Ep:12
えー、本日学院見学に行きます。いきなり言われても訳が分からないよ!と思った方。はい、至極当然の事だと思います。なので、少しばかり時間を遡って説明したいと思う。そうだな……エイラと観光した日があったと思うがそれの次の日位から始めようか。
あれは丁度お昼過ぎ位の事だったか。宿の自室でまったりと過ごしていると扉がノックされ、その後に入ってきたエイラに開口一番こう言われたんだ。
『ユノ様。学院見学の段取りが決まりましたのでご連絡に来ました』
『いやいやいや。ちょっと待ってくれ。話に上がったのが昨日だよな?それでもう決まったの?』
『はい!昨日ユノ様達とお別れして、お城に戻ってすぐお母様にお伝えしたんです。話を聞いた時は驚いていましたが、すぐに政務を一時中断して学院への連絡や諸々の準備に取り掛かって頂けました』
『政務を中断したらマズいでしょ……。それに直近で見学したいって言う訳でも無かったから別にゆっくりでもよかったんだが』
『その点に関しては問題ありません。ユノ様のご都合が宜しい日に来ていただければと思います。出来れば前日には連絡を頂けると嬉しいです』
『おっ、おう。そこまで気を使ってもらと悪いな。でもそうだな――折角だし今週でも大丈夫かな?』
『はい。何時にいたしますか?私としては明日でも大歓迎ですが』
『うーん、他の面々にも予定を聞いてからになるけど明後日とかでお願い』
『畏まりました。ではその予定で進めさせて頂きます』
『よろしくお願いします』
というやり取りがあった訳よ。正直エイラの行動力を舐めていたし、そこに女王であるアルマまで加わると誰が予想出来ようか。俺を思ってくれての行動だから嬉しくはあるんだけど、そこはかとない恐ろしさも感じるんだよな。まさかとは思うが、無理を通す為に強権発動……なんて考えるのは流石に邪推が過ぎるか。
なんにせよ、無事今日を迎えて宿から皆で移動する事約四十分ほどだろうか。広大な敷地を取り囲む高い外壁と立派な門が視界に入ってきた。
「事前に話には聞いていたけどデカイな」
「国内で最大級の学院ですし、通う学生も王族や貴族は当然として民間人からも選りすぐりのエリートが通っていますからね。中途半端なものでは駄目という事でしょう」
「アヤメの言う通り『そこそこ』で済ませられる問題では無いな。万が一があれば冗談抜きで大問題になるし、最悪王族が害されたとなれば国を揺るがす事態になるのは明白だ。警備の観点から見てもそうだし、高等教育を受けるにあたって設備やその他諸々も最高を提供して然るべき。となるとこの敷地面積も納得か……」
「私達の様に見学する分には沢山見て回れる場所があるので、ありがたいですが」
「はははっ。確かにそうだな」
実際問題全てを見て回ろうと思ったら一日では不可能なほど広いから、今回はその中からエイラがピックアップした所を見る事になるだろうけど。――さて、そろそろ校門に着くが件のエイラはどこにいるのでしょうか?外には出てきていないから敷地内に居ると思うんだけど、勝手に中に入っていいのかな?疑問に思っていると、それはすぐに解消される事となった。まさに俺達が校門に着いてすぐの事である。
「皆様ようこそおいで下さいました」
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。なにぶん学院を案内するのは初めての事なので色々とご迷惑をお掛けするかも知れませんがご容赦下さいませ」
「それは問題無いよ。――ていうか高等学院の制服姿を見るのは初めてだけど似合ってるね」
「あ、ありがとうございます。ユノ様にそう言って頂けるなんて望外の喜びです」
顔を綻ばせながら、身体から喜びを溢れさせているエイラを改めて見てみる。
制服の形状は所謂ブレザータイプで、首元にはリボンが掛けられており女の子らしさを引き立てている。ブレザーはややタイトな形で結構身体のラインが分かる作りだ。健全な青少年にとっては欲望を引き立てる要因になると思うがそれでいいのだろうか?とつい老婆心ながら思ってしまう。んで、下はスカート&黒ストッキングの組み合わせだ。スカート丈は元々そういう作りなのか、将又エイラが丈を詰めているのかは分からないが短い。普通に行動するならパンツが見える事は無いが、走ったり、大きく振り向く等すればほぼ確実にパンチラGETとなる短さだ。正直王族、しかも王女が他人におみ足を見せるのは非常にマズいと思うのだけどそこらへんどうなっているのかしら?
