しかし難しい問題だぞ。どうしたもんか。
「確かに俺達の立ち位置を考えるとシオリの言う通りだな。今回みたいな自体に対応できるようにどこかの部隊は待機させておくのは当然だろう。けど、それが出来ないなんらかの理由があるんだと思う。例えば広域にわたって妖魔が出現したとかね」
「ですがその場合は私達の隊に要請が来るのでは?」
「出現した妖魔がクラスA以下だったとかなら俺達には関係ないだろ。でも流石にCODE肆以下の隊が当たるには荷が重すぎる。なので壱~参が出動したとは考えられないかな?まあ全て憶測だし間違っているかもしれないけど」
「そう……ですね」
「今回みたいなことは例外中の例外だし滅多にあるもんじゃない。心配しなくても良いとは思うけど一応局長には釘を刺しておくよ」
「はい。ありがとうございます」
ふう。なんとか納得してくれたようだな。シオリはおっとりして優しい性格だけど言う時はズバッと意見を述べるからな。それは俺であっても例外じゃない。
……すこし空気が重いな。仕事も終わったんだしもっと気楽にいこうか。
「みんなは家に帰ったらどうするの?」
「俺はこの前入手した酒を飲みます」
「おぉ、やっと手に入ったんだ」
「はい。酒屋に頼んであれこれと手を回してもらってたんですけど、中々手に入らず時間だけが過ぎて俺自身も半ば諦めていたんですが、ようやっと手に入りました」
「因みにお値段はどのくらいなの?」
「一本五十万円です」
「ぶはっ!?そんなにするの?」
「はい。幻と言われている一品な上滅多に表のルートには出回らないんです。製造される本数自体がごく僅かというのも理由ですね」
「はぁ~、なるほどね」
俺も酒は嗜むけどジンほど熱をあげる事はないからな。しっかし一本五十万円か。俺達の財政状況を考えると端金だが、それでも凄いと思う。
「お酒なんかにお金を掛けるよりも僕だったら服につぎ込んじゃうな~」
「分かる。私もそうする」
「お前たちは無駄に金を掛け過ぎなんだよ。服なんて良質な物が数着あれば十分だろ」
「「え~、有り得ない」」
スズネとシオリが口を揃えて同じことを言う。
確かに二人ともお洒落だし、ぱっと見で良い物を着ているなってのは分かるし非常に気を使っているのも理解できる。が、それはあくまで女性の感覚であり男にとっては数着あれば十分と言うジンの言い分も理解できる。とどのつまり男女の考え方の違いであり、決して相容れない話という事だ。
「俺にとってはお前たちの方が有り得ないけどな。第一そんなに服を持っていても見せる相手がいないだろ?」
「はぁ?何言ってるの?」
「お前たちは彼氏とかいないだろ?」
「いないけど見せたい相手ならいます~」
「うん。スズネの言う通り」
「ほう。誰だ?」
「「勿論隊長だよ(です)」」
俺の方を見ながら二人がまたも口を揃えて言う。
しかも満面の笑顔を浮かべて。
これはどんなリアクションを取れば正解なんだろうか?
わー、嬉しい!というのも違う気がするし、かといっていや迷惑ですとも言えるわけがない。というか美少女からそんな事を言われて悪い気はしないし素直にありがとうと言っておくか。
「んっ、二人ともありがとう」
「えへへ~。隊長にお礼を言われちゃった」
「はわぁ~、凄い嬉しいです」
うん、照れている姿も可愛い――はっ!?なんかアヤメとカスミの俺を見る目が少し怖いような……。いや気のせいだよな?たぶん、きっと、おそらく。
こうして何とも言えない空気が醸成されつつ帰路につくのであった。