いくら黒ストッキングで肌を隠しているとは言え……ねぇ。予期せぬ事故でエイラのパンチラを見たら、即刻不敬罪で死罪に処します!とかになったら俺はこの世の理不尽さを恨むよ。マジで。
「質問なのですがエイラさんのスカート丈は学院で決められたものなのですか?」
「いえ、違います。一応建前上の規則としては膝上となっております。ですが実際はあってないようなものなので各自好きにしているというのが現状ですね」
「成程。では、普段からその丈で過ごされているという訳ですか?」
「……普段はもう少し長めです。人前で無暗に脚を見せるのは王族としてはしたないですし」
「分かりました。ありがとうございます」
んんっ?俺が疑問に思っていた事をカスミが質問してくれたが、返ってきた答えは要領を得ない。普段より短くする必要性は無いはずなのに、なぜに今回に限って短くしたのか?やんごとなき理由があった、もしくは……これは自意識過剰な考え方だな。自身の余りにも馬鹿らしい考えに思わず辟易してしまう。たくっ、いい歳して若い子に何を期待しているのやら。
「ユノさんの考えは間違っていないと思いますよ。恐らく彼女もそのつもりでした事でしょうし」
カスミが耳打ちしてきた内容に思わず驚愕してしまう。いやいやいや、無いな。カスミも冗談が上手くなったもんだぜ。というか、桃色に染まりつつある思考を振り払わなければ。
「いつまでもこうして校門の前で話しているのもあれだし、そろそろ移動しないか?」
「失礼しました。では、学院が誇る教育棟からご案内させて頂きます」
件の教育棟に行くまでの道程でも色々と驚かされた。まずは外壁に張り巡らされた無数の巨大なパイプ。これは蒸気を送る為の物だが、ここまで大きく縦横無尽に張り巡らさせているのは中々にお目に掛れないだろう。因みに通常であれば街中だろうとここまで大規模な蒸気管は有り得ない。工業地帯まで行けばこれ以上の物を見る事も出来るが、一学院として考えると異常と言える。流石に気になってエイラに聞いてみた所こんな答えが返ってきた。
最先端設備をこれでもかと取り入れている上、貴族からの様々な設備要望に応えていく内にどんどん蒸気管が増えていったらしい。さらに学院の敷地内に研究・開発機関があるらしくそこでも大量の蒸気機関が稼働している為右肩上がりで増加の一途を辿り現在に至る――という事みたい。普通に考えればいくらお貴族様からの要望だとしても金銭的な面や学院運営方針等の関係から『はい!分かりました!』とはならないはずなんだけど、そこは王立兼王族・貴族も通う超一流の学び舎という事で湯水の如くお金が注ぎ込まれているとの事。当たり前だけど全て運営資金から捻出している訳では無く、税金や通っている学生の親からの献金なども使用しているので可能なのですよと言っていた。もうね驚きっぱなしですよ俺としては。カスミからは『これが普通と思ってはいけませんよ。あくまでこの学院が特殊なだけですので』と言われたが、それにしたって……なぁ。何となく腑に落ちない感情を持て余しながら歩いているとようやっと教育棟に着いた。
「ここでは一~三年生が毎日勉学に励んでいます。入学時の成績によりランク分けがされて、ランク毎に分かれて授業を受けていますが、最低ランクに半年居続けると退学になるので皆様粉骨砕身で励んでおります」
「質問なんだけど、そのランクってのは全学生に適応されるんだよな?貴族だからって忖度されるとかはないの?」
「ランクはその立場に関係なく適用されるので例え貴族だろうと成績が悪ければ問答無用で追い出される事になります。そこにあらゆる政治的・権力的なものは反映されません」
「となるともし退学にでもなったらその後が大変だな」
「そうですね。ほぼ間違いなく廃嫡となるでしょう。その後の人生は明るいものでは無いのは確実です」
「うーん……、なんか俺が思っていた学院とは随分違うみたいだな」
「ユノ様はどのようなものを想像していらっしゃったんですか?」
「男友達と碌でもない話で盛り上がったり、女の子とキャッキャウフフとなったり、適当に勉強して放課後は友達と遊びに行くみたいな感じかな」
「普通の学院や学園であればその通りだと思います。ですが、ここはそれが許される環境ではありませんし、そんな余裕もありません。悲しい事ですが、世間一般で言われる青春は送る事は不可能ですね」
「そうなのか……。それは寂しいな」
人生六十年と言われる中ただ一度しかない青春を勉学とランク闘争に明け暮れるって言うのは個人的には非常に勿体ないと思う。例えば何百年と生きるのであればそれも構わないだろうが、人間と言う生き物は短命だから尚更そう感じてしまうのだろう。そんな感情が顔に出ていたのか慌ててエイラが口を開いた。
「ですが、部活動もありますし雁字搦めで身動きが取れない訳では無いのでそれなりに青春らしいこともしていますのでご安心下さい」
「そっか、なら良いのかな?――話は変わるがいやに静かじゃないか?見学させてもらった講堂やミーティングルームにも人が居なかったし。普段からこんなもんなの?」
「今は授業中ですので皆様教室にいらっしゃいます」
「はっ?――エイラは授業に出なくて大丈夫なのか?俺達の案内なんかしている場合じゃないだろに!」
「その辺は事前に調整済みですので問題ありません。それに『なんか』では決してありません。ユノ様達に関する事は何を置いても一番なのですから」
ドヤ顔をされて言われてしまっては返す言葉も無い。関係各所と話し合って決めた事ならいいんだけど、オジサン吃驚しちまったよ。
そんな驚きもありつつ、静寂が支配する廊下をゾロゾロと歩き見学は進んで行く。図書館や鍛錬場、個人学習用とは思えない豪華な部屋やカフェスペース等様々な場所を見て回った。どこもかしこも金がかかっており、自己を高めるにはこれ以上ないと言っても過言では無いほどだ。俺以外の面々も驚きを露わにしていたが、特に実家が名家のお嬢様であるカスミも同じ反応だったのには思わず笑ってしまった。
『私が学生だった時代と今は大分違いますから驚くのも仕方ないですわよね?それに、今であれば似たような設備位はあるはずですわ。たぶん、きっと、おそらく』なんて言ってたけど最後の方は尻すぼみになって声が小さくなってたから自信は無いんだな。百十何年も昔の事であれば致し方なし。なんてある意味自分にも言い聞かせながら過ごしつつ時間は流れていく。
そして午後になって、いよいよ本命がやってきました。それは……授業見学です。今回お邪魔するのは座学と実技の二つの授業となる。参加するクラスはエイラが在席している最上級クラス。正にエリートの中のエリートが集う場となる。そんな場所に今から飛び込むわけだが柄にも無く緊張するぜ。うぅ……。
「ユノさん。たかが学生の教室なのですから、緊張する必要はありませんよ」
「そうは言うがな、お貴族様も居るわけだし色々気を遣うだろ?」
「その辺りはいつも通りで構わないと思いますが。私達の立場を考慮すれば逆に相手が気を遣うべきだと愚行致します」
「アヤメ様の言う通りです。学院のみならず、ケールカ王国に置いてもっとも立場が上なのがユノ様達なのですからお気を使う必要などありませんよ」
「うーん、エイラが言うならそうなのかな?でもまあ、あまり目立ちたくないし静かにしているよ」
「もし問題が起こっても斬り捨てれば済む話ですよね?そもそもユノさんに喧嘩を吹っかけてくる事自体万死に値するし」
「スズネ……。今回は脳筋な考え方は仕舞っておいてくれ。あくまでご厚意のもと見学させてもらっている立場なんだから分かっているよな?」
「うー、分かりました。でも、限度を越えたらその限りではないですからね」
「分かった」
頬を膨らませてブスッとしているが、なんとか分かってもらえたようだ。他の面々も確認がてら見回すと頷いてくれているし、問題無いだろう。では、いざ行かん!
スッと音も無く扉を開けて教室内に入ると、一斉に視線が飛んでくる。事前に見学者が来ますよと連絡は受けているそうだから、大きな騒ぎにはなっていないのが救いか。大半は俺達に対する興味やケールカ王国王女自らが案内を買って出るなんてどんな奴なんだろう?といったものだ。が、一つだけ嫉妬・怒り・侮蔑が入り混じった視線を感じる。殺意までは流石に感じないがどうやら不穏な意思を持っている奴が紛れ込んでいるみたいだ。隊員達も感じているみたいだし、間違いないだろう。実害があるわけでも無いので今は放置でよろしいか。
「では、ユノ様達のお席にご案内致します」
「よろしく」
エイラは何も感じていないのか普通に見学席に案内する様だ。んで、俺達が座る場所だが教室の一番後ろになる。丁度八人分の椅子が用意してありそこで見る感じ。教室は扇状に広がっており、席は階段形式なので一番後ろからだと全体を見渡せる。こう、偉い人になった気分が味わえるね。他の人からは見えないし少しふんぞり返ってもバレないだろうから試してみるのも面白いかもと下らない事を考えているともうすぐ授業が始まるとの事でエイラは自席へと戻っていった。
それから程無くして先生がやって来て授業開始と相成った。因みに今回の授業内容は【妖魔の歴史】についてだった。仕事柄関わりが深いので実に興味深い。どの様な内容を教えているのか拝聴しようではないか。
「それでは授業を始めます。――妖魔とは人類の敵であり、多大な被害を齎す災厄です。では妖魔とはいつの時代から現れたのか。それは現在でも分かっておりません。ただ最古の文献に記載されていた内容から見て約一千年前には居た事は確実です。遥か太古から妖魔と言う存在はこの世界に居た訳ですね。では妖魔とは何者なのか?これには諸説ありますが、もっもと有力とされているのが人間の想念・思念・怨念等の想いが具現化したものでは無いかというものです。一見すると眉唾物の論理ですが例えば呪いも相手を恨む強い想いが現実にも影響を及ぼしますよね。そういった数多の強い想いが一つ所に集まり、長い年月を掛けて凝縮された結果生まれ出づる存在が妖魔なのではないか。そう言った説ですね。ですがこの説には穴も多々あり、実証がほぼ不可能なので確認の仕様が無いのが難点ですが」
ふむふむ。ここまでは一般的に知られている話であり、特に珍しい点は無いな。
「次に妖魔のクラスですが、現在ではクラスE~S、そして規格外の存在としてクラスunknownがあります。また人間で対抗できるクラスは実質クラスAまでとされています。軍であれ、妖滅連盟に所属している英傑であれそこが限界です。仮にクラスSを相手にしたのであれば手も足も出ずに殺されることは確実。それ程の彼我の戦力差があるわけですね。それに加えてクラスA以上は高度な知能を持ち言語を操り、見た目も人間と殆ど大差ない――しかも男女の性差もあるという点も大きいですね。どうしても人間言うのは同じ言葉を使い、同じ見た目をしている相手を攻撃するのは心の深層で忌避してしまうものですから。――ではクラスS以上の妖魔が現れた時は為す術が無いのか?それは否です。世界で唯一クラスS以上の妖魔に対抗できる存在が九人おり、その全員が和国に所属しているというのは有名な話なので皆さんも知っていますよね。彼らがいるから世界は平和を維持できていると言っても過言ではありません」
間違ってはいないが今の世界が平和だとは到底思えないけどな。そこかしこで内戦や小規模な戦争は起こっているし、一致団結するのなんてクラスunknownが現れて複数の国に跨り被害を受けた時くらいじゃないか?人間なんて何処までも利己的で、利益のみを追い求める愚かな存在なんだからいっそ一度滅べばいいのにと思った事は一度や二度では無い。まあ妖魔絡みの時のみ手を取り合うのが唯一の救いと言えなくもないし、それがあるからこそ俺の思考にも歯止めがかかっているとも言える。
「この九人についての情報は秘匿されており、詳細を知るのは和国でも限られたごく一部の人のみとなっています。勿論他国であってもクラスS以上が現れた場合和国に討伐依頼を出す関係上基本的な情報は得ています。と言っても知っているのは国の上層部のみとなっており、当然秘匿情報として扱われているので一般人は元より貴族であっても知ることは出来ません。――そんな世界の守り手が一つの国に集結している現状ですが、何故世界のパワーバランスが崩れていないのか?それには幾つかの要因があります。まずは一つ目。和国が妖魔討伐依頼を受けた際決して無理難題を吹っかける事なく、常識的な範囲での報酬を望んでいる事。二つ目は最大戦力を戦争や侵略に決して利用していない事。三つ目は彼等自身が世界の安定を望んでいる事。この三つが主な要因となり、国同士の力の均衡が保たれているのです」
「先生、質問宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「仮に九人のうち誰かが、他国に移住、もしくは組織に移籍した場合はどうなるのでしょうか?僕としてはその時点で国家間のパワーバランスは崩れ大きな争いが起きる事になると思うのですが」
「成程。その可能性は否定できませんね。ただ一人でもあっても一国を滅ぼすことは可能ですからね。君が言うように血で血を洗う暗黒期に突入するかも知れません。が、現状を鑑みるに私達の寿命が尽きる間はそう言った事は起きないでしょう。まあ、希望的観測も多分に含みますが」
あー……言いたい事は一杯あるけどもうさ……。というかこれが一般的な俺達や和国に対する認識なんだろうな。他国に移った所で、やる事は変わらずに妖魔討伐だけだし政治に関わるつもりは毛頭無いし、俺達の関係を考えると万が一にも誰か一人、もしくは複数人が離れてどこかに行くというのは考え辛い。その証拠に今の話を聞いていた隊員達が苦い顔を浮かべている。それに口パクで『ユノさんの傍を離れるつもりはありません』と揃って言ってきたしな。先生の心配は杞憂という事だ。
さて、授業も終わりに近づきつつあるが、これ以上頭の痛い話が出ない事を切に願うよ。
フリじゃないからな、マジで頼みますよ。